MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』
第六回ゲストは竹原ピストル “ピス
トルさんは、俺の心の中にずっといる
んです”

MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』のゲストはシンガーソングライターの竹原ピストル。両者は幾度となく対バンを重ねてきた関係、というのはもちろんだが、何よりもアフロはこれまで『逢いたい、相対。』の対談中、何度も竹原ピストルの話をしていた。そして「ピストルさんは紅白に出てから“カッコイイ”って言われるようになったけど、ずっとカッコ良かったんだよ」と世の中の評価に憤慨していた。それだけ、アフロが影響を受けたアーティストの一人であり、尊敬する人物……否、それだけで括れないほど特別な存在なのだ。竹原ピストルもまた、今回の冒頭で「対談の企画は全部お断りしてる」と話し、アフロのオファーだからこそ受けたという。「この人が相手なら、今日は話す」そんな誰も介入できない、心から信頼しあう両者だからこそ打ち明けた本音の対談をお届けする。
●俺が本番前にあんな喋るのはアフロだけだからね●
竹原:対談の相手って、アフロが選んでるの?
アフロ:そうっす。
竹原:アハハ! 何で今さら俺を呼ぶんだよ!! もう良いだろう(笑)。
アフロ:ピストルさんと言えば、いつも「飲みに行こう行こう詐欺」ですから、こういう場を使って。
竹原:(笑)。たしかになぁ……実は対談の企画って全部お断りをしてるんだよ。
アフロ:でも、これだけはOKしてくれて。
竹原:なんで(俺に)声をかけたんだろうと思って。で、なんか言いたいことあるの? 実際のところ、どんな話をするの?
アフロ:特に決まりは無いんですよ。テーマとかもなくて。
竹原:いつも無いの?
アフロ:いつも無いっす。そういえば、この後ライブですよね。どこでやるんですか?
竹原:たしか東京だったと思うけど……。
スタッフ:Zepp DiverCity TOKYOで『フジファブリック 2マンツアー"フジフレンドパーク 2018"』ですね。
竹原:あぁ、Zepp。
アフロ:なんでZepp規模のライブハウスを忘れるんですか!
竹原:いやいや忘れるだろぉ。覚えてる?
アフロ:さすがに会場がデカイから「今日はZeppかぁ」ってなりますよ。渋谷nestだったら忘れるかもしれないっすけど。
竹原:ハハハ! 超語弊があるだろ。
アフロ:ハハハ!ありますね。
竹原:フジファブリックさんとやるっていう意識の方が強いから。会場はどこでも良いかな。
アフロ:そっか。ファミマかなんかでライブのチラシ見ましたよ。
竹原:大丈夫かなぁ、お客さんの反応とか。
アフロ:今さら何を言ってるんですか!? WANIMAとやった方がキツかったでしょ。
竹原:アハハ! いやいや、優しかったよ(笑)。
アフロ:優しいっすよね。
竹原:俺さ、MOROHAのライブを観ててスベってるところを観たことがないんだけど、そういう時もあるの? そういう絡まる時って。
アフロ:ありますよ。ピストルさんも観てるハズです。
竹原:そういえば、大阪で……何年も前だけど……。
アフロ:大阪2nd LINEですね。奇妙(礼太郎)さんと、クリトリック・リスさんと、ピストルさんと一緒の時にスベったじゃないですか。
竹原:アハハ! 楽屋の壁をぶん殴ってたのは覚えてる。あとさ、千葉の柏でやった時も俺らズルッと行ったよね。
アフロ:だって、あれはスベりに行く感じだったじゃないですか。もはやスキー場でしたよ。
竹原:なんつーの? 主役不在のよくわかんねぇイベントでよ。みんなでじりじりスベって終わったよね。
アフロ:タマキングさんの……。
竹原:(手を叩きながら)アハハ! タマキングがまず最初にズルッと行って。
アフロ:あとは、みんなでズルズル芋づる式に。
竹原:MOROHAもライブで絡まることがあるんだ。
アフロ:ありますよ。ピストルさんの方こそどうですか?
竹原:どうだろうなぁ……立ち振る舞いを考えに考えて、どうにかやってきた気がするけどね。
アフロ:本番前はよく二人で話してますよね。
竹原:いやいや、そうだよ! (MOROHAスタッフに向かって)あのですね、人の本番前にはバンバンちょっかい出してきて「MCのネタくださよぉ、ピストルさん」とかバーバー言ってくるくせに、自分の本番前はピリッとした空気を出して、壁に向かってラップを始めるんです! こいつはクソ勝手な男なんですよ! そういうところがある。
アフロ:ハハハ!
竹原:アレは作戦? 人のことを乱して、自分はちゃんと集中するっていう。
アフロ:いやいや! ピストルさんは、本番前でも余裕なんじゃないかなと思って。
竹原:(大きな声で)余裕じゃねぇよ! 全然!
アフロ:勝手にピストルさんは、もう集中とかの域じゃないかなって。控え室で普通にしてても、ステージに立ってマイクを前にした瞬間にギラーン!って。
竹原:むず痒くなっちゃったら嫌だけど、俺が本番前にあんな喋るのはアフロだけだからね。
アフロ:アハハ、嬉しい。
竹原:普段は話しかけるなオーラを出して、1人になろうとするもん。
●良いものさえやっていれば、状況は変わると思ってた●
アフロ:マジすか。……じゃあ、今後も話しかけられるのは俺だけだ、っていう優越感を感じます。ちなみに街中で声をかけられるのは嬉しいですか? 「ほっといてくれよ」みたいなモードにはなります?
竹原:今のところはないね。意地悪な人もいないし。アフロは面倒くさい?
アフロ:いやいや俺もないですよ。今は声をかけられて嬉しいですけど、いつかは面倒くさくなるのかなって。よくあるのが、街中で俺と会った人がハッとした顔をして、すぐにスマホを見る。
竹原:わかる! 画像検索か何かだよね。
アフロ:‪そうっす。画面と実物をチラチラと見比べて、なんなら名前も知らねぇからそこも答え合わせしてから声かけるみたいな。‬この前、あまりにも分かりやすくやっている人がいたので、「この野郎、画像検索してるんだろう」と思って後ろからケータイを覗き見したら、『ポケモンGO』やってたっすね。
竹原:アハハ! それ何回か使ってる話だろ。完成度が高すぎるもん。
アフロ:使ってます。そういう話、好きですよね。
竹原:好き好き。そういう、サゲが綺麗な話。
アフロ:そういう話をいくつ持っているかが、大事だったりしますよね。
竹原:ハハハ! 鉄板の数か。あのさ、共演した仲間がMCでネタに入った時、すごいワクワクしない(笑)? 
アフロ:俺はライブで同じ話をするのが下手っぴなんですよね。
竹原:照れ臭くなっちゃう?
アフロ:そうですね。
竹原:相棒がいると「また同じ話をしてる」と思われちゃうからな。
アフロ:そうなんですよ。だから、割と毎回違う話をするので危なっかしかったりするんですけど。ピストルさんは鮮やかですよね。
竹原:いつも喋ってる話を、さもその場で思いついたかのように話すでしょ(笑)。
アフロ:ギター見ながら、ふっと顔を上げて「今、思いつきました!」みたいな。
竹原:観てるなぁ(笑)。旅芸人は、ある意味そういう胡散臭さもひっくるめて好き。アフロは同じ話をするのが苦手なら、毎回ネタを考えなきゃいけないでしょ。お客さんの笑いを取るMCって、1曲作るのと同じくらいの労力使うじゃない?
アフロ:でも、俺らの楽曲は笑いの要素がないので、同じ筋肉は使っているんですけど、方向性が違うっすね。ちょけている部分とか、ふざけてる部分を曲で表現できてないので、自分の出来ていないことをMCで補ってる感じ。そこは背負っていくもんだなと思ってMCでは、なんでこのイベントが開催されたのか、対バンは誰なのか、お客さんは誰なのかを考えて、そこから生まれた話を考えてる感じですね。
竹原:そこまで考えてるのか。
アフロ:でも、ライブの本数が違いますから。俺らも「めちゃめちゃライブやってますよね」って言われますけど、ピストルさんのことがよぎった時に「そうですね」とは言えないですもん。だって、一番多い時期で360本くらいやってたじゃないですか。
竹原:いやいや! すげえ盛ってくれるなよ(笑)。多くて280本くらい。360本なんてやってないよ。
アフロ:そうなんですか。とは言っても280本ですから。
竹原:でも、ワンマンじゃなかったからね。持ち時間40分とかだから連発でも大丈夫だったけど、ワンマンでその数は出来ないと思うよ。喉の問題もあるし。
アフロ:それでも、俺たちの倍以上やってますね。
竹原:一番多くて年間何本?
アフロ:100本です。アベレージで年間100本ですね。
竹原:そうか。MOROHAはさ、そうそうたるチャンピオン方と2マンをやりだして、結構長いでしょ?(※MOROHAが主催する2マンライブ『怒濤』。これまでに竹原ピストルを含め、クラムボンZAZEN BOYS阿部真央など計16組が参加している)。
アフロ:そうですね。もう16回目になりました。
竹原:例えば、eastern youthさんの『極東最前線』(※1994年から続いている、eastern youth主催の2マンライブ)は本当にやりたい人とガチッと純度の高いイベントを作り上げていくみたいなところから始まった、というのをどこかで聞いたことあるけど。MOROHAもそういうこと?
アフロ:そういうことですね。当時、このままの状況では二進も三進もいかないなと思ったんです。で、自主企画という形でMOROHAの冠をつけるか、つけないかだったら、不思議と動員が違うことがわかって。言ったら、同じメンツでも対バン形式で呼ばれるより「自分たちが主催してます」と言ったほうがお客さんは来てくれるんですよね。よそのイベントよりも、ツアーの方が自分たちの客は来る、みたいなことで。それで自主企画をやろうと思いました。あとは単純に、音楽を作る以外の努力をちゃんとしようと思うタイミングでしたね。
竹原:ある種、活動体制をしっかり整えるみたいな。
アフロ:そうです。良いものさえやっていれば、良い環境は勝手に出来上がっていくもんだとていう幻想を抱いていた時期があったんです。でも、結果が出なかったという意味でコテンパンにやられて。「これはどうにかしなきゃいけない」と思って、自ら自分たちのやりたい相手とイベントをやって。感度の高いお客さんに俺たちの実力を見てもらおうと。
竹原:野暮な話かもしれないけど、(『怒濤』を)始めたばっかりの頃は、対バンする方々のお客さんの方が多いことはナンボでもあったでしょ。そういうのは怖くなかった? 
アフロ:でも現金なもんで、オイシイと思ってました。
竹原:あぁ、そっか。そうだよな。
アフロ:ありがたくも「うちの畑を荒らしていいよ」って言ってくれる先輩ばっかりだったので。「荒らせるもんなら、荒らしてみ」って。
竹原:カッコイイね。
アフロ:ピストルさんを含め、俺たちが『怒濤』に呼んでいる方たちは、そういうことを気にする人たちじゃなくて。逆に、あそこまで振り切ってる人たちだと、心意気ひとつで受けてくれるっすよね。
竹原:あれは多くの人がスゲえなと思ってることだよね。
アフロ:どうっすかね。
竹原:「やるなぁ! コイツら」と思って見てたもん。
●本当の意味で勝ちに行くっていうのは、こういうことだよなって●
アフロ:だけど、やっぱり『極東最前線』はすごいですよね。共演する方々が、eastern youthの歩んできた道を示している感じもあるじゃないですか。そういうのはすごく素敵だなと思います。
竹原:MOROHAもちょっと前、出てたよね?
アフロ:出ました。
竹原:声をかけてもらった時、超嬉しくなかった?
アフロ:すっごい嬉しかったです。
竹原:俺……eastern youthさんは、とんでもねえ衝撃を受けたバンドの1つなんだよ。大学生の時に『極東最前線』という映像作品を観て、アレに呼ばれることが俺の中で、ものすごく最高峰のステータスになったんだよね。それこそ俺は、ライブ年間280本時代があるでしょ。あの頃は、とにかく数を打って「すげえライブをやってる奴がいる」って目立ち方でも良いから、“ライブ活動だけでのし上がってやらぁ”と思いながら必死こいてバーってブッキングしてさ。呼ばれるライブも拒まずに行けるだけ行ってた。それで、とうとう『極東最前線』に呼んでもらった時に、個人でブッキングする気が失せたんだよね。もう、自分で組む意味がないと思ってブッキングを辞めた。そして時を同じく、松本人志さんに映画(『さや侍』)で使ってもらったこともあったけど……結局、俺も二進も三進も行かなくて。最終的に、オーガスタ(※竹原の所属事務所)にもう一回、拾ってもらった。
アフロ:俺が音楽活動以外で「自分でどうにかしなきゃいけないんだ」って芯まで思うキッカケがピストルさんで。メジャー2ndが出た時、俺にメールをくれたの覚えてます? 「どうしてもオリコンチャートに載せたいから、宣伝してくれ」って。
竹原:うん、覚えてる。
アフロ:……正直、たまらなくダセエと思ったんですよ。でも、次の瞬間にコレをダサいと思った自分が、たまらなくダサいと思ったんです。本当の意味で必死になるって、どういうことだったっけ?って。俺たちがライブハウスの打ち上げで「シーンに革命を起こすんだ」とか「どうにかして、俺の気に入らない状況を変えるんだ」と言ってたことって、一体どのくらいの本気で言ってたんだろうと思ったんですよね。ピストルさんのメールを見て、本当の意味で戦って勝ちに行くっていうのは、こういうことだよなって。あれがなかったら、俺はメジャーを断ってたかもしれないです。
竹原:時にバイオリズムがある気がして。「周りにどう思われてもいい。手段を選ばずにやって、とにかく売れてやらぁ」って時と「手段を選ばなきゃ俺じゃなくなる」というのを繰り返してはいるよ。
アフロ:でも「手段を選ばずにやらなきゃいけない時がある」っていうのを、自分が知ってるのはすごく大きいことだよな……と思います。結局、それを避け続けてる自分に対して嘘くさいと思うんですよ。だから、あれは今となってはターニングポイントで。
竹原:俺ね、毎回そう思ってやってきたけど、特にあの時は「これで売れなきゃ終わりだろう」って気持ちがすごく強かった。なんならメジャー1発目の『BEST BOUT』を出した時に、これでバコーンと行くもんだと思ってたのね。実際は全然、ピコってなったぐらいだったから「え!」って正直驚いた。それで2枚目の『youth』はCMソングも入ってるし、どうにかしないと思った。だから片っ端から仲間に連絡して「宣伝してくれ」と言ったの。これで負けたら終わりだと何故かその時に思ったんだよね。
アフロ:なんか追っかけてる感じっすね、俺らも。
竹原:率直にさ、今までアホみたいにライブやってきたのに「こんなに知られてねえんだ」みたいな現実を食らった。こっちの物差しと、世の中の物差しのギャップだよね。そこに気づけたことが大きくて「ダメだこんなの、ただの雑魚だ」と思えた。もう、みんなが知ってると思ってたもん……バカみたいに(笑)。
アフロ:メジャーで1枚目を出すときにですか?
竹原:うん。
●『極東最前線』に呼ばれて、自分のやり方が間違ってなかったと思えた●
アフロ:やっぱり紅白から変わったっすか?
竹原:ワンマンライブに来る、お客さんの数は増えた。それが一番わかりやすいんじゃないかな。
アフロ:出場が決まった夜はどうでした?
竹原:自分で自分がおかしかったよね。言ったらデビュー曲の『自殺志願者が線路に飛び込むスピード』がいきなり放送自粛曲でさ、「そんなゲテモノが紅白かよ」みたいな。だけどシンプルに、父ちゃん母ちゃんが喜ぶだろうなって。それが一番強かったかもしれない。
アフロ:『極東最前線』に出た喜びとは違いますか?
竹原:それとはちょっと違ったな。『極東最前線』に呼んでもらえた時は、100%自分自身の全細胞がグワーって喜ぶ感じ。紅白が決まった時は取り巻きが喜ぶぞっていう、そっち側だったかな。
アフロ:全細胞が喜んだ感覚は、それ以降ないですか?
竹原:いや、あるよ。しばしばあるけど、でも『極東最前線』が一番だったと思う。
アフロ:原体験みたいなことなんですね。
竹原:そうそう、そういうこと。一時期、俺のやり方は間違ってるんじゃねえの? と思う時があったけど『極東最前線』に呼ばれて間違ってなかったと思えた。
アフロ:超・客観的で恐縮ですけど、ピストルさんはずっとカッコよかったっすよ。初めて会った時からカッコよくて……だからこそ俺は、それが切なくて。こんなにめちゃくちゃカッコイイ人が俺たちと2マンしてるって、どうなっちゃてるのよ、と思ってました。
竹原:そうなの?
アフロ:当時、駆け出しのクソ・ぺーぺーな俺たちが、竹原ピストルと2マンできる状況を異常だと思ってました。だから、はっきり言って絶望でしかなかった。カッコイイだけじゃダメなんだ、って。そんな中でピストルさんは、ガンガンライブをやってたじゃないですか。それで俺「ピストルさんはやり方が違うんじゃないか?」って思ってました。だけど、今考えたら間違ってなかったですからね。ピストルさんは結果で「間違ってなかっただろ」って言ってくれてる感じです。
竹原:ブレブレではあったけどね。
アフロ:そうですか? 一貫してやってたじゃないですか。
竹原:ヤバイと思ってたよ。このままじゃヤベえなって。誰か拾ってくれ、と思ってた。
アフロ:個人でやることに限界を感じてたんですか?
竹原:どこにも所属せず、あのまま一人でずっと続けると思ったら、途方にくれたというか。ライブが唯一の生き甲斐ではあるけど「これをずっと続けるの?」って、1人ぼっちの時にズシンとなったりしたんだよね。
アフロ:俺も、その半分くらいはズシンとなってました。というのは、竹原ピストルという、あれだけ現場で客をうならせる、パワーのある人がああいう規模で活動しているのを見て、どうすれば良いんだろうなって。例えば、漫画喫茶で働くと音楽雑誌がガンガン入荷されるわけですよ。ペラペラめくると、自分が全然共感できない人たちがガンガン取り上げられて。方や現場へ行くと、ピストルさんや俺たちがいて。そんな状況に「このままで大丈夫なのかな」というのはずっとありましたね。
竹原:こう言っちゃなんだけど、「旅芸人としての、音楽活動で生活していくということはどうやら出来そうだ」。そこまでは行ったんだよ。だけども……ライブを続ければ、続けたで恩返ししなければ気が済まねえって人達がどんどん増えていっちゃってたんだよね。“どうしても売れたい、この人たちを驚かせたいし喜ばせたい”という気持ちが消えなくて。そことのジレンマだったと思う。多分、ライブを100本くらいまで減らしたとしても食っていけたと思うんだよ。だけど、ずっと引っかかってたのは“売れたい”だったんだよね。今のうちに動かないとダメだ、と思って焦ってた。客が一桁なんてザラだったしさ、こいつらに俺を応援してて良かったと思わせるくらい売れたかったし、今も売れたいんだけど。アフロはどんなモチベーションなの?
アフロ:俺は今のところ自分っすね。自分で自分のことを褒めれるようになりたくて。まだ、誰かの気持ちに応えたい、というのは弱いかもしれないです。なんか無性に「そんなの知るか」って言いたくなっちゃう……なんででしょう。
竹原:そっかそっか。そっちの方が純度高いよな。
アフロ:いや、どうなんでしょう。ピストルさんを前にして、自分が小さく感じちゃいますけど。
竹原:とんでもない。それは、それぞれの考えがあるから。俺は「もう一回、拾ってくれ」と思った立場だから、余計どうにか事務所に金を入れたい。
アフロ:俺の場合は、そういうファイティングポーズを持ってないといられないのはあるかもしれないです。
●竹原ピストルは、俺たちの心の中にずっといるんです●
竹原:もし、紅白のオファーが来たら出る?
アフロ:(キッパリと)もちろん。
竹原:うんうん。
アフロ:新曲の歌い出しが、<2017年大晦日>なんですよ。<食らいつくNHK紅白 土手っ腹にピストル>。
竹原:それはそういうことなの?
アフロ:はい。それが「五文銭」の歌詞。メジャーへ行ってから「なんでUKとMOROHAを組んだんですか」とインタビューでよく聞かれるんですよ。悔しいから絶対に言わないんですけど、俺らはお互い全然音楽の趣味は違ったんです。UKはヴィジュアル系バンドが好きで、俺はHIPHOPが好き。逆に俺はヴィジュアル系を全然好きじゃなくて、UKはHIPHOPを好きじゃなかった。インタビューでは「音楽性は全然違ってもいい。それよりも、何かを成し遂げたいモチベーションの高い奴と組んだ方が上手くいくと思ったから、UKと組むことにした」って、カッコつけて言うんです。……それも、もちろんあるんですけど、1つだけお互いに共通で好きだった音楽があったから一緒にやれると思ったんです。……それが野狐禅でした。
竹原:それ、すごい話だね。
アフロ:だから、俺たちの心の中に竹原ピストルはずっといるんですよ。それで今日、これを持ってきたんですよ。(バックの中からリストバンドを取り出す)
竹原:それは何?
アフロ:これ、ピストルさんと群馬で共演した時に「今度、duo(『duo MUSIC EXCHANGE』)でワンマンやるんだよ」って言われて。それで、俺、人生で二度と言わないと思うんですけど「オープニングアクトやらせてください」って言ったんです。そしたら「俺の一存では決められない。だったら、オープニングアクトじゃなくてフラットな2マンでやろうぜ」と言われて。その時に何かしら貰いたかったんでしょうね。「手にしてるリストバンドください」と言って。それでUKに「ピストルさんからもらったぜ」って自慢してました。
竹原:そんなことがあったのか。
アフロ:俺、今日はそれを言おうと思って。いつだって心の中にいますよ。
竹原:嬉しい……けど、なんか……。
アフロ:むず痒いですか?
竹原:もちろん、むず痒さもあるけど。
アフロ:本人の前ならもちろん良いんですけど、インタビュアーの方に「影響を受けた人は誰ですか?」って聞かれて、パッと答えるのはすごく悔しいんですよね。なんか、その人に白旗を上げているような気がするじゃないですか。だから、「お互いに野狐禅が好きで……」って言っちゃうと、なんかダメだなと思ったりします。
竹原:そんな風に思ってくれてたのは、正直ビックリしたけど。わかりやすく乱暴な言葉を使うなら、初めて共演した時からMOROHAはずっと同等だと思ってたんだよ。同じラインで頑張ってる俺たち、って仲間意識が強かったから「いやいや、そんな言われても」って気持ちになっちゃうな。
アフロ:初めて2マンした時に、俺は失礼なことをMCで言ってるんすよ。
竹原:どんなこと?
アフロ:「なんで野狐禅を解散したんだよ」って。
竹原:あぁ! なんか言ったかもしれないなぁ!
アフロ:そんな失礼なこと……今だったら鳥肌立ちますよ。
竹原:でも、そんなこんなをひっくるめて、そういう言葉だったと分かったら改めて嬉しいね。
アフロ:過去の思いが全部、繋がっていくというか。伏線が回収されていくのが嬉しくて。やってて良かったなぁ、と思います。こういう瞬間のために、俺は頑張っているのがあるんですよ。だから「今日はこれからピストルさんと、中目黒で! ‪しかも会社の金で飯食うぞぉ!‬」って、やっぱニヤニヤしましたし。
竹原:面白いなぁ。俺が知らないところで、勝手に因縁を持たれてたのか。
アフロ:本当にそうっすよ!
竹原:ね、俺は普通に仲間だと思ってたから。
アフロ:言っても、ちゃんとリスペクトは示してると思うんだけどなぁ。
竹原:そうじゃなきゃ、一緒に共演をさせてもらってないだろうしね。8月に俺とMOROHAとSIONさんで3マン(『- GURUxGURU 10th ANNIVERSARY 1st SPECIAL!! -』)やるじゃん。俺の中ではMOROHAの2人が近しすぎて、竹原ピストル&MOROHAとSIONさんの対バンって認識なんだよね。MOROHAと2マンをやる時も、MOROHAより物すげえライブをやって「竹原ピストルって、すげえ」と言われたいモチベーションではなくて。お客さんが楽しめたら良いな、みたいな感じなんだよ。
アフロ:逆に「やってやる」みたいな人はいるんですか?
竹原:基本はそっちだよ。闘争心を露わにして攻撃的なことをやる、みたいなことは100%ないんだけど、「俺の方が良いライブをやってやる」というのは常にある。
アフロ:アコースティックのシーンを盛り上げたい、と思ったりしますか?
竹原:ないない。そんなシーン全体は見てない。執着してることと言えば、飲み屋で磨き上げた芸がどこまでも通用するところを見せてやりたい。だけど、弾き語り1本でどこまで行けるか、みたいな志はない。みんなで演奏するのも好きだしね。
●「ピストルさんに勇気をもらったよね」って言葉を聞いて、腹が立った●
アフロ:そういえば、いつやるんですか? 俺たちの“顔面ブロック”。この前、インタビューで読みましたよ。「MOROHAのアフロと一緒に作っている曲があるんですけど、一生世に出ることはないでしょうね」って。
竹原:アハハハハ!
アフロ:勝手に何を言ってるんすか! 
竹原:言ったのはちょっと覚えてるわ。だってさ、歌詞カードを見ちゃいけねえんだろ?
アフロ:それ聞きたかったんですけど、紅白で譜面台を置いてたじゃないですか。あれはピストルさんのリクエストだったんですか?
竹原:テレビで歌う時はだいたい譜面台を見てるね。
アフロ:それは譜面台を見て、歌いたいんですか?
竹原:単純に間違ったら嫌だなと思って(笑)。紅白とは別だけど、テレビは観覧のお客さんを入れて収録することがあるでしょ。もしも、こっちがしくじったとして同じ曲を2回も付き合わせるの嫌じゃん。だから絶対に(譜面台を)ガン見になっちゃうんだよね。
アフロ:収録のお客さんって独特の雰囲気を持ってますよね。
竹原:そうだね。
アフロ:テレビに出て、お客さんが変わってきた感じありますか?
竹原:それは変わんないなぁ。
アフロ:ちょっとね、最近のMOROHAは変わってきてるんですよ。
竹原:へえ! ちょっと聞かせて。
アフロ:それこそ、‪自分たちの音楽を聴く上での向き合い方をちゃんと心得てる人‬たちと国を作っていくというか。そんな客と一緒にグルーヴを作っていく考え方もあるじゃないですか。それとは違う音楽の放出を俺は、今、やってるっすね。そもそも、メジャーっていうのがそういう場所で。‪ライブハウスに来たことがないお客が観に来たりとか、変な話ミーハーな人が来たり。その人達にMOROHAのライブでの向き合い方を提示して、導いていかなければならない。‬そういう意味で、ライブハウスの空気感というのが変わってきてる感じがして。ピストルさんはないですか?
竹原:どうなんだろう。俺は、そんなに質の変化は感じてないかも。70年代フォークをリアルタイムで聴いていたんだろうなという大先輩みたいなお客さんはガッといるから、それは増えた気がするんだよね。それこそ(吉田)拓郎さんの「落陽」や、中島みゆきさんの「ファイト!」を歌わせいただいたのはあるかもしれないけど。それは嬉しいし光栄に思う。
アフロ:そっかぁ……それこそ「紅白に出て勇気もらいました」って同業者から言われることが多分あったと思うんです。
竹原:小屋の人もそうだし、旅芸人仲間がどこか痛快さを感じてくれてたね。セッティングをいつも飲み屋でやっているのと同じにしてるから「いつも通りのピストルだ」って。
アフロ:そこに対して「同業者が同業者に対して、勇気をもらってんじゃねえ」ってマインドは一切ないですか。
竹原:その考えはすげえなぁ。俺はない。
アフロ:それに俺はすごい腹が立っちゃったんですよ。周りのバンドマンが「ピストルさんに勇気をもらったよね」みたいな言葉を聞いて、「そんな顔で話せることじゃないだろ」って。悔しくて唇がなくなるくらい噛めよ、って。俺がそうだったから。
竹原:そっか。
アフロ:それを相手にもちろん言わないですけど。自分の歌を同業者が聴きに来て「僕も頑張ろうと思いました」って言われた時に、違うんじゃないかなと思ったんですよ。本当にすごいものを観た時は、走って帰るぐらいじゃないとダメなんじゃないかな、って。だから、最高の賛辞は帰り際に「音楽、辞めようと思いました」って言いながら帰ってもらうのが、俺の中での賛辞なんです。
竹原:なるほどな。分かるよ、すごく分かる。
アフロ:だから竹原ピストル祝福ムードに対して、「おめでとう」は言えなくて。
竹原:なるほどなぁ……。
アフロ:本当、常にピストルさんは俺の心に荒波を立てまくってる。情緒が良くないんですよ。
竹原:アハハハハ、勝手なこと言ってんなよ(笑)。
アフロ:次の目標はあるんですか? 年末に武道館でやるんですよね。
竹原:ぶっちゃけ、会場に執着がないんだよなぁ。もちろん、感慨深く思ったりはするけど。とにかく売れたいよね、一等賞をとりたい。
アフロ:……売れるって何ですか?
竹原:オリコンチャート1位になる。
アフロ:シンプルに結果を出す。
竹原:うん、そうだね。結果を出したい。
文=真貝聡 撮影=西槇太一
取材撮影協力=炭火焼 尋 (東京都目黒区上目黒3-14-5ティグリス中目黒II 3F)

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