「臼井孝のヒット曲探検隊
~アーティスト別 ベストヒット20」
男女問わず幅広い年代に支持される
平井堅のヒットを探る

昭和から活躍する大スターにも通じる
1曲ごとに異なったTV演出

総合5位には2016年の40作目となるシングル「魔法って言っていいかな?」がランクイン。同作のCD売上は1.5万枚だが、配信は25万件以上で5位、カラオケでは4位と、こちらも「ノンフィクション」と同様のバランスのヒットとなった。

本作は、綾瀬はるかが出演するPanasonic 4KカメラのCMソングとなっている穏やかなラブ・バラードゆえ、配信やカラオケ部門でじわじわと人気を伸ばした。余談だが、本作をTVで歌う際の平井の自称“梓みちよ風”という艶のある茶系統の衣装や、巨人となった平井が街に虹を描くという構図のジャケットにもこだわりを感じさせる。楽曲ごとに全く異なる衣装や髪型、ジャケットでその世界を徹底的に体現しようとする姿勢は、昭和から活躍する大スターの沢田研二や中森明菜に通じるものがある(そういえば、平井堅は『ザ・ベストテン』にて中森明菜がご機嫌なのか不機嫌なのかを毎週追っていたほど、歌番組が好きだったという事をよく語っている)。

「魔法って言っていいかな?」
MV(Short Ver.)

また、本作がヒットしたのは、現代社会において自分を歪ませなければ生きられない自分との葛藤を激しいダンスビートのリズムに乗せて歌うという「グロテスク feat. 安室奈美恵」や、インド風ポップスに合わせて不倫関係を続けてしまう女性の心情をつづった「ソレデモシタイ」など、やや通好みの作品が続いたからこそ、ホッとできる作品が求められたのかもしれない(「ソレデモシタイ」はMUSIC VIDEOも最高!笑)。

「ソレデモシタイ」MV(YouTube Ver.)

ポップとダークに振り切った
シングルが2作ともヒット

2007年の初めに2ヶ月連続で発売された総合9位の「哀歌(エレジー)」と総合7位の「君の好きなとこ」も、彼のポップな部分とダークな部分をそれぞれ振り切っているのが見事だ。

「君の好きなとこ」はドラマ『演歌の女王』主題歌で、タイトル通り、相手の好きな部分を具体的に並び立てたミディアム・バラード。筆者の勝手な推測かもしれないが、これは「もしも自分が槇原敬之だったら」と想定して作ったのではと思えるほどハートウォーミングなタッチだ。

これに対し、「哀歌(エレジー)」は映画『愛の流刑地』主題歌で、女性主人公の死を覚悟するほどの激しい愛欲と対峙するかのように、《その手でその手で私を汚して 何度も何度も私を壊して》と平井自身も叫びにも似た絶唱を披露している。本人は「中島みゆき「うらみ・ます」風です」と自嘲気味に語っていたが、TVパフォーマンス時は暗黒と赤を対比したセットでまるで石川さゆり「天城越え」のごとく絶唱していたので、多分本気なんだと思った。

ちなみに、JOYSOUNDでの平井堅を歌う人の男女比はほぼ半々で、通常の男性歌手に比べて女性比率が非常に高い。これは高音が多いので女性の方がキーを合わせやすいということに加え、感情面を露わにした楽曲が女性にも支持されやすいということもあるような気がする。

ブレイク前の渾身のシングル
「Love Love Love」にも注目!

以上のようにTOP10をざっと見ただけでも、その多様さに驚くばかり。なお、TOP20にもまったく入っていないが、最後に1998年の7thシングル「Love Love Love」にも触れておきたい。

本作は「楽園」でのブレイク前で、まさに暗黒期の真っただ中だったが、あえてヒット路線を度外視して自分のやりたかったゴスペル調に仕上げたバラードだ。発売当時は有線放送や北海道のラジオでそこそこリクエストがあったので、少ない露出ながら、その力強いボーカルや壮大な楽曲の世界観に惹かれた人も結構いた気がする。だからこそ、ブレイク直後、様々なTV番組で最新曲ともう1曲歌う機会がある場合、本作も一緒に披露していたので、本人もこの歌をもっと多くの人に知って欲しかったんだろうなと切に感じた。

OKMusic編集部

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