「ライブって自分の根っこになるもの
だと思う」~冨田明宏 劇伴作家イン
タビュー連載~「俺の劇伴を聴け!」
Vol.1 桜庭統 

映画、アニメ、そしてゲームの音楽はその作品の数同様に多数存在する。しかし、そういった多数ある楽曲を手掛ける作曲家のインタビューが世に出ることは少ない。この連載では音楽評論家であり、音楽プロデューサーでもある冨田明宏が、今だからこそ話を聞きたい音楽家へインタビューする。そんな企画の第1弾は主な代表作として『テイルズ オブ』シリーズや『スターオーシャン』、『ヴァルキリープロファイル』などのビッグタイトルを手掛ける桜庭統(さくらば・もとい)氏。桜庭氏が音楽を志したきっかけから、ゲーム音楽を作るきっかけ、そしてこれからの活動について訊いた。
■Profile:
桜庭統(さくらば・もとい)
1965年生まれ。作曲家、キーボード奏者。ゲーム製作会社ウルフチームにサウンドスタッフとして参加し、数々のゲーム音楽を手掛ける。またLinked Horizonなどのコンサートへのキーボディストとしての参加や、自身のライブなどキーボディストとしての活動も行っている。7月28日には「桜庭統 椎名豪The History 2018~Live of the past Games&Animations Music~」の開催も決定している。

音楽の原体験はFMのエアチェックと兄の映画サントラ
──まずは桜庭さんご自身に関することをお聞きしていければと思っています。桜庭さんが音楽家、作曲家を志したきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
具体的に音楽家を目指すぞ、というのはなくて、自然と音楽しかできなくなっていたんです(笑)。最初はとにかくバンドやって楽しかったんですね。それで大学時代にだんだんと音楽で生活できればいいなと思い始めた。
──秋田のご出身ですが、幼少の頃から音楽が身近にあったということはあったのでしょうか?
まったくなかったですね。ただ、子供の頃にピアノが習いたいということになって、最初に電子オルガンを習っていたんです。それを2年ぐらいやってピアノを習うようになったのですが、小学校高学年ぐらいになって、スポーツが楽しくなって辞めてしまったんです。
──スポーツ少年になっていったと。学生時代はどんなスポーツをされていたのですか?
小学校はバスケ、中学と高校はバレーボールをやっていました。
──そこから音楽への興味が再燃するのはどういったことからなのでしょうか?
中学生の時にFMラジオでエアチェックをする、というのがあって。そこでUK(1970年代に活躍したプログレッシブバンド。アラン・ホールズワース、エディ・ジョブソン、ジョン・ウェットン、ビル・ブルーフォードなど、当時すでに有名であったメンバーが集まり、スーパーグループと呼ばれた)の『Night After Night』というライブアルバムを聴いたのがきっかけですね。あとはTOTOとかクィーンとかの曲がラジオで流れていたのを聴いていたんです。
──それでコピーバンドを始めると。
そうです。高校生になって今度はディープ・パープルやマイケル・シェンカー・グループのコピーバンドをやっていました。
──あの当時はスーパーグループというか、プレイヤーがスターの時代でしたよね。当時からキーボード担当だったのでしょうか?
そうですね。それで音楽をやっているのが一番楽しいな、となっていって。
──ちなみに初めて買ったレコードは?
初めて買ったのはボストンの『Don't Look Back』(1978年発表)というアルバムです。
──宇宙船が描かれたジャケットワークは印象的でしたよね。そういった部分にも惹かれたのでしょうか?
音楽もありますが、子供ながらにあの近未来的なジャケットのアートワークに惹かれたんだと思います。
──ボストンの『Don't Look Back』というと物語性があるアルバムですが、やはりその時期からそういった物語性がある作品に惹かれたのでしょうか?
今思うとそうなんだと思います。あとそういうバンドものと並行して、映画のサントラもよく聞いていました。『未知との遭遇』(日本では1987年劇場公開)の音楽が好きで。あのなんだかよく分からない雰囲気がいいんです。僕の兄がすごい映画好きで、当時いろいろな映画のサントラを持っていたんです。そんな兄の影響でどの映画のこの音楽、ということは言えないんですけど、映画のサントラは日常的に入っていたと思います。
──無意識に映像音楽が桜庭さんの中に入っていたと。ちなみにプログレにハマったという人にお話を聞くと、よく映画音楽からという人が多いんですよね。
そうですね。プログレ好きはインストが好きな人が多いですからね。
──では映像作品として影響を受けた作品というのはありますでしょうか?
高校時代は実はあまり映画は観ていなかったのですが、影響を受けた映像作品ということになるとやはり『未知との遭遇』だと思います。子供には分かりづらい内容だと思うのですが好きだったんです。あの当時『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(1978年に日本で公開)も上映されていたのですが、でもなぜか『未知との遭遇』を選んでしまうという。
──『未知との遭遇』のほうが好き、というのは10代の頃からすごく成熟された感覚ですよね。
ただ、どちらの作品も同じ人が音楽を作っているというのにはびっくりしましたね(『未知との遭遇』、そして『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』もジョン・ウィリアムズが音楽を担当している)。

ゲーム音楽を作るきっかけ
──『未知との遭遇』は音楽的にも映像的にも桜庭さんに影響を与えていると。ちなみに桜庭さんが好きなバンドとは?
プログレバンドでは……やはりキング・クリムゾンは聴いていました。
──ちなみにキング・クリムゾンのどのアルバムがお好きですか?
やはり『RED』(1974年)ですね。
──『RED』はプログレでありながら、最上級のハードロックですよね。
そうですね。どちらかというと攻撃的な曲が好きなので。実はそんなにプログレバンドって知らないんです。FMでエアチェックしていて入ってきた曲を楽しんでいたので、音楽の聞き方って曲単位なんです。あと、トリオ編成(3人編成バンド)が好きですね。僕が考えるトリオ編成というのは、アンサンブルではなくて、お互いの戦いなんです。
──確かにトリオのバンドって緊張感がありますよね。そこから現在のライブ活動をされる際もトリオ編成になっていると。トリオ編成の魅力とは?
自由度が高いところですよね。大変は大変なんですけど、ギターとかがいないことで、キーボードが好きにできる。
──大学時代にプログレバンドで活動されていましたが、バンド活動を続けていこうというのはあったのでしょうか?
当然、バンドをやっていたので気持ちはありましたが、やっている曲が全然ポピュラーではなかったので(笑)。
──なるほど。そんなバンド活動のお話から、今度はウルフチーム時代についてお聞きしたいのですが、大学時代にバンド活動から、どういった経緯でウルフチームに参加されることになったのでしょうか?
まず、インストが好きだったので「インストが使える場ってどこだろう?」と考えた時にゲームがあったんです。でもゲームのことはまったく詳しくなかったんです。
──ゲームも分からない、そしてもちろんゲーム音楽の作り方も分からないのにゲーム音楽を作ろうと思ったと。ちなみになぜウルフチームだったのでしょうか?
当時のアルバイトニュースのような雑誌に募集広告があって、それを見てデモテープを送ったんです。そうしたら採用されて。実はゲームメーカーってウルフチームしか送っていないんです。
──それは就職活動としてデモテープを送られたのですか?
実はアルバイトの気持ちだったんですけど、なぜか社員になっていて(笑)。24歳ぐらいの時にそろそろ音楽で生活したいぞ、と思ったのもあってデモテープを送ったんです。それまでは音楽制作とはまったく関係ないバイトなどもしていて、コルグの倉庫で品だしをしていたり。当時はM1(1988年発売のワークステーションタイプのシンセサイザー)がすごく売れた時代で。倉庫からM1をずっと運んでいた思い出があります(笑)。
──そうなんですね(笑)。そしてゲーム音楽を手掛けられるわけですが、初めて自分の作った曲がゲームで流れているのを聴いた時どのような思いがありましたか?
自分の作った曲がパソコンのスピーカーから流れてくるのは、すごく不思議な感覚がありました。当時ゲームをまったくやらなかったので「こういうメディアがあるんだ」と、面白いなって思いました。
──それから数多くのゲーム音楽を手掛けられて来ていますが、作曲家が天職だと思われた瞬間というのはあるのでしょうか?
未だにないですね。それよりもすごくラッキーだなと思っていて、仕事に恵まれているし、普通の人ができないような仕事をやらせていただいているし……本当に音楽以外はできないですし。そしてあまり人付き合いも得意ではない(笑)。だから天職と言えば、天職なのかもしれないですね。
──なるほど。そしてウルフチーム時代から現在にいたるまで多数のゲーム音楽を手掛けられてますが、昔と現在ではゲーム音楽の作り方はかなり変わっていますか?
かなり変わりましたね。今は普通のCDと同じように音を鳴らすことができますが、当時はPSG音源3つとFM音源2つしか使えなくて。そしてPSG1つはリズムで取られてしまうという。
──戦闘中だと効果音も必要ですし、そこに音を取られてしまうこともあると。
そうですね。だから気がつかれないように音を抜いたりしていました。音楽として考えると今のほうが表現の幅が広がっていていいとは思うのですが、ゲーム音楽として考えると、昔の環境で作られた音楽もあれはあれで味がありますし、一概にはどちらがいいとは言えないですね。
──当時は同時に発声できる音数が少ないというミニマムな中で制作されているということもあって、印象に残るメロディが多かった印象があります。
そうですね。使える音数が少ないのでそこで勝負することになります。逆にメロディがない雰囲気を出すような曲は難しかった思い出があります。
ライブは桜庭統にとって根底にあるもの

──逆に今は必要とあれば、どれだけでも音を使えて音楽としての制限はなくなっていると。では非常に難しい質問になりますが、桜庭さんにとっての代表作というのはどのゲームになるのでしょうか?
今であれば『テイルズ オブ』シリーズや『スターオーシャン』、『ヴァルキリープロファイル』になるのですが、自分の思い出も含めると、最初に手掛けた『斬 ~陽炎の時代~』(1989年にPC-9801シリーズ用に発売されたシュミレーションゲーム)や、『ソルフィース』、『グラナダ』(1990年にX68000用に発売されたシューティングゲーム)ですね。
──あの当時、ゲーム音楽を作るうえで苦労などはあったのでしょうか?
当時は単に音楽を作る、ということだけではなくプログラマーとの関わりも深くて、「こっちで容量これだけ使うから、音楽はこれだけね」というようなやりとりがあったり。まさにチームで作っているという印象がありました。
──なるほど。ここ最近ではやはりファンタジー作品の音楽を担当することが多いイメージがあるのですが桜庭さんの作家性との相性というのはどのように考えられていますか?
ファンタジー作品に合うということは特に考えていないのですが、依頼が来るのはやはりファンタジー作品が多いですね。実はシューティングゲームもやりたいんですけど(笑)。
──ファンタジー作品と桜庭さんの音楽が合うと思われていると。
ありがたいことにそう思われているようです。ただファンタジーだから、ということを意識するよりも、どんな作品でもその作品が持つ世界観からは絶対に外れた楽曲を作らないということを意識して作っています。
──桜庭さんがそういったゲームやアニメの楽曲を制作するうえで気にかけていることはありますか?
第一にあまり音楽が出すぎない、ということを意識しています。もちろん音楽が前面に出たほうがいい時はそういう曲にしますが、バランスですよね。それよりも物語がどうやったら盛り上がるのか、どうやったらプレイヤーを奮い立たせることができるのか、ということを意識しています。
──物語やプレイヤーの気持ちに寄り添うことを意識されていると。となると、やはり作品のテーマや物語が明確なほうが楽曲は作りやすいのでしょうか?
お任せ、という場合もありますが、やはりしっかりとした世界観を知って、そのうえで作曲したほうが作りやすいですね。
──そういった作品の資料にはどのぐらい目を通されるのでしょうか?
シナリオに目を通すぐらいですね。これは作家によるとは思うのですが、自分の場合はあまり深く知ってしまうと、今度は世界観が広がらなくなってしまうので。
──あまり細かく書かれているよりは、ある程度余白があるほうが世界観が広がりやすいと。先ほどゲーム楽曲を前に出すかどうかはバランスを見て作曲されていると伺いましたが実際にゲームをしていると桜庭さんのカラーを全面に感じている方が多いのではないかと。特にバトルシーンの楽曲は強く桜庭さんを感じます。
実はよくあるのが、通常戦闘曲でやりすぎちゃってボツをくらうという(笑)。
──桜庭さんでもボツになるということがあるんですね。ちなみに1つの作品の楽曲の制作にどのくらいの時間がかかるのでしょうか?
メーカーが仕様書を作る時間もありますが、規模の大きいタイトルだと1年ぐらいかけて作曲しています。
──そんな長い期間、1つの作品の楽曲を作られていて、途中で飽きたりしてしまうことはないのでしょうか?
基本的に複数のタイトルを並行して進めているので飽きることはないですね。もちろん体調が悪い時に進まないということはありますけれど、他のタイトルの楽曲を作ることで切り替えができているので。
──複数のタイトルを並行して進めることで、常に新鮮な気持ちで取り組むことができると。では、最後に桜庭さんにとってライブとはどういった位置づけになるのでしょうか?
ライブって自分の根っこになるものだと思うんです。もちろん、何年かライブをしない時期もあるのですが、ライブをやっていないとダメになっていく気がしています。それにずっと作曲をしているとライブをしたくなる。
──ライブは桜庭さんにとってライフワークというか、根底にあるんですね。
そうですね。今は人前で演奏する機会があるのであれば、できるだけやっていきたいと思っています。

求められる環境があるならば演奏していきたいと言う桜庭統氏。7月28日には『桜庭統 椎名豪The History 2018~Live of the past Games&Animations Music~』の開催も決定しており、これまで桜庭統氏、そして椎名豪氏が手掛けられた楽曲が作品の壁を超えて披露されるとのこと。ゲーム、アニメの世界を作るうえで必要不可欠な音楽の中で桜庭統という作家性を強く打ち出してきた氏のライブが楽しみでならない。
インタビュー:冨田明宏 構成:SPICE編集部 撮影:大塚正明

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