SUPER BEAVERロングインタビュー 武
道館を経てリリースした決定盤たる新
譜、変わったことと変わらないこと

いまこの瞬間の生き方が、誰にとっても等しく明日の歓声のための“前夜”である――そんなタイトルを冠したSUPER BEAVERのニューアルバム『歓声前夜』が完成した。自らを“メジャー落ちバンド”と呼び、インディーズでゼロからやり直すと決めてから5年。ライブハウスを大切にしながら一歩ずつ進み続け、ついに今年4月に結成14年にして日本武道館でのワンマンまで成功させたビーバーだからこその歌が、今作には詰まっている。

前作ミニアルバム『真ん中のこと』を経て、より幅広くなったサウンドアプローチ、より磨き抜かれた歌詞など、これまでビーバーが掲げ続けてきた「後世に残るポップミュージックを奏でたい」という根源的な願いにも、大きく近づいた1枚だ。
メンバー曰く、小学生でもわかる歌。だからこそ、以下のインタビューでは、曲について解説してもらうようなことはしなかった。とにかく聴いてほしい。そのうえで、メンバーが語る言葉から、このアルバムに刻まれたバンドの信念や誇りが伝わればと思う。
――4月30日の日本武道館ワンマン。素晴らしかったです。藤原くんとか、出てきた瞬間から感極まって泣きそうに見えましたけど。
藤原“30才”広明(Dr):泣きそうでした?
上杉研太(Ba):そう見えるんじゃない?
藤原:たぶん緊張してたんですよね。あの日は直前にガッと緊張がきたので、その顔だったんですよ(笑)。そんなのは初めてだったんですけど。そのあとは、いつもどおりのライブができたので、ちゃんと楽しめたと思います。
上杉:あの日は、普通にやれば絶対に良いライブになると思ってたので、多少は緊張してしまうけど、変に考えすぎないようにしてました。結果、ちゃんといま自分たちが持っている力を見せられるステージになったような気がしますね。必死すぎるのでもなく、ちゃんとSUPER BEAVERらしい武道館にはなったかなあと。いつも以上にいつもどおりでしたね。
――ビーバーって、初のリキッドでも、初のゼップでも、初の野音でも、毎回いつもどおりなんですよ。場所によって、やるべきことが左右されない。
柳沢亮太(Gt):実際、もっと武道館は集大成感が出るのかなと思ったんですけどね。ひとつの到達点であるっていうことは噛み締めながら、変な付加価値をつけなかったんです。
――途中でドキュメンタリー映像を挟むとか、そういうことをやらずに、あの日の渋谷くんの言葉、演奏する楽曲の意味から、これまで歩いてきた道のりを感じられるライブでした。
柳沢:そうですね。歩んできた道のりにしても、それほど強調したつもりはないですからね。ただ、その前に10周年のライブDVDを出したりとか、渋谷が小説を書いたりとか。この道のりに少しずつ触れてもらうことで、より武道館が面白いものになるっていうことは、ところどころで提示してきたつもりではあるんです。そういうのを少なからずキャッチしてくれて、みんなで迎えられた武道館だったと思いますね。
渋谷龍太(Vo):すごくドライな言い方をすると、このバンドの14年っていう歴史を全部知ってるのは、僕らしかいないんですよね。それを、あまりにも(武道館に)持ち込みすぎちゃうと、ひとりよがりになるから。自分たちで描ける細かいことは多いけど、具体的なところじゃなく、もっと根っこの深い部分で対峙しないといけないなと思ったんですよね。
――根っこの深い部分?
渋谷:実は(ステージに)出ていく直前まで、僕は自分のなかで武道館への落としどころがわかってない状態だったんです。いろいろな方に連れてきてもらったっていう感覚が強くて。周りのスタッフだったり、観にきてくださる方だったりに。だけど、それが「その人たちに連れてこられて良かった」っていう感覚に落ち着いた時に、何かが見えた気がして。なんて言うんですかね……関係性がイーブンになったというか。(武道館は)「恩返しライブ」とも違うし、「感謝しろライブ」でもないじゃないですか、絶対。
――そうですね。
渋谷:だからちゃんと観にきてくれる人とイーブンの関係であるためには、やっぱり楽しんでもらうことが大事だなっていうふうに思ったんです。具体的な自分たちのことよりも、その日が最高の1日になって、それぞれの感情に寄り添えるようにすればいいと思った瞬間に、ストンと落ち着いたっていうか。妙に冷静に、自分がやるべきことが見えた。それが本当にライブの1時間ぐらい前だったから。ギリギリセーフっていう感じでしたね(笑)。
――武道館の直前には、渋谷くん、入院したじゃないですか。
渋谷:あ、ありましたねえ。
――本当にハラハラさせるバンドですよね。
全員:あはははは!
柳沢:たしかにハラハラさせてばっかりだな。
上杉:2回ありましたからね、ギターが倒れ、ボーカルも倒れ(笑)。
――いまだから、笑い話にもできるけど、どうなるかと思いました。武道館に対する緊張とか、曲作りにストレスを感じてたんですか?
渋谷:全くないですね。音楽に対してストレスを感じたことなんて、ここ何年もないので。その日も大阪でライブをして、朝から「お腹が痛いな」とは思ってたけど、打ち上げに出たかったから、(ライブが)終わってすぐに病院に行かせてもらって。レントゲンをとったら、「即入院」って言われたんですよ。お医者さんに「最低でも1週間」って言われて。
――ちょうど1ヵ月後が武道館で。
上杉:そうなんですよ。
柳沢:ぶーやんの痛がり方が、大人の痛がり方じゃなかったよね。「イテテテテ……!!」みたいな。「え、そんなに痛かったの!?」って思ってたけど。
渋谷:まあ、でも蓋を開けてみたら、点滴と3日間の絶飲食だけで治ったんです。
――不幸中の幸いでしたね。
渋谷:入院してるときにSNSを見てたら、最初は心配してくれる声が多かったんですけど、最後のほうになってきたら、「武道館公演ってやるんですか?」みたいな感じになってきてて。「いや、やるけど……(笑)」と思ってましたね。
SUPER BEAVER 撮影=西槇太一
■僕ら4人は漠然とした何かを掴むのに躍起になってただけ(柳沢)
――そんな紆余曲折もありつつの武道館を経て、フルアルバムとしては3年ぶりの『歓声前夜』です。全くブレないですよね。全編が、この時代を一緒に生きる“あなた”への歌っていうところが。なかでも「嬉しい涙」が本当に素晴らしかったです。
柳沢:「嬉しい涙」は、ちょうど武道館を発表したツアーファイナルの日に思ったことを書いたんですよね。鮮明に覚えてるのが、1軒目の打ち上げを終えて、2軒目に行こうかって言ってるときに、たまたまぶーやんと一緒に歩いてて。「こういうことって純粋に嬉しいよね」っていう話をしてたんですよ。もともと僕ら4人は、漠然とした何かを掴むのに躍起になってただけなんですよね。そういうところから、ひとり、またひとりと仲間が増えて、武道館っていうものを発表したときに、僕らと同じような熱量でワッと喜んでくれる人がいる。それが純粋に嬉しかったから。
――歌詞は本当にそのまんまですね。
柳沢:そう。そういうことが、いまのSUPER BEAVERにとって、いちばんのモチベーションになるよねっていう話を、ぶーやんとしてたんです。あとで話したら、他のメンバーも同じようなことを思ってて。あの瞬間のワーッていう喜びを、SUPER BEAVERっていうバンドで、もっともっと作り出していきたいと思って書いた曲ですね。
――今回のアルバムの曲って、いままでよりも“あなた”の存在が大きい感じがするんですよ。「嬉しい涙」もだし、「なかま」「ラヴソング」もそうだし、最後に締めくくる「全部」では、“あなたがいるという醍醐味を生きがいと言うのだろう”って歌ってるし。
柳沢:うん、そうかもしれないですね。それも、いままでずっと歌い続けてきたことのうちの最先端がそれっていうだけで。ずっと地続きではありますよね。
――サウンド的には、幅広い作品になったと思います。前回のミニアルバム『真ん中のこと』で、グルーヴを強化したチャレンジの延長線上にあるというか。
上杉:『真ん中のこと』でリズムをしっかり考えたことで、ライブでやりたいことも増えたし、アルバムでは曲同士のバランスも考えて作れたんですよね。
――「シンプリー」のロックンロールな感じとかね。あれは、完全に『真ん中のこと』を経ている感じがしました。
上杉:ああ、あれは絶対にそうだと思う。それも無理矢理レパートリーを増やして、自分たちの軸からズレることをやってるつもりはなくて。ちゃんと、その曲に合ったかたちで、それぞれに違う表情を出せたんじゃないかなと思いますね。
柳沢:「シンプリー」のリフって、『真ん中のこと』のツアーのリハでジャムってるときに、ふっとできたんですよね。そういうのが基盤だから、けっこうナチュラルなところから、どんどん曲が出てきたっていうのは、いい反応がバンド内で生まれたからだと思います。
藤原:前回の『真ん中のこと』では、今までビーバーでやらなかったこともチャレンジしたんですけど、今回は、自分がかっこいいと思うものと、新しいもの、ビーバーらしいもの全部合わせて、バランスのいいものになったらいいなと思ってて。その、曲全体のバランスとか曲数は、ある意味、ヤナギと渋谷が管理してくれてるんです。
渋谷:たしかにバランス感覚っていう話はしましたね。全体にヘヴィになりすぎないように。それは「軽い」っていう意味じゃなくて、1曲1曲でウェイトを置く場所を変えることで、しっかり1枚のアルバムとして、聴けるものを作りたいと思ってたので。
――要するに、曲ごとのキャラクターですよね。「虹」とか「閃光」みたいな言葉が強くてエモい曲もあれば、もっとラフに聞ける「まちがえた」みたいな曲もある。
上杉:そういう振り幅を出すのも、ちゃんと全部聴いてほしいからなんですよね。この曲を聴かせるために別の曲があって、でも、別の曲を聴かせたいから、この曲があるっていうような、相互作用みたいなものを作りたいなっていうのは思ったので。
渋谷:僕自身は、最初は9曲ぐらいのアルバムにしたいっていう話はしていたんですよ。1枚をとおして何度も聴けるものにしたかったから。でも良い曲がたくさんできたから、(9曲より多く入れるのも)可能かなと思って。そしたら、けっこうなボリュームになっちゃいましたね。(笑)。
SUPER BEAVER 撮影=西槇太一
■ポップになればなるほど、それを貫いている姿勢がロックになってる(上杉)
――このアルバムができたことで、ひとつ聞きたいのが、ビーバーってライブで、「レペゼン、ジャパニーズポップミュージック」って自己紹介するじゃないですか。
渋谷:はい。
――今回のアルバムを聴いたことで、その意味が腑に落ちたんですよね。要するに、ああ、こういう普遍的なポップミュージックを、ビーバーは鳴らしたかったのかって。
渋谷:いま、そういう感想をもらえるのは、やっぱり僕らの規模感と、やりたいことが、全てリンクしてきたからだと思いますね。このアルバムでも露骨に出てますけど、共有できるっていうことが、僕らにとってはすごく素敵なことなんです。あえてポピュラリティーに寄せるというよりも、聴く人が自然に想いを馳せることができるものこそが、自分たちが本当にやりたい音楽だから。サウンドアプローチとか、バンドのスタンスとか、個人の思考を越えた部分での「ポップミュージック」っていうものが素敵なところかなと思っていて。
――ポップミュージックって、みんなに聴いてもらうことが役割ですからね。
渋谷:そう。昔から、その感覚はあったけど、今みたいに大きな規模でライブをやらせてもらえるようになると、「あ、間違ってなかったな」って思えるんですよね。
柳沢:だから、今作はすごく間口を広げられた作品でもあるけど、逆に言うと、100人のライブハウスでやっても、ビシッと決まるアルバムにもなってると思うし。そういうことをやり続けられるのが、SUPER BEAVERの一番の武器になってきてるとは思います。
――個人的には今作は紛れもなくロックアルバムだと思ってる上で、あえて聞きますけど。自分たちでは、ロックアルバム、ポップアルバム、どちらの呼び方がしっくりきますか?
柳沢:うわ、難しい……でも、やっぱりロックアルバムかなあ。
上杉:僕らはポップであることが、ロックにもなってる気がするんですよね。いま世の中にいろいろな音楽がありますけど、たとえば、「なかま」とか……下手したら、成長の早い小学生でも伝わる歌詞じゃないですか。
柳沢:そうだね(笑)。
上杉:それを14年間も続けてるバンドが自信を持ってやることに、むしろエグみと毒すら感じるから。ポップになればなるほど、それを貫いている姿勢がロックになってる。入り口はポップでいいんですよ。でも、見る人が見たら、お前らの思想はパンクだよとか、やってることはロックじゃんって感じてくれたらいい。それがいまのビーバーに本質につながってる感じがしますね。
SUPER BEAVER 撮影=西槇太一
柳沢:どうでもいいけど、「なかま」ってタイトルもかなりヤバいよね。俺ら、ちょっと麻痺してるけどさ、客観的に見て、「なかま」ってすごいよね。
上杉:ヤバいよ。
渋谷:ひらがなだしね。
柳沢:オリジナル曲を始めたときに、一番最初に作りそうな曲名(笑)。
渋谷:たしかに対象年齢は下がってきてるかもしれないですね……あ、違うな。正確に言うと、対象年齢の下限が下がってきてると思うんですよね。と同時に、上の部分も広がってるから、全体の対象的年齢は広がってるんですけど。
柳沢:圧倒的絵本、みたい感じかなあ。
上杉:それ、いいね(笑)。
――本当に絵本級に、言葉がシンプルなんですよね、今回。
柳沢:もっと説明文があってもいいのかもしれないんですけど。今回は、ひとつの言葉を誤解なく伝えるために補おうとする部分とか、日常と言葉のあいだに挟まってるフィルターをできるだけ抜いたような感じがするんですよね。ただ、幸せになりたいとか、素直に嬉しいことを求めていんじゃないか、とか。そういうことを書きたくて。
渋谷:たしか、その話、柳沢としたんですよ。柳沢は話が長いので、ともすると、焦点がボヤけるんです。もちろん言いたいことはわかるんですけど。自分たちが発信したいことを落とし込むために、説明よりも核心の部分を増やしたいって言いましたね。それで、歌詞にリフレインも増えたんですよ。
――「まちがえた」とか「閃光」でも繰り返しが多い。
渋谷:そう。サビのリフレインって、いままでの曲では、ほとんどなかったので。
柳沢:むしろ1番と2番と3番で――
渋谷:全部違う。歌詞が複雑だから、ライブで間違えて歌ってる子がすごく多いんです。
――へえ! よく見てますね。
渋谷:1番を歌ったあと、2番歌えるのかな?と思って口元を見たら、全然違うことを歌ってる。こっちも違う、あっちも違う(笑)。大体の子が間違ってる。だから、「あ、覚えられないんだ」と思って。これがリフレインなら一発で覚えられるじゃないですか。
柳沢:そうやって言われたときに、ちゃんとトライしようと思えたのも、渋谷のフロントマンとしてのパワーが大きくなったのがデカいんですよね。説明なしで、シンプルなことを簡潔に言ったとしても、渋谷が言うだけで説得力が増すから。
――渋谷くんっていうフロントマンの存在が言葉を補ってくれるんですね。
柳沢:そう、そうなんです。
SUPER BEAVER 撮影=西槇太一
■「俺ら、ちゃんとやってきたんだな」と思います(藤原)
――今回のアルバムには、「シアワセ」っていう、メジャー時代の曲が、改めて再録さましたね。4年前に[NOiD]に移籍して、インディーズでやっていくんだっていう時のインタビューでは、メジャー時代のことを、何て言うか……あんまり良くは言ってなくて。
上杉:まあ、まだ傷が癒えてない時期ですからね(笑)。
――その頃の曲はライブでもやってないじゃないですか。でも、「当時もちゃんと良い曲もあったよね、ブレてないよね」って、いま言えたことが大きいなと思って。
上杉:そうですね。
渋谷:その意味は、わりと後から湧いてきた気がしてて。coldrainとライブをするたびに「「シアワセ」をやらないの?」って言われてたんですよ。ずっと「やらないですよ」って答えてたんですけど、ツーマンをしたときに、また「シアワセを聞きたい」って言うから、じゃあ、久しぶりにやってみるかってなって。やったら、すごく良かった。
上杉:4人ともクソ良い曲だなあ、みたいになったよね(笑)。
渋谷:で、いろいろなことを掘り返したときに、この曲は筋が通ってるから、いまの自分たちが歌うことによって、より膨らむ曲だなと思ったんです。
藤原:その当時、いろいろなことがあったけど、いま最新曲と並べても馴染んでるのがいいんですよね。「俺ら、ちゃんとやってきたんだな」と思います。
――「シアワセ」から「美しい日」への流れがいいんですよね。どちらも“幸せ”がテーマで、ちょっとずつ言ってることが違うけど、どちらも正解で、ブレてなくて。
柳沢:そうですね。ちゃんと過去を認められることで、かなり自信にはなりましたよね。出してすぐに消化されるわけじゃなく。10年経って、いまなお届けられる曲であるっていうのは、さっき言った「ポップミュージックである」っていうことにもつながるから。まだ10年ですけど。残る曲は残る。それを証明してくれた曲でもあるんです。
――「シアワセ」以外の曲は、やっぱり歌えない?
渋谷:「歌えない」と言うよりは、そうですね……うん、「シアワセ」がしっくりくる。いちばんピュアな曲なんですよね、その当時の。
上杉:純度が高いし。
柳沢:自分たちを守りきれた曲だよね。
渋谷:「シアワセ」とか「日常サイクル」っていう曲だけは、何も手をつけられずにリリースできたから。いまでも歌えるけど。他は、どう気持ちを込めたらいいのかわからない曲が、やっぱり多いので……うん。
――そうなんですね。じゃあ、最後にストリングスとピアノで歌う「ひとこと」について聞かせてください。ストリングスアレンジの曲は、「人として」もあったけど、ここまで大胆なアレンジは初めてじゃないかなと。
上杉:「人として」と全く同じことはやりたくなかったんです。あと、今回のアルバムで、武道館以降の会場が見えるようにしたいっていうのがあったから。ビートルズとかオアシスとか、そういう大きな世界観の曲にしたいなと思ったんです。
柳沢:で、(上杉は)「俺はベースを弾かなくていいから」って言いだして。
――前半は歌とピアノだけで、最後にバンドが加わるっていう曲で。
上杉:そう、ずっとヤナギのギターと渋谷の歌だけっていうデモを聴いてて、「これでいいじゃん」と思ったんですよ。だから、「どうやったら(ベースが)いなくて成立するんだろう?」っていうことを考えて。上杉、この曲ではいろいろ言いました(笑)。
渋谷:はははは、そうだね。
柳沢:逆だったら、わかるんですけどね。「いや、バンドとして、俺はいたほうがいいと思う!」っていう主張だったら、わかるんですけど。
上杉:弾かないプレゼンをがんばるっていう(笑)。結果、新しいことができましたね。
――それでもSUPER BEAVERであるっていうことは揺るがないというか。そういう自信があったからこそできた曲でしょうね。
柳沢:そこは、いままで恐れてたところなんですよね。「これ、やっても大丈夫?」って。でも今回は遠慮なく行けたのが大きいかなって思います。結局ハモも入れないし。
上杉:ヤナギはエレキも弾いてないんじゃないの?
柳沢:アコギしか弾いてない。ただ、単純に、この歌声で、この言葉をどう届けるか、みたいなところで勝負した曲だと思います。
――渋谷くんはどうでした? ピアノとストリングスだけで歌うのは違います?
渋谷:全然違わない。
――渋谷くんらしい。
渋谷:僕は、演奏と歌って違う場所にいるものだと思ってるんですよね。後ろに鳴ってる音がどうでもあっても、僕のあり方はそんなに変わらなくて。でも、やっぱり後半でバンドが入ってくるとSUPER BEAVERになる、そこに対する安心感はあるし。ある種、絶対に混じり合わない音なのに、最終的にSUPER BEAVERとして着地できたのが、14年やってるバンドの面白いところだなと思いましたね。不思議な曲です。
SUPER BEAVER 撮影=西槇太一
■「俺たちは貫いてるぞ、どうだ!」って(渋谷)
――今回のアルバムを聴いて、改めてビーバーは、いまの時代に必要なバンドだなと思いました。愚直で、嘘がなくて、心の底から信頼できるから。
柳沢:嬉しいなあ。
渋谷:本当はこれがありふれた形だったと思うんですけどね。こういう時代だからこそ、愚直に、ともすれば、バカみたいに生きるっていうのが、逆にニッチで稀有な部分になってるから。それしかできない俺たちが、珍しがられるのが面白いなと思うんです。
――自分たちがニッチである自覚はあるんですね。
渋谷:そりゃあそうですよ(笑)。オーバーグラウンドのシーンを見てても、「ふーん」ってなることが多い。正直……これは記事にできないかもしれないけど、「みんな何が楽しくて聴いてるの?」とか思ってるところはあるんです。音楽を、そんな使い捨てみたいな聴き方したらダメだよ、何年後でも聴けてなくちゃダメだよって。
柳沢:本当にそう。
渋谷:一過性のムーブメントで、次はこんなん出てきたから、こっちに行くとかじゃなく。僕らは、ちゃんと聴いてくれる人たちの大事なところにいたいんです。
――そのためには、自分たちがブレちゃいけないんですよね。
渋谷:そう、だから僕らは絶対にムーブメントになれないんですよ。
藤原:そうだねえ(笑)。
渋谷:14年間やってきたなかで、俺たちが流行ったことって一度もないし。
柳沢:あはははは!
上杉:でも、バンドの活動は右肩上がりで、ちょっとずつ上がってるんです。
渋谷:ムーブメントになれないし、流行らないけど、でも、いまはたくさんの人が「SUPER BEAVERが好きだ」って思ってくれてることが嬉しいんです。
柳沢:本当だよね。
渋谷:それが、自分たちがいたい部分に、ちゃんといられてる証拠というか。いまになってみれば、ほらみろ感はありますよ(笑)。「俺たちは貫いてるぞ、どうだ!」っていう。
――この先、ムーブメントになりたいと思います?
渋谷:ちっとも興味がない。
柳沢:っていうか、俺らが自覚することじゃないですね。
上杉:このままでいて、もしムーブメントになれたら受け入れてっていう感じですね。
――そっか。でも見たいですよ。
柳沢:僕らが流行ってる姿を、ですか?
――そう。
柳沢:あはははは!
――冗談で言ってないよ。だって、誰もが理解できて、みんなで歌えるものなんだから。
渋谷:うん、そうですよね。俺たちを中心にした円があったとして、その円に影響を受けて勃発する新しいムーブメントの波紋が起きて、それを俺らが全部呑み込んで大きなムーブメントになる時代っていうのは、くるかもしれないから……(笑)。
――言いながら、半笑いだけど(笑)。
上杉:それはもう俺らが「誰? このおじさんたち?」みたいになったときにね。
柳沢:たぶん僕らが進んでる道っていうのは、(新しいバンドは)すぐに追っては来れないと思うんですよ。相当しんどかったから。
渋谷:そうだね。年月がモノを言わせてるって、あんまりかっこよくないと思うんですけど、いまは年月を武器にできるようになってきたかなと思ってるので。たぶん僕らのやってることって、パっと出てきて、パっと真似できるものじゃないんですよね。

取材・文=秦理絵 撮影=西槇太一
SUPER BEAVER 撮影=西槇太一

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