特別対談 / 角田隆太 × 井上銘 ジャ
ズとサッカーは似てる? “TOKYO LA
B”連続出演を果たすものんくる・角
田と井上銘が今改めて語る「ジャズ」
とは

新世代のジャズ、もしくは、ジャズを越境した新しいサウンド・スタイルを提唱するイベントとして、昨年初開催され、大きな話題を集めた“TOKYO LAB”。
先日、イベントの中心人物のひとりでもある 冨田ラボこと冨田恵一へのインタビュー(https://spincoaster.com/interview-tmita-lab-talk-about-tokyo-lab-2018) を公開したが、今回は同イベントへ2年連続出演を果たすものんくるの角田隆太と、CRCK/LCKSやMay Inoue Stereo Champなどでの活躍で知られる井上銘の2名による対談を敢行。
両者は今回、どちらも自身が中心となるプロジェクトを、“TOKYO LAB”にて初お披露目するとのことで、気になるそのプロジェクトのこと、そしてそこから話は脱線し、「ジャズ」そのものについてなど、話題は多岐に渡った。(編集部)
Interview & Text by Naoya Koike
Photo by Takzumi Hosaka
――おふたりとも“TOKYO LAB”には2度目の参加となりますが、まずは去年はいかでしたか。
角田:去年もめちゃくちゃ楽しかったですよ。リハーサルは1回しかなかったですけど、そのリハと当日の感じでみんなが「頑張ろう!」と結託した感じが文化祭っぽくて。終わった後も寂しい感じでしたね。実際にお会いしたことがあるのはメンバーの半分くらいで、半分は初めましての人でしたけど。
井上:でもお互いのことを話す時間もなく、ただただその日の音楽について打ち合わせしていた感じ。僕は18歳くらいから演奏していて、ジャズ・ミュージシャンとしては少し早いデビューでしたが、今では同年代のプレイヤーがたくさん増えました。数年前まではシーンとして見られてなかったと思うんですが、そういう意味での世間の見方も少しずつ変わってきて。そんないいタイミングの時に“TOKYO LAB 2017”が始まった。
――今年の意気込みも聞きたいです。
角田:超楽しみですよ。冨田さんのことは昔から好きでしたし、作品もずっとフォローしていたので。冨田さんの作った音楽をやるということで、僕も企画にのめり込めています。
井上:僕もそうです。冨田さんのアレンジのセンス、特にストリングスとかの生楽器と電子楽器を使ったアレンジを緻密に成立するところが素晴らしくて。一番衝撃を受けたのは冨田さんの『Joyus』というアルバムで椎名林檎さんをフィーチャーした「やさしい哲学」ですね。自分の音楽にも影響があります。前から憧れていたので、冨田さんの作品の中に自分が入れるのは光栄です。
角田:実際お会いしても話しやすい方で、僕らが知りたい様なこととか全部教えてくれました。「冨田さんの作品のここはどうなっているんですか?」とか、どうでもいいことでも丁寧に答えてくれて。MISIAさんの「Everything」のことだったり、中島美嘉さんの「STARS」のことだっ
たり。RIP SLYMEさんの「マタ逢ウ日マデ」をリミックスした「マタ逢ウ日マデ2010~冨田流~」も複雑なハーモニーとリズム展開がすごくて、それについても訊きました(笑)。
――若いジャズメンで冨田さんをリスペクトしている人は多い様な気がします。
井上:「Everything」のハーモニーのラインもめちゃくちゃ攻めてるんですよね。個人的にはかなりエッジィなことをポップスの枠の中でやっている人だなという印象があって。そこが格好いい。
角田:急にベースがJaco Pastoriusオマージュなラインになったりして、ベーシスト的にテンション上がったりしますね。
井上:昨年の“TOKYO LAB 2017”の時に、冨田さんが楽屋でその日出るベーシスト4人くらいとずっとベースの話をしてて。本当に気さくな人だなと(笑)。あとはディレクションがめちゃくちゃ的確。少ない時間のリハだったから、かなり冷静に見ていて。皆に必要なことをわかりやすい言葉でシンプルに伝えてくれるというか。
角田:リハ終わった後に、メンバー個人個人に「ここをもう少しこうしてほしい」という様なメールをくれました。繊細な気配りをして頂いて、素晴らしい方です。
井上:それが音楽の緻密さと重なっている気がしました。
――今年おふたりはTsunochin’s Optimiscape、MAY INOUE × SHUTA NISHIDA presents MEETZ TWELVEという新ユニットをお披露目するわけですが、それについても教えてください。
角田:最初はトリオ(井上銘[Gt.]、木村紘[Dr.])の予定だったんですけど、最終的にはサックスの安藤康平を加えた4名編成になりました。曲を書き始めたら、もうひとりほしいなと(笑)。「Optimism=楽天主義」ですね。ポスト・トゥルースなんて言葉が蔓延して、正しいことが意味をなさないこの時代の中で、個人の力を「どうせ意味ない」って否定的に捉える考え方をキャンセルする。そういう意味での選択的な楽観主義。それで「スケープ」だから「楽観主義的風景」っていうイメージの造語です。楽曲的には、トライブ(民族)っぽいビートを意識して作ったものがメインになっています。アドリブ・パートも多いので、ジャズっぽいブロークンなビートになる場面もあるけど、せっかくスタンディングのライブなんだからっていうのもあって、体を動かせる様なものにしたいと思ってます。
――人選はどの様に?
角田:人選は僕が楽観的にいれる人たち(笑)。一緒にいて居心地のいい人たちだし、サウンドを出している時にノー・ストレスな人を集めた感じです。今回は「インストのプロジェクトで」と出演オファーを頂いたので、曲もまだ出来ていない中で人選しました。だから音楽的に安
心できることも大事だけど、コミュニケーション的にも安心できることも重視しています。それに個人的にも、ものんくるやそれ以外の作詞・作曲・編曲・サポート、全部の仕事で歌詞のあるものばかりを扱っていたので、ちょうど楽器だけで何かをやりたいなと思っていたところだったんですよ。
井上:今回の角田くんのプロジェクトには僕も参加させてもらっているんですけど、楽観主義と言っておきながら、曲には緊張感があります(笑)。
角田:そこか(笑)。ほんとごめんね。特に今回は全部ギターで作って、リフも指定しているので、銘ちゃんが一番ウェイトがかかっているかもしれない。
――井上さんはいかがですか。
井上:西田(修大)くんのギター(6弦)と僕のギター(6弦)を足して、MEETZ TWELVE。西田くんは1年半くらいの付き合いで、最初の出会いは僕が在籍しているバンド・CRCK/LCKSで出たイベントの対バン相手だったんです。僕とは全く違うスタイルなんですけど、彼のやることなすこと全てがカラフルだった。それでライブが終わったあと話して、すぐ意気投合しました。今は飲みに行ったり、普通にふたりでスタジオに入って遊んだりする仲で。それで「いつか一緒にやりたいね」と話はしていたんです。でもギター同士だから、なかなか機会もなく。そんな時に今回の出演オファーのお話があったんです。これも何かのめぐり合わせだと思うので、一緒にやることになりました。
他のメンバーは千葉広樹さん(Ba.)と石若駿くん(Dr.)。楽曲は僕と西田くんの曲を半分ずつで構成しています。千葉さんは西田くんのエレクトロニクス的な魅力と相性が良さそうだし、駿くんは僕と西田くんの中間にいつもいる様な人なのでお願いしました。千葉さんとちゃんと
バンドをやるのは初めてですね。
――ということは、ほどよい緊張感もありつつの演奏になりそうですね。
井上:僕は少し緊張感があった方が好きなんですよ。仲良すぎないくらいがちょうどよくて(笑)。仲良しすぎると内輪っぽくなっちゃうし。スパイスがあった方がいい。
角田:わかる。僕も今回のバンドはノー・ストレスと言ったけど、ものんくるの時は結構そういうところがあるかもしれない。いつもサポートしてくれる人はいるけど、なかなか全員が集まることは少なくて、誰かしら違う人にお願いしたりもします。その時に初めましての人だと緊張感はあるけど、一緒に音を出してハマった時の喜びもある。それに、自分自身も冷静でいられるんですよね。自分がゲストをお招きする立場になるので。だから、その緊張感は僕も好き。
――ところで今の話もそうですが、ジャズってサッカー的な楽しみ方ができると思いませんか?
井上:まさしく僕もそれを例え話で使うんですよ。バンド・メンバーを考える時にオフェンス・タイプの人もいれば、ディフェンス・タイプの人もいる。
角田:なるほど。オフェンスだけにならない様に気をつけたりとかね。
井上:オフェンスだけのバンドは自分が組むことはあまりないかもしれないけど、観に行くのはめちゃ好きですね。
――超攻撃型サッカー的な(笑)。
井上:僕は別にサッカーをやっていたわけではないけど、サッカーのポジションで考えるとミュージシャンを分析しやすいんですよね。自分はウィング・フォワードくらいかな。一番前ではない、と思ってます。ディフェンスは苦手なので。角田くんはミッドフィールダーにもディフェンダーにもなれるというか。
角田:今の話を聞きながら、自分はディフェンスだと思ってたけど(笑)。
井上:ものんくるでプレイする時、トップ下みたいな感じもあるんですよ。でもディフェンダーとしてのプレイもできて。
角田:その時にいるチームによるかもね。でもオフェンスに行くことはまずないと思うな。オフェンスに行くベーシストもいるけど。
井上:音楽やディレクションの出し方は中盤とかディフェンダーだけど、気持ちはめっちゃフォワードな感じ。そこが僕が角田くんの好きなところなんだけど。
角田:確かに「おまえ点取ってこい!」みたいな感じかも。
井上:頼もしいですよね。珍しいタイプだと思います。
角田:僕はサポートになると、なかなかそういう風になれないこともあるかな。そういう意味でも“TOKYO LAB 2018”は、僕は2バンドだけで、銘ちゃんは3バンド、安藤康平も3バンド、駿くんも3つ出る。それぞれのバンドでの役割の違いみたいなものを見ても楽しめるかもしれないですね。
――話を元に戻します。企画には“BEYOND JAZZ”というサブ・タイトルもありますが、現在のジャズについて思うことはありますか。
井上:これはそれぞれ意見が違うと思いますけど、「ジャズ」っていうものは、僕にとっては、「スピリット」なんじゃないかなと。例えば、ジャズの本なんかでよく「ビバップ(1940年代に誕生したジャズのスタイル)は、仕事終わりのミュージシャンたちがセッションをしていて生まれた」と書いてありますが、僕の感覚からすると、あんなに緻密な音階が連続するビーバップが、ただセッションしていて生まれたとは考えにくいんですよね。前にフレットレス・ベース奏者の織原良次さんにそのことを話したら、あれは音楽版のSteve Jobsみたいな感じなんじゃないかっていう話が出てきて。Charlie Parkerとかがすごい発明をして、それに才能のある人たちが着いていってできて音楽だと思うと言っていて、なるほどと思いました。確かにPCとかiPhoneとかってここ10年、20年で急激的な進化を遂げたと思うんですけど、当時は同じような発明だとか進化が音楽で起こっていたんだなと感じました。例えば、Miles Davisとかもすごいスピードで音楽を変えていったし。だから僕にとっては、ジャズって「まだ見えないものに向かって責任感を持って実験していくこと」なんじゃないかなと。「実験」という言葉はある種すごく便利で、人間がつい甘えたいときに使う言葉でもあると思うのですが、そこは甘えず、それぞれが責任感を持って。そういう意味で、角田くんのものんくるもジャズだと思いますし。
角田:とても勉強になります(笑)。確かにジャズという遺産を守るだけのものになってしまってはいけないとは思います。でも、ここでまたCharlie Parkerがやった様なチャレンジをして、あんな革命的なことをやったらジャズという名前ではなくなっているかもしれないね。だから僕のイメージする「ジャズ」という音楽はいわゆるビーバップだったりするし、それ以外のことをジャズと呼ぶ必要もない気もする。
井上:確かにそうだね。人によっては不快に思わせてしまうかもしれないし。だから名前の呼び方は難しいですね。
――では、皆さんが今やっている音楽はジャズではない可能性もある?
角田:僕はものんくるや新プロジェクトについて、ジャズだと思ってやってはいないけど、コミュニケーションの取り方はすごいジャズ的。だから自分としてはジャズの要素は僕の音楽にあると思ってはいます。
井上:それはあるね。ジャズメン的な音楽のコミュニケーションの仕方。スタジオ・ミュージシャンとはまた違う何か。それは、パス回しの仕方みたいなものかもしれないですね(笑)。ジャズ的なアンサンブルは割とパス回しの決まりが緩いことが多いと思います。だからこそ感動できるものが大きいということなのかもしれないです。
角田:「次どうする?」というのが、その時その時でプレイヤーに大きく委ねられている。そこにいるメンバー同士で作っていって、監督がいない様な感じもあるかもしれない。だから点が点が決まった時の喜びがある。でも、ルールを無視する人とかもいるから、オフサイドをすることもよくある、みたいな(笑)。
――ジャズメンが演奏中にニヤっと笑う場面もよくありますよね。
角田:あれにも色んな意味がありますよ。お互いが同じ様なことを考えて同じ動きをした時とか、逆に「ごめん!」みたいな意味だったり。基本的にジャズ・ミュージシャンは個人スキルが高いので、パス回しを見てるだけで楽しいんですよね。戦略的な鮮やかさというよりも、それぞれの動きがすごいしっかりしているから、そこがひとつの見せ場なのかなと。
――今年のT.O.C Bandはどうですか。
角田:まだ譜面を見ていないので何とも言えない感じですね。去年とはホーン・セクションのメンバーが変わっています。
井上:T.O.C Bandも去年の様な曲をやるとしたら、パス回しは結構緻密に決められているかもしれないね。メロディやハーモニーはすごくジャジーだけど、自由度で楽しむというよりも、それぞれが与えられた仕事をこなしていく楽しさがある音楽だと思う。緊張感もありますし、すごく刺激的です。
――ちなみに「T.O.C=TOKYO OLYMPIC CEREMONY」ということで、2020年の東京オリンピックで演奏するという事も標榜されていますが、それについては?
角田:そこは僕らは兵隊なので、指揮官にお任せしてます(笑)。
井上:「東京オリンピックで演奏するというのは、普通なら笑いごとだと思うアイディアですが、このメンバーでやれば挑戦できる」とプロデューサーの柴田廣次さんがインタビューで話していて。僕もそういう気持ちでいます。笑われちゃうんじゃないかな、ということを実際に口に出して行動していくのはすごい好きですね。
角田:言霊ってありますからね。
井上:国立競技場で演奏するのは楽しみですね(笑)。
【イベント情報】

SHIBUYA CLUB QUATTRO 30th ANNIVERSARY “QUATTRO STANDARDS” presents TOKYO LAB 2018

beyond JAZZ/beyond NEXT feat.KEIICHI TOMITA with T.O.C BAND
日時:2018年6月29日(金) 開場 18:00 / 開演 19:00
会場:東京・渋谷 CLUB QUATTRO
料金:¥5,000 (税込 / All standing / 1Drink別)
出演:
T.O.C BAND Feat.冨田恵一(冨田ラボ)
MAY INOUE×SHUTA NISHIDA presents MEETZ TWELVE
Tsunochin’s Optimiscape
Song Book Project
MELRAW

主催:TOKYO LAB 2018 実行委員会

後援:Amadana Music
制作:LDL LLC / LET LLC
制作協力:クリエイティブマン / PARCO co.,ltd / TWIN MUSIC
■イベント特設サイト:http://www.tokyolab.tokyo/

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