ACIDMANの6度目の武道館ワンマンに寄
せて

ACIDMANによる全国ツアー<ACIDMAN LIVE TOUR “Λ”>のファイナル公演が7月13日、東京・日本武道館で行なわれた。生きることは美しく、死は必ず訪れ、そして「大事なのは“愛”なんだってこと」と、大木伸夫(Vo&G)が泣きながら説いた本公演で感じたことをここに残したいと思う。

  ◆  ◆  ◆

ACIDMANのライブを観るのが怖かった。

悲しいわけでも辛いわけでもないのに、彼らのライブを観て涙が止まらなくなった経験があるからだ。当時は自分がなぜ泣いているのかがわからなくて、この感覚は“怖いもの”だと思っていた。

これまで死生観を歌ってきたACIDMANの最新作『Λ』は「ある種宗教的なアルバムになった」という。楽曲と楽曲の合間のMCで大木は自身の思想について改めて語る。

「目の前にいる人をひとりでも多く愛そう。あっという間の人生をなるべく楽しく過ごそう」

何事も前向きに考えることができたら、毎日が楽しいだろう。でも忙しく生きる日々のなかで、ついつい忘れがちになっていて、今日も電車で座れなかったとか、欲しいものが売り切れていたとか、小さなことでストレスをためていく。

「音楽は、目に見えないものを表現する可能性がまだまだある」と確信する大木は、自分たちの表現方法について、「難しいテーマを伝えることは難しくて、わかりやすいアプローチをすればもっといろんな人に届くと思うんだけど、このやり方が好きで、このやり方しか知らなくて」と話す。

ライブで受け取ることができるのは、音だけではない。大木、佐藤雅俊(B)、浦山一悟(Dr)の3人の演奏が映像や音響、照明、舞台セット、観客から生み出される空気と混じり合い、会場に充満する。ACIDMANのライブに集まる人々は、この、“音楽から発生した目に見えないもの”に魅了され、惹きつけられ、全国から足を運ぶのだと思う。そして、仕事や毎日の生活に追われてすっかり忘れてしまっていた“愛”について思い出す。

「しんどいときは僕らが支えます。僕らがしんどいときは支えてください」

大木の言葉はいつも優しい。身体に染み込むようにじんわりと響く。本編ラストに披露された「愛を両手に」は、4年前に亡くなった大木の祖母に向けて作られた曲だ。私も去年、最愛の祖母を亡くした。祖母の顔を思い浮かべながら、大木の歌声に耳をかたむけた。
「幸せだったかい? 幸せだったかい? 今でも 星の数ほど 覚えているよ あなたと生きた日々の全て」

「嗚呼 悲しみを洗うために 涙は流れるから 僕らは弱くてもいいんだよ」

武道館の片隅で、身体中の水分が全部出たのではないかと思うほど泣いた。あの日、“怖い”と感じた理由がわかった。ACIDMANのライブを観ると、“目に見えないもの”が、隠していた弱い部分を表面に引っ張り出してくる。その弱い部分と向き合うことが怖かったのだ。

最期の瞬間に、一緒にいることができなかったという負い目のような気持ちもあった。祖母にもう会えないということ、それを事実として受け止めることができないままでいた私は、「弱くてもいい」と言ってくれるACIDMANに救われた。もう怖くなかった。

原稿を書きながら、もう一度泣いた。またACIDMANのライブが観たい。

文◎高橋ひとみ(BARKS)
撮影◎AZUSA TAKADA

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7月13日金曜日、<ACIDMAN LIVE TOUR“Λ”>のファイナル公演が東京・日本武道館で開催された。生命と宇宙を歌うACIDMANの音楽は、武道館という精神性の高い場所において過去にいくつもの名演を生んできたが、今回もオープニングから名場面が続出する。

暗闇に一筋の光が射し、大木伸夫(Vo&&G)が端正なピアノとラウドなギターを使い分ける壮麗なスローチューン「白い文明」から、佐藤雅俊(B)と浦山一悟(Dr)が心弾むダンサブルなビートを叩き出す「ミレニアム」へ。アルバム『Λ』の世界観を再現する冒頭2曲で観客の心を鷲掴みにすると、強烈なストロボで目を眩ます「新世界」、ミラーボールが星の雨を降らせる「FREESTAR」と、ライブで人気の高いアッパーな曲を連ねて一気に加速。虹色のレーザービームが飛び交う「prana」は祝祭感たっぷりに、バンドはわずか数曲で満場の観客を完全にロックしてしまった。

「音楽にはエンターテインメントだけはない可能性があります。今日はその世界をみんなで作っていきましょう」(大木)

中盤には「イコール」「赤橙」と、ACIDMANクラシックスと言える名曲を配して徐々にスローダウン、ライブはじっくりと聴かせるセクションへと進んでゆく。ドリーミーなメロディと劇的なテンポチェンジが印象的な「水の夜に」は深く穏やかに、インストと歌ものを組み合わせた「彩-SAI-」(前編) 「彩-SAI-」(後編)はドラマチックに。3人だけの音とはとても思えない豊かな表現力に聴き惚れる。音が生き物のように呼吸をしている。
「宇宙の96%は未だ解明されていないダークマターとダークエネルギーでできている」と語り、わずか4%しか知らない人間の運命に思いをはせ、「生きることは愛おしい」と結ぶ。大木らしいスケールの大きなMCに続いたインスト曲「Λ-CDM」と「世界が終わる夜」は、中盤のハイライトと言える名演になった。自ら生み出したあまりにもエモーショナルな音と言葉に、歓喜の涙を止めることなく歌い続ける大木。『Λ』で3人が到達した、ラウド&エモーショナルでありながら深い優しさとぬくもりを持つ、至福の音がそこにあった。

浦山一悟のとことんゆるいMCで張り詰めた空気がふっと和むと、いよいよアルバム『Λ』の核心にあたる大曲を揃えたライブ後半が始まる。重厚なロックバラード「最後の星」から「MEMORIES」へと徐々にテンポを上げ、高速メロディックチューン「空白の鳥」をはさんで再びのラウドバラード「光に成るまで」。空気がビリビリ震えるほどの緊迫感の中、喉から血も出よとばかりに大木が叫ぶ。眩い光がステージと客席を飲み込んですべてが一つになる。

「辛いこともあるけど、こうやってみんなに救われています。6回もここに立たせてもらえるなんて、奇跡のようです」(大木)

ラスト曲はアルバム『Λ』と同じ「愛を両手に」だった。“Λ”をかたどった巨大なオブジェ型スクリーン、湧き出すスモーク、照明、すべてが輝くばかりの白。「愛を両手に」の最後の一節“真っ白に染まれ”を具現化した、壮絶なまでに美しいラストシーンだ。
アンコールはやらない予定だったけど「でも出てきちゃってます」と、照れる大木を大歓声が包み込む。時間がないので1曲だけと言って「ある証明」を歌い終えたものの、スタッフに頼み込むようにさらにもう1曲「Your Song」を全力で歌いきる。それはACIDMANを愛するすべてファンへの、感謝の言葉に代えたメッセージだった。

暗闇の中で孤独に生まれ、光の中で幸福に果てる。大木伸夫の死生観を刻み込んだ一遍の映画のような『Λ』の世界観を、完璧に表現しきった2時間半。この国のロックシーンでACIDMANがどれほどオリジナルな存在かを深く再認識した、素晴らしい夜だった。
取材・文◎宮本英夫
撮影◎AZUSA TAKADA(1, 3, 5, 6枚目)、TAKAHIRO TAKINAMI(2, 4枚目)

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