熱狂と興奮を巻き起こした、寺下真理
子(ヴァイオリン)とSUGURU(ピアノ)の
熱い共演! 

“サンデー・ブランチ・クラシック” 2018.4.8日 ライブレポート
クラッシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう! 小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK! そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。4月8日に登場したのは、ヴァイオリニストの寺下真理子と、2ヴァイオリンとピアノのアンサンブルユニット「TSUKEMEN(ツケメン)」のピアニストとして親しまれているSUGURUだ。
5歳からヴァイオリンをはじめ、東京藝術大学附属音楽高等学校、同大学、ブリュッセル王立音楽院修士課程で研鑽を積んだ寺下真理子は、2004年に第2回東京音楽コンクール弦楽器部門第2位(ヴァイオリン最高位)を受賞し注目を集め、東京フィルハーモニー交響楽団大阪フィルハーモニー交響楽団をはじめ、多くの交響楽団との共演や、コンサート、リサイタル活動を展開。また、2013年にデビューCD、15年、17年と、コンスタントにアルバムをリリース。国内のみならず、韓国でもクラシック部門の週間1位を獲得するなど、多くの支持を集め、テレビ、ラジオ等にも積極的に出演を続けている。
また、SUGURUは、2010年桐朋学園音楽学部研究生を修了。それに先立つ2008年12月にアンサンブルユニット「TSUKEMEN(ツケメン)」のピアニストとして、東京サントリーホール・ブルーローズの2daysコンサートを完売の熱狂の中でコンサートデビュー。2010年に発売したCDアルバム『BASARA』でメジャーデビュー、今までに10枚のアルバムとマキシシングル1枚をリリースし、オリジナルアルバム7枚がクラシックチャートで1位を獲得。現在まで500本を超えるコンサートを開催し、のべ45万人を動員する活躍を続け、「題名のない音楽会」や、「僕らの音楽」に出演するなど、幅広い活動で支持を集めている。
そんな2人は、共にCDアルバムをキングレコードからリリースしていることが縁となり、2017年『美少女戦士セーラームーン 25周年記念 CLASSIC CONCERT』に参加した後、今回「サンデー・ブランチ・クラシック」に初登場するとあって、リビングルームカフェは満員の大盛況。開演を待つ観客の期待ではちきれそうな熱気の中、二人が登場。いよいよ演奏がはじまった。
寺下真理子(Vin)、SUGURU(ピアノ)
クラシックの大曲で聞かせる、それぞれの力強さ
最初に披露されたのは、ヴァイオリンの名曲として広く親しまれているクライスラーの「愛の喜び」冒頭から溌剌としたヴァイオリンとピアノの音色が響き渡り、軽快に進む。中間部ではヴァイオリンのメロディーはより美しく、ピアノはより軽やかに。歌うヴァイオリンにリズムを刻みながら寄り添うピアノに一体感があり、高らかに盛り上がった演奏に、客席からは大きな拍手が。1曲目とは思えないほどカフェの空気はヒートアップする。
寺下真理子
SUGURU
その喝采を前に、二人は自己紹介。SUGURUが久しぶりのクラシックですと語ると、寺下がカフェの客席を見まわし「女性のお客様が多い! SUGURU君のファンかな?」と微笑むと、男性のお客様が自分たちもいるよ!とアピールする様も。二人は同じレコード会社で、『セーラームーンコンサート』で共演以来、とても気が合っていると話し、SUGURUが「今日は真理子さんのパワフルで男前なヴァイオリンを楽しんでください!」と、寺下のヴァイオリンの魅力を的確に紹介。2曲目に大曲のラヴェルの「ツィガーヌ」が披露された。
寺下真理子(Vin)、SUGURU(ピアノ)
「ツィガーヌ」とはフランス語で「ジプシー」を意味する単語。西欧から離れた、スペイン音楽やジャズなどの技法を積極的に自作曲に取り入れていたラヴェルが、ハンガリーのジプシー音楽を素材に作曲した楽曲で、まず寺下のヴァイオリンが無伴奏のソロをたっぷりと奏でてはじまる。ジプシー音階が多用され、力強い和音が連なり、メロディーの魅力と共に、寺下のテクニックも発揮される中、ミステリアスなアルペジオでピアノが登場。ラヴェルならではの、幻想的な雰囲気が際立ってくる。ヴァイオリンとピアノが互いにソロのようでありつつ、見事に調和して鮮やか。音楽からはもちろん、演奏する二人の表情からも、豊かな表現力が伝わり、クライマックスに向けて互いに駈け上るようにフィニッシュを迎えると、カフェは大歓声に包まれた。
そんな喝采の嵐にやや照れたように微笑む寺下に、SUGURUが「この曲は、本来は2時間のコンサートのトリにくる曲だからね」と言うと、寺下が「しかも今日は時間が早いから……13時開演って、私にとっては早朝で……」と答え、場内には温かな笑いが広がり「音楽家は夜型なので」とSUGURUも笑い、更にカフェは和やかな雰囲気に満たされた。
寺下真理子
SUGURU
作曲家の想いがダイレクトに伝わる自作曲
ここから、二人ならではの自作曲の演奏となり、まずSUGURUの「SAKURA」が演奏される。自分にとって大切な人と別れたあとも、その人との楽しい記憶を思い出せれば、大切な人はずっとすぐ傍にいてくれる……そんな想いで、SUGURUが書いた曲だそうで、作曲家が楽曲に込めた想いが本人の口から聞けるのは、自作曲ならではの味わいだ。
その想いの通りに、SUGURUのピアノが繊細に語りかけるように奏でられると、寺下のヴァイオリンも密やかに唱和。どこか幽玄な趣きの、懐かしさと共に幻のような儚い美しさを持ったメロディーが次第に雄弁になり、ヴァイオリンの天に昇って行くような澄み切った高音が響き、音楽が静かに終わったあとも、しみじみとした余韻が長く残った。
SUGURUはこの曲を女性とコラボしたのがはじめてだったそうで「優しくて、桜が静かに散っていくような切なさを感じた。今の季節にピッタリでしたね」と自らも発見と感慨があった様子が伝わって来た。
寺下真理子
SUGURU
続いて寺下の自作曲「Home of Spirits」が披露される。迷った時には自分本来の姿に立ち返り、原点に戻って、どんな困難な時にも前向きに!という想いが込められているという楽曲に相応しく、寺下のヴァイオリンは豊かで幅のある音色で、メロディーを力強くたっぷりと届けてくれる。リフレインではピアノがメロディーをとり、ヴァイオリンは自由なカデンツを奏で、まるで歌詞のない歌を聞く思い。こちらも後奏に余韻を残して音楽が消えていくと、感嘆のため息と拍手が広がっていった。
鳴りやまぬ拍手を前に二人から、「実は1回も合わせていないぶっつけ本番だけど、30分があっという間だし、こんなに拍手も頂いているからアンコールやっちゃう?」という、あまりにも嬉しい申し出が。もちろん客席には更に大きな拍手が沸き起こり、なんと二人は楽譜なし! 本気のぶっつけ本番での、モンティの「チャルダッシュ」がはじまった。
ピアノの華麗な前奏に、寺下が入るタイミングを図っているのが伝わるのが、即興演奏の醍醐味を更に高め、ヴァイオリンとピアノがどこまでも自由に、アイコンタクトを交わしながらメロディーのスピード感をあげ溌剌と奏で合う様が、ジプシーの舞曲様式で書かれている「チャルダッシュ」の世界観にベストマッチ。楽曲が今ここで生み出されているような錯覚さえ覚えるほどで、この音楽に誘われて誰かが踊り出したとしても驚かなかっただろう。ヴァイオリンの張りつめた高音部から、華やかなフィナーレにかけてピアノもグリッサンドで呼応すると、もう待ちきれないかのように「ブラボー!!」の大歓声!! 熱気と興奮のるつぼの中、コンサートは幕を閉じた。熱狂と言って間違いない、40分間だった。
寺下真理子(Vin)、SUGURU(ピアノ)
寺下真理子(Vin)、SUGURU(ピアノ)

(右から)寺下真理子、SUGURU
お互いに学ぶものの多かった、良い融合の共演

圧巻の演奏を終えたお二人に、お話を伺った。
ーー大変な盛り上がりでしたが、演奏していて会場の雰囲気などはいかがでしたか?
寺下:お客様にとても近くで聴いて頂けるので、私達もそうでしたがお客様にも親近感を持って頂けたのかなと。普段のコンサートとは違う臨場感を楽しんで頂けたのではないか? と思っています。
SUGURU:1番はとても場所がオシャレなので、その雰囲気を楽しんでいました。クラシック系の音楽は、食事をしながら聴いて頂ける場というのがほとんどないので、僕としては楽に聴いてもらえるのがとても好きなので、その意味でもとても良かったなと思います。
ーーその中で、今日の選曲はどのように?
SUGURU:コンサートの名前が「サンデー・ブランチ・クラシック」で、毎週の企画ということなので、クラシックファンの常連の方もいらっしゃるだろうと思いましたので、定番曲をまず入れることと、ヴァイオリンとピアノですので、やっぱりヴァイオリンが生きる曲を。
寺下:いや、ピアノも一緒だよ(笑)。
SUGURU:うん、もちろんピアノもなんだけど(笑)、しっかりヴァイオリンの良さを見てもらえるように、と考えてラヴェルの「ツィガーヌ」は入れました。その上でせっかく僕らがコラボレーションさせてもらうのだから、各々が普段やっているものも出したいなというのがあったので、それぞれの自作曲も1曲ずつ取り入れました。あとは4月8日ということで、新年度のスタートでもありましたから、春爛漫の中で皆が明るい気持ちで新年度に向かえるようなプログラムを意識しました。
ーー寺下さんの「Home of Spirits」も人生の応援歌のような楽曲でもありましたね。
寺下:そうですね。SUGURU君はたくさん曲も書かれているのですが、私は自作曲が1曲しかないので、季節感では選べなくて(笑)、でも確かに新しい出発というものには、言われてみれば合うかもしれないなと思います。
寺下真理子
ーー勇気をもらえる楽曲だったと思います。今回の共演でお互いの魅力をどう感じていますか?
寺下:それはすぐ出てきますよ!
SUGURU:えっ? 本当?(笑)
寺下:普段はとっても癒し系の人なんです。しかも、音楽をしている時はカッコよくキマるなぁと思って観ていましたが、こんなに音楽を楽しんでいる人と初めて共演させて頂いたと思いました。そういう意味でもすごく学ばせて頂いていて、弾いていて彼のスピリットに助けられるんです。「あー、楽しかった!」といつも思えて。クラシックって、理詰めで考える部分というのはどうしてもあるので、弾いていてもそういう面が優先される時もあるのに、SUGURU君といると音楽を楽しむ、その本質のところを思い出させてもらえるので、とても感謝しています。
SUGURU:僕もいっぱいあるんですけど、真理子さんは楽譜に一つひとつ書かれている音符をすごく愛している人なんです。音符が書かれた意味とかを本当に突き詰めて考えていて。僕自身も学生時代はそういう勉強をしていたのですが、今、2時間のコンサートをもう500本以上やってきている中で、だんだん細かいところをあまり気にしなくなっていたなと。さっきスピリッツって言ってくれましたけれど、そういう自分の気持ちとか、演奏することが自分自身の言葉と思って弾いていて。でも彼女には音に対する裏付けがあって、ひとつの音に対して真摯に取り組んでいるんですね。それはやっぱり僕が学ばせてもらったことなので、お互いに良い融合があったのかなと。
寺下:そう、それはすごいものがあったと思います。はじめは私とSUGURU君って合うんだろうか?と、たぶんお互いに思っていたと思うんですけど、同じレーベルということもあって、「セーラームーン」のコンサートで弾く機会を経て、二人だけで弾くのは今回はじめてだよね?
SUGURU:うん、こんなにしっかりやったのはね。
寺下:それがいざはじめて見るとすごく新鮮で、私自身もとても楽しかったし、私の演奏をずっと聞いてくれている友人が「二人の演奏すごく良かった!」と興奮気味に言ってきてくれたり、「すごく好きでした!」と、たくさんの方に声をかけて頂けて。私達も楽しかったのですが、お客様にも楽しんで頂けたのかな?私達合ってるのかな?と思いました。
(左から)寺下真理子、SUGURU
ーー本当にカフェの熱気がすごかったです! お二人それぞれのファンの方も多くいらしたでしょうから、新鮮な感動も多かったと思います。
SUGURU:僕のファンの方に、寺下真理子さんという素晴らしいヴァイオリニストがいるということを知ってもらえたのは良かったです。どうしても、僕のファンには女性の方が多いし、真理子さんのファンには男性の方が多いのですが、それを越えて、音楽の楽しさを伝えられたら嬉しいです。また、僕たち「TSUKEMEN」の活動ではクラシックを弾くことがあまりないので、世に残された名曲を知ってもらう機会になったら良いなと。音楽でも映画でも、たぶんなんでもそうだと思いますが、時代を越えて残っているものというのは素晴らしいので、こうした機会に触れてもらって、両方を楽しんでもらえたらと思っています。だから、このコラボレーションはすごく良かったなと!
ーーまた、アンコールの「チャルダッシュ」の即興的な自由度がすごくて! 聞いていてゾクゾクしましたが。
寺下:本当ですか?
SUGURU:あー、良かった!
ーーあの場でのぶっつけ本番で、ステージでアイコンタクトをしながら、という臨場感は大変なものでした。
寺下:若干、どこで入れば良いんだろう?と思っていたんですけど(笑)
SUGURU: ちょっと長めに前奏弾くね、くらいしか言ってなかったからね(笑)。
ーー作曲家の方達が、自作曲をサロンで発表していた時には、まさにこういう雰囲気だったのだろうな、と思いました。
SUGURU:そういう意味では、僕、真理子さんのクラシックのCDは知っていたんですが、自作曲が1曲とは言えある、ということを知らなかったので、やっぱり書いてくれると、音楽からその人の内面が見えるんです。今言ってくださったように、パガニーニも自分で書いて弾くし、モーツァルトも自分で書いて弾いていて、当時の人達にとってはそれが自然な流れだったと思うので、これからもちょっとずつ関わっていきたいです。
SUGURU
ーーそうしますと、これからもお二人での活動も期待して良いのでしょうか?
SUGURU:まだ1回目ですけれども、リハーサルの時間も含めてとても楽しいものだったので、今日のようなバランスで、クラシックと自作曲も入れて、またお互いがいいと思う曲があれば、例えば映画音楽なども弾いてもいいんじゃないかな?と思いますので、そういうことができたら良いなと思います。
寺下:是非またこういう機会を作りたいね。きっと何かあると思う!
SUGURU:そうだね!
ーー新しい楽しみが広がります。また「サンデー・ブランチ・クラシック」にもいらしてください!
SUGURU:あぁ、もう、是非、是非!
寺下:喜んで!
ーーその日を楽しみにしています。ありがとうございました!
(右から)寺下真理子、SUGURU
取材・文=橘涼香 撮影=岩間辰徳

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