後藤洋央紀「30代最後の夏の仕事術」
~アスリート本から学び倒す社会人超
サバイバル術~【コラム】

“将来のエース”を期待された後藤洋央紀
今でもチームのレギュラー選手、だが中心選手になるには何かが足りない。
プロ野球でもJリーグでもそういうプレーヤーは多い。一流だけど超一流になるまでのあと1歩が遠いあの感じ。もちろん競争を勝ち抜きポジションを掴むだけでも凄い。だが、年齢を重ねると、プラスアルファでプレー以外の部分も求められる。リーダーシップとか存在感とか、いわばベテランのスキルである。30代中盤以降の転職市場がシビアになるのもそのためだ。若い頃のようになんでも頑張りますが通用しない世界。要は「頑張りの向こう側」を周囲に伝えなくてはならない。いつの時代もおっさんは大変なのである。
新日本プロレスの後藤洋央紀もそんな選手のひとりだ。中堅のイメージが強かったが、気が付けば39歳になった。夏の祭典『G1CLIMAX』も11年連続出場である。最近の新規ファンには信じられないかもしれないが、かつて後藤は“将来のエース”を期待されていた。2007年8月にメキシコの武者修行から戻ると、なんと11月の両国大会でのポスターを単独で飾り、棚橋弘至が保持していたIWGPヘビー級王座へ挑戦。翌08年1月4日には東京ドームで伝説のグレート・ムタと戦い、8月のG1CLIMAXでは29歳の若さで初出場・初優勝という快挙を成し遂げた。春のニュージャパンカップも三度制覇し、棚橋弘至、中邑真輔、真壁刀義、後藤で“四天王”と呼ばれた時代もあったほどだ。

30代の迷走と伸び悩み…
2014年1月4日の東京ドームでは、桑名工業高校レスリング部で凌ぎを削り新日に帰ってきた柴田勝頼と同級生対決。その日のベストバウトとも称される激しい戦いを繰り広げ、試合後は二人で肩を組んで「これがプロレスだ。俺たちコレがやりたかったんだよな」と笑みを浮かべながら退場。当時34歳、柴田という盟友も得てそのキャリアは光り輝くものになる…と誰もが思ったはずだ(実は個人的に吉祥寺のパルコまで柴田と後藤のサイン会にも行ったことがある)。
だが、そこから迷走は始まる。近年の後藤はオカダ・カズチカや内藤哲也といった年下の後輩に追い抜かれ、現在NEVER無差別級王者のベルトは保持しているものの印象は薄い。ヒールユニット“CHAOS”に加入したが、ユニット内の立ち位置も曖昧で、まるでサラリーマンの会社都合での部署異動のような雰囲気すらある。もちろんいまだに新日の主力レスラーのひとりだが、メインイベンターとして客が呼べるかと言われたら残念ながら疑問だ。ファンの間では「あいつも昔は凄かったんだけどなあ…」なんつって巨人で言ったら長野久義的な立ち位置。典型的な30代の伸び悩みと言ってもいい。

クビ宣告から復活した後藤のレスラー人生
…なんだけど、それでも後藤はどこか憎めず気になる存在だ。どれだけ“荒武者”を推しても、実は愛すべき天然キャラなのは有名な話である。『同級生 魂のプロレス青春録』(柴田勝頼・後藤洋央紀著/辰巳出版)の中には数々の後藤エピソードが紹介されている。ソフトテニス部だった中学2年時に一緒に歩いていた同級生のA君が帰り道にヤクルトのジョアを買い食いして見つかり、大会参加を辞退する大騒動へと発展する。なぜそこまで…と読みながら疑問に思ったが、後藤本人も「なぜたかが買い食いでここまでされるのか」とあっさり心情吐露。今思えば、90年代の学校教育はまだ昭和の常識が残るかなり無茶苦茶な環境だった。
高校時代のテストで後藤は「3点」を取る。しかも、全部間違っていたが、名前の横に3点と記されていたという。驚くべきことに先生の温情でしっかり名前が書けましたと3点くれたわけだ。隣で「こんなことってあるのか…」なんて呆然する同級生の柴田。すると後藤は3点の答案用紙を躊躇なくクシャクシャに丸めゴミ箱に放り投げる。しかし、大学卒業時の新日本の入門テストには見事高得点で合格。ペーパーテストじゃなく、己の肉体で結果を出す。まさにプロレスラーだ。
だが、入門して間もなく同期の田口隆祐と練習中に肩を脱臼してしまう。すると、スカウト部長から無常のクビ宣告。そこで動いたのが高校卒業時に後藤より4年早く入門していたあの盟友だった。なんと柴田は自分のマンションに寮を出ることになった後藤を居候させ、再入団テストを受けられるよう会社を説得してくれたのだ。恐らく、柴田の友情パワーがなければ後藤のキャリアはこの時点で終わっていただろう。05年1月に新日を退団する際は、柴田は使用していたレガースを後藤に手渡している。それらの過去を知った上で、あの柴田vs後藤の熱戦の数々を見返すと感慨深い。これが少年漫画なら、14年の東京ドームのシングル対決が物語の最終回のクライマックスシーンだったはずだ。

30代後半に必要なのは一種の“切実さ”

だが、リアルな人生は最高の祭りのあとも続いていく。時代の流行りに関係なく、ストロングスタイルを前面に打ち出す激しいファイトスタイルが持ち味の柴田勝頼は、IWGPヘビー級王者に挑戦した17年4月のオカダ戦後に急性硬膜下血腫で倒れ緊急手術。今春には新日ロサンゼルス道場・スプリングキャンプのヘッドコーチ就任が報じられる一方で、諦めずリング復帰も目指している。どうしても自分のような柴田ファンの多くは、ズンドコ試合も多い後藤に「柴田の分まで頑張ってくれ」という目線で見てしまう。開催中のG1では早くも4敗を喫し、勝ち点4にとどまっている荒武者も来年には40歳だ。
30代最後の夏。そこに“10代最後の夏”や“20代最後の夏”のような青さはない。おっさんはもっと切実だ。けど、後藤の戦いぶりからはその切実さがいまいち伝わってこない。頑張ってるのは分かる。けどそれだけで評価されるほど甘い世界じゃない。これが例えば、鈴木みのるの試合なんかヒリヒリするくらい切実じゃん。よし俺らもあとがない気持ちで日々の仕事をしよう…なんて綺麗にコラムをまとめる気もさらさらない。もっとガツガツいこうぜ、荒武者よ。
後藤洋央紀よ、このまま終わってしまっていいのか? 柴田勝頼が見ているぞ。30代最後の夏の健闘を祈る。

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