平井 大 2018年に紡がれる新たな時
代へのビンテージミュージック、静か
に熱く語る男の言葉を訊く

注目度が加速度的に増している。サーフミュージックやルーツミュージックをベースに、ソウルフルな歌声とキャッチーなメロディ、確かな人生観を刻む歌詞がJ-POPリスナーにも着実に広がりつつあるシンガーソングライター、彼の名は平井 大。先行配信された壮大な楽曲「はじまりの歌」がiTunesチャートやLINE MSUICチャート1位を獲得し、「SONG FOR TWO」が“ようこそ!!ワンガン夏祭りTHE ODAIBA 2018”テーマソングに選ばれて話題を撒く中、満を持して登場したニューアルバム『WAVE on WAVES』。新たな試みを取り込んだアルバムのコンセプト、メッセージ、これから向かう場所、そしてライブへの意気込みと、静かに熱く語る男の言葉に耳を傾けてほしい。
2018年にこのアルバムを作って、いつかこのアルバムがビンテージになっていく、そうなればいいなって、音楽を作る時にはいつも思っているんです。
――今回のアルバムは1曲目「SONG FOR TWO」から2曲目「RIDE THE WAVES」へ、最近のEDMというよりは80年代のエレクトロポップを思わせるようなムードがあって。僕ぐらいの年齢(40代後半)のリスナーからすると懐かしさがあって、それが若い世代には新鮮に響くだろうと思いました。
今回の新しい要素として80'sや90’ s初期ぐらいのフューチャー感というものがあって。僕は生まれてなかったですけど、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『ゴーストバスターズ』『スターウォーズ』の最初の三部作とか、近未来だけど新しさと懐かしさが入り混じってる感じがその時代のポップカルチャーの魅力だなと思っていて。その良さをアルバムに入れられないか?というところで作ってみたんですけど。今はアコースティックという枠組みがなくなってきている中で、アナログシンセやビンテージっぽい音色を使うと、元々は人工的な音なんですけど温かみが出るのが面白いですよね。

――それが今回のアルバムのテーマの一つですか。
そうです。けど音楽を作る上でのスタンスはあんまり変わってなくて。昔の音楽、僕の中で培われてきた音楽の中で魅力的だなと思うものをピックアップして次の世代に残していく、それがミュージシャンとして僕が一番やっていきたいと思っていることなので。2018年という時代にこのアルバムを作って、いつかこのアルバムがビンテージになっていく、そうなればいいなって、音楽を作る時にはいつも思っているんです。前作の『ON THE ROAD』の時も、『Life is Beautiful』の時もそういうふうに思って作っていたんですけど、いろいろ昔の音楽を掘っていって、その中でいいなと思ったものを吸収して現代にリリースする。そうやって受け継がれていくのが面白いんじゃないかな?というふうに思ってますね。
――頼もしい。それって最初からそういうふうに思っていた?
うーん、ここ最近な気がする。『Slow&Easy』のあと、『Life is Beautiful』ぐらいから。でも、元々聴いていた音楽がビーチボーイズだったりエリック・クラプトンだったり、父の影響で聴いていたオールディーズは大好きなので。その枠組みが、近年は80年代も“ビンテージ”の枠になってきたのかな?というのが僕の肌感覚です。
――そうだと思いますよ。80年代のロック、ポップスもどんどんスタンダード化しているというか。
ビンテージショップに行くと80'sのTシャツが置いてあったりとか、そういうのを見てると、この時代もビンテージになってきたんだなという肌感覚があって、その中から自分がいいと思うものをピックアップして、現代として消化していくという作業が今回の新しい部分だったのかなと思いますね。もちろんブルースやカントリーや、自分が大好きなものは入ってますけど。
――それが平井 大の音楽。
でもジャンルというのはすごく難しいですよね。今のこのご時世で、カントリーといわれているジャンルの人の音楽を聴いても全然カントリーに聴こえなかったり、EDMの人の曲でもめちゃめちゃフォークだったりパンクだったり。そういった意味では、すごく面白い時代だと思いますね。可能性が広がりつつある時代というか、固定概念というものはどんどん必要なくなっていくんだろうなと、すごく感じます。
――それこそ葉加瀬太郎さんのような、ジャンルもキャリアもまったく異なる人と共演するのは、固定概念を打ち破る自由さの象徴でもあるんじゃないですか。二人が共演した「はじまりの歌」、いいコラボですね。
これは僕としてもすごく面白い経験でした。昨年初めて彼とフェスで一緒になって、ライブを拝見させてもらって、フェスは会場も広いしお客さんもたくさんいるのに、一瞬で彼のバイオリンが会場を包み込むんですよ。こういう包容力のあるプレイヤーはなかなかいないなと思ったし、楽器って人格が出るじゃないですか。同じ楽器でも人が違うと全然違う音色に聴こえたり、メッセージが聴こえてきたり。その中で葉加瀬さんは、すごく魅力的なプレイをする方だなと思っていて、今年になって「はじまりの歌」を作った時に僕の頭の中にストリングスが鳴っていたので、ダメもとでお願いしたら快く引き受けていただけました。
――向こうも感じるものがあったんでしょうね。
ルーツも全然違うし年代も違うし、どうなるのかな?という不安も楽しみもあったんですけど、実際にセッションしてみて、違うものが混ざり合った時のパワーをめちゃめちゃ肌で感じることができたので。面白かったし、いい経験になったと思いますね。

――このアルバムはいろんな人間の顔が見えます。どんなエピソードがありますか。
まずは僕のパートナーの存在が一番大きいかなと思います。そこで愛を育んでいったり、愛を見つめ直したり、そういう機会は日常生活でもたくさんあるので。それは僕だけではなくて、世の中にそういう人はたくさんいると思うんですけど、僕もそういうところから影響を受けることが一番多いので。そこでいろいろ感性をもらいますよね、人生観であったり。
――ああ。なるほど。
今年で僕も27歳になって、将来のことを具体的に考える機会がすごく増えたので。今までは漠然と“こんな感じになるんじゃないかな?”ぐらいだったんですけど、来年にはこうしておかないと理想の現実にはならないぞ、みたいな。そういう部分も今回の作品にはすごく影響してるんじゃないかなと思いますね。
――確かにこのアルバムはポジティブなラブソングばかり。「BEAUTIFUL LANE」は1曲だけ、悲しい別れの曲ですが。
でもこれも、人生の中で別れというものは必ずあることだし、それを自分なりにどうやってポジティブに評価していくか。それって人生の中で見たくはないけど、乗り越えていかなきゃいけないことでもあるから。そこに向き合いたいという思いがあって作ったんです。

今ある問題にどういうスタンスで接しているのか。僕らの世代が考えていくべきだと思うし、もっといい世の中になるきっかけになればいいなと思います。
――ボブ・マーリィのカバー「I SHOT THE SHERIFF」については?
ビンテージなものからのインスパイアという意味では、この「I SHOT THE SHERIFF」が一番顕著に出ているんじゃないかなと思いますね。昔の曲って、重みがあってなかなか踏み込めないところがあるって、僕の年代からもっと下の年代になると思う人も多いと思うんですけど、その辺の音楽をもっとファッショナブルに気軽な感覚で聴いてほしいんですね。僕が最初にこの曲を聴いたのはエリック・クラプトンのカバーで、レゲエとロック、ブルースのミックス具合がすごくいいなと思って。それまでにブルース・ミュージシャンがレゲエに足を踏み入れることはなかったと思うし、今聴いても新鮮な曲なので。“こういう曲がある”ということを下の年代の人に知ってもらえればハッピーだし、そこからどんどん時代の変化と共に成長していくと思うし、そういうふうに文化を残していきたいという思いがありますね。平井 大の新曲として手に取る方もたくさんいると思うんですよ。エリック・クラプトンやボブ・マーリィを知らなくても、それはそれでいいなと思うし、かっこいい曲として聴いてもらえたら一番いいかなと思います。実際にはこの曲が持っているメッセージは、人種問題や差別を歌っているヘヴィなものなんですけど。
―― 一つ前のアルバムでボブ・ディランの「風に吹かれて」をカバーしていたじゃないですか。あれも非常に強いメッセージソングで、いつになったら戦争はなくなるのか?と歌っている。大さんの選ぶカバーは、言葉としても非常に意味の強いものが多い気がします。
戦争であったり人種差別であったり、日本に住んでいると遠い感覚であったりすると思うんだけど、たぶんもっとラフに考えていなかきゃいけない問題だと思うから、そういう感覚で聴いてもらえたらいいですよね。そういうことに関して、ちょっと考えるのが難しいとかじゃなくて、個々が平和に対してどう考えているのか、今現在ある問題に対してどういうスタンスで接しているのか。それをもっと明確に僕らの世代が考えていくべきだと思うし、それがもっといい世の中になっていくきっかけになればいいかなと思います。
――音楽にはそういう力があると思います。
きっかけ作りですよね。こういうカルチャーがあると知ってもらえばハッピーだし、かっこいいと思って聴いてもらえる、そうやってどんどん引き継がれていけばいいなと思いますね。
――まだ手に取っていない人はぜひ。力のあるアルバムです。ジャケットの薔薇が目印。
薔薇は僕にとって大事な花で、パートナーに何か贈り物をする時には必ず薔薇を贈るし、ライブする時も薔薇を飾ってますし、僕のライフスタイルに根付いている花なので。愛の象徴だったりもするから、そういうものを表現したいという思いもありました。配色としては80’ sポップスからの影響も強いですかね。ピンクと黄色と紫がかったブルーで、なおかつシンプル。
――アートワーク、大事ですよね。今の時代こそ。
手に取って、可愛いっていうふうになればいいかなと思ったので。やっぱり持っていたくなるものじゃないと、持ってないじゃないですか。今は洋服もバッグもネットで借りられちゃいますからね。どんどん所有欲というものがなくなっていくんじゃないかと思うから、だからこそ持っていて価値のあるものを作っていきたいなと思うんです。それが手作り感やビンテージ感とかだと思うので、僕の音楽もそうなればいいと思いますね。
平井 大 撮影=西槇太一
ライブは、ここに来なければいけない理由というものをたくさん作っていきたいなと思うし、“行って良かった”と素直に思ってもらいたいですね。
――これから夏はフェス、そして8月24日からはアルバムのリリースツアー。どうですか、最近のライブで感じることとか。
最近すごく感じるのは、さっきの話じゃないけど、インターネットが普及して買い物も家でできるし、映画も見られるし、そういう中でライブというものは、そこに行かないと経験できないものとして、家では圧倒的に感じられない部分が多いと思うんですよね。もちろんライブDVDを見たりYouTubeを見たり僕もしますけど、その場に行ってそこにある熱気や音圧を体験することに意義があると思うので、ミュージシャンとしてやっていく中ですごく大事な部分ではありますね。今後ライブはもっと重要になっていくと思うし、だからこそ来なければ感じられないグルーヴや雰囲気をどんどん強化していきたいと思います。
――お客さんの様子は?
聴いてくださる人がすごく増えてきている印象があるから、それはすごくうれしいことですよね。聴いてくれる方がいないと自己満足になっていってしまう仕事でもあるので。たくさんの人が聴いてくれるようになってきたことを実感できる場がライブなので、ミュージシャンとしての生きがいでもあるし、今後も増えていったらいいなと思います。あと、家族やカップルでライブに来てくださる方が増えているので、それもすごくうれしいことですよね。親子で共通の音楽の趣向を持つとか、なかなかないと思うんですけど、そういう方が増えてきているということはすごくポジティブなことだと思うし、僕の音楽がみなさんの生活の中のポジティブな部分を作れたら一番いいんじゃないかなと思いますね。
――フェスだと、やってやるぞとか、取りに行くぞとか、気持ちが変わる?
あんまり変わんないんですよね。フェスでもツアーでもインストアライブでも、見てくださっている方は見てくださっているから、このステージだからこうというのはあんまりないです。けど、フェスの魅力としては、夏の開放的な雰囲気の中で音楽を楽しみに来てくださる方が多いと思うから、そういう場所って音楽が入ってきやすいと思うんですよ、みんなのハートに。自分らも開放的になって音楽ができるし、聴いている方も自由に音楽を聴けるのはフェスならではの楽しみ方だと思います。
平井 大 撮影=西槇太一

――ツアーファイナルは過去最大規模、12月15日の幕張イベントホール。あらためてツアーへの抱負を。
先ほどもお話ししたような、ここに来なければいけない理由というものをたくさん作っていきたいなと思うし、“行って良かった”と素直に思ってもらいたいですね。セットリストは同じでもその日によってグルーヴは全然変わってくると思うし、僕のライブは楽器のソロのパートもたくさんあるので、何箇所も来ても楽しめるものになると思うし、たぶん初日とファイナルとでは作品としても全然違うものになっていると思うから。3か所ぐらい来ると一番面白いんじゃないかな(笑)。
――いいですね(笑)。前半、中盤、ファイナルと。
そうすれば“なるほどな”と思ってもらえるんじゃないかと思います。まあ僕は全部行きますけどね。
――あはは。当たり前だ(笑)。
土地土地によって盛り上がり方や音楽の受け止め方が全然違うから、それは僕らもやっていて楽しい部分ですよね。リリースツアーなので、今回のアルバムの曲もありつつ過去の曲ももう一回消化し直して、今だったらどういう表現ができるのか?を見直すきっかけになるツアーになるんじゃないかなと思います。

取材・文=宮本英夫 撮影=西槇太一
平井 大 撮影=西槇太一

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