家入レオ 歌で描き、歌で魅せた全国
ツアー・東京国際フォーラム公演をレ
ポート

家入レオ 6th Live Tour 2018~TIME~

2018.7.1 東京国際フォーラムホールA
今年2月にリリースされた家入レオの5thアルバム『TIME』は、自作曲に加えて、シーンで活躍中のクリエイター達とコラボし、ある種客観的に“家入レオを歌で表現する”というチャレンジが投入された作品だった。そのチャレンジの結果は今さら言うまでもなく、より幅を広げより豊かになった歌唱表現、という形で1曲1曲に結実している。
そんな家入のキャリアにおいて重要な1枚となったアルバムを引っ提げての全国ツアー『LEO IEIRI 6th Live Tour 2018~TIME~』。ファイナルの東京国際フォーラムは、まさに“歌”を軸に、“新たなフェーズで一歩一歩前進している家入レオ”が全編から感じられる、見応え聴き応え十分のライブとなった。
会場に流れていたSEが止み、客電が落ちると、耳と目に飛び込んできたのは、薄い幕の後ろで「ずっと、ふたりで」をアカペラで歌う家入の歌声とシルエットだった。息をのみ、立ち尽くしたままじっと彼女の歌に聴き入るオーディエンス。ワンコーラス終わったところで薄い幕がスルスルと上がり、ステージの全貌が明らかに。中央に白いワンピースを着た家入、バックにはバンドのメンバーが。ちなみに今ツアーのバンドメンバーは、アルバム『TIME』で「アフターダーク」「祈りのメロディ」を作曲・編曲している須藤優(B)をバンマスに、名越由貴夫(Gt)、粂絢哉(Gt)、玉田豊夢(Dr)、宗本康兵(Key)、前田雄吾(Mani)の6人。そうそうたる布陣だ。「ずっと、ふたりで」をしっとり聴かせると、「東京ー! ファイナル! 楽しんでいきましょう!」と短く叫んで「春風」へ。あたたかく柔らかな歌声が、1曲目で広がった切ない空気感を明るいトーンに替えていく。歌いながら、あるいは間奏で、ファン1人1人とアイコンタクトを取るように客席を端から端まで見渡して「うんうん」と笑顔でうなづく家入。その嬉しそうな顔には「みんなのことが本当に大好き!」と書いてあった(ように見えた)。
家入レオ  撮影=田中聖太郎
「みなさん、こんばんはー! 家入レオです! 『6th Live Tour 2018 ~TIME~』にようこそ遊びに来てくれました! 今日はアルバム『TIME』からたくさん曲を届けたいと思うので、最後までよろしくお願いします!」
その言葉通り、今回はアルバム『TIME』の収録曲が全曲演奏されるという『TIME』中心のセットリスト。先にも書いたように『TIME』は歌の表現にこだわったアルバムでもある。加えて、このライブは派手な演出などが極力削ぎ落とされた潔い見せ方だった。つまり“歌で勝負”のライブで、結果、今まで以上に家入の多彩な歌唱表現が際立ち、オーディエンスはこの後も彼女の歌ヂカラにひたすら惹き込まれていくことになる。
「次の曲は大原櫻子ちゃん、藤原さくらちゃん、私の3人で歌っていた曲です」と紹介して歌われたのは「恋のはじまり」。ふんわりと澄んだ歌声が甘酸っぱい世界を描き出していく。中盤では「君がくれた夏」「太陽の女神」「Silly」といったシングル曲も。この3曲はそれぞれ趣が異なるが、“静”か“動”かと言えば“静”。いわゆる聴かせるタイプの曲である。が、家入は時に体を折り曲げながら、曲の芯部にある強い感情を絞り出すようにメロディに乗せていく。そのエモーショナルなことと言ったら! “静”イコール決して静かではなく、その根底には様々な感情が渦巻いていることを卓越した歌が伝えていて、会場は歌の熱量と感動でさらに温度を上げた。
家入レオ  撮影=田中聖太郎
ところでこの日、7月1日は、家入曰く「最上の吉日」なんだそう。
「何がめでたいかって、今日は1年に6回しかない天赦日という日で、それって日本の暦の上で最上の吉日とされているらしいんです。しかも、私が福岡から上京してきて8年目、ツアーやワンマンライブが本日で88本目、リリースしてきたスタジオ音源の合計が88曲になります。末広がりの“8”! だから今日はいろんな縁起のいいことが集まってる日なんです」。そんな話をした後、この日誕生日のお客さんにお菓子と「ハッピーバースデー」の歌をプレゼントするという場面も。そして会場が和んだところで再び歌に。「だってネコだから」ではサビでピョンと跳ぶしぐさが気まぐれなネコっぽくて可愛らしい。かと思えば、「ありきたりですが」ではすさんだ感情を噴き上がらせ、「TOKYO」では酸いも甘いも経験した女性のような迫力で歌う。曲ごとに人格も顔つきも雰囲気も年齢さえも変貌させる家入の歌唱マジック。それでいて、そのどれもが家入らしいと思わせる摩訶不思議。そのマジックにはこれまでも驚かされてきたが、アルバム『TIME』の制作を経た彼女の歌唱表現はさらに磨きがかかっていて、やはりこの日も驚き感嘆せずにはいられなかった。
本編ラストは「祈りのメロディ」。「今日、最初から今まで、私は“みんなに”とは思ってなくて、来てくれた“1人1人に”歌を届けようと思って歌ってました」と家入。もちろんこの「祈りのメロディ」も1人1人に、丁寧に想いを込めて届けられた。
家入レオ  撮影=田中聖太郎
アンコールではツアーTシャツに着替えて登場した彼女。今年5月に配信シングルとしてリリースされた「あおぞら」をじっくり聴かせた後、「今日はファイナルですね!?」と言って、こう続けた。「8月1日にリリースする“もし君を許せたら”を初披露しまーす!! これは7月9日にスタートするドラマ『絶対零度』の主題歌になっているんですが。人は正しさとか理想を持っているけど、弱いところもあるから、理想や正しさと闘っていかなきゃいけない。でも、その葛藤している姿こそ美しい、それが生きてるってことなんじゃないかなと思って。それを作詞家さん作曲家さんにお伝えして一緒に作り上げた曲です」。そうしてサプライズ初披露された「もし君を許せたら」は、悲しげなメロディと愁いを含んだ歌声が美しく、深い余韻が残った。
色とりどりの風船がオーディエンスの上に降り注がれハッピーな景色が広がった「パパの時計」を経て、ラストは「大事なものすべて」。この曲を歌う前に、家入は自分の想いをこんなふうに伝えた。
「アルバム『TIME』はすごくバラエティに富んだ作品で、感情の喜怒哀楽を歌で表現できるから、今回のツアーではMCをしないでおこうかなと思ったんです。でもカッコ良くステージに出てカッコ良く去っていくっていうのはカッコイイと思うし、そこでしか感情の揺さぶりを見せないアーティストさんは尊敬でしかないんですけど、自分でやってみた時に“あ、これは自分のやり方じゃない”と思って。だから毎回試行錯誤というか、すごく考えたツアーでした。だからこそ、みんなの思いを受け取って今日もこんなに楽しくライブが出来たんじゃないかなと思います」
家入レオ  撮影=田中聖太郎
昨年はデビュー5周年の日本武道館公演も大成功させ、現在7年目を突き進んでいる家入。そのキャリアはキャリアとして、常に前だけを見て、挑戦し、試行錯誤もする。この姿勢があるからこそ、彼女は進化し続け、アップデートされ続け、観るたび聴くたび凛とした瑞々しさがあり新鮮なのだろう。
未来への約束を交わすように「大事なものすべて」を会場と一体になって歌い上げると、家入はバンドメンバーと手をつなぎ、深々とお辞儀。その後も何度も感謝の言葉を伝え、ステージを後にした。歌で描き、歌で魅せた、渾身のライブ。感動と賛辞の拍手は鳴り止まなかった。

文=赤木まみ 撮影=田中聖太郎

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