《cinema staff飯田×アルカラ稲村の
ボーカル対談》レーベルの垣根を超え
たコラボEPに注いだ熱とリスペクトを
語る

cinema staffアルカラが、今年の4月1日のエイプリルフールに、お互いのオフィシャルHPより7人組バンド「アルカラcinema staff」として活動することを突如発表。しかし、真相は“cinema staff✕アルカラ”が6月13日(水)にスプリットEP盤「undivided E.P.」をリリースするというものだった。メジャーレーベルの垣根、そして先輩後輩の関係を超えて完成させたEP。この1枚には、対バンでしのぎを削り合ってきた真剣勝負の熱量や、一筋縄ではいかない遊び心など、これまでcinema staffとアルカラが築いてきた関係性と想いの全てが詰まっている。今回、SPICEでは、cinema staffの飯田瑞規(Vo.Gt)とアルカラの稲村太佑(Vo.)によるボーカル対談を実施。出会いのきっかけまで振り返りながら、なぜ今のタイミングで、それもスプリットEPだったのか。そして、リリース直後に共演するアルカラ主催のフェス『ネコフェス2018』について語り合ってもらった。2組のドラマと想いを紐解いていくと互いのバンドに対する溢れんばかりのリスペクトの念が明らかに。
――cinema staffとアルカラの出会いは、2009年9月に当時のShibuya O-Crestにて初対バンを行ったところから始まっていると。当時のこと覚えてますか?
稲村:あの時は軽い挨拶と、お互いのライブを観て感想を話したぐらいやったと思います。僕が20代後半で、cinema staffはまだ学生で20歳になった頃とかやったから、東京でライブをしてもすぐに帰らないといけなかったりしたのもあってね。打ち上げでゆっくり話すとかもできずでした。
飯田:そうでしたね。地元が岐阜とか名古屋だったので、日帰りで帰ってました。

cinema staff飯田×アルカラ稲村 撮影=高村直希

稲村:それも、大学のテスト中とかじゃなかった? そういうこともあって、その日はなかなかグッと近づけなかったんですけど、また後日に一緒にライブをする機会があって、そこから距離が縮まってツアーで呼び合う仲になりました。特にキッカケになったのが、シネマ主催の『two strike to(2) night~2013開幕版~』に出させてもらった時です。僕らからするとシネマは年下やから、イベントに呼んでくれたものの絡みにくいんかなとか勝手に思っていて。シネマはシネマで先輩やしどうしたらいいんかなって思ってたと思うから、まだぎこちなさはあったけど、打ち上げでお互いに腹を割って話してからは、一気に仲良くなってね。
飯田:それからアルカラが、鹿児島とか長崎、沖縄、それに台湾まで、いろいろな場所のライブに誘ってくれて。地方で誘ってもらえると打ち上げでゆっくりと話せる時間があるので、それでまたどんどん仲良くなりましたね。
――cinema staffは、2013年の自主企画やツアーでアルカラを誘おうと?
飯田:アルカラと対バンすると、毎回すごい刺激を受けるんですよね。アルカラのセットリストって、次の曲を0秒で始めたりして、セットリストとか曲間でお客さんの熱を冷めさせないやり方をとっていたりするから、ライブを観てこっちもセットリストとかライブのやり方を変えざるをえないぐらい、メンバー全員が影響を受けているんです。
――cinema staffのライブって、対バンで先輩とか後輩関係なしに食って掛かって倒しにいく物凄い熱量が魅力だと思うんですけど、アルカラに対しても同じ気持ちで?
飯田:いつもなら「相手を倒したい!」とか、「勝ちたい!」と思ってマジでやってるんですけど、アルカラに対してはそんな風に思わないんですよね。ただただ「吸収したい!」という気持ちの方が強い。エンターテイナーとしてはそれぞれのやり方があるけれど、アルカラのライブのスタンスだとか音に、とにかく近づきたい。もちろん、「俺達も負けてない!」という気持ちもありますけど、そんなふうに思うぐらいカッコいいなとリスペクトしていたんです。
稲村:そうやって言ってくれるのは、ほんとありがたいですね。こっちからすると、シネマは1曲に対して、メロディーや歌詞で押していくだけじゃなくって、「ちょっとひねくれてやろう」とか、一筋縄でいかないアプローチに力を入れてると思うんです。実はそれって、アルカラもそうで、そこは油断しないで作っている。だからこそ、お互いに曲を聴いて心躍ったり、何回聴いていても新しい発見だとか学ぶところがあるんだと思います。飯くん(飯田)が言ってくれたみたいに、「吸収したい」って思うし、「知らなかっただけで、こんなカッコいいものがあるんや」って思わせられる部分があるからこそ、リスペクトしながら共鳴しあってるのかなって凄く思いますね。
――スプリット盤をリリースすることになった、きっかけというのは?
飯田:きっかけは、対バン後の打ち上げとかで「いつかスプリット盤なんかをリリースできたらいいね」って。仲良くなれた頃にはすでにその話をしていたんですよ。とは言っても、お酒を飲んでる席の話ですから、その時はそんな話をしただけで、特にすぐ動き出したりしたわけじゃなくって。
稲村:まぁ、タイミングもあるし、お互いレーベルも違ってマネージメントとかがあって簡単なことではないですからね。
飯田:そのタイミングが、ようやく今かなと。cinema staffは、毎年春にアルバムをリリースしてきたんですけど、今までとは違うサイクルで今年は動きたいと思っていたんです。その時に、「アルカラと打ち上げでスプリットの話してたけど、あれ本当にできるかな」と思い立って、お願いすることにしました。
稲村:シネマチームが、スプリット盤をリリースするにあたって、すごく準備して知恵を絞って、力を貸してくれたんです。「あの時、話していた舟を作りましたよ! 乗りますよね!?」ってぐらいしっかりとした“舟”を準備してきてくれたので、僕らとしては乗るしかないでしょ。やりたいという気持ちだけで、そこまでできることでもないですからね。何より、アルカラはメンバーが欠けたりしたこともあって、次の一歩をどうするか考えていた時期だったので、こういうキッカケをいただけたのが凄くありがたくて嬉しかったんです。アルカラとしても未来を感じられる瞬間だった。シネマのベースの三島(想平)が言ってくれたんですけど、“アルカラのこの先を一緒に見たい”と。その時、今まで一緒にツアーしてきてよかったなと思えたし、次の一歩をどうしようか悩んでいた僕たちの背中を押してくれたように思います。“舟”と言うと物理的ですけど、精神的にも“あとは漕ぎ出すだけだよ”と言ってくれてるようで、もうやるしかないと。
飯田:自分たちは後輩ですけど、アルカラにメンバーが欠けたっていう事情があった時に、“なおさら今しかねえ!”と思いました。それからイメージを広げて、どんどん進めていけたので、お互いが影響し合ってようやく作ることができた作品なんだと思っています。
cinema staff飯田×アルカラ稲村 撮影=高村直希
稲村:後、個人的には仲が良いとかだけじゃなく、リスペクトし合える関係にある僕たちが、このタイミングでレーベルの垣根を超えた作品を出すということに意味があるなとすごく思ったんです。というのも、僕たちはスプリットとか、いくつかのバンドが集まったオムニバス式のV.A.作品が、色々なアーティストを知るきっかけだった世代なんですよね。昔は簡単にCDを出せないから、そういった形式の作品が多かったんですけど、今はインターネットで自分たちの表現とか音楽を自由かつ簡単に発表できる。だから、あえて抱き合わせて発表しなくてもよくなって、バンドの“核家族化”が起きている時代だと思うんですよ。それが悪いとは思っていなくて、むしろ表現のツールの幅が広がっていて良いと思うけど、あえてそういう時代やからこそやるべきだと思いました。結果的に、今作のリリースをキッカケにして、スプリットというやり方が半年後、1年後にでもみんなに真似されたらいいなと思います。
――それぐらい、自信のあるものができたと。
稲村:これを聴いてもらえたら、「今の時代にこの方法でやったら、ごっついエモーショナルやな!」みたいに、思ってもらえるはずです。お互いの新曲から始まって、お互いのカバーがあって、最後には全員で遊んだ曲が入っているのは、僕らがツアーで凌ぎを削う真剣勝負な部分であり、カバーはお互いでリスペクトし合っている部分であり、打ち上げみたいに皆で楽しんでいる両バンドの関係性が全部この1枚には入っていますから。ごっついエモーショナル。
―――なるほど! 1曲目に収録された、cinema staffの新曲「first song(at the terminal)」はアルカラへのリスペクトの気持ちが込められてますよね?
飯田:これはアルカラ目線の曲なんですよ。歌詞にある<2002年>というのはアルカラが結成した年。この曲は大きいエモさがあるというか、僕自身が泣きそうになりながら歌えるような曲です。最近の中では一番好きな曲で、それを新曲としてリリースできたことがまた嬉しいですね。ガッツリ、気持ちの面でハマってますね。
稲村:最初、まだ歌詞が無いデモでもらった時、「何の歌かよくわからないですわ!」って誤魔化されたんです。それが後々、歌詞を見ながら聴いた時に分かって、鳥肌が立ちまくりましたよ。「そうやったんか……」って。僕らのことをテーマにしてくれてはいるんですけど、それを一般的かつもっと大きな意味でもとれるし、それぞれ聴いた人が自分に当てはめられる日本語のロックの醍醐味があって凄くよかった。日本語ってリアルなようで、色々な意味でとれるじゃないですか。
飯田:含みがありますよね。
稲村:そこを想像させるところが音楽の魅力だし、聴き手の想像力を育てたり内面まで訴えかけるところが音楽の役目かなと。そこまで行きついていたので、これぞcinema staffの巧みな技だなと。
飯田:嬉しいですね。今作を作ると決まってから作り始めた曲で、それもアルカラの「サースティサースティサースティガール」を昨年のライブで観させてもらったからこそできた曲でもあるんです。初めて聴いた時にすごく衝撃を受けて…。イントロから鷲掴みにされて、そこからリズムが代わって、サビの感じはアルカラらしいけど聴いたことない新しさがあった。この曲を絶対にスプリット盤に入れてくるだろうと思ったから、「first song(at the terminal)」も思い切ってイントロから複雑にして、サビで突進していくようなイメージにして攻めました。アルカラの曲に影響されて変わった部分があるという意味でも、これはスプリットだからこそ作れた曲だなと思いますね。
cinema staff飯田×アルカラ稲村 撮影=高村直希
――どちらの新曲にも、お互いに対しての想いやこれまで築いてきたドラマがこもってるんですね。
稲村:シネマとアルカラの間には、ストーリーだとか想いがもちろんあったりするわけです。だけど、そのガイドラインがないまま聴いても並べて聴いたらグッとくると思います。その上で、1曲に想いやドラマがあってこその音楽で、“負けないぞ”って気持ちだとか、“こうくるだろうから、ああしてやろう”というのがカバーにはあったり。それから、“ファンの方にこう思ってもらいたい”とか、そういう色んな想いが約3分に込められてると知って聴いてもらえたら、また違ってくる曲になってるはずだと思います。
飯田:出来上がったのを聴いて気づいたのは、太佑さんと俺の声って合うんだなってことです。最後の「A.S.O.B.i 」のようにデュエット曲を作るのって相当難しいのに、ほんとに上手く作りこまれてますよね。あとは何より、ライブが想像できるところがいいですよね。それこそ真面目な真剣勝負のライブを散々してきたので、こういう楽しい曲をいつかアルカラとやれるのかって予感させられると、今はすごくワクワクしています。
稲村:一応、ツアーがあるのでそれまで置いておこうとは思ってるんですけどね(笑)。ただツアーで披露して、この曲が熟したとしても、またやりたいなと思える曲にはなったかなと思います。あるいは、ツアーを一緒に体験されたファンの方が、「またあの2バンドが揃うなら、あの曲をやるんじゃないか!?」みたいに、ワクワクできる種になってくれたらなとも思ってます。伝統芸能みたいに、みんなで分かち合える曲になればいいな。
cinema staff飯田×アルカラ稲村 撮影=高村直希
――スプリット盤をリリースして6月24日(日)には、アルカラ主催サーキットフェス『ネコフェス』が開催。今年もcinema staffの出演が決定しているので、それこそ何かあるんじゃないかと期待してしまいます…(笑)。何度も出演されていると思いますが、飯田さんから見て「ネコフェス」ってどんなイベントでしょうか?
飯田:「ネコフェス」はもう、すっげーいいイベント! 今年も呼んでもらえて嬉しいです。cinema staffも地元の岐阜で『OOPARTS』というフェスをやっていて、誰に出てもらうかってメンバー同士で話し合って作っているんですけど、すごく難しいんですよね。僕たちのイベントは7バンドぐらい出演するイベントで、それでも大変なのに「ネコフェス」はその何倍もの数のバンドが出てるから凄い。それも、だいたい太佑さんが直接電話で誘ってると聞いて、なおさら凄すぎると(笑)。いつもcinema staffは遅い時間からの出演が多いんですけど、今年はトップバッターなんで最高です。いろいろ観て回って、楽しみたいなと。
稲村:出演する約60バンドみんなが、自分のイベントのように思いながら楽しんでくれてるようなイベントなんですよね。そう言わしめてるのが、やっぱりcinema staffの飯田という男!(笑)。ある年の『ネコフェス』で、町にゴミを捨ててるヤツに、「お前のゴミのせいで、アルカラのイベントが台無しになるだろ!」って、彼は言ったんです。本人は覚えてないんですけどね(笑)。
飯田:言ったみたいですね(笑)。
稲村:そんなふうに思ってくれるぐらい、出演者も自分のイベントかのように思ってくれていて、あるいはその場にいるみんなが「アルカラと共にイベントを作ったんだ」と思ってもらえるぐらいどこか神秘的なぐらいキラキラした瞬間とか想いが溢れたイベントなんです。みんなキラキラしたもんが、やっぱ好きだと思うし、観たいバンドのいるライブハウスに向かって、ただ回るだけじゃなくって、その間もライブ中もずっとキラキラして欲しいなと思います。

cinema staff飯田×アルカラ稲村 撮影=高村直希

取材・文=大西健斗 写真=高村直希

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