『RUSH BALL』が海を超え、ロックで
日本・台湾の想いを繋ぐ『RUSH BALL
in 台湾』現地レポ―ト

『RUSH BALL IN TAIWAN ~ RB20th Anniv. SPECIAL from OSAKA JAPAN ~』2018.6.30(sat)台湾大学体育館
1999年の初開催から20回目の節目を迎える、大阪の野外イベント『RUSH BALL』が、“RUSH BALL 20th Anniv.”と銘打って、泉大津フェニックスにて今年は8月25日(土)、26日(日)、9月1日(土)の3日間にわたって開催。これに先立って、6月30日(土)には、台湾で『RUSH BALL IN TAIWAN ~ RB20th Anniv. SPECIAL from OSAKA JAPAN ~』を開催した。このイベントの歴史の1ページに刻まれるスペシャルライブをレポートすべく、SPICE編集部は台湾へと渡った。せっかくなので、ライブだけでなく、台湾で見たこと、感じたことの一部始終をレポートしたいと思う。
出発は29日(金)の朝9時。ということで、編集部は朝7時に関西空港に集合。無事、チェックインを済ませ台湾へと向かうわけだが、筆者は今回が初海外となる。このためにパスポートを申請したぐらいの海外素人だ。なので、空港内の国際線へと向かい、並ぶ免税店でも舞い上がってしまった。きっと今回の台湾公演をきっかけに、自分と同じようにパスポートを間に合うように作った人もきっといるはずで、そうでなくとも台湾へ初めて訪れる機会になったという人はたくさんいたはず。
そもそも今回の台湾公演開催のキッカケは何かといえば、公式HPによると20周年という節目であるだけでなく、「関空に近い関西は多くの台湾のお客さんにも来場していただいてます。そこでこちらから出向いて行って、もっと多くの現地の皆さんに日本のロックを見てもらい、海を越えた交流をしたい!と思い企画しました」とある。すでに筆者自身が、『RUSH BALL』に海を越えた交流のキッカケを作ってもらっているんだなと、再確認したのである。まだ、この時点では、出発前に免税店で舞い上がっているだけだが……。
関西空港を9時10分に出発して、台北にある桃園空港に到着したのは11時05分。正確には、1時間の時差があるので日本時間だと12時すぎ。それでも、3時間たらずで行けてしまう。関西からだと、新幹線で東京へ行くのとさして変わらないと思うと、本当に近い。で、当たり前だけど、空港内の案内表示も台湾の言葉で、スタッフの人たちはほとんどが台湾の人。空港を出て、宿泊先の台北までタクシーで移動しながら街並みを見ても、日本とは全然違う。歴史的な背景から、日本的な文化が残っていたりもするけれど、やはり台湾ならではの風景が広がっているのを見て、海外に来たんだと思った。とはいえ、そう思ったのは最初だけだった。他にも、バイク移動の人がとにかく多いだとか、色々と日本と異なるところが多々あれど、3日間滞在した限りでは、あまり“海外に来た”、“外国だ”という風には感じなかった。これについては、ライブを「RUSH BALL」台湾公演を通して、台湾の人たちと交流することで答えが自分の中で分かったような気がする。
それはそうと、せっかく台湾に来たのだから街を散策してみることに。先ずは、2004年に台湾の新たなランドマークとして誕生した巨大なタワー台北101へ。高さ509mを誇り、中にはショッピングモールや飲食店の他、展望台も備えている。因みに、日本で最も高いビルのあべのハルカスで300m、東京タワーで333m、東京スカイツリーで634mなので、どれほどの高さかイメージしてもらえるはず。足がすくむ高さだ。台北を360度望める展望台からは、有名な観光地や自然豊かな山々を一望できるほか、会場となる台湾大学も見ることができる。
開催前日ではあるが、会場となる台湾大学の体育館へ。台湾大学は、1945年に設置された国立大学で、前身は1928年日本統治時代に設立された台北帝国大学とのこと。
学生総数が3万人を越えるマンモス校で、これまでには数々の政治家ら著名人を輩出してきた台湾トップクラスの大学。そんな由緒正しい大学で、本当にライブイベントが行われるのか……。と、想像もつかないまま、体育館へ足を運ぶと、台湾と日本のスタッフが協力してステージを設営していた。
台湾の人は日本語を話せる人が多いため、日本語でコミュニケーションをとりながら懸命に準備中。ここでもまた、“ロックがつなぐ、海を越えた交流が”と早くもグッと込み上げてくるものがあった。まだ、開催前日なので感動は本番にとっておこうと堪えて、邪魔にならないよう会場を後に。
大学のすぐ近くには、「THE WALL」というライブハウスがあった。日中ということもあり、残念ながら中に入ることはできなかったけれど、隙間なく貼られたバンドのステッカーが存在感をプンプン漂わせていて、ゴリゴリのバンドサウンドが聞こえてきそうな空気感に親近感を覚える。大学から歩いて15分ぐらいのところにある、師大夜市を抜けると「White Wabbit Records 小白兔唱片」というレコード店もある。台湾だけでなく、日本のインディーズバンドも取り扱っていた。手描きのポップは台湾語だけれど、スタッフの人が日本語で声をかけてくれて気になったアーティストについて紹介してくれたり視聴させてくれる。音楽が好きな人たちが日々、こういった場所で日本の文化に触れているわけだ。
すっかり日が暮れてきたので、醍醐味のひとつでもある夜市へ。最大規模だという士林夜市では、ところ狭しと店が並び物凄い人が遅い時間まで飲んだり、食べたり、遊んでいた。日々、こういったお祭り騒ぎが、あちこちで催されているのかと思うとドキドキする。
もちろん、ルーロー飯に小籠包にラーメン、カニの唐揚げなど何を食べてもおいしい!何より、どこに行ってもとっても親切にしてくれるので居心地がいい。
■RUSH BALL in台湾
さて、前置きが長くなってしまった。本番当日。台湾大学の体育館は、まぎれもなく、ロックイベントの会場となっていた。外には日本にも馴染みのあるおにぎりや焼きそばパンといった現地の店によるフードが並ぶお祭りムードに。開場1時間前には、多くの人が詰めかけソワソワしていた。
せっかくなので声をかけてみると、「日本には行ったことがないけれど、ネットで出演バンドについて知って遊びに来た!」という学生や、「せっかくの機会だから初の台湾旅行もかねて、思い切ってここまで」という日本の女性、中には頻繁にライブを観に関西まで遊びに来ている人、過去の「RUSH BALL」Tシャツを着た人は日本からの留学生だったり……と、幅広い層の人たちが集まっていた。聞き取りした限りでの話だけれど、日本の人はみんな「この機会に台湾に来れてよかった」と言っていて、台湾の人は「台湾に来てくれてうれしい。日本でもライブをいつかみたい」と。中には、「台湾に来てくれてありがとう」と、言ってくれる人まで。筆者自身だけでなく、多くの人がイベントを機に台湾を訪れていたこと、そして、台湾で日本のロックイベントを見たいと切実に待ち望んでいた人が、これだけいたのかと、グッと込み上げてくるものがあった。とはいえ、この時点ではまだまだ開演前。ここからが本番。スタートするや否や、日本とはまた違った熱気を目の当たりにすることとなった。
大抜卓人(FM802 DJ)
FM802 DJの大抜卓人による前説から、開場のボルテージは上がりっぱなし。いよいよ開演の時間となりステージが暗転すると、それはもうものすごい歓声が起きた。その歓声の大きさで、台湾の人たちがどれだけこの瞬間を待ち望んでいたのかを誰もが直面したはずだ。トップバッターで登場したTHE ORAL CIGARETTESは、その声に鼓舞されるようにして、バンドの状況を変えたともいえる、メジャーデビューシングル「起死回生STORY」、そして「5150」を畳みかけ、ライブの幕開けから限界突破の勢いとエネルギーをぶつける。
THE ORAL CIGARETTES
MCでは、山中拓也(Vo/Gt)が「日本語、分かる人?」と問うと、半分以上の人が挙手。それでも、カンペを読みながら、あえて、たどたどしい台湾語で一生懸命に想いを伝え、コミュニケーションをとる様子に会場が和む。そのまま「日本でも台湾でも伝えることは一緒。真剣に伝えたいことを歌って帰ります!」と切り出し、「ReI」を披露。この曲は、彼らがツアーで東日本大震災の被災した福島県を訪れたことを機に、生まれた楽曲。過去を、未来に繋げていこうとする希望を温もりのあるサウンドにのせて届け、観客と確かめ合うようなひと時に。そこから、ニューアルバム『Kisses and Kills』から「容姿端麗な嘘」、「トナリアウ」が歌われ、艶やかな山中の声が会場に響き渡った。“気持ちを伝える”ために、観客と全力で向き合おうとする彼らの姿勢が、これでもかと伝わってきて、日本語の歌詞がより心に染みる。
THE ORAL CIGARETTES
聴かせるステージから、最後は再び爆裂アンサンブルで熱気を上昇。オーラルの勢いに負けじと、手を挙げ、声を上げ、楽しむ観客たちのエネルギーはすさまじく、音楽は言葉の壁を超えるということを、開始早々に証明してくれた。
疾走感溢れるナンバーの「マジック」で、瞬く間に観客の心を鷲掴みにしたのはgo!go!vanillas。その勢いのままポップなメロディーで躍らせる「エマ」、蒸し暑い台湾に爽やかな風を吹き込む「SUMMER BREEZE」と畳みかけていく。牧 達弥(Vo/Gt)が台湾語で挨拶をすると大歓声が起こり、「やっとこれたよ台湾!ジャパニーズ・ロックンロールでみんなとハッピーになりに来たんでよろしく!」と笑顔を見せる。
go!go!vanillas
そんなMCから鳴らされた「おはようカルチャー」では、特大のコール&レスポンスを成功させて一体感をより強固なものに。メンバー全員がマイクをとって歌う「デツドマンズチエイス」、「カウンターアクション」となだれ込むと、ご機嫌なロックンロールを全身で浴びることが出来てとても気持ちよさそうに、ステップを踏み踊る観客たち。一人一人が目の前で鳴らされるロックを受け止め、身をゆだねたり、思うがままに声にしてバンドに届ける熱量がとにかくすごくて、会場内に響く歓声の大きさには驚かされる。そんな観客の勢いを追い風に、ラストの「平成ペイン」までアグレッシブに駆け抜けていった。
go!go!vanillas
ライブが終わりステージを後にするメンバーを見送ると、うっとりした表情で立ちすくしていたり、顔を見合わせ、肩を組み飛び跳ねる観客たちが大勢いた。毎回、このテンションで最後まで大丈夫かと心配になるぐらいだった。だけど日本国内に比べれば、めったに生で観れない憧れのバンドだから、一瞬も気を抜きたくないのだろう。日本の観客ももちろん同じ気持ちに違いないけれど、海を渡ってきた自分の目には、台湾の人たちの眼差しとこの瞬間にすべてを捧げる熱には特別なものを感じた。
Northern19
Northern19のライブは、メンバー井村知治(Ba/Vo)の体調不良により急遽出演がキャンセルとなったため笠原健太郎(Vo/Gt)による弾き語りに。笠原は、「急きょライブができなくなり、楽しみにしてくれていた人……すみません。必ず3人で、バンドでバシっとライブをしに戻って来ます。その時はまた会いに来てください!」とメッセージを送る。心待ちにしていたファンはもちろんだが、メンバー揃ってステージに立てない悔しさは彼らも同じ。バンドを代表して、披露された楽曲は「STAY YOUTH FOREVER」。バンド編成とは違い、温かみを帯びたアコギサウンドになり、楽曲のメッセージがストレートに胸を打つ。どんなことがあっても届けたい音楽があり、どんな状況であっても彼の声があれば歌で想いを届けられる。1曲にすべてを込め、台湾の人たちに再訪を約束しステージを後にした。
BRAHMANが1曲目に歌ったのは「満月の夕」。この曲は、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災を契機に制作された楽曲のカバーで、BRAHMANが「RUSH BALL 2015」でトリを務めた際、同曲の作者であるソウル・フラワー・ユニオン中川敬を迎えて演奏したこともあるバンドにとっても大事な楽曲だ。今年の2月6日には台湾東部地震が発生、そしてつい先日には大阪で大きな地震が起きたばかり。そんな状況だからこそ、より胸を打つ幕開けに。
BRAHMAN
そこから、地を踏み固めるようにひとつ、またひとつとTOSHI-LOW(Vo)が力強く、「BASIS」、「賽の河原」、「AFTER-SENSATION」と倍々に熱気をまとう激情的なライブを展開。続々と拳が突きあがるも、鳴り響く轟音とバンドの迫力に圧倒され身動きが取れない観客の方が多かったようにも思う。そこですかさず、「SEE OFF」でTOSHI-LOWがフロアに舞い下りる。自分自身が台風の目となり、モッシュピットの渦が大きくなり揉まれながら観客と同じ目線に立って熱唱。みるみる内に渦大きくなり、観客の心は一つになる様子は痛快だった。
BRAHMAN
熱狂冷めやらぬまま神輿のように担がれたTOSHI-LOWが「ビジョンを見て」と、英語で投げかける。楽曲が披露されている間、そこには2011年3月11日に東北地方を襲った東日本大震災の影響で、事故が起きた原子力発電所で働く人たちの写真とコメント、そして生々しい現場を切り取った様子が映し出されていた。BRAHMANが何を想い、何を伝えようとしているのか。目と耳と、そして肌で感じる熱量で共有していく。
BRAHMAN
ステージに戻ると、「7年前の地震で、家族や友、家、仕事…多くのものを失った」と切り出したTOSHI-LOW。「だけど、そんな時に、救いの手を差し伸べてくれた人たちがいた。さらに沢山の、偉大な仲間もできた。そのうちのひとりを紹介させてくれ」と、投げかけ、ステージに登場したのは台湾を代表するロックバンド・Fire EX. (滅火器)。これには観客も驚嘆と歓喜の声を上げ大盛り上がり。メンバーのSam(Gt/Vo)が、Fire EX. 主催のイベントでBRAHMANと共演した事について触れ、「日本と台湾は近いし、家族みたいなものだ。また一緒に何かできたらいいな」と笑顔をみせる。そのまま「今夜」とFire EX.の「おやすみ台湾(晚安台灣)」をコラボ。台・日の絆を象徴するようなステージに、涙を流し、抱き合い、声をかけ合う観客の姿が印象的だった。Fire EX.を見送り、ラストは「真善美」でフィニッシュ。“一度きりの意味を/お前が問う番だ”とマイクを投げ捨て、身を挺して訴えかける迫真のステージを終えた。
ストレイテナー
20周年のアニバーサリーイヤーを迎えた、ストレイテナー。颯爽と登場すると、「彩雲」から始まり、「DISCOGRAPHY」「THE World Record」とのっけから攻めたセットリストに。腰にくるビートのままに、心地よさそうに身体を揺らしたり飛び跳ねる観客たち。ここにきてより感じたのは、台湾には自分たちなりの楽しみ方で、好きなようにライブを満喫する観客が多いなということ。また、例え初見のバンドであったり、初聴の楽曲でもアーティストと向き合い、最後まで全力で楽しもうとする姿勢も真摯に伝わってくる。それぞれ自分の好きなスタイルで、ストレイテナーの音楽を純粋に楽しんでいる観客たちを見て、そんな風に思った。約3年ぶりの台湾ライブだというストレイテナーは、それを知ってか代表曲をセットリストの頭には持ってこず、キレキレの演奏で躍らせては高揚感を突き上げて、先ずは観客の心を掴んでいった。
MCでは、ホリエアツシ(Vo/Gt/Pf)が「『RUSH BALL』という、日本が誇るロックフェスティバルで、尊敬するカッコいい仲間と共に台湾に来れて嬉しいです。日本から来た人は、観光も存分に楽しんで。台湾の皆さんは日本に来てくれるのを待ってます!」と挨拶。さらに、「1日、1日が積み重なって1年になって、10年になって…。20年続けてきました。これまでの成功も挫折も、喜びも悲しみも悔しさも、積み重ねてきた全てを歌います。20年前は全く見えなかった、その未来…今」と続け、「The Future Is Now」を披露。
ストレイテナー
観客と高め合ったグルーヴを爆発させるようにして、「Melodic Storm」、「シーグラス」を投下して眩い景色を生み出していった。研ぎ澄まされた音が、透き通った声が、丁寧に積み重ねられていくごとに、どこかまだ見ぬ先へと連れてっていってくれるような、期待感に満ちたライブだった。
ベートーヴェンの第九のSEでBIGMAMAが登場。同じくベートーヴェンの『運命』をモチーフにした「虹を食べたアイリス」でライブをスタートさせる。この時点からラストまで、ほとんどMCなしでノンストップにライブを展開。かつてのクラシックがそうであったように、楽曲で想いの全てを物語っていくステージングは圧巻だ。躍動感あるバンドサウンドに合わせて、飛び跳ね、舞い踊るようにして奏でる東出真緒の美しいヴァイオリンの戦慄に、ひずむギターが重なっていく、BIGMAMAにしか作りえない世界へと観客はグイグイ引き込まれていく。
BIGMAMA
今度は、チャイコフスキーの『白鳥の湖』を取り入れた「Swan Song」。誰もが聴いたことのあるクラシックのフレーズが、BIGMAMAの楽曲として大胆に溶け込みさらに観客を魅了する。そして、インディーズ初期の楽曲「Paper-craft」から、今年リリースされたメジャーデビューシングル「POPCORN STAR」へと軽快に紡がれ、バンドの辿ってきたこれまでとこれからを示すかのような展開に。
BIGMAMA
真正面から受け止めると飲み込まれてしまいそうなほど、放たれる音像はみるみるスケールを増していき、ファイティングポーズを崩さず、そのままドヴォルザークの『新世界』をモチーフにした「荒狂曲〝シンセカイ〞」をアグレッシブに披露。情熱的で迫力あるセッションが、脳裏に焼き付いて離れない。ラストは、金井政人(Vo/G)の声がよりドラマチックに届けられた「Lovers in a Suitcase」。鮮やかな音の波が、息つく暇なく流れるように展開していったライブは、多幸感と高揚感溢れる余韻を残した。
トリを飾るのは、99年の『RUSH BALL』初開催時にも名を連ね、過去最多出場となるDragon Ash。イベント15周年時にトリを飾り、記憶に残る鮮烈なステージで魅せた彼ら。ライブの幕を開ける「Stardust」は、昨年リリースしたバンドのデビュー20周年を飾るアルバム『MAJESTIC』からの楽曲。その後に続く楽曲の多くもそうで、このアルバムの楽曲が軸になったセットリストとなる。『RUSH BALL』20年の歴史を知る数少ないバンドとして、イベントと共に歩んできた積み重ねをぶつけて、新しい歴史の1ページを開いていこうとしていたように感じた。
Dragon Ash
拳を突き上げずにはいられないライブチューン「Mix it Up」では、《ここに制限はない/just free your mind/そう変幻自在/あるのはマナーと思いやり/music lover と共にあり》とKj(Vo/Gt)が歌い、観客も興奮の沸点をぶち壊して熱狂。続く、KenKen(Ba)もマイクをとる、バンドにとっても大事な楽曲「The Live」、そして血沸き肉躍る展開からで観客と喜びを噛みしめ合うようにして歌われた「Ode to Joy」へ。ダンサーが全身全霊でその胸の高鳴りのままに、ダンサブルなナンバー「Jump」では高く、高くジャンプして会場が波打ち、いまだかつてないほどの祝祭感ある温かい煌めきに満ちたムードに。そのまま、「百合の咲く場所で」、「Fantasista」とブチ上らずにはいられないアンセムが続き、全員で大合唱する最高潮を迎えた。

Dragon Ash

そして、アンコールでは、何やらメンバー同士で耳打ちをしていたかと思えば、デビュー初期の名曲「Iceman」を披露! これには観客も喜びが弾け飛び、ラストは「Life Goes On」。途中、もみくちゃになったフロアやダイバーをKjが気遣う一幕もあり、最後まで“思いやりとマナー”を忘れず、汗なのか、涙なのか……滴り落ちる雫を拭いながら、全身全霊でロックを楽しむ観客のキラキラとした笑顔が溢れたライブだった。
演奏が終わると、KenKenはずっとそばに置いていた、12年に亡くなったメンバー・IKÜZÖNE(Ba)の衣装スタンドを、ステージ中央に移動させてからバックヤードへと帰っていった……。メンバー全員で台湾のステージに立ち、またひとつ前に進めたということだろうか。この日のMCでは、イベントについてやバンドについてほとんど語られることはなかったが、全てはライブで体現していたように思う。かつての『RUSH BALL』でKjが語っていた通り、このステージに立つまでにバンドは数々の苦難を乗り越えて来た。それでも前に進んできたからこそ、今がある。そしてこれからも歩み続けようという、Dragon Ashの想いがラストの「Life Goes On」まで、ぎっしりと詰め込まれたライブだったように思う。だからこそ、かつてないほど温かく、希望に満ちたライブだったのだろう。
Dragon Ash
こうして、Dragon Ashの堂々たるステージングで、「RUSH BALL」初の台湾公演の幕が閉じた。日本と台湾の心の距離の近さ、音楽は言葉の壁を超えるということを証明してくれた出演バンドたちは、泉大津フェニックスで3日間に渡って開催される『RUSH BALL 2018』への出演も決まっている。この日、台湾の人と作り出した景色と、込み上げてきた想い、そして生まれたドラマと伝説の続きを、きっと彼らが見せてくれるので、台湾の人にもぜひ見届けに来てほしい。そして今度は僕たちが彼らを日本に迎え入れる側として、共に“マナーと思いやり”を守りながら、20周年という歴史の1ページを共に刻みたい。
ここからは余談。初めて、台湾の地で思いっきり空気を吸って、定番のグルメを楽しみ、街を散策してみてもあまり“海外に来た”という感覚が自分にはなかった。それがどうしてかとずっと考えていたけれど、『RUSH BALL』で台湾の人と日本の人がロックで繋がっているのを見た時、なんだか答えが分かったような気がした。
昔から台湾の人は“親日”だというけれど、この“親”は単に“親しい”というだけでなく、個人的には“親戚”と言ってもいいぐらい、家族ほどの近しい心の距離も表しているように思う。空き時間に、台湾のお客さんと話していても、誰もが家族のように接してくれ好きなバンドについて語ってくれたり。一緒になって好きなバンドのライブで涙を流し、熱狂して、日本とか台湾というのを関係なく感想を語り合っている様子を見ると、“みんな同じなんだ”と思ったのだった。少なからず、あの会場に集まっていた人たちの想いはひとつだったはず。そういう互いの親近感が、町全体に漂っていたからこそ、“海外に来た”という感覚にはなれなかったのだろう。家を出て、飛行機で移動したとはいえ、またもうひとつの“家”に帰ってきたような感覚の方がしっくりと来る。
Fire EX.のSamがMCで言っていたように、日本と(特に大阪と)台湾はとても近い距離にあり、家族同然だというのも言い過ぎでないかもしれない。これを機に、台湾にまた訪れたいと思ったし、台湾の人たちにもたくさん日本に来てほしいと思った。そして、自分自身が言われたように、今度は「日本に来てくれて、ありがとう」と返したい。
そんな海を越えた交流のきっかけを、また夏に『RUSH BALL』が作ってくれるのかと思うと楽しみで仕方がない。もうひとつの家に帰るぐらいの気軽さで日本に来て、またライブを共に楽しめたら嬉しいなと思う。そして自分がそうだったように、大阪を散策したり、食事なんかを楽しみながら、親近感を持って帰ってもらえたら、さらに嬉しく思う。
取材・文・撮影=大西健斗 LIVE PHOTO=橋本塁

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