ジェイソン・ムラーズ 芳醇できめ細
かいオーガニックサウンドを注いだ、
特別な一夜

ジェイソン・ムラーズ リリース記念ライブ&トークイベント」 2018.7.3 hotel koe tokyo
2018年2月、渋谷は宇田川町にオープンした、ライフスタイルブランドkoeが運営するhotel koe tokyo。1階はカフェレストランとイベントスペース、2階はアパレルショップ、3階が宿泊施設となっており、生活と音楽やファッションなどのカルチャーを繋ぐ、新たな情報発信地として、道行く人々の話題になっている。
そのなかで毎週開催されている音楽イベントということになると、基本的にエントランス・フリーで、さまざまなスタイルのDJによる選曲が楽しめるほか、Awesome City Clubiri、JESSE(RIZE/The BONEZ)といった、本サイトでもお馴染みの人気アーティストたちのライブなども開催されてきた。そして、ここにきて、2度のグラミー受賞経験を持つ、世界的なシンガーソング・ライター、ジェイソン・ムラーズが登場。8月10日にリリースとなる4年振りのアルバム『Know.』にまつわるトークショー、および同作収録曲も含むアコースティックライブを披露した。
イベントの開始は20時からだったが、昼過ぎにはそのプレミアムな席を求めるファンたちによる長蛇の列が。超満員の場内、まずはJ-WAVEのナビーゲーターとしてお馴染み、サッシャがジェイソンをステージに迎え入れてのトークからスタート。新作『Know.』については、前作『YES!』から4年の間に書いた新しい曲もあれば1999年に出来た曲もあり、それらを才能豊かな4人のプロデューサーとともに、1枚のアルバムとして仕上げていったことを明かした。
ジェイソン・ムラーズ
また、現在日常的に音楽を聴くツールとして、ここ日本も含め世界的な主流になりつつあるサブスクリプションについては、「すべてのレコード店が手元にあるようなものだから、音楽を掘るという意味では素晴らしい。しかしその反面、曲単位で聴かれることが多くなったような気もするし、アートワークなども含め、ひとつのアルバム作品となると、制限される部分も出てくる」と、CDからダウンロード、ストリーミングへと、時代の変化とともにミュージシャンとしてのキャリアを歩み、それ以前のアナログレコード時代を知るぎりぎりの世代であろう視点から(ジェイソンは1977年生まれ)、自らの考えを語った。
つまり、アナログレコードのA面とB面を自らの手でひっくり返して聴くようなイメージもあったという『Know.』は、ジェイソンが長きに渡って書き溜めてきたどの時代の曲も、そのオーセンティックでレイドバックした空気感は保ちつつ、それぞれの特性に合ったスタッフとのコミュニケーションによって現代に響くプロダクションが施され、なおかつそれらを、1枚の作品としての流れが楽しめるように、曲順などを練っていった作品であると想像できる。
トークショーの終盤は、オーストラリアはメルボルンでバリスタの修業を積み、現在は大阪でロースターを営む文元政彦をゲストに迎え、サンディエゴのコーヒーショップがライブ活動をスタートさせて、現在はコーヒーやさまざまな食物を栽培する農園も所有しているジェイソンとのコーヒートーク。ジェイソンは文元に興味津々で、文元も修行時代にジェイソンの曲をよく聴いていたということで、二人はすぐに意気投合。ジェイソン自ら「あるとき訪れたコーヒー屋さんで声をかけたバリスタが今の奥さん。料理も上手で人柄も素敵なんだ」とプライベートな話をサラッとするほどに、和やかでアットホームな空気に。
ジェイソン・ムラーズ
いよいよお待ちかねのライブがスタート。1曲目はジェイソン最大のヒット曲「I'm Yours」だ。場内は大歓声、涙を流すファンの姿も見られた。過去の曲からは「I Want Give Up」、「93 Million Miles」、「Love Someone」、新作『Know.』からは「Have It All」を演奏。先のトークではこの曲について、「知らない人を、どうすれば祝福したり、幸運を願ったりすることができるのだろうか、と考えながら作った」と話していたが、まさにその言葉通りの強くも優しいパフォーマンスが場内に響き渡る。これぞジェイソン節と言える、歯切れよくラップ調で歌うヴァースとブリッジから、美しく伸びのあるコーラスへのメロディー展開にある包容力も牽引力も浸透性も、その輝かしいキャリア史上もっとも極まった1曲、とまで言っても過言ではないほどの魅力を放っていた。
ジェイソン・ムラーズ
ライブ終了後は、来場者の中から抽選で当たった10名に、ジェイソン自らがコーヒーを淹れるというスペシャルな時間が。一人ひとりに言葉をかけ、丁寧にコーヒーを手渡す姿や笑顔が印象的だった。1本の木に生った実は、精選、焙煎、挽き、ドリップといったさまざまな行程を経て、ようやく人々の口元に届く。自然とともにある食や生活の世界に魅せられ、そこにある苦労や喜びを知ったことが、現在のジェイソンの音楽におけるもっとも大きなバックグラウンドなのかもしれない。本当の意味で豊かであることを求めるライフスタイルと表現の間に誤差がないからこそ、変わらぬ魅力は深みを増し、なおかつ鮮度も更新されていくのだと感じた。
また、この日は、ジェイソンが選んだコーヒー豆を使ったコーヒーの販売や、hotel koe tokyoと彼のコラボレーションTシャツの受注会なども開催されたが(受注期間は終了)、まだ企画には続きがあるということで、引き続きニュースをチェックしてもらいたい。

取材・文=TAISHI IWAMI

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