チャットモンチー「完結」。最後にし
て最高の「わたし」と「あなた」の物
語。

チャットモンチーがこの夏「完結」。時
が経っても、編成が変わっても、変わら
ない魅力とは?

2018年7月をもって、活動を「完結」するチャットモンチー。彼女たちが現在のロックシーンにもたらした影響は計り知れません。2000年の結成から18年。集大成であるラストアルバム「誕生」を発売し、武道館公演を経て、残すは徳島で行われるフェス”チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2018 ~みな、おいでなしてよ!~”での活動のみ。

この18年間、進化をし続けてきた彼女たち。2011年にバンドメンバーの脱退を経て、ふたりだけでの活動やサポートメンバーを加えての活動など、多くの「変化」を遂げてきました。

最後の最後まで進化した姿 ラストアル
バム『誕生』は全編打ち込みで構成

誕生【初回生産限定盤】

ラストアルバム『誕生』は全編打ち込みで構成され、一聴するとこれまでのバンド編成からの変化がわかります。
ところが、本作を聴いて不思議だったのは、打ち込みになってもチャットモンチーの魅力は変わらず、むしろはじめて「シャングリラ」を聴いたときの初期衝動が、衝撃が、感動が再び戻ってきたような感覚に包まれたことです。

それはなぜか。チャットモンチーが本作で「完結」すること、最後だと明確にわかった上で聴いているからということもありますが、そう感じたのは、「チャットモンチーが、チャットモンチーたりえる要素」がひときわ強く込められているからではないかと思いました。

その要素とは? ずばり「歌詞」です。 チャットモンチーの歌詞には、ある一貫性があるのです。

チャットモンチーは「わたし」と「あな
た」の物語を奏でている

チャットモンチー 『たったさっきから3000年までの話』

18年間活動を続けてきたチャットモンチー。これまでにリリースされた115曲の歌詞をすべて分析した方(はてなブログ「ヌーノ・別天地構想」)によると、最も多く出てくるフレーズは「私」と「あなた」なのだそうです。

1位と2位は「私」と「あなた」で、199回と196回です。 名詞だと「目」「人」「手」「今」「君」などが上位にランクインしています。 「空」「夜」「風」「世界」などの言葉もおしゃれですね。 「好き」「愛す」「恋」などの言葉も多く登場していて、 甘酸っぱいチャットモンチーらしさも感じられます。 ーはてなブログ「ヌーノ・別天地構想」

これは単なるデータに過ぎませんが、「わたし」「あなた」「君」が歌詞のなかにひときわ多く用いられているのは事実。
例えば「染まるよ」の名リリック「あなたの好きな煙草 わたしより好きな煙草」
「恋愛スピリッツ」に至っては歌詞のほとんどが「あの人」「あなた」「私」で構成されていると言ってもよいほどです。

そして今回のアルバムのリード曲「たったさっきから3000年までの話」(作詞:橋本絵莉子)でも同じく「あの人」「あなた」「私」が登場します。

あなたがかなりおじいさんになる頃 どんな日本なのでしょう ドラえもんのお気に入りの道具が ダイソーに並んでたりするでしょうか 私がかなりおばあさんになる頃 どんな気持ちなんだろう クールなあの人の隣で ボケたボケてないと騒いでるかな ー「たったさっきから3000年までの話」

本人が明言しているわけではないですが、子供を産み、母になった橋本さんのまなざしがここには込められているように思います。「あなた」は息子で、「私」は私。「あの人」は、かつて「あなた」だった人。「あなた」が指し示す言葉は変わっても、一貫して、誰かのことをおもってつくられた歌、ということに変わりはありません。

歌詞で起こる、バンドマジック。高橋久
美子 作詞『砂鉄』に込められたものと
は?

メンバー全員が優れた作詞家である、というのはチャットモンチーを語る上で欠かせない奇跡のひとつなのですが、本作においてひときわ存在感を放っているのが、6曲目に収録されている『砂鉄』。元メンバーである高橋久美子が作詞を担当している楽曲です。

この楽曲を作るにあたって、公式インタビュー(インタビュー:本間夕子)では、脱退後の関係性について語られています。

——立ち入った話になりますが、脱退からそれまでに久美子さんとの交流はあったんでしょうか。 橋本:“誕生日おめでとう”とか、息子が生まれたときに会いにきてくれたりとかはありましたけど、私の意識的にはあまり寄り過ぎないようにしようとしてたかもしれない。そうじゃないと突っ走れない気がしたんですよね。くみこんなしでやっていくためには、振り返っていたらダメだって気持ちもあったし、もちろん寂しさもあって……チャットにいたときみたいに密に連絡を取ったりしないようにはしていました。 福岡:私もたぶん同じですね。誕生日にメールを送ったりするくらいで。 橋本:でも今回、久しぶりにちゃんと話したけど時差を一切感じなかったんです。付かず離れずのところで、でも、やっぱりお互いを思ってたのかもっていう……そういう想いがやっと口に出せるような、そんな気がすごくしました。だから話していて、すごくうれしかった。くみこん自身も辞めてからずっと“元チャットモンチー”っていうのと闘っていたし、私たちも“元3ピース”みたいなところと格闘してきて、そういうところも似ていたのかなって今回初めて思えたかもしれないです。 ——この歌詞が届いたときの感想は? 橋本:感動してしまいました。本当にそう思って書いてくれてるんやろうなって感じられて、グッてなりました。 ーCHATMONCHY ラストアルバム『完結』オフィシャル・インタビューより

橋本さんが「感動しました」と語った「砂鉄」の歌詞。そのなかには、これまでのチャットモンチーの楽曲へのアンサーともいえるフレーズが散りばめられ、橋本さんのみならずファンならば「そりゃ涙腺崩壊するわ!」という内容なのですが、ひときわ興味深かったのが、チャットモンチーの映像作品を多数手がけてきたMINORxU氏がインタビュー(CINRA.NET)で語っていたこの言葉。

MINORxU:この歌詞って、さっき言った、えっちゃんがフリーペーパーに書いた文章に対する久美子ちゃんからのアンサーだと思うんですよ。だから、あのえっちゃんの文章を読むとより歌詞が響くんです。 ーチャットモンチーの素顔と尊さをDAWA、imai、MINORxUが語る

フリーペーパーというのは、橋本絵莉子波多野裕文 1stアルバムリリース時に発行された「季節のお便り」を指します。

そのなかで、橋本さんはお子さんを産んだ直後のことをこのように綴っています。

音楽に憧れ続けてきて、初めて、音楽をストップした。 その時の私は、子どもを産む前と産んだ後の差をどうにか少なくしなければと焦っていた。 ちゃんと産む前のえっちゃんに戻れるだろうかと、産む前のえっちゃんの動画を定期的に観て勉強した。 歌い方、弾き方、笑い方。憧れるように観た。でもある日、何してるんだろうと思った。 ー「季節のお便りvol.1」より

そんな橋本さんに、高橋さんからこんな歌詞が届いたのです。

明日のことは明日もわからんだろう だけど何も心配はいらんだろう 君は君の真似なんてしなくても 最初で最後の君だ 僕は僕の真似なんてしなくても 最初で最後の僕だ ー「砂鉄」

これを、高橋さんからのアンサーだ、と断定してしまうのは野暮なことかもしれません。しかし、まぎれもなく、「わたし」が「あなた」を想って綴られた、チャットモンチーの物語なのです。

鏡の裏 色あせたバックステージパスは2004 今も鼻歌歌いながら歩いてるよ 雨の8ビートに合わせて 月のミラーボール見上げて 砂場に磁石入れたら 砂鉄だけ持ち上がるように 別の星に生まれていても 僕らは出会ったのだろうね ー「砂鉄」

欠かせないメンバーが、脱退したこと。前を向いて、ふたりで走り続けてきたこと。高橋さんも、元チャットモンチーの肩書を背負い、走り続けてきたこと。3人の18年間が、関係性が、バンドマジックがこれらの言葉に結実しています。
チャットモンチーが言う「わたし」と「あなた」に、これまでは自分自身の物語を重ねてきました。だからこそ、心が踊り、背中を押されてきました。

チャットモンチーが今作『誕生』で僕たちに届けてくれたのは、彼女たち自身の、最後にして最高の「わたし」と「あなた」の物語です。


そして最後に、チャットモンチーが奏でる「あなた」とは、決してひとりのことを指すのではないと、福岡さんの言葉を読んで思いました。

——これで最後、みたいな気負いはなかったですか。 福岡:曲を作ることに関してはなかったけど、歌詞は全然書けなかったです。誰にも聴かれないかもしれないって思ったら……“ライヴでやる機会”という意味ですけど、実際、あと数本しかないじゃないですか。今まではいつか披露できると思ってたけど、もしかしたら1回も人前でやらないかもしれないって考えたら、なぜか書けなくなったんですよ。 ——やっぱり誰かに聴いてほしいって想いが晃子さんに歌詞を書かせていたんでしょうか。 福岡:もともとチャットモンチーに入ってなかったら私は歌詞を書いていないですからね。チャットモンチーがなくなる前提で歌詞を書くってどういうことなのか、最初はちょっとわからなくて、まったく書けなくなったっていう。でも、その話をえっちゃんにしたら、えっちゃんは“全然そんなことない”って言ってましたけど(一同爆笑)。 ーCHATMONCHY ラストアルバム『完結』オフィシャル・インタビューより

橋本さんの共感は得られていないようですが(笑)、誰か届ける人がいて、はじめて歌詞がうかぶことに気づいたという福岡さん。音楽は、奏でる人はもちろんのこと、聴く人がいてこそ成り立つものでもあります。

チャットモンチーはいちどここで「完結」しますが、再生ボタンを押せばいつでも、「最初で最後の君」が奏でた音が、「最初で最後」を生きるあなたに届きます。まずは最新作『誕生』をぜひぜひ、リッスンしてみてください!
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チャットモンチー
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チャットモンチー「完結」。最後にして最高の「わたし」と「あなた」の物語。はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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