写真左から水﨑淳平さん、中島かずきさん

写真左から水﨑淳平さん、中島かずきさん

『ニンジャバットマン』海外の観客の
評価は「ふざけんな!」(笑)水﨑淳
平監督×中島かずきインタビュー

『ニンジャバットマン』がいよいよ公開。監督は、いま、アニメ界に旋風を巻き起こしている神風動画の水﨑淳平。脚本は「劇団☆新感線」の作家にして、数々の名作アニメにも携わってきた中島かずき。2人はDCコミックのスーパーヒーローをどのように昇華したのか?話を聞いた。

世界中の誰もが知るあの“バットマン”と、海外で日本文化を象徴するアイコンと言っても過言ではない“ニンジャ”を組み合わせたアニメーション映画『ニンジャバットマン』がいよいよ公開された。
この記事の完全版を見る【動画・画像付き】
メガホンを握ったのは、いま、アニメ界に旋風を巻き起こしている神風動画の水﨑淳平。
脚本は「劇団☆新感線」の作家にして、数々の名作アニメにも携わってきた中島かずき。2人はDCコミックのスーパーヒーローをどのように“日本化”し、世界へと発信したのか?
そのプロセスについてたっぷりと話を聞いた。
『ダークナイト』シリーズによる新機軸の『バットマン』や『アベンジャーズ』をはじめとするマーベル・シネマティック・ユニバースの展開など、確かにアメコミ原作の映画に対する認識や受け入れ度は、日本でもここ十年ほどで格段にアップしたと言える。
だが、バットマンが日本発のオリジナルアニメーションとして製作され、戦国時代を舞台にバットマンとジョーカーが刀を交える日が来るとは誰が想像しただろうか?
バットマンが戦国時代にタイムスリップするアイデアはどのように生まれた?――今回の企画がお2人のところに持ち込まれた経緯は?
またバットマンとジョーカーをはじめとするヴィランたちが戦国時代にタイムスリップして戦うというアイディアはどのように生まれたんでしょうか?
中島:ワーナーさんから、日本のアニメチームで、日本オリジナルで何かできないか? という話があったそうで、『ニンジャバットマン』というタイトルは、僕のところに話が来た時点で既にありました。
アメコミも時代物、どっちも好きなので「ぜひ!」とすぐにお受けして、忍者といってもいろんな展開はありますが「バットマンが日本の戦国時代にタイムスリップした方がいいですよね」という話をすぐにしたんですよね。
話があってすぐの打ち合わせで、概ねのプロットはできたというくらい、乗ってました(笑)。
バットマンのガジェットがすごく好きだった水﨑:プロデューサーの里見(哲朗)さんから「日本で『バットマン』やるよ」という話をいただいて、まだ確定じゃないけど、脚本は中島さんに…という話は聞いてました。
僕自身、『バットマン』はティム・バートン版からきちんと見始めたんですが、バットモービルとか装備のガジェットが大好きで、バートン版で登場した流線型のモービルもすごく好きでした。
ちょうどその頃、ホットトイズで6分の1サイズのバットモービルが売ってて、この話が来た時は「参考資料として経費でこれが買える!」って思いました(笑)。
バットマンは超人ではないヒーロー――もともと、「バットマン」についてはどのようなイメージを?
中島:子どもの頃にリアルタイムでアダム・ウェスト主演の「バットマン」は見てました。アメコミが好きで、バットマンがポップなヒーローではなく、ダークヒーローだというのもわかってましたが、30歳前にアメリカに行ったとき「ダークナイト リターン」の原書を見つけて、バットマンがヴィジランテ(※司法によらない自警的な存在)で反体制的に描かれてて、スーパーマンが国家側でバットマンを止めるべく対立するという構図に「アメコミはここまで描くのか!」と衝撃を受けました。
最近のシリーズもシリアスな感覚は強いですが、すごく幅が広いイメージはありましたね。
水﨑:僕は先ほど、ティム・バートン版からと言いましたが、アダム・ウェストのTVシリーズも横目で見てそういうカルチャーがあることは把握してました。
だから、バートン版はある意味で、リブートに見えたんですよね。
もともとのイメージはウェスト版のポップでユーモラスな身近なヒーローという感じで、自分の意志で戦う、超人ではないヒーローで、ガジェットやギミックで乗り越えていくスタイルに憧れは持ってました。
アメコミにファンキーな良さが最近ない気がしてた――今回の日本発の『ニンジャバットマン』は、この「バットマン」シリーズの中でどんな位置づけにある作品で、どのような“爪痕”を残せたとお感じですか?
中島:クリストファー・ノーラン的なシリアスなのもいいんだけど、アメコミの幅というのはそればかりじゃなくて、アダム・ウェスト的なファンキーな良さが最近はない気がしてました。
陽気な方のバットマンの活劇の世界もいいんじゃないかと。
彼自身はいつもシリアスなんだけど、周りが陽気で、特にジョーカーは最近、哲学的なヴィランになってるけど、そうじゃない陽気な愉快犯の部分を出せたらと。
特に、日本でやるなら思い切り、振れ幅を広げて楽しいことをできればと思いました。
――確かにバットマン自身のキャラは常に変わりませんね。それなのに、シリーズによって作風がここまでシリアスか陽気かに振れるというのはすごいことですね。
アメコミなんだから、過剰にした方が面白いよね
こちらとしては丁重に「日本のアニメの世界にようこそ」とお迎えしたつもりです。中島:こちらとしては丁重に「日本のアニメの世界にようこそ」とお迎えしたつもりです。
キャラクターの本質は変えずに、周りの状況があまりにおかしくなってるからこうなるよね、というのを提示しました。
キャラそのものを変えてしまうのは、僕らのエゴになってしまい、失礼ですから。あくまでこういう状況に放り込まれたら、バットマンもこうなるんじゃないの? というのを描いてます。
水﨑:僕の意見もだいたい、中島さんがおっしゃってくれた通りです。
ノーランのバットマンもカッコよくて好きだけど、あれはノーランの表現手法でこう捉えましたというもので、決してあれが元のバットマンではないというのはありました。
あとは、呼ばれた(スタッフの)顔ぶれを見て「なるほど」と察するところはありましたね(笑)。
――求められているのはこういうバットマンだろうと?
水﨑:自分の一番得意なところに持ち込めばいいのかなって。
中島:それは里見プロデューサーの意思ですよね(笑)? 過剰な監督と過剰な脚本家と、過剰なキャラクターデザイン(※「アフロサムライ」の岡崎能士)が…。
水﨑:日本人の感覚という点で言うと、英語圏の人って日本に来ても日本語に対応せずに英語でゴリ押しするイメージがあるじゃないですか?
バットマンも最初、バットモービルを持って、自分のガジェットで立ち向かっていく。そこは重なるところはありましたね。
――そこから日本の文化に順応していく姿まで描かれてますね。
水﨑:そこで一度、挫折するアメリカ人ですね(笑)。
日本が誤解されたら面白い(笑)――浮世絵のような色合いであったり、外国人が好きそうなテイストがたくさん盛り込まれていますね。
水﨑:ほかの案件でアニメ作るときは、ああいう色合いにはしないです。
そういう意味で、過剰に日本を推した部分はありますね。
ハリウッド映画に出てくる、間違った日本の描写って面白いじゃないですか。あれを僕らが発信することで、日本が誤解されたら面白いなって(笑)。
中島:キミたちの誤解は間違ってる! 本当の日本人が日本人を誤解するってこういうことだ! というのを出せればいいなと(笑)。
――海外の観客は本当に日本を誤解したまま理解してしまうかもしれませんが…(笑)。
水﨑:あなたたちは日本をこう思ってるでしょ? というのをさらに拡大して、自虐的に(笑)。
ただ「誤解されたままでいいのか?」ということに関しては、時代が時代なので、映画を見ながらSNSでライブで意見を交換するようなスタイルが標準化している中で、「あれはわざとだよ」と解説してくれる英語圏の人も必ずいるだろうと。
それを見越して、情報が交換されるうちに、我々の真意も浮き彫りになるだろうからと、あえて劇中ではツッコミを入れてないんです。
他人の解説を聞いて、もう一度、見たくなるだろうと、繰り返し見てもらうのを想定して作った部分もあります。
アメコミなんだから、過剰にした方が…中島:アメコミなんだから、過剰にした方が面白いよねという。
打ち合わせでも、僕が何か言うとそれに対して水﨑さんも岡崎さんもただ(アイディアを)足していく(笑)。その過剰さが我々の武器じゃないかと。
水﨑:こういう意見が出て、「いや、そうじゃない」じゃなくて、みんな、ただひたすら乗っかっていくんですよ(笑)。
中島:「だったら、こうしよう」って。
水﨑:それをワーナーやDCに説明し、説得する人たちが大変だったと思います(笑)。
中島:英語で「城が…」とか「猿がね…」とか(笑)。向こうにしたら、何言ってるかわかんないと思うけど、とにかくそういうことだからと。
頭おかしいですよ(笑)、水﨑さん――今回、初めて一緒に仕事をされてみて、互いの印象やすごさを感じた部分は?
中島:頭おかしいですよ(笑)、水﨑さん。名言があって「90秒も90分も一緒」と。
神風動画のいつもの90秒の密度を崩さずに作り上げた85分。
「妥協は死」(※神風動画の社訓)を体現する人なんだなって思いました。
水﨑:(「頭おかしい」に対し)あなたに言われたくないという返しが必要ですかね(笑)?
初めての打ち合わせのとき、アシスタントの方が、中島さんの言うことをホワイトボードに羅列していくんですけど、どんどん置いてかれていく感じで…。
次々と物事が決まっていくのに、自分は何も足跡を残せてないという焦りがありました。
トイレに行くと、戻ったら既に進んでるんですもん(笑)。
引き出しの多さと理由付けのスピード感がすごいですね。僕も早い方だと思ってましたが、その5倍くらいのスピードの人がいました…。
あと、中島さんは否定しないひとですね。「違う」とか「そうじゃない」と言わず「それはそうかも」と受け入れる。
ご多忙なので、直接会える機会は多くなかったんですが、その中で「ここはカットしないと」という部分もあって、現場はどんどん進んでいくので、相談なしでいじる部分もあったんですけど、見せに行くと許容してくださるんです。
「これは正直、僕なら怒るな」という場面でも怒んないし、いろんなところに同行させていただいているんですが、まず「ありがとうございます」という言葉が先に出てくるんですよ。
中島:苦労してきたからね(笑)
水﨑:劇中のキャットウーマンのセリフで「女の気の迷いを許せる男は素敵」というのがあるんですけど、僕にはそのスケールはないなと。やはり、いろんな経験が…。
中島:脚本家と脚本の中身は同一じゃないから(笑)!
水﨑:中島さんの価値観が反映されているのかと(笑)。僕じゃあんなセリフ思いつかないですから。
中島:でも否定したくないというのはありますね。どんどんONしていく。
打ち合わせで一番大事にしてるのは、楽しいこと、ドライブ感があることですね。
みんなが(意見を)投げてくれるのが楽しいし、「ダメ」じゃなく「こうしたらどう?」というのが好きです。
神風動画としての大きな挑戦
神風動画としての大きな挑戦――神風動画としても、今回の作品は大きな挑戦だったかと思います。
水﨑:「無理かも…」という思いは片隅にありましたね。
正直、途中で降りる可能性もあるかもしれないと。ただ、きちんと保険を担保しないといけないなと思ってて、そこは前半の20分くらいで一度、バットマンが負けるところまでの部分。
打ち合わせでも「そこをひとつの区切りに」という話はさせてもらいました。まず、そこを作ってみて、そこまで行けば、あとはできるだろうと。そこまでまとまって作れたので…。
――中島さんは、完成した作品を見てどのように感じられましたか?
あるシーンがすごい!この人は、こういうものをぶち込んでくるんだ? と。中島:あるシーンで、それまでとはガラリと作風が変わるところがあるんですけど、すごい! と思いましたね。
この人は、こういうものをぶち込んでくるんだ? と。
僕自身が一番やりたかったシーンなので、それをわかってもらえて、やってくれたのでしびれました。
水﨑:「土はいい」というセリフがあるんですけど、それが割と初期の打ち合わせの段階で出てきて、中島さんがすごく大事にしてるのを目の当たりにしていたので、「ここは絶対に切っちゃダメ!」と(笑)。
中島:(全体から見たら)バランスは悪いんだけど…。
水﨑:そのバランスのいびつさが個性になると思っていました。
中島:不安はあったけどアメリカでも「面白い」と言ってくれる意見が多くてホッとしましたね
水﨑:「トムとジェリー」が日本で放送されるとき、無理に30分に収めるために、真ん中に別の実験的アニメが入っていて、それがスパイスとして効いていて、すごく好きだったんです。
「まんが日本昔ばなし」も、2話構成でしたけど、1話目はちゃんとエンタメして、アニメしてるけど、2話目に急におどろおどろしい作風の物語が出てきたりしてたじゃないですか?
あぁ、これだと思いました。そういうのが急に入ってきても、日本人は見慣れているから、こういうスタイルは大丈夫だろうと。
――画だけでなく、アクションの動きも、日本的な動きも取り入れられていて、印象的でした。
水﨑:あれは実際に動きを撮っているんです。殺陣を自身で演出されるアクション監督と若手のアクターさんにバットマンとジョーカーを演じてもらってます。
刀の扱いに慣れたバットマンと刀の経験がないジョーカーがこの状況で戦い、ジョーカーは天才肌で、戦っていくうちに習得し、後半、強くなっていく。
そういう細かい状況をお伝えして、2~3週間の検討期間を設けて、動きを作っていただきました。(劇中の戦いの場である)お城の屋根を想定して、スケボーのハーフパイプの施設で動いてもらって。
モーションキャプチャではないんですが、その動きを録画し、それを見ながらコンテを作りました。
海外の観客の評価、感想は「ふざけんな!10点」「ふざけんな!1点」ですね(笑)――お2人の元に届く海外の観客の評価、感想はどのような声が多いですか?
中島:賛否のどちらであれ「ふざけんな」ですよね(笑)?
水﨑:「ふざけんな!10点」「ふざけんな!1点」ですね(笑)。
中島:平均は5点だけど10点か1点ばかりで…
水﨑:アナハイムでのプレミアの時は、最初、卵が飛んでくるんじゃないかと心配でフライパンを用意しておこうかと…。
中島:知事選の時にシュワルツェネッガーが卵をぶつけられて「ベーコンを持ってこい!」と返したというエピソードを聞いて、おれたちはご飯を持って行って、しょうゆかけて卵かけご飯で食べようかと。
それを見たら「こんなやつらが作ったならしょうがないか」となるんじゃないかって。でも、幸いそんなこともなく、こちらが笑ってほしいところで笑ってもらえましたね。
水﨑:笑いのポイントが(日本と)同じだったのは、逆に意外な反応だったかもしれませんね。

アーティスト

ウレぴあ総研

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着