静岡県三島市で、夏の訪れに触れるア
ート巡り 「クレマチスの丘」「柿田
川湧水群」【SPICEコラム連載「アー
トぐらし」】vol.40 遠山昇司(映画
監督)

美術家やアーティスト、ライターなど、様々な視点からアートを切り取っていくSPICEコラム連載「アートぐらし」。毎回、“アートがすこし身近になる”ようなエッセイや豆知識などをお届けしていきます。

今回は、映画監督の遠山昇司さんが「静岡県三島市の『クレマチスの丘』と『柿田川湧水群』」について語ってくださっています。
東京では、ほおずき市や朝顔市が各所で開催されている。夏の訪れを感じさせてくれる風物詩。人は、特定の花や植物の成長のサイクルと風のように頬をかすめては去っていく季節の瞬間を楽しんできた。今回は、小さな「花」とダイナミックな「涼」を見つけに、静岡県は三島市へ向かうことにしよう。
庭園と美術館がある「クレマチスの丘」
東京から新幹線「こだま」に乗って1時間ほどで三島駅に到着。これから向かう「クレマチスの丘」は、4つのミュージアムとレストラン・ショップ、そしてクレマチスガーデンと呼ばれる美しい庭園によって構成されている複合文化施設だ。三島駅と「クレマチスの丘」間を運行している無料シャトルバスに乗ると、25分ほどでクレマチスの丘に到着する。丘へと向かうバスの車窓からは、駿河湾の全景が少しずつ見えてくる。
クレマチスの丘は大きくふたつのエリアに分かれている。
ひとつ目は、「ビュフェ・エリア」。フランスの画家・ベルナール・ビュフェ美術館のコレクションとしては、世界最大でもある「ベルナール・ビュフェ美術館」と、伊豆で幼少期を過ごしていた小説家・井上靖の直筆原稿や写真や資料などが展示されている「井上靖文学館」。
もうひとつのエリアは、「クレマチスガーデン・エリア」。現代イタリアを代表する彫刻家・ジュリアーノ・ヴァンジの作品が展示されている「ヴァンジ彫刻庭園美術館」、現代美術作家の杉本博司氏によって設計された「IZU PHOTO MUSEUM」では、写真の企画展を中心とした展示が行われている。そして、エリア内に「クレマチスガーデン」があり、四季折々さまざまな種類のクレマチスの花が咲いている。
今回は、「クレマチスガーデン・エリア」へ。ヴァンジ彫刻庭園美術館の入り口へ向かう途中の空間には、ジュリアーノ・ヴァンジの彫刻作品が設置されている。作品の背景に広がる空や緑、そして風や雨。野外彫刻と自然とが佇む空間。
なぜだろうか、彫刻作品には特に「静けさ」を感じる。この日は、ちょうど、小雨が降っていた。少し濡れている作品に触れ、その存在を肌で感じる。それは、私と作品とのとても静かな状態だった。
野外彫刻の作品群を抜けると、美術館の入り口が見えてきた。現在、ヴァンジ彫刻庭園美術館では、美術作家・須田悦弘氏による、クレマチスの花をモチーフとした彫刻作品の展覧会が開催されている。その名も『ミテクレマチス』展。
小さな驚きを見つける 『須田悦弘 ミテクレマチス』展
この写真の中には、ふたつのクレマチスの花(2輪)が写り込んでいる。おわかりいただけるだろうか?
まずひとつ目のクレマチスは、エレベーターの扉の左上部あたりに。
下から見上げてみると……。
まるで本物のクレマチスの花のように見えるが、こちらは、彫刻作品。朴の木から繊細に彫りおこし彩色されたクレマチスの花は、本物と見間違えてしまうほど、精巧に作られている。
そして、ふたつ目のクレマチスの花は、左奥の壁面にひっそりと展示されている。
意識的に探さなければ見つけることができないほど、ささやかな状態で咲いている(展示されている)。「見つけよう」という意識を持って探していなかったとしても、一輪の小さな花が目に入った瞬間、今、自分がいるこの場所の世界が一瞬で変わってしまうかのような優しい驚きに包まれる。まるで、たまたま、流れ星を見てしまった時のような鮮やかな驚きと喜び。
展覧会のタイトル『ミテクレマチス』は、ダジャレっぽい雰囲気もあるが、「見て(ミテ)!」という花からの小さな呼びかけを感じることができる。そして、本物の花と見間違ってしまいそうな彫刻作品としての花を見つめている時、「本物」と「偽物」、「リアル」と「フェイク」といった境界線について考えてしまう。つまり、それは花の「みてくれ(ミテクレ)」という「みかけ」のことでもあり、人は花の何に「美」を感じているのだろうかというとてもシンプルな問いを投げかけてくれている。
庭と水から感じる「涼」
美術館の外には、「クレマチスガーデン」が広がっている。そして、小高い丘の上には木製の椅子がふたつ。
この椅子に座って、先ほどまで見ていた作品のことを考えたり、小さな自然の変化を眺めていると時間を忘れてしまう。そして、眺めている風景の中には様々な種類のクレマチスの花(本物)が咲いている。
時間をかけてゆっくりと美術館と庭をめぐり、敷地内のレストランで食事をして1日を過ごすという贅沢な時間と体験こそが「クレマチスの丘」の魅力だが、今回は、三島市内でもうひとつ、素敵な場所をご紹介したい。
「クレマチスの丘」から三島駅に戻り、駅からバスで15分ほどの場所にある「柿田川湧水群」。暑い時期に訪れると、こんこんと湧き上がる水から「涼」を感じることができる。
柿田川は伊豆半島の付け根、静岡県駿東群清水町を流れる長良川・四万十川とともに日本三大清流に数えられている一級河川。富士山や箱根山などに降った雨や雪が地下水となり、富士山の噴火による三島溶岩流の最南端から湧き出ていることによって柿田川を生み出している。
全長は1.2kmと日本で最も短い一級河川なのだが、柿田川公園内には大小10ヶ所の「湧き間」と呼ばれる湧水の源が存在しており、1日に約100万tの水が絶えず湧き上がっている。
「湧き間」からコンコンと湧き上がる水は、まるで生き物のように見えてくる。そして、公園内を散策していると、川のせせらぎや息づく動植物たちの音が聞こえてくる。美しいオアシスが姿を現わす。
涼しい空気を感じながら、公園内の遊歩道を歩いていると、夏の強い日差しが木漏れ日へ変わっていく。「木の間」から生まれる光は、まるで「湧き間」から湧き上がる水のように変化し続けていて、踊っているかのようだ。アニメーションを見ているかのような錯覚が訪れた時、この木漏れ日は「本物」なのか? という錯覚と美しさが湧き上がってきた。

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