森山開次がへんてこりんな世界を子供
たちと表現 KAATキッズプログラム『
不思議の国のアリス』が全国17都市で
上演!

2017年夏にKAATキッズプログラムとして上演された『不思議の国のアリス』が戻ってくる! 森山開次が演出・振付・美術を手がけ、森山を含む6名のダンサーが踊り語る話題作が2018年7月20日~22日のKAAT神奈川芸術劇場公演を皮切りに全国17都市で上演される。ルイス・キャロルの原作を基に子供も大人も楽しめる舞台を創り上げた森山に創作秘話やツアーに賭ける思いを聞いた。
へんてこで不思議な世界に誘いたい
ーー『不思議の国のアリス』を題材にしようと思われたのはなぜですか?
KAAT神奈川芸術劇場の芸術監督・白井晃さんからKAATの第1回目のキッズプログラムにお声がけいただき「演劇的な要素をとりいれ、セリフのあるものに挑戦してほしい。原作のあるもので、『不思議の国のアリス』はどうだろうか?」というご提案をいただき、子供も大人もよく知っている題材なだけに躊躇もありましたが、アプローチしようと決めました。
ーー誰もが知る物語に取り組むにあたってポイントにされたのは何ですか?
『不思議の国のアリス』には、へんてこなもの、不思議なものがたくさん出てきます。そのへんてこさにどうアプローチするかがひとつのテーマでした。それから子供たちの目線や姿、表情まで見える距離感のなかで、まるで原作者のルイス・キャロルが子供たちに話し聞かせたように僕たちも踊り聞かせていくこともテーマでした。子供たちを僕たちと同じ空間に誘いたいと考えたんです。

2017年『不思議の国のアリス』 撮影:宮川舞子
ーーテキストを三浦直之さん(ロロ主宰・劇作家・演出家)が担当されています。

芝居的なアプローチもしていくなかで言葉をどのように創り、選んでいくかが課題でした。そこで才能のある劇作家の方にお手伝いいただこうと考えました。『不思議の国のアリス』には韻を踏んだりする言葉遊びがたくさん含まれています。三浦さんの書く言葉は空間に撒かれ、残り、遊んでいくようなのでぴったりだと思いお願いしました。
ーー森山さんは演出・振付のほか美術も手掛け、衣裳をひびのこづえさん、音楽を松本淳一さんが担当しています。彼らとのコラボレーションをどのように行いましたか?
最初は自分なりのへんてこりんな世界を思い描きスケッチをするなどしますが、その後プランナーに投げます。彼らから違った形で変化して返ってくるキャッチボールが楽しいですね。ひびのさんにしても僕が投げたものを膨らませ、具体的な形として提示してくれるので、そこのやり取りは刺激的です。でも同時に世界が決まってしまうことでもあるので、妄想してまだ何にもなっていない時の方が無限に発想をしている。新しい打ち返しがあって驚きや楽しみ、うれしさがある反面、決めていかなければいけないので葛藤もあります。
ーー家などを模したオブジェが印象的ですが、どのように作られたのですか?
稽古が終わって帰宅して家を一軒作るみたいな感じでした。ほぼ自分で作りましたが、ずっと工作ばかりしていられないので、演出部の皆さんに手伝ってもらいました。資材はダンボールなので湿気に弱く、収納ボックスに入れて保管していました。今回のツアー用に分解して折りたためるようにコツコツと作り直してもらっています。
森山開次
個性豊かなキャストで語るストーリーの妙
ーー出演者は森山さん含めて6名です。辻本知彦さん(元シルク・ド・ソレイユ)、島地保武さん(元ザ・フォーサイス・カンパニー)、下司尚実さん(泥棒対策ライト主宰)、引間文佳さん(元新体操日本代表、ユニバーシアード選手権準優勝)、新人のまりあさんと多彩です。
その場の空気感をパッと察知して自由に踊り表現できる人、振付をこなすだけでなく自ら発想でき強い存在感のある人を選びました。そして、それぞれの世界をしっかりと持った魅力的な彼らがどう泳ぐか、どう自由に存在できるかを考えて演出していきました。どこからどこまでが振りなのか分からないくらいに。それはルイス・キャロルがもともとこの物語を即興的に話をして聞かせていったことに通じるかもしれません。このキャロルが即興的に語り聞かせた感覚を大事にしています。踊り聞かせながら、お決まりでない状況を創りたかったんです。
ーー初演では演者同士の関わり合いの中から出てくる化学反応を感じました。
島地くんにしても辻本くんにしてもピンで踊れて表現できる人ですが、この6人が協力しあってアンサンブルを奏でるのが魅力です。
ーーアリス役に17歳の新人であるまりあさんを選ばれた理由をお聞かせください。
昨年実施したオーディションで多数の中から選びましたが、まりあを見た時に「そこにアリスがいる!」と感じました。アメリカ人の父と日本人の母のもとに生まれたことが強みだったことは事実です。彼女は日本語も英語も話しますが「まりあワード」というのがあって、日本語の面白さを微妙なバランスでより引き立ててくれます。天性のものですね。長野出身で幼少時代は山の中でおおらかに育ち、とても純粋で、きらきらしていて、童心を持っている。純真さ・素直さがアリスという役に合っています。今このタイミングで選ばれたという意味ではアリス・ガールなのかなと思います。これをきっかけに女優として羽ばたいていってほしいですね。ダンスもやり続け武器にしながら女優をやってもらえたら。
ーー去年の公演の印象はいかがでしたか?
子供たちも大人たちも同居して座って観ていて、その反応が楽しいですね。子供たちが騒ぎすぎてコノヤロー(笑)みたいな時もありましたが、そういうことも含めて面白かったです。僕たちは子供たちのまなざしをのぞき込むことができます。同時に彼らも同じように僕たちをのぞき込んで演技している汗や息遣いを感じているのだと思います。そんな彼らの表情を尊く感じました。

2017年『不思議の国のアリス』 撮影:宮川舞子
ーー森山さんは白ウサギ役です。昨年踊られていかがでしたか?

実は帽子屋をやりたかったんです。花形な感じがしていたので。でもクレイジーに徹することができないのがすぐに分かって……。今回の作品で辻本くんと再会し「こいつが帽子屋だ!」と感じましたね(笑)。客観的にみると自分には白ウサギが合っているのかなと。お客さんを導いていく役割で、僕は演出家でもあり自然にリンクできます。ずっと演じているというよりも世界の進行を傍観しながら時に導いていく。ルイス・キャロルでありながら白ウサギであるという感じで、ストーリーテラーでありたいと思いました。
17都市での上演に向けて
ーー今回新たに上演するに際して、どのようにブラッシュアップされますか?
大きな枠組みは変わりません。ただ、ディテールを見直す部分はあります。たとえば、この1年間でまりあの台詞回しの感覚は変化してきました。大人に対して説教をする場面がありますが、去年のままだと言葉の輪郭がはっきりしてきた分だけ説教臭くなってしまう。でも、まりあの天性の感覚からして、もう少し子供っぽい言葉、若者言葉で違う言葉が選べるんじゃないかと。その辺りをもう1回トライしていきます。
ーー7月半ばから約2か月間、全国17都市でのツアーとなります。
いろいろな場所へ行ける楽しみ、出会いの楽しみがあります。地域の拠点のひとつである劇場17か所で、皆が来て体験する空間を生み出せるのは有意義で楽しいことだと思います。出演者6人はそれぞれマイペースですが、ツアーを通して新たなチームワークを築いていきたいですね。今年の夏はアリスに捧げ、アリス一色で過ごします。
ーー全国各地で多くのお客様がご覧になります。メッセージをお願いします。
誰でも小さい頃は自分なりにへんてこりんな世界を持ち、膨らませていたと思います。僕はまだ童心を持っていて、そういう世界をダンスという媒体を通して引き継いで、さらに膨らませて出しています。子供たちには今持っているへんてこりんな世界をもっともっと膨らませて、どんどんどんどん成長してもらいたい。大人の方々に対しても同じ思いです。『不思議の国のアリス』は子供の夢物語のように描かれているけれど、大人の夢を描いて子供に聞かせたものだからです。あと僕たちは身体を使うという一番シンプルな表現をしているので、そこから豊かに想像していく力を感じていただければ。劇場を後にした時、外の風景がいつもより輝いていたり、風や空気を気持ちよく感じたり、ちょっと変わっていたりしたらうれしいです。
森山開次
取材・文・撮影=高橋森彦

アーティスト

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着