polly『Clean Clean Clean』ツアーフ
ァイナル 研ぎ澄ませた唯一無二の音
と感性を"満月の下"で放つ

polly 1st Full Album Release Tour「Clean Clean Clean」

2018.6.10 青山 月見ル君想フ
雨の6月10日、夕刻。洒落たアパレルショップやギャラリーが軒を連ねる青山の街は閑散としていて、どこか空虚にも映る。だが、そんな日にこそ何かしっくりくるバンド、pollyのツアーファイナルを観に、青山 月見ル君想フへ向かった。
彼らにとって初のフルアルバム『Clean Clean Clean』を携え、東名阪をまわった今回のツアー。会場限定盤を除けばおよそ2年のインターバルを経てリリースされた同作は、フロントマンの越雲龍馬の音楽性や志向性を徹底して突き詰め、歪んだ轟音の合間から美しいメロディラインをなぞるファルセットボイスが響いてくるというサウンドのアプローチから見ても、ざっくりとしたジャンル分け的にも、シーンや同世代とは明らかに他と一線を画す作品であった。果たしてライブではそのあたりがどう表現されるのだろうか。
polly 撮影=梅田厚樹
男女ツインボーカルでツインギターを分厚く重ね、時に甘美で時にダークなオルタナ・インディロックを繰り出した、17歳とベルリンの壁。全身白の装いに仮面を付けて登場するや、奇妙な動きとメタリック✕デジタルな音で現実から逸脱させていくようなパフォーマンスを見せたShe, in the haze。対バンの2組も、なかなかに個性的で“濃い”。音楽の方向性としてはあまり重なりがないようにも思えるが、観客たちがいずれのバンドにもしっかりとリアクションをしていたのが印象的だった。
転換中のBGMとして流れていたニルヴァーナの「RAPE ME」のボリュームが上がり、暗転。ステージの背後には、大きくこのハコの象徴=満月が浮かび上がる。エレクトリックなSEは以前観たときとは違っていて、立ち位置も変わっていた。越雲が一番上手(かみて)、中央には高岩栄紀(Dr)、その横に須藤研太(Ba)、一番下手(しもて)側に飯村悠介(Gt/Syn)。全員が若干ステージの中央へと身体を向けて半円を描くような布陣だ。一音ずつゆっくりと越雲が爪弾くギターの音が、やがてアルペジオのフレーズになり、それが「生活」のイントロになったかと思うと、たちまち歪んだ分厚い音が場内を満たす。が、決して耳障りでも音圧で迫ってくるわけでもない、思わず身を委ねたくなるような、ジワジワと細胞に作用していくような心地よさがある。越雲のボーカルは近からず遠からずの距離感で漂ってきて、アルバムで彼が目指したバランスがしっかり再現されている。
polly 撮影=梅田厚樹
「pollyです。美しい夜を」。呟くように告げ、「美しい」へ。この曲でノリを作るのは須藤のベースだ。飯村がシンセに向かい、高岩はパッドも入れながらどっしり構えたプレイ。サビや間奏こそノイジーではあるものの、シンセポップやダンスミュージックの要素も大胆に取り入れたアレンジは、彼らが単にシューゲイザーのみに終始するバンドではないことを如実に物語る。音が止んでボーカルがグッと前に出る瞬間があった「花束」では、それまで一定の距離感で鳴っていた歌声が息遣いの分かるほど近く感じられ、その生感もいいアクセントになっていた。フロアを見るとじっとステージを見つめながらユラユラと身体を揺らすくらいのリアクションがほとんどだが、それは盛り上がっている/盛り上がっていないという話ではなく、思わず息を詰めて対峙せざるを得ないようなシリアスさと、渦を成す轟音が誘う陶酔ゆえだろう。
polly 撮影=梅田厚樹
「(生まれてからの)25年ぶんかけて作ったアルバムのリリースツアーなので、僕にとって一番大事な日にしたいです。みなさん力を貸してください、よろしくどうぞ」
一階席と二階席の間あたりだろうか、おそらく何もないであろう場所をジッと見つめるようにして、ポツリポツリと越雲が言う。「自信作なんだけど、かっこいいだろ? 盛り上がってる? もっと盛り上がっていこうぜ!」とかは言えないし、言いたくもない。こういうところに彼の、pollyというバンドの性格が出ていると思う。自分の音楽に自信はあるし、それが届いてほしいと心底願っている、反応だって気になるのに、それを目の前の客席に面と向かって投げかけたり問うことはしない。そのぶん、音に乗せる。実際、上記のMCのあとは、情感の増した歌声とドラマティックな展開で圧倒した「刹那」、軽やかでさえある変拍子が唐突に凄絶なエンディングを迎える「不在」と、アグレッシヴな演奏が続いた。
polly 撮影=梅田厚樹
ライブの後半には、今回のアルバムでもこの日のセトリでも一番古い曲だという「知らない」で、真っ赤に染まる場内にこれぞシューゲイズという爆音を放ち、「バースデイ」ではヘヴィロック然とした重心の低いサウンドの上で高音域を掻き毟る飯村のギターが冴えを見せる。そのまま「狂おしい」へと雪崩れ込めば、ここまで内に溜め込んだ熱量を、会場中が一気に放出。ダーティにうねりまくる歪んだベースとスクエアなビートによる狂気的な疾走に、フロアのいたるところから拳が突き上がった。
polly 撮影=梅田厚樹
最後のMC。音楽をやっていて良かった。音楽がないと生きていけない。まわりの人とは音楽で繋がったから、素晴らしいものを残さないと、まわりが離れていくんじゃないか?という怖さ、孤独感……相変わらずの調子で、感情の切れ端を並べるようにではあったけれど、越雲はおそらく本音を口にしていた。そして、「何かが終わるから、何かが始まるんでしょうね。今日この曲が終わったら何かが生まれると信じて、やりますか」と続け、「東京」を演奏した。
以前インタビューしたとき、越雲は「自分の声は冷たいと思う」と言っていたけれど、こうして聴くとそんなこともないように思う。ひときわ優しく大らかな響きをもった「東京」での歌声には、ツアーへの名残惜しさや音楽で人と繋がることを希求する祈りにも似た何かが、確かに込められていた気がしたのだ。
polly 撮影=梅田厚樹
アンコールでは、加入1年にしてすっかりバンドの外交面も担っている須藤が1人で出てきて、そこそこグダグダになったあと3人が登場、すっかり和やかなムードに。ひとしきり話したあとには新曲を披露して、特徴的かつ重厚なビートがゆったりとループする上でとてもパーソナルと思しき心象が描かれる「717」を最後に演奏して、ステージを降りた。
彼らが心血を注いで作り上げた『Clean Clean Clean』。潔くも(新曲を除けば)全てそこからの曲しかやらなかったことの意味やその音楽的価値は、少なくともこの日の会場を埋め最後の一音までじっくりと聴き入っていた観客たちには、ちゃんと届いたはずだ。そこから生まれる新たなつながりが、また新たな音楽となり、どこまでも繋がっていくことを望む。

取材・文=風間大洋 撮影=梅田厚樹
polly 撮影=梅田厚樹

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