高見沢俊彦 THE ALFEE、ソロアーテ
ィスト、小説家、バイタリティ溢れる
活動を続ける男の胸の内

キャリア45年を超えてなお、このバイタリティはどこから湧き出てくるのか。この夏、THE ALFEE高見沢俊彦として横浜アリーナでのライブを、ソロアーティスト・Takamiyとしてシングルのリリースとライブを、そして小説家・高見澤俊彦として初の作品『音叉』を発表と、この男の辞書に休息の文字はない。3年振りのソロシングル「薔薇と月と太陽~The Legend of Versailles」と、小説『音叉』の世界について、アーティスト・Takamiyがその胸の内を語る。
自分の中では、変化球ではなく直球勝負ということで、剛速球出しちゃいましたね。この世界観を今、臆面もなく歌えるのは僕だけかなと(笑)。
――今年もソロが聴けてうれしいです。やはりソロはバンドよりも、考えることが多いですか。
いや、バンドのほうが考えることが多いですよ。一番のメインはバンドですから、そっちを考えることが多いですね。ソロは自然に、自分の刺激としてやってますからね。
――曲ははっきり分けますか。作曲の段階で。
分けますね。ソロの方が、実験段階のものが多いですかね。これがうまくいったらTHE ALFEEで使える、みたいなことを考えながらやってきましたから。そこは変わってないですね。
――今回のソロシングルは、どんなふうに?
今回は、3年ぶりのソロシングルなので、誰が聴いても、どこを切ってもTakamiyみたいな、そういう楽曲にしようと。ですからハードロックにクラシカルな要素を入れて、まあ大仰な世界ですね(笑)。
――様式美ですね。待ってました!という。
歌い出しから、イントロからTakamiyだとわかるぐらいの、そういう世界観を狙いましたね。自分の中では、変化球ではなく直球勝負ということで、もうタイトルからして直球ですよね。薔薇と月と太陽ですから。
――得意技、全部出しちゃったような。
全部出しちゃいました。剛速球出しちゃいましたね。しかもサブタイトルが“The Legend of Versailles”ですから。この世界観を今、臆面もなく歌えるのは僕だけかなと(笑)。
――歌詞の舞台設定は中世風ですけど。それにたとえて、現代の恋愛事情を歌っている。
そういうことですね。サビでは、当時のヴェルサイユ宮殿で繰り広げられていた、貴族の禁断の恋をモチーフにしてますけど。Aメロでは現代の、なぜか危険な恋に惹かれてしまう男女関係というものを、時空を超えて行ったり来たりする、そういう歌にしようと思っていたので。そこは意図的に、そういうふうにしてみました。

――Takamiyソロの歌詞の世界観は、禁断めいた、ちょっと危険な大人の恋愛事情を歌ったものが、けっこう多いと思うんですよ。
意外と多いのかな。そういえば、『ガラスの仮面ですが』というパロディ漫画の、アニメ映画の吹き替えをやった時に、それのエンディングテーマになった「仮面の宴」という曲も、そういった禁断の恋のイメージでしたね。
――「禁断の果て」や「Night of Rouge」「東京ロンリー・ナイト」とかにも、そういうニュアンスがある気がします。そして今回のシングルのカップリング2曲目の「恋愛Gigolo」にも。
「恋愛Gigolo」は、ダメ男に振り回される女性の歌。あくまでも歌の世界ですから、歌の席の物語として聴いて欲しいですね。
――その「恋愛Gigolo」は、「薔薇と月と太陽」とはまったく曲調が違う。
これはEDMというか、ダンスミュージックっぽい要素を出してみました。歌詞の世界観は、80年代の歌謡曲のイメージを、自分なりに噛み砕いて書いてみたんですけどね。あの当時流行っていた歌詞の内容というか、バブルの頃の恋愛模様を書くのは面白いかなと思ったんですよ。
――ちょっと前に「ダンシングヒーロー」がリバイバルヒットしましたけど。ああいうユーロビート的なノリもあって。
そうですね。ユーロビート、大好きだったんで。今はEDMがあって、最先端はヒップホップかもしれないけど。とにかくEDM系、僕の好きな世界観をソロで試してみたということですかね。
――さらに3曲目には、初回限定盤3種類にそれぞれ別の曲が収録されているという。大変なことになってます。
そこはソロなので、好き勝手にやらせてもらいました。
Takamiy
――まず初回限定盤Aに入っている「霧に消えたロゼレア」は、あのBEAT BOYSのカバー。驚きました。
セルフカバーになりますけど、歌詞に“ジュテーム”という言葉が出てくるので、あえてここに持ってきました。ヴェルサイユ宮殿はフランスなので。それだけのことです(笑)。それをガットギター1本で、シンプルにやってます。
――BEAT BOYSの曲って、やっぱり愛着ありますか。一応、別人格になってましたけども。
まあ、あれもTHE ALFEEですからね。もう活動停止してますけど、なぜ活動停止したかというと、もう踊れなくなったから(笑)。これはもう無理だなと。誰か怪我しそうなので、もうやめようということで、The KanLeKeeZに形を変えました。
――でも曲は残ってゆく。
そうですね。自分たちでも、曲はちゃんとやっていこうと思ってます。
――そして初回限定盤B収録の「哀愁トゥナイト」。これも驚きました。1977年の大ヒット、桑名正博さんのカバーです。
桑名さんの1stシングルです。この曲はずっと好きで、歌ったことはなかったんですけど、今回の「恋愛Gigolo」に通じるようなイメージもあったので、そこに合わせてみようと思いました。非常にいい曲ですから。歌詞は松本隆さん、曲は筒美京平さんで、やっぱり素晴らしい名曲だと思いますね。
――THE ALFEEにとっても、縁のあるお二人。
自分たちのデビュー曲を書いてくれた人たちですからね。
――歌謡曲ですけど、ロックテイストも入っている。
まあでも、これは歌謡曲とは言えないかもしれないな。これはやっぱり、桑名さんの世界観をうまく曲として表してるな、という感じがしますね。原曲は、すごく洗練されたサウンドだなと思ってます。シティロックというのかな、ブラスが入ってくるし、アレンジがかっこいい。僕は個人的に、印象に残ってる楽曲なんですよね。「哀愁トゥナイト」は。
――みなさんぜひ、聴き比べなどしていただければ。
もちろん、聴き比べたら桑名さんのほうがいいですよ。オリジナルにはかなわない。Takamiyバージョンはアコースティックなので、そこをそれなりに楽しんでもらえれば。
――そしてもう1曲、初回限定盤Cには「太陽はもう輝かない」が。1966年の全英No.1ヒット。
ウォーカー・ブラザーズですね。子供の頃に大好きだったんですよ。自分でもこういう楽曲を歌えないかな?って、ずっと思っていたんですけど、この歳になって、今さらながら歌えるようになって。
――おお。そうですか。
ちょっと歌ってみたら、意外とイケたので。子供の頃から大好きだったウォーカー・ブラザーズを、自分なりに再現してみました。キーは1音高いですが、これはオリジナルに近いアレンジですね。
――そうですね。
スコット・ウォーカーのあの声には、なぜか癒されるんですよね。がならない、ソフィスティケイトされた歌声で、僕より低いですけど。今また、すごく好きです。スコット・ウォーカーもまだ現役でやってますからね。
――そのようですね。
すごいですよね。今はアバンギャルドな世界に行っちゃって、前衛ミュージックになってますけど。デヴィッド・ボウイとか、いろんな人に影響を与えたすごい人で、あのまま行ってもよかったのに、あえて違う方向に行ったというか。今は、あの頃のような歌は一切歌ってない。だからあくまでも、ファンとしてあの頃のスコットになりきりましたよ(笑)。
――あはは。なるほど。
ウォーカー・ブラザーズは、ロックの歴史の中で意外と忘れられているところもあるんですけど、ある瞬間だけは、日本でものすごく有名でしたよね。それは子供ながらに憶えてます。GSブームと重なってましたから。そのへんの衝撃を自分の中で蘇らせて、今回カバーしてみたということですね。
――ちなみにスコット・ウォーカーの名前は、初の小説『音叉』にもちらりと出てきますね。
スコット・エンゲルという名前で出てきますね。それが本名ですから。ウォーカー・ブラザーズは兄弟ではなくて、スコット・ウォーカーは芸名ですから。ユニットのためにつけた名前なので。
小説家・高見澤俊彦
自分にも小説が書けたんだという、達成感と充実感はありましたよ。小説家というのは、憧れの存在でしたから。
――その流れで、小説の話もしていいですか。『音叉』、素晴らしかったです。音楽小説だと思って読み始めると、一人の男の成長物語でもあり、70年代初頭の時代背景を細かく描写したドキュメンタリー風でもあり。原宿のお店や、ロック喫茶の名前とか、実在するものばかりで。
『オール讀物』さんで連載する時には、名前を変えてたんですけど。単行本にする時に、リアルな名前に書き換えました。
――そういう、伝説のお店の名前がばんばん出てくるので、ワクワクしながら読みました。DJストーンってこういうお店だったのか、とか。
あの店は意外に高校生が多かったですね。喫茶店なんですけど、スピーカーシステムが新しくて、すごかったですね。その記憶を書きたかったので。
――いろんな年代の方に、時空を超えて楽しめる世界です。
インターネットがあるかないかで、ずいぶん世界観が違いますよね。ネットがない時代の恋愛というか、青春群像というか、そういったものを書いたということですね。
――主人公がいて、バンドがいて、デビューを目指していて、様々な人との出会いや、気になる女性が次々と現れて。プロットを考えてから、書き始めたんですか。
これはもう、書きながら徐々に固めていきました。初めから決めていたわけではないです。ストーリーはこれだけじゃなくて、いろんなパターンを考えましたから。書き進めていくうちに物語を動かして、自然に動いていくんですけど、それによって進んで行ったストーリーですね。
――自伝としての割合は?
それはもう、ゼロですね。これは全部フィクションで、自分とはまったく違うものを書いたということです。自分たちは、こうではなかったですから。これはあくまでも、時代設定や、店の名前とかはリアルですけど、起きているエピソードや生き方は、小説の世界で、僕ではないですね。僕らのバンドとも違うということです。
――デビューにあたって、リードボーカルを変えろとか、作詞家を起用しろとか。当時ならありそうなエピソードなのかな?と。
そこまで高圧的な人は、僕らの周りにはいなかったですね。あくまでもこれはフィクションとしてとらえていただいたほうが、わかりやすいかなと思います。
――主人公の雅彦くんは、高見沢さんから見るとどんな男ですか。
小説の中で考えていけば、ちょっとだらしない奴ですよね。もうちょっと、ちゃんとせい!みたいな感じですよね。ただ、その時代に生きていた若者の最大公約数というか、僕らの世代の最大公約数を、主人公に収めたという感じですね。ほとんどが三無主義というか、そういう感じで生きてましたから。その中での一つの生き方として、世代の最大公約数を彼にゆだねてみたという、ポイントはそこですね。
――今の若い子が読んでも、共感できるところだと思います。
誰もが悩むことではありますよね。そこは自分なりに、一つの人物像を作り上げたということかな。
――最後に「ボーナストラック」として入っている、単行本のための書き下し部分がまた良くて。まさか本編で脇役だった彼が主人公になるとは。
レコード会社のディレクターがね。ちょっと嫌な役になってたので、少しスポットライトを当ててあげようかなと思って(笑)。それから40年後の、現代の話ですね。『音叉』の世界はこれで終わりですから、スピンオフとして彼にスポットを当てても面白いかな?と思って、書いてみました。これもほとんど、99%がフィクションですね。合ってるところは、武道館にスティングを見に行ったことだけですね(笑)。僕、行きましたから。
――こうして一冊の本を書きあげてみて。どんな経験でしたか。
『オール讀物』さんから依頼されて、『偏愛読書館-父の本棚』という形でエッセイを寄稿したところ、それを気に入っていただけたのか、「小説を書きませんか?」というオファーをいただきまして。そうやって背中を押されなかったら、書かなかったですね。そこは編集者の力というか、なぜ僕に小説が書けると思ったのかはわからないですけど、オファーがあって、ここで受けなかったら一生書かないだろうなと思ったので。まったく新しい未知の世界ですけど、書いてみたところ、書けたというか(笑)。
――素晴らしいです。
自分にも小説が書けたんだという、達成感と充実感はありましたよ。そこはすごく感じましたね。小説家というのは、憧れの存在でしたから。自分には無理だと思ってましたから、それができたということが、今回一冊になったということが、非常にうれしかったですね。
――もしかして、次の作品も?
考えてます。1本書けたら、次もやりたいですからね。
――バンド、ソロ、作家と、キャリア45周年を超えて、どんどんやることが増えていく。
まあでも、楽しみながらやってますからね。そこは大丈夫です。
――9月1、2日、パシフィコ横浜でのソロコンサートも、楽しみにしてます。今回も、昨年同様、鳥山雄司(G)さんを迎えたバンド編成です。
去年と同じメンバーでやりますので。タイトルが『Metal of Renaissance』ですから、頭からメタルで行きます。メタルといっても僕のメタルですから、聴きやすいメロディックメタル、タカミックメタルと言ってますけども。うるさいと思わないで来てほしいですね。
――タカミックメタルは、どんなにハードでも歌がメイン。
メロディ中心のハードロックを。パシフィコ横浜は、常小屋になっちゃいましたね。毎回やってますから。パシフィコ横浜のこけら落とし(1994年)は、THE ALFEEだったんですよ。
――ああ、そうでした。
でもTHE ALFEEでは、そのあと1回しかやってないんですよ。60歳の時。あれが二人(桜井 賢と坂崎幸之助)には2回目。あとは全部僕がやってる。ソロはけっこうやってるから、もう、トシフィコ横浜に変えてほしいね。
――あはは。それいいかも。
ネーミングライツでね(笑)。

取材・文=宮本英夫
小説家・高見澤俊彦

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