『Living Room MUSICAL』第三回レポ
ート~パフォーマーとの一体感で伝わ
る「あなたの人生はあなたのもの」と
いう応援歌

日曜日の昼下がりのクラシックコンサート『サンデー・ブランチ・クラシック』をはじめ、食事やお酒を楽しみながらライブを堪能できる様々な企画を発信している、eplus Living Room CAFE&DINING。渋谷道玄坂にある渋谷プライム5階のエレベータを降りると、突如オシャレな邸宅のリビングのような空間が出現するこのカフェで、劇場を飛び出したミュージカルスターたちが集い、歌い踊るショーが開催され、好評を博している。題して「Living Room MUSICAL」。その第三回公演が、2018年6月25日(月)の昼夜2回公演として開催された。
【動画】『Living Room MUSICAL』第三回ダイジェスト
耳慣れた名曲たちを新たな演出、新たなアレンジで
今回のサブタイトルは「エンタ“店員”メントの多いレストラン」というウィットに溢れたもの。出演者たちが、リビングルームカフェのクルーとして、開演前に様々なメニューのフード&ドリンクを楽しんでいる客席のテーブル周りを行き来する光景は、すっかりこのシリーズの定番となっている。そんな中、ステージに登場したのが、本日の「店長」エリアンナである。
チャーター便のCA風に録音、写真撮影禁止、ただしカーテンコールには撮影タイム有り!等の注意事項が語られる。歌手として、またミュージカル俳優として活躍中のエリアンナの客席への語りかけは、ユーモアにあふれて楽しい。特に「食べたり飲んだりしながらミュージカルソングを心ゆくまで楽しんでいただきたい」とのことで「追加注文も自由にどうぞ。曲と曲の間の注文がおススメです」と茶目っ気たっぷりのトーク。
エリアンナ
開演。1曲目は往年の名作ミュージカル『アニーよ銃を取れ』から「ショーほど素敵な商売はない」だ。こうしたミュージカルソングライブの幕開けには打ってつけの、スタンダードナンバーである。客席からは早速手拍子が。本日のクルー、青野紗穂、星乃あんり、彩花まり、吉武大地、荒田至法、そしてスペシャルタップダンサーのRON✕II(ロンロン)が次々に紹介される。
そのまま寸劇風に「店長、今日は好きな歌をなんでも歌って良いんですよね!」「子供の歌でも?」「女の子の歌でも?」「誰も知らないような歌でも?」という質問に店長エリアンナがすべて「もちろん!」と答え、第1部は「ふだんなかなか歌う機会のない歌を中心に」とアナウンスされ、まずはミュージカル『アニー』の主題歌「Tomorrow」が披露される。
エリアンナ 青野紗穂
どんな境遇の中でも前向きな希望を失わない孤児アニーが、幸福な未来を勝ち得るまでの物語は、毎年「今年こそ私がアニーに!」と夢を描く少女たちのオーディション風景から、作品の完成までが日本のミュージカル界の風物詩ともなつている。だからもちろん「朝がくればいいことがある(中略)、明日は幸せ!」と高らかに歌われる主題歌「Tomorrow」は定番中の定番ソング。この日は全員がアニーのトレードマーク、赤いくるくる巻き毛のショートカットのカツラをかぶっての歌唱ながら、ちょっと大人のアレンジで届けられる楽曲が力強い。
そこからブロードウェイでの舞台ミュージカル版も開幕した『アナと雪の女王』がメドレーで。アナに扮した星乃あんりが「雪だるま作ろう」を歌う。宝塚雪組の娘役として活躍した星乃は、特にその愛らしさで注目を集めてきた人だけに、この楽曲にピッタリ。芝居歌として見せる歌に仕上げているのが星乃らしい。
星乃あんり
続いてエルサの彩花まりと「生まれてはじめて」。宝塚宙組で名歌手だけが得られる栄誉、フィナーレ冒頭を飾る「エトワール」も務めた彩花の歌唱力が光り『アナ雪』の世界観が広がる。宝塚を退団して1年未満の2人からは、華やかな雰囲気が醸し出されカフェを満たしてくれる。
彩花まり
そこへ吉武大地と荒田至法が登場。なんとアナとハンス王子の一目惚れの想いをちょっとコミカルに歌う「とびらを開けて」が男性2人のデュエットに! 冒頭の「女の子の歌でも?」という質問はこれの伏線だったのか!と思わせる展開に笑いが巻き起こる。
(左から)荒田至法 吉武大地
東京藝大、ミラノ音楽院で本格的にクラシックを学んだ後、歌手活動と同時に現在は舞台作品にも積極的に出演している吉武と、ミュージカルの舞台から現在はTHE CONVOY SHOWの若手メンバーとしても活躍している荒田の2人が、「これって開けてはいけない扉だったのでは?」と自己ツッコミ。オラフの着ぐるみを着た青野が「あなたたち、ちょっと頭を冷やしなさい!」と登場して差し出したのはパイン、クランベリー等で作られた本日限定ドリンク「あこがれの夏」。「今日、今しか飲めないドリンクですよ!」と宣伝だけでは終わらないのはもちろんで、青野が雪だるまなのに、いや、雪だるまだからこそ夏に憧れるオラフのナンバー「あこがれの夏」をチャーミングに歌う。
青野は客席のテーブルを歩きながら歌い、お客様の肩にもたれるとちゃんとお客様ももたれ返してくれるのが、このカフェライブならではのアットホームさを感じさせ、ほっこりした気分にさせられた。
青野紗穂
その青野が着ぐるみを脱ぎ捨てたのでお待ちかね「レット・イット・ゴー」か?と思いきや、忽ち曲が変化して『RENT』の「Take me or Leave Me」へ。「ありのままでいたいの、好きにさせて!」と歌い上げるナンバーは、ある意味「レット・イット・ゴー」と同じ思いが歌われているだけに、青野のダイナミックな歌唱に自然と聞きいることができる。エリアンナが加わり『RENT』出演者同士で歌われるモーリーンとジェニファーの掛け合いがパワフルに再現される。
エリアンナ 青野紗穂
そこから雰囲気がガラリと変わって『マイ・フェア・レディ』の名曲中の名曲「君住む街で」に。荒田が客席を練り歩きながら歌い、自然と手拍子がわき起こる。リフレインで星乃が登場。2人のデュエットダンスがなんとも綺麗でエレガントだ。
荒田至法 星乃あんり
インストルメンタルで「アイ・ガット・リズム」が奏でられる中、マジックの準備があり、ミュージカル好きなら知らない人とてない前奏が奏でられる中『オペラ座の怪人』の同名テーマ曲を吉武と彩花で。
吉武大地
彩花まり
この曲と並行してボックスの中に星乃が入り、エリアンナと青野が次々にボックスにナイフを刺していくマジックが。「オペラ座の怪人」のミステリアスな雰囲気と緊迫感に意外にもマジックがよく似合う。最後に無傷の星乃がボックスから飛び出して、マジック大成功に客席からも大きな拍手が贈られた。
音楽がリズミカルに変化してスゥングジャズの代表曲「Sing Sing Sing」へ。スペシャルタップダンサーのRON✕IIが見事なタップダンスを披露。リビングルームカフェのステージだからこのタップが見えずらい位置のテーブルもあるのだが、その配慮としてタップダンス動画が限定公開されるなど(現在は公開終了)、アフターフォローも行き届いている。
RON×II
そして第1部の最後はエリアンナのリードボーカルにRON✕IIも含めた全員が加わって、『メリー・ポピンズ』より「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」。大いに盛り上がって高揚した空気の中休憩となった。
憧れの曲に乗せた、自己肯定のメッセージ
あっという間の15分休憩のあとの第2部は「歌って&踊ってみたかった曲を中心に」とのことで幕開けは『CHICAGO』の「All That Jazz」。『CHICAGO』と言えばお約束の黒のピッタリした衣装で、青野がヴェルマのパート、彩花と荒田のコーラスで客席を練り歩く姿も実にセクシー。『CHICAGO』らしいスタイリッシュさが漂い、今回のライブでも1、2を争う必見場面となった。
荒田至法
続いて映画『ロミオとジュリエット』から「愛のテーマ」を吉武と星乃がイタリア語でデュエット。星乃の高音が綺麗に響き、吉武の歌も伸びやか。骨太な個性を感じさせる人だが、意外にこうした優しい表現がよくあって、美しい世界観が広がった。
吉武大地 星乃あんり
その柔らかい雰囲気の中に青野が登場。『Dream Girls』から「Love You I Do」を英語で。ミュージカル映画版の『Dream Girls』でアカデミー助演女優賞を受賞したジェニファー・ハドソンの熱唱だけでなく、来日公演も何度もあった作品だから、名だたる名唱の記憶が鮮やかな1曲だが、青野が客席に堂々と訴えかけてくる様にも実に力強いものがあり迫力のパフォーマンスになった。
青野紗穂
ガラリと空気が変わりミュージカル『ルドルフ』より「Something More」を荒田と彩花がデュエット。この曲のキーが彩花の声に最も合ったようで、実に美しい歌唱を披露。荒田と共にミュージカルの1場面を観ているような、表現豊かな場面だった。
彩花まり 荒田至法
その余韻が残る中、エリアンナが『TOP HAT』から「Cheek To Cheek」。ミュージカルナンバーを超えてスタンダードナンバー化している超有名曲だが、エリアンナのシャウトを交えながらのパワフルな歌唱が、全く新しい趣を広げて新鮮。そのまま『Puttin' On the RITZ』に引き継がれRON✕IIの鮮やかなタップダンスが『TOP HAT』の世界を堪能させてくれた。
そしてエリアンナが『The Color Purple』から「I'm Here」を。1900年初頭、奴隷制度解放から50年余りのアメリカ南部ジョージア州の黒人社会を舞台にしたブロードウェイミュージカルで、ヒロインが過酷な運命の中で「すべての困難は自分にとって必要なことだった、私は人を愛せる、私はここにいる!」と宣言するビッグナンバー。エリアンナの歌唱は切々とした前半から、クライマックスにかけての渾身の絶唱へと移り、そのパフォーマンスに会場がしんと静まり返ったあと、嵐のような拍手と歓声が響き渡った。
エリアンナ
その興奮冷めやらぬ中、ラストはこのシリーズ大定番『ラ・ラ・ランド』の「Another Day Of Sun」へ。メンバー紹介、バンドメンバー紹介と続き「ここは渋谷!」のポーズで決まって、『Living Room MUSICAL』シリーズが定着していくのが感じられた。
鳴りやまぬアンコールに応えてエリアンナ、青野を中心に全員のコーラスで『The Greatest Showman』から「This Is Me」。自己を肯定する、どこかに疎外感を抱いている人を勇気づけるビッグナンバーを、カフェのクルースタイルの全員が、空いた椅子にスッと座ったり、肩を組んだりしながら会場全体を巻き込んで歌う。至近距離だからこそより伝わる、誰もがその人の人生の主人公という応援歌が心にしみた。
こうして三回目を数えた『Living Room MUSICAL』は、普段はステージの上で輝いている俳優たちのパフォーマンスを至近距離から体感することによって、まず自分が自分自身を肯定してあげることの大切さを、ダイレクトに伝える場に育っていると感じる。もちろんまだまだ伸びしろの多い試みだからこそ、様々に試行錯誤を重ねながらeplus Living Room CAFE&DININGの呼び物のひとつになっていって欲しい。今回のステージは好評につき、一部メンバーを入れ替え、新曲も加わってのアンコール公演が8月6日(月)に急遽決定している。この猛暑を吹き飛ばすパワフルなステージに注目だ。
取材・文=橘涼香  写真撮影=上溝恭香

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