宇多田ヒカル

宇多田ヒカル

【宇多田ヒカル インタビュー】
デビュー20周年を飾る
“二度目の初恋”

前作アルバム『Fantôme』から1年9カ月、デビュー20周年を迎えた宇多田ヒカルが通算7枚目のアルバム『初恋』をリリース。そこで歌われているのは切なくも力強い、いくつもの“始まり”と“終わり”だった。

タイトルの“初恋”は1stアルバムの『First Love』を想起させます。初の日本語によるアルバムタイトルで、しかも言わば“二度目の初恋”ともとれますね。

そうなんです。「初恋」という曲が完成して、そろそろアルバムタイトルをと考えていた時、ふと“あれ? 『初恋』でいいんじゃない?”と閃いて。自分でも象徴的なアルバムタイトルになったと思います。

「Play A Love Song」の歌詞の一部は、ご自身も出演された清涼飲料水のCM撮影の際に浮かんだそうですが。

雪の中にいたせいか、《長い冬が終わる瞬間》というのがパッと浮かんで。前作の『Fantôme』には喪に服しているような緊張感があったけれど、今回はそこからの雪解けというか、春が訪れたような生命力や開放感へと向かっていたので。これは今回の全ての曲に通じるんですが、《長い冬が終わる瞬間》というのは、それが良かろうが悪かろうが“全てはいずれ終わる”という考えにつながっていて。諸行無常という分かりやすい仏教の言葉があるけれど、それを理解し受け入れることは、そんなに簡単なことじゃないよねっていう。今回はそういう想いが詰まったアルバムでもあって。

確かにいくつもの“始まり”と“終わり”が詰まったアルバムだと感じられました。

そう感じてもらえたら嬉しいです。「初恋」という曲も恋の始まりとも終わりとも取れるように書いています。初恋とは自覚した瞬間から、それ以前の自分の終わりでもあるし。

「初恋」はかつて「First Love」を書いた宇多田ヒカルが、今“初恋”を描くとこうなるのかという考察においても興味深い一曲です。

そうやって比較ができること自体、面白いですよね。

「Too Proud featuring Jevon」は官能的な曲ですね。

今回のアルバムの中でもかなりお気に入りの上位です。最初に設定を設けて、そこから勢い良く書き上げることができました。聴いた人がどれくらいその設定に気付いてくれるのか、ちょっと心配しているんですけど。

これは端的に言うと“セックスレス”について描いているという解釈で合っていますか?

そうそう。それを男女両方の目線から描いた曲です。

このテーマに着手した動機とは?

理由のひとつは、もちろん海外でもまったくないわけではないんですが、特に“日本で多い”という事実を知ったからでした。しかも、これってセックスに限った話ではなくて。ある程度の自尊心が確立されていれば、仮に信頼している相手から決して意図的にではなかったにせよ、傷付けられたり、一時的に受け入れられなかったとしても、そこで“自分に価値がないからだ”とか“もう駄目だ”なんて思わず、また相手に向き合えると思うんです。でも、そこに怖さを強くはらませてしまう空気が、どこか今の日本にはあるような気がして。

Jevon(ジェイボン)について教えてください。

ブラジル系のルーツを持つイギリス育ちのラッパーです。自分がセンスを信頼している周囲の人たちに“最近、誰か好きなラッパーいない?”と訊いたら彼の名前が挙がって。適度にやんちゃなんだけど、品性もあるところが気に入って、ほとんど直感でオファーしました。

「Good Night」は8月公開のアニメーション映画『ペンギン・ハイウェイ』の主題歌ですが、この曲もまた美しいメロディーで“始まり”と“終わり”が歌われていますね。

歌詞もまさに《Hello》と《Goodbye》ですもんね。当初、映画の制作サイドからは“登場人物のお姉さん目線の曲を”とオファーされていたんですが、原作を読んでみたら主人公の少年の目線で書きたくなって。理解しきれない謎をはらんだ年上の女性が突然いなくなる。そのあとに取り残された少年。“まさに私の得意の設定じゃん!”と気付いたら、一気に歌詞が書けました(笑)。

「パクチーの唄」からは「ぼくはくま」以来のインパクトを受けました。

実は10年くらい前から温存していた曲で、どう仕上げたらいいのかがずっと分からなかったんです。でも、小袋成彬くんとの制作のやりとりの中で、ある日、世間話からこの曲の話になって、歌って披露したんですよ。そしたらもう“……”という顔をされて。

彼の気持ち、ちょっと分かります(笑)。

“は? 何言ってるの、こいつ?”という無言の表情が(笑)。でも、その後、“こんな感じのコードとかどうなの?”と投げかけてくれて、ようやく完成に至りました。

ちなみにどうして“パクチー”だったんですか?

単にパクチーが好きで、カレーとか鍋とかにいっぱい入れていたから。「ぼくはくま」と同じようなノリですね。書いた時期も近かったかもしれない。すごく気に入っています!

「夕凪」の作詞ではかなり悩まれたそうですね。

本当は『Fantôme』に入れようと思っていたんですが、上手く書けなかったんです。実際、これは「人魚」(『Fantôme』収録)の頃まで自分を戻して、その延長で書かなきゃ駄目だと覚悟しました。

ラストの「嫉妬されるべき人生」は、このアルバムの中でも特に小説的な要素が色濃い歌詞だと感じられました。

パーソナルなようでいてフィクション性の強い、私小説のような歌詞ですよね。私にとっての理想型と言えるカップルをイメージしました。

この『初恋』は宇多田さんにとって、どんなアルバムになったのでしょうか?

『Fantôme』とはまた違った重さを備えた、これまででもっともパワフルなアルバムになったと感じています。

取材:内田正樹

アルバム『初恋』2018年6月27日発売 EPIC Records Japan
    • ESCL-5076
    • ¥3,240(税込)

『宇多田ヒカル CONCERT TOUR 2018』

11/06(火) 神奈川・横浜アリーナ
11/07(水) 神奈川・横浜アリーナ
11/14(水) 福岡・マリンメッセ福岡
11/15(木) 福岡・マリンメッセ福岡
11/22(木) 愛知・日本ガイシホール
11/23(金) 愛知・日本ガイシホール
11/28(水) 大阪・大阪城ホール
11/29(木) 大阪・大阪城ホール
12/04(火) 埼玉・さいたまスーパーアリーナ
12/05(水) 埼玉・さいたまスーパーアリーナ
12/08(土) 千葉・幕張メッセ国際展示場 9~11ホール
12/09(日) 千葉・幕張メッセ国際展示場 9~11ホール

宇多田ヒカル プロフィール

ウタダヒカル:1983年1月19日生まれのシンガーソングライター。98年12月発表のデビューシングル「Automatic/time will tell」はダブルミリオンセールスを記録し、そのわずか数カ月後にリリースされた1stアルバム『First Love』はCDセールス日本記録を樹立。未だその記録は破られていない。10年に“人間活動”を宣言し一時活動休止期間に入ったが、16年4月に配信シングル「花束を君に」「真夏の通り雨」のリリースによってアーティスト活動を本格始動し、同年9月に発表した6枚目のオリジナルアルバム『Fantôme』は自身初のオリコン4週連続1位や全米のiTunesで3位にランクイン、CD、デジタルあわせミリオンセールスを達成するなど、国内外から高い評価を受けた。17年EPICレコードジャパンに移籍。18年にデビュー20周年を迎え、オリジナルアルバム『初恋』のヒットや久々のコンサートツアーなどで全国のファンが沸いた。宇多田ヒカル オフィシャルHP

宇多田ヒカル
アルバム『初恋』

「初恋」MV(Short Ver.)

「あなた」MV(Short Ver.)

OKMusic編集部

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