SHISHAMOインタビュー 止まらない進
化を記した最新作『SHISHAMO 5』が生
まれるまでを宮崎朝子が明かす

SHISHAMOの最高傑作は?」と聞かれたら、「一番数字の大きいヤツ」と答えておけば、まず間違いないだろう。新曲を発表するたびに、そしてライブを観るたびに、バンドの着実な成長を実感していたので、最新作が素晴らしい作品になることは予測していたのだが、『SHISHAMO 5』はその予想をはるかに超える素晴らしい作品となった。歌詞、メロディ、歌、演奏が一体となって歌の世界が強く深く届いてくるし、既発のシングル曲の充実ぶりを、未発表の新曲たちが凌駕していると感じる瞬間がある。これまでのSHISHAMOの先を行くような音楽が展開されており、新境地を切り拓いたり、歌の世界が深化していたり、歌とバンドサウンドの連動が絶妙だったりする。5年間で5枚というペースで作品をリリースしながら、毎回、前作を上回っていくのは決して簡単なことではないはずだ。どうやって、こんな作品を作り上げることが出来たのか。ギター、ボーカル、作詞・作曲の宮崎朝子に聞いていく。
――最新アルバム『SHISHAMO 5』の構想、イメージはいつ頃からあったのですか?
毎回言えることなんですが、アルバムが出た直後のタイミングで次のアルバムのことを考えていますね。『SHISHAMO 4』は全曲シングルになるものを作るというコンセプトがあって、どこを切り取っても「これがSHISHAMOです」と言える良いアルバムを作れたという手応えがありました。じゃあ次はどうしようかって時に思ったのは、とにかく『SHISHAMO 4』を超えるものを作るってことでした。
――前作を超えるためにはどんなことが必要だと?
アルバムって曲が主役じゃないですか。曲が集まって、アルバムになっているので、とにかく今できる一番いい曲だけを集めようと思って作りました。今までのアルバムだったら、いい曲が出来た、レコーディングしようってなってたところを、今回は、いい曲が出来た、でももっといい曲が出来るかもしれないって、そこからさらに粘って、たくさん曲を作りました。なので、今回はレコーディングしたけど、アルバムに入っていない曲もあったりしますね。
――この曲は入れようという判断の基準は?
言葉にするには難しいんですが、これは入れていいだろうというラインがあるんですよ。あとはバランスを見ながら。これは絶対に入れたいという優先順位の高い曲が何曲かあって、あとはこれを入れるなら、こういうタイプの曲も必要だなと判断して、作ったり。
SHISHAMO・宮崎朝子
――曲の作り方で変化してきたことはありますか?
作り方は変わらないんですが、3人とも出来ることが多くなってきているところはありますね。
――歌と演奏が一体となって歌の世界が伝わってくると感じました。
より歌のためのベース、ドラムになってきていると思います。歌詞を聴いて、聴いている人がその感情に共感するタイミングって、あるじゃないですか。歌詞で共感したときに、その共感をもっと強くするのは後ろに流れている音かなと思っていて。だから感情がギターやベースやドラムの音になったらいいなと思っていました。
――ライブを観るたびに、作品を聴くたびに、バンドが成長していると感じるのですが、日々の練習のたまものなのでしょうか?
そうだと思います。時間がある時は結構練習してますから。長いときは10時間くらいスタジオに入っています。4、5時間のこともありますけど。
松岡彩
――今作はシングル収録曲が7曲入っています。アルバムとしてまとめる時に、既発のシングル曲はどんな位置付けにありましたか?
7曲あったので、どれかは入れないという選択肢もあったんですが、カップリング曲も全部いいなと思っているんですよ。シングルも大事なものなんですが、SHISHAMOの活動の中でアルバムってとても大事で、1年に1枚出していて、1年間頑張ってきましたという結果報告みたいなところもあるので、カップリングだからというだけで入れないのは違うな、アルバムにふさわしい曲かどうかが問題だなって。カップリング曲も自分たちが考える基準を越えていたので入れました。
――1曲目の「ねぇ、」はいつ頃作ったんですか?
「水色の日々」と「ねぇ、」がカルピスウォーターの春と夏のCMソングになっていて、並行して作っていました。どっちが先に出来てもおかしくなかったんですが、曲が出来たのは「ねぇ、」が先ですね。
――2コーラス目にAメロのパートがないのも特徴的です。
最近、曲を短くしようとしていて。レコーディングで一番、大変なのが歌録りなんですよ。たっぷり時間をかけて録っていて、果てしない作業なので、いつもそれがストレスになっていて。だったら、曲そのものを短くしようという作戦ですね(笑)。純粋に曲としても無駄な部分は削ぎ落としたい、短くしたいというのもありました。「ねぇ、」に関しては、歌詞の内容も衝動的なものなので、あまりダラダラ歌うものではないですし。
吉川美冴貴
――CMのイメージに基づいて作ったのですか?
いただいた絵コンテに基づいて作りました。私はカルピスウォーターのCMが好きなんですが、特に夏のCMが好きなんですよ。恋愛ものにキュンとしていたという(笑)。今回も女の子が先輩に思いを伝えるCMになっていて、CM自体がかわいいものだったので、その物語を大事にしました。CMは15秒、30秒しか描けないので、描けなかった部分を歌で書けたらいいなと。春も夏もCMの内容は違うんですが、“伝える”というテーマは一緒だったので、そのキーワードから作りました。当初は「ねぇ、」を春のCMのつもりで作っていたんですが、先方から夏のCMソングはロックな感じがいいと聞いて、だったら、これは春じゃなくて、夏だなって。
――「あなたと私の間柄」は独特の味わいが魅力的な曲です。
自信作ですね。最初に自分の中で描いたものをアレンジも含めて、形にすることが出来ました。SHISHAMOの音楽っていろいろあると思うんですが、私が個人的に好きなSHISHAMOって、アルバムの未発表の曲でより際立つと思っていて。この曲にはその良さが詰まっていると思います。シングルじゃだせないし、こういう曲じゃなきゃ出来ない表現を詰め込めました。
――ふたりの関係を描いた歌詞も素晴らしいのですが、特に〝同じボディソープの間柄〟というフレーズ、見事ですね。
みんな、そこに食いつきますね(笑)。このボディ・ソープ、彼女が使っていたのを勝手に彼氏が使い始めた、という設定なんです。同棲している恋人同士の話なんですが、同棲という言葉を使わずに表したいと思ったときに、これかなって。この曲は主人公からではなくて、関係性から作りました。一緒に暮らしている恋人の曲が書きたいな、女の子が彼氏の帰りを待っている設定がかわいいかなって。しかも最後にはちゃんと帰ってくるという。起承転結があるのがSHISHAMOの歌詞のおもしろいところだと思うんですけど、そこをしっかり描けました。最後だけに出てくる大サビのメロディがあって、自分ではそこが特に好きです。ここがないと、状況を描いているだけの曲になるんですが、そうじゃなくて、一緒に暮らしているし、仲もいいんだけど、いつまでこうしていられるんだろうという不安もあって、そこまでちゃんと描けたのが良かったですね。
SHISHAMO
――演奏も気持ちのいいグルーヴがあって、独特の味わいもあります。
こういう演奏が出来るようになってきたのが、バンドが成長した部分かもしれないですね。
――キーボードを弾いているのは?
私です。曲を作った時にポロンと弾いたのが良かったので、そのままの形で入れてます。最近あまり弾いてないんですが、弾きたいなとは思っています。キーボード、難しいですけどね。
――「夢で逢う」は名曲です。ライブでやったら、きっと、号泣する人が続出しますね。恋人じゃなくても、もう二度と逢えない人が夢に出てきて、衝撃を受けた経験のある人には響く歌だと思います。そもそもはどんなきっかけから生まれたんですか?
私自身の実話が元になっています。昔、私が好きだった人が夢に出てきて、パッと起きて、そのままベッドの上で作った曲なんですよ。ただし、作るきっかけになっただけで、こういう思いをしている人はたくさんいるんじゃないかなと思って書きました。
――最初のAメロで主人公が失恋から立ち直りつつあるのかなと思ったら、いきなりの展開になって。この構成も見事です。
夢って、立ち直った頃や忘れた頃に見ちゃうものなんですよ。で、夢を見たことによって、全然忘れてなかったんだと気付くという。だからとてもせつない曲ですね。
――“あなたが欲しかったんだな”というフレーズがダイレクトに響いてきました。
自分の内部の奥深くにある気持ちなので、普段はそういう感情の存在に気付くことってなくて、この夢を見るまでは他の誰かにいこうとしていているんですが、夢を見て、自分の潜在的な気持ちに気付いた時に、誰でもいいわけじゃなかったんだな、あの人だったんだなって気付くという。
宮崎朝子
――間奏のギター、感情が渦巻く感じが見事に表現されています。
この夢を見て起きたときって、多分いろんな感情が湧いていると思うんですよ。混乱してたり、自己嫌悪だったり。そうした様々な感情が頭で流れているのを音で表現しました。衝撃的な音にしたくて、ハウリングにもこだわりました。EVOを初めて使ったんですが、爆音で耳が壊れるかと思いました(笑)。
――3人の演奏もいいですよね。この曲も主人公の感情の流れとバンドサウンドとが連動していると感じました。
ふたり(松岡と吉川)がどういう気持ちで演奏していたのかはわからないんですけど、歌に引っ張られているところはあると思いますね。この曲は特にそうなんですが、歌詞を見るだけじゃ、わからない部分があって、3人で演奏した時の私の歌い方によって、こういう演奏になっているとこはあるのかな。歌を感じながら演奏してくれているのかなと思います。
――「あの娘の城」は歌詞の世界も演奏もソリッドでスリリングです。この曲はどんなきっかけから作ったんですか?
きっかけは覚えてないんですが、SHISHAMOがこういう曲をやるのはいいかなと思いますね。他の曲もそうですけど、自分の書く曲の主人公が好きで、この曲の女の子もかわいいなと思っています。怖いと思う人も多いと思うんですけど、これだけの気持ちを持っているのに、きっと彼氏には言ってないんですよ。前の女とこの部屋に住んでいたんでしょって思いながら、毎日、悶々としているという。そういうところがいじらしいというか。
――サウンド的にはSHISHAMOのロックな面が全面に出ていますが、演奏はどんな感じで?
全力でした(笑)。頭もドラムが結構暴れているんですが、録りながら、「もっと行こう」、「もっと行こう」という感じでやってました。こういう発散できる曲を3人でやるのはやっぱり楽しいですね。
松岡彩
――「同窓会」はリアルかつコミカルな歌詞が魅力的な曲です。これは?
「同窓会」をテーマにした曲を作りたいとずっと思っていたんですよ。私は行ったことがないんですけど、同窓会って、なんかロマンがあるじゃないですか(笑)。中学のときの話なんですが、男子が女子に意地悪したときに、「お前ら、20年後くらいに同窓会で会ったら、女子がきれいになってて、みんな、マジでビビるからな。男子は同窓会、楽しみにしてたほうがいいぞ」って担任の先生が言ってて。その言葉がずっと自分の中に残っていたことがこの曲に繋がったのかもしれないですね(笑)。あと、男の子目線の曲を久しぶりに書きたかったというのもありました。
――やはり主人公が男子と女子とで違いますか?
違いますね。女の子と男の子って、考え方が全然違うので、そこがおもしろいところではありますね。男の子が前に付き合っていた女の子と同窓会で再会するんですが、どこかで期待している部分があるんですよ。女の子はそういうことはないと思うんですけど(笑)。まだ自分を好きな気持ちがあるんじゃないかと期待しながら同窓会に来る男の子の甘さ、調子よさ、こっけいなところが曲に出たらいいなと思って書きました。あと、モヤっとした感じとか(笑)。
――最後の“さよならあの頃の二人”というフレーズは、向かえるべき結末という感じですね。
ここで男の子もやっと気付いたのかなって。ここまで甘かったというか。同窓会の日になって初めて、終わっていたことに気付いたということですよね。
――ファンキーで多彩なリズムに乗っての演奏もいいですね。
こういう歌詞の曲が作りたいという気持ちと、こういう曲調の曲を作りたいという願望が別々にあって、それを合体して作った曲ですね。曲調としてやりたかったのは個々の楽器が活躍している曲。4つ打ちの曲って、SHISHAMOはあまりないので、4つ打ちにしたかったんですが、よくあるものではなくて、ちゃんと4つ打ちの意味のある曲にしたいと思って作りました。こういう曲だからこそ、いろいろと遊びを入れられて楽しかったです。ただし、演奏はかなり難しいので、苦戦しましたけど。
吉川美冴貴​
――「私の夜明け」はパーソナルな曲でありながら、聴く人それぞれの胸の奥まで届く普遍的な名曲です。これは?
他の曲の場合はマンガや小説を読んだり、ドラマを観たりする感覚で楽しんでもらいたいという気持ちで、フィクションとして作っているんですが、この曲だけは作り方が違うというか。物語として作るときは、歌詞を書きながら、自分が主人公に取材をしている感覚があって、この娘はこういうときどう思っているんだろうって、わからない部分を聞くことを想像して書いているんですが、この曲はフィクションじゃない本物の気持ちを書かなきゃ届かないのかなと思って、今まであまり書いてこなかった、自分が普段思ってることを書いた曲ですね。
――そういう作り方に踏み込めたのはどうしてなんでしょうか?
「明日も」という曲の存在も大きかったかもしれないですね。「励まされてます」とか「この曲を聴いて、毎日、頑張ってます」って言ってくれる人が多くて、とてもうれしくて。あの曲はそういう風に作った曲じゃなくて、川崎フロンターレのサポーターの人の日常の物語を想像して作った曲なのに、みんなが自分のことに当てはめてくれたり、応援ソングにとして聴いてくれたりしたことがうれしかったんですよ。それで、聴く人のそばで寄り添ってあげられる曲がほしいなと思って作りました。そういう曲を1曲、ちゃんと形にして残したかったですし、自分にとっても大切な曲になったし、聴く人にとっても、多分、ずっと大切にしてもらえる曲になるんじゃないかと思います。
SHISHAMO
――“生きることは傷つくこと”というフレーズもいいですよね。
これがわからない人もいるとは思うんですよ。本当に真面目だったり、損をしがちだったり、毎日を一生懸命生きている人には、伝わる曲だと思いますけど。真面目な人って、サボれないじゃないですか。どんだけ落ち込んだとしても朝はくるので、そうしたらちゃんと仕事に行くし。結局、どれだけ落ち込んだところで、仕事に行けちゃう自分、ちゃんとやれちゃう自分をコンプレックスだと思っている人の歌ですね。疲れたから休もうって思える人じゃない。ある意味、タフなのかもしれないですけど(笑)。
この曲って、流れとしては、帰り道から始まるんですが、夜中から明け方になって、朝になって、音も最後に朝になるイメージで演奏しています。アレンジは難しかったですね。ライブでは3人だけでやっているんですが、レコーディングでは3人だけにはしたくなくて、でも何かを入れるとなったときに、豪華にはしたくなくて。夜中にひとりでいることとか、歌詞の持っている寂しさが主役になっている曲だと思うので、その寂しい気持ちを音で表現したいなと思っていて。チェロ1本というのはいい選択だったと思います。チェロの演奏、素敵でした。
――最後にラララのコーラスが入っているところなど、みんなで共有出来る歌になっていますよね。
こういうネガティブなことを描いている曲なので、明るく終わらないと、聴いているほうも前向きになれないなと思って。ネガティブにするだけして、ほったらかしにしたら、いけないので、この終わり方にしました。
――この曲が完成して、メンバーやスタッフはどんな反応を?
実はこの曲は1コーラスだけは先に作っていて、その時点ではこの曲のことを誰も気に留めてなくて、自分の中でボツにしていたんですが、本当にボツにしなくてよかったなって思っています。その後、掘り出して、フルで作ったときに、この曲の持っている良さが開花して、完成したら、みんな「すごいのが出来た」って言ってくれました。
――宮崎さんの思いを描いた歌であると同時に、SHISHAMOの他の二人の気持ちにも当てはまりそうだし、聴いている人の思いを代弁する歌にもなっているのではないですか?
SHISHAMOを5年やってると、お客さんも同時に成長して、前まで学生だった子が就職していたりして、頑張っている声を聞く機会も増えてきたんですよ。お手紙もよくもらうんですが、「仕事が大変で」って書いてくれている子もいるので、そういう子にちゃんと届けたいなと思いました。結局、どんなに落ち込んでも、自分はまだやれるんだって気付くことがとても大事で。この曲を聴いた時に、“それでも私は今日ちゃんとやれるんだ”って感じてもらえたらうれしいですよね。
SHISHAMO
――MVも驚きでした。1カメで1シーンをずっと宮崎さんを撮り続けていますが、どんな意識でカメラの前にいたのですか?
ワンカット、ノー編集なんですが、歌詞の内容って、普段、自分が考えていることでもあるので、そういう言葉を思い浮かべていました。曲もずっと流しっぱなしでしたし。MVはお気に入りです。夜中に眠れなくて、ひとりになりたくなくて、ファミレスに行ったりする子っていると思うので、そういう雰囲気が出せたんじゃないかなって。
――『SHISHAMO 5』が完成して、改めて思ったことは?
すごくいいアルバムになったなと思いました。自分が好きなアルバムだし、自分の好きな曲をたくさん入れられたし、曲の振り幅がいつものアルバムよりも広いので、今まで知らなかったSHISHAMOを知ってもらうことが出来るんじゃないかと思います。
――5年で5枚作ったことになります。このペース、自分ではどう感じていますか?
早いなと思いますね。まだ23歳なのに、もう5枚も出しちゃったよって(笑)。
――ほぼ1年に1枚ずつのペースで、こんなに素晴らしい作品を生み出し続けているところがすごいなと思います。
まだ大丈夫ですね(笑)。こういうのって、いつ自分が描けなくなるのかもまったくわからないことなので、いい曲を作れるうちに、たくさん作りたいです。
――5周年以降のことを考えたりは?
いえ、今は等々力(7月28日開催『SHISHAMO NO 夏MATSURI!!! ~ただいま川崎2018~』)に向けて集中するだけですね。これまでの5年間のSHISHAMO、これからのSHISHAMOをしっかり見せられたらと思っています。

取材・文=長谷川誠 撮影=上山陽介
SHISHAMO

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