Ⓒ UniversalPictures
1.『レディ・バード』
瑞々しい疾走感、痛々しいまでに必死な青春。
見えないものに向かってひた走りながら、漠然と考えていた。
私はいつ、どこで、どうやって飛ぼうか、飛ぶのだろうか。
そう思いながら田舎で過ごしていたティーンエイジャーの自分と重なった。
この映画は、かつての自分の物語だ。
恋をして夢を見て、何度も周りとぶつかって、また走り出して。
「どこかで飛ばなきゃ」
はやる気持ちを抱えながら、明日を夢見たことのあるすべての人の物語。
『フランシス・ハ』『20センチュリー・ウーマン』などで知られる女優グレタ・ガーウィグが初の単独監督作としてメガホンをとった本作。自身の出身地カリフォルニア州サクラメントを舞台に、自伝的要素を盛り込みながら丁寧に描いた。アカデミー賞では5部門、ゴールデングローブ賞では4部門にノミネートされ作品賞&主演女優賞に輝いた。話題作なだけあり、一般公開前から試写は連日超満員。早くも熱い絶賛ラブコールで沸いている。
片田舎でカトリック系の女子高に通い、自らを「レディ・バード」と呼ぶ17歳のクリスティン。高校生活最後の年を迎え、大都会ニューヨークへの大学進学に憧れるが、母とは衝突ばかり。友人、ボーイフレンド、家族、そして自分の将来。悩み、揺れ動きながら、自分なりの答えを精一杯見つけようと奮闘する。
—東京に行きたい、行かなきゃ。
そう思い立って、田舎を飛び出したかつての自分。
自分と他人、夢と恋、理想と現実、大人と子ども。
ティーンの頃、いつも何かと何かの狭間で揺れていた。
とても無知で、それから、とても真剣だった、助走が全力だったあの頃のこと。
「今、飛ばなきゃ」
“最高の私”になるために、明日に悩み迷ったことのあるすべての人の物語。
 
▼Information
『レディ・バード』
6月1日(金)全国公開
監督・脚本:グレタ・ガーウィグ
出演:シアーシャ・ローナン、ローリー・メトカーフ、トレイシー・レッツ、ルーカス・ヘッジズ、ティモテ・シャラメ、ビーニー・フェルドスタイン、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ロイス・スミス
配給:東宝東和 
公式HP:http://ladybird-movie.jp
 
Ⓒ 2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.
2.『万引き家族』
『誰も知らない』『奇跡』『そして父になる』『海よりもまだ深く』…。
これまで、様々な“家族のかたち”と“子どもの眼差し”を描き続けてきた是枝裕和監督の最新作であり、「この10年間考え続けてきたことを全部込めた」と語る渾身作『万引き家族』。先日、第71回カンヌ国際映画祭【コンペティション部門】にて、最高賞のパルムドールを受賞したことでも話題にのぼった。
東京の片隅に取り残された、今にも壊れそうな平屋に治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀の4人が転がり込んで暮らしている。
彼らの目当ては、この家の持ち主である初枝の年金だ。足りない生活費は、万引きで稼いでいた。冬のある日、近隣の団地の廊下で震えていた幼い女の子を、見かねた治が家に連れ帰る。体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として育てることにする。だが、ある事件をきっかけに家族は引き裂かれ、それぞれが抱える秘密と切なる願いが次々と明らかになっていく─。
教養も甲斐性もないが、情深い父、親から受けた傷と、歪ながらも母性を同じ心に抱える妻、一風変わった家族を飄々とまとめる祖母。リリー・フランキー、安藤サクラ、そして樹木希林という素晴らしい演者陣。さらに、これまでに見たことのなかった表情と突出した存在感を見せつけた松岡茉優や、新しく瑞々しい光で家族を照らした子役の城桧吏、佐々木みゆの。
全員の眼差しが、この家族の暮らしにある種の説得力をもたせていた。
正直、映画の中で描かれることに正しさなどなかった。
万引きは犯罪だし、その行動に困り、傷つく人がいるのも確かだ。
だけど、この嘘偽りばかりの人々の暮らしを前に、心が震え、動いたのもまた、紛れもなく確かだった。何度も流れた涙が、それを隠せないと言っていた。
その震え方も動き方も、この涙が一体どこから来たのかも、上手く言葉にできないけれど、観るものを体験したことのない気持ちにさせた物語の余韻に思う。
社会の海の底を漂う見落とされる日常、決して明かしてはならない秘密と願い、犯罪でしか繋がれなかった家族の許されない絆が問うたもの。
それは、人が人に向ける眼差し、心の通い。
家族や他人という括りを越えた“人と人とのつながり”とは一体何なのだろうということだ。そこに、正しさというものはあるのだろうか。
あの家族の暮らしを、ラストシーンを反芻しながら、未だにその答えを探している。
▼Information
『万引き家族』
6月8日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
脚本・監督:是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、城桧吏、佐々木みゆ/樹木希林
配給:ギャガ
 
Ⓒ Lucía Films S. de R.L de C.V. 2017
3.『母という名の女』
救いの手と見せかけて、奪われる育児のイニシアチブ。
あれよあれよと “母という女”は、若い娘からあらゆるものを奪っていく。
そして、そんな“母”に立ち向かうのもまた、“若き母”である。
そこにタイトルの意味を再確認する。
母性とは何なのか。母娘の絆、その関係性。その理想は幻想? 何が異常で、何が正常か。
母を持つ娘であり、また娘を持つ母であり、そして何よりも“女”である身としては、今一度考えずにはいられなかった。
見晴らしのいい海辺の一軒家に、姉妹2人暮らし。
なんらかの事情があるのだろう、両親はいない。
家事と仕事を一身に請け負う姉と、17歳という若さで同い年の恋人との子どもを妊娠した妹。そこに疎遠だった母親が戻ってくる。
幸せの象徴とも言える出産を機に、さあ母と娘の絆、再生!などとはいかない。
ただならぬ予感をつきまとわせながら、親子の新生活が始まる。
『父の秘密』『或る終焉』などの作品で名を馳せたメキシコの鬼才ミシェル・フランコ。手放しのハッピーエンドではなく、人間の内側にズームしたサスペンスフルな展開、その不確かさや不完全さを訴えかけるような生々しさ、そして、えも言われぬ後味。
今作もまた、そんなフランコ監督の持ち味を終始感じていた。
母子ものでありながら、いつしかサスペンスにも、スリラーにも、もはやミステリーにすら感じるその語り口。緊張と衝撃のラストシーン。
人間の、女の、恐ろしさを感じながらも、
人間である限り、女である限り、「ありえない!」とは言い切れないことがまた恐ろしかった。
母は強く、女は怖い。
そして、それを真正面から突きつけるこの映画はもっと怖い。
▼Information
『母という名の女』
6月16日(土)より、ユーロスペースほか全国公開
監督・脚本・製作:ミシェル・フランコ
出演:エマ・スアレス、アナ・バレリア・ベセリル、エンリケ・アリソン、ホアナ・ラレキ、エルナン・メンドーサ
配給:彩プロ
宣伝:ポイント・セット
 
Ⓒ 2018「焼肉ドラゴン」製作委員会
4.『焼肉ドラゴン』
「こんな日は明日が信じられる。たとえ昨日がどんなでも、明日はきっとええ日になる」
或る日には赤い夕焼けを見上げ、また或る日には桜に吹かれながら、繰り返された同じ言葉。二度目はいくつもの想いが重なって、より重く、たまらなくこの胸を貫いていた。
激動の時代、激動なのは時代だけじゃない。
壮絶な日々、それぞれの葛藤が交錯する一つの家族の歴史と生き様。
閉じた瞼の裏、流れた涙がと一際熱く感じた。
高度経済成長に浮かれる時代の片隅、万国博覧会が催された1970年。小さな焼肉店「焼肉ドラゴン」を営む亭主・龍吉と妻・英順は、関西地方都市の一角で静花、梨花、美花の三姉妹と一人息子・時生の6人暮らし。
失くした故郷、戦争で奪われた左腕。辛い過去を抱えながらも、毎日のように常連客や幼馴染も集まる店内で、賑やかな日々を送っていた。そんな「焼肉ドラゴン」に、次第に時代の波が押し寄せてくる―。
鄭義信作・演出の舞台『焼肉ドラゴン』。朝日舞台芸術賞グランプリ、読売演劇大賞および最優秀作品賞など数々の演劇賞を受賞し、再演の度に演劇界で熱狂的な支持を受け続ける名作だ。そんな一流の演出家鄭義信自身が、60歳にして映画初監督として挑んだのが、本作だ。
「小さな焼肉屋の、大きな歴史を描きたい」その言葉通り、70年代の時代の記憶、人々のぬくもり、明日を生きるエネルギーで溢れる人生讃歌の物語。
日本と韓国の素晴らしいキャスティングのもと、演劇に負けない熱い映画が新たに生まれた。
同じ屋根の下で同じものを食べていても、分かり合えないことがある。
北へ南へ散り散りになっても、同じ気持ちでいることができる。
ある意味での「まとまりの悪さ」にこそ、強く強く"家族"を感じた。
生まれた家族、育った家族、そしてまた、新たに生む家族。
そこに見るのは、血の繋がりではなく、絆だった。人と人の中で、人と人の間で生きていくことの意味を考えさせられる、絆の繋がりだった。
▼ Information
『焼肉ドラゴン』
6月22日(金)より全国公開
原作・脚本・監督:鄭義信
出演:真木よう子、井上真央、大泉洋、桜庭ななみ、大谷亮平、ハン・ドンギュ、イム・ヒチョル、大江晋平、宇野祥平、根岸季衣、イ・ジョンウン、キム・サンホ
配給:KADOKAWA、ファントム・フィルム
 
 
5.『ガザの美容室』
髪を切り、染め、整えて、指先には彩りを、まつ毛はぐっと空に向けて。
それぞれの日常の中で、それぞれの事情を抱えながら、美しくなりゆくいくつもの女の横顔。
他愛のない会話、他愛のない毎日を送るんだ。
だって、「私たちが争ったら、外の男たちと同じじゃない」。
争いの絶えない世界を背に、彼女たちは彼女たちの方法で「抵抗」をする。
それは、ただ今日を、ただ今を生きることを続けること。
パレスチナ自治区、ガザ。クリスティンが経営する美容院は、女性客でにぎわっている。離婚調停中の主婦、ヒジャブを被った信心深い女性、結婚を控えた若い娘、出産間近の妊婦。皆それぞれ四方山話に興じ、午後の時間を過ごしていた。しかし通りの向こうで銃が発砲され、美容室は戦火の中に取り残される——。
「戦争中であっても、彼女たちは常に人生を選択している。僕たちは“虐げられたパレスチナの女性”ではなく、人々の暮らしを、死ではなくて人生を描かなきゃならないんだ」
作品の舞台、ガザで生まれ育った双子の監督タルザン&アラブ・ナサールの言葉がいつまでも胸を打つ。
いのちの危機と隣り合わせの生活の中で、つとめて平静に自分たちの暮らしを生きようとする彼女たちのいくつものまなざしが、揺れる髪が、震える指先が衝撃的にその現実を伝えていた。
「美容室」と言う限られた空間で彼女たちの日常を追体験することで、私たちは想像をする。彼女たちが“生きている”という実情の中で、私たちはヒリヒリと想像をするのだ。
そして、自分たちの暮らしの中で、その横顔をふと、思い出す。
例えば口紅を塗り直しながら。マニュキアを塗るたびに。
▼ Information
『ガザの美容室』
6月23日(土)新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開
監督・脚本:タルザン&アラブ・ナサール
出演:ヒアム・アッバス、マイサ・アブドゥ・エルハディ、マナル・アワド、ダイナ・シバー、ミルナ・サカラ、ヴィクトリア・バリツカほか
配給・宣伝:アップリンク

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