BUZZ THE BARES 原点回帰にして新た
な一歩を踏み出した、10年後を見据え
たバンドの会心の一撃

今回のインタビューでも言っているとおり、GOOD4NOTHINGlocofrankといったメロディックパンクバンドに影響を受けながら、メッセージ色濃い日本語の歌詞も織りまぜ、“泣きの新世代メロディックパンクバンド”という独特のポジションをBUZZ THE BEARSは築いてきた。2016年10月にインディーズデビューから数えて10年という節目を迎えた彼らは、新たな名刺代わりになる『BUZZ THE BEST』というベストアルバムをリリース。以来、ライブ活動に精力を注いできたが、この5月23日に、まさに待望という言葉がふさわしいフルアルバム『THE GREAT ORDINARY TIMES』をリリースした。テーマは前作の『Q』から一転、原点回帰だったという。そこからもこの2年、彼らが精力的に取り組んできたライブ活動が実りあるものだったことが窺える。とは言え、単純に彼らが影響を受けたというメロディックパンクを鳴らしただけではない。そこは前身バンドから数えて16年のキャリアを持つバンドだ。バンドの持ち味をストレートに表現しながら、『THE GREAT ORDINARY TIMES』の全13曲はそれぞれに聴きごたえあるものになっている。もちろん、彼らは新たなチャレンジも忘れてはいない。10年後を見据えたバンドにとって、『THE GREAT ORDINARY TIMES』が新たな一歩となることは、新作について語る3人の言葉からも明らかだ。
楽しいノリで作れたら、それが一番いいんじゃないかって。大元にそれがあったから、詰めるところはしっかり詰めて、それがこれまでで一番、納得できる作品になった要因の一つだという気がします。(桑原)
――ミニアルバム『Q』からは2年8ヶ月ぶりですが、フルアルバムとしては4年8ヶ月ぶりとなる『THE GREAT ORDINARY TIMES』がリリースされましたが、どんな作品になったという手応えがありますか?
越智健太(Gt, Vo):これまでで一番いいのができました。
桑原智(Dr, Vo):1曲1曲の納得度が今までよりも断然、高くて。
越智:ほんま単純に、“ええのできたな”って堂々と言えるものになったと思います。
桑原:16年10月に『BUZZ THE BEST』というベスト盤をリリースしたのが、インディーズで1枚目のCDを出してから10年という区切りやったんですけど、それだけやってきた中で、何回もレコーディングさせてもらって、その度に“ああでもない。こうでもない”っていろいろやり取りしてきた中で、僕らに必要なものと必要ないものがなんとなくわかってきて。作っているといろいろな意見が出るんですけど、“めっちゃええやん”って楽しいノリで作れたら、それが一番いいんじゃないかって。大元にそれがあったから、詰めるところはしっかり詰めるんですけど、“いいね”っていう判断は、“おお、ええやん。ええやん”ってところで作っていこうっていう、そのテンションですかね。それがこれまでで一番、納得できる作品になった要因の一つだという気がします。作っていると、毎回、ケンカとまでは行かないんですけど、“いや、俺はこっちのほうがいい”とか、“いやいや、こっちのほうがいい”とか、それぞれに意見が出てきて、最近はもう、そんなことはないですけど、いいものも良く思えないような空気になることも昔はあったんですよ。そういう時期を経て、みんなで一個いいものを作ろうとしているんだから、そこの話し合いさえ楽しくできればスムーズに行くことは今回みんなわかってたし、もういい大人だし(笑)。
池田大介(Ba, Cho):一歩退いたところから見られていたんじゃないかな。そこからいい感じのリラックス感が生まれて、楽しいと言うか、ええ空気感で曲作りができたんかなって思いますね。
――取っ掛かりとしては、どんなところから作っていったんですか?
池田:まずコンセプトとして、僕らが一番、いろいろなものを吸収していたであろう中学、高校ぐらいの“この曲かっこいいな!”みたいな衝動を大事にしたいというのがあったんですよ。“こうこうこうだから、この曲かっこいいね”じゃなくて、“なんか、この曲かっこええな”っていう曲をいっぱい作ろうみたいなところから作り始めていきましたね。やっぱりベスト盤を出した後の1枚目だから、初心に返る的な、音楽が好きで好きで聴きまくってた時の気持ちも蘇らせようっていうのがあったんですよ。
――たとえば、どんなバンドを聴いて“この曲かっこいいな!”って思っていたんですか?
越智:locofrankの「START」とかですね。メロディックパンクに衝撃を受けるきっかけになったバンドがlocofrankだったんですよ。
池田:俺の青春はグッフォー(=GOOD4NOTHING)先輩ですね。「DECIDE」が2曲目に入っている車のジャケットの『GOOD4NOTHING』を、僕はすごい聴いてました。グッフォーに会うと、照れるぐらい、まだ好きさが残ってるんですよ。だいぶ仲良くさせてもらってるんですけど、やっぱあの時の僕からしたらほんまレジェンドなんで、会えば“おお~”ってやってくれるんですけど、ちょっとね、ドキッとするところはありますね。地元も僕は一緒なんで。
――桑原さんは?
桑原:その頃はオムニバスをよく聴いてましたね。キャノンボールとか、Change Upとか、NOBとか、ほんとにいろいろ人たちが入っているやつをよく聴いてました。そのへんのメロディック界隈を、地上波の深夜番組で取り上げてたんですよ。
池田:『Break Out』だね。
桑原:オムニバスを聴いたり、その番組を見てからバンドをいろいろ知って、メロディックパンクと言われるジャンルを何かもわからずにずっと“いいな、いいな”と思って、けっこういろいろなバンドを聴きましたね。その中で深く聴いたのが、僕もlocofrankとかグッフォーでした。
越智:ただ、そういう曲を作ろうってことではなくて、その時の気持ちを思い出しながらとか、聴いた人がそういう気持ちになるには、どうしたらいいかとか考えながら作っていったと言うか。
――やっぱり、そこですよね。前作の『Q』は、それまで見せてこなかった面をいろいろ見せたような作品だったじゃないですか。今回、そこからまた原点に戻ったと言うか、ストレートにBUZZ THE BEARSを表現しているように感じたんですけど、それはそういう曲作りをしたからだったんですね。
桑原:難しいことを考えずに素直に、さっき言ったみたいに“これええやん。これええやん”って、“こんなのやりたいね”“それやろうや”みたいに作っていたものを詰めこんだから、僕ららしいと言えば、僕ららしい感じにはなったと思います。
BUZZ THE BARES 撮影=中野修也
「最低で身勝手なメロディ」を録り終えたときに、“ありがとう”って声が聴こえたんです、僕の頭の中で。これ、ライブで絶対こうなるなって。(池田)
――今回、収録されている13曲の中で最初にできた曲は?
池田:9曲目の「IRA IRA」。
桑原:ただ、その時はまだ全体像は見えてなくて、その後“次のアルバムどうしようか?”ってなったとき、さっき話したように僕らが聴いて育ったメロコアやパンクを意識したアルバムを、初心に戻って作ろうってなって。
越智:そこからいろいろな曲を作って、ふるいにかけていったんですけど。そこで残った曲が全員が“いいね”って思えるやつだったから、それを形にする時もそんなに難航することもなかったんですよ。そこで“何か違う”ってなると、けっこう難航するんですよね。うーんって雰囲気になってきて、悪くはないんだけど、何やろ、うまいこと行かへんなってことが繰り返される。でも今回は、“お、いいね”みたいなのが多かった。
池田:やっぱり、こういうのが好きなんでしょうね。自然にそうなるってことは、
――13曲の中で、それぞれに一番気に入っている曲を挙げるとしたら?
池田:それは酷な質問だな(笑)。
――(笑)もちろん全曲という大前提はあると思うんですけど。
桑原:好みですよね。好みで言ったら、僕は「IRA IRA」かな。出来上がってから好きになりました。
越智:どこが好きなのか教えてよ。
桑原:頭で描いていたとおりになったところですね。イントロもAメロもサビも、好きなものを詰め込められたんですよ。
池田:僕はね、全曲好きなんですけど、「ホーム」がけっこう好きで……。
越智:ええっ、そんなこと言うたことなかったのに(笑)。
池田:8曲目の「最低で身勝手なメロディ」は、曲を録り終えて、確認で聴くじゃないですか? その時に録ってない声が聴こえたんですよ、僕の頭の中で。ジャンって曲が終わったとき、“ありがとう”って聴こえて。これ、ライブで絶対こうなるなって。録ってない音が聴こえたのは、この曲が初めてだったんですよ。
桑原:でも、その話は置いておいて。
池田:曲で好きなのは、「ホーム」です。そのAメロとBメロがもう。
桑原:サビは? そこまで言うたらサビも言うてやれや(笑)。
池田:いや、(AメロとBメロが)サビを食うてんちゃうかな。
桑原:マジで!?
池田:それぐらいAメロ、Bメロが好きなんですよ。それは2人には言うてなかったですね。
越智:今、初めて聞きました。
BUZZ THE BARES 撮影=中野修也
――越智さんは?
越智:うーん。
池田:「WOLF MAN」かな。「WOLF MAN」やろな。「WOLF MAN」のイメージがあるわ。
越智:「WOLF MAN」ではありません。うわー、むずい。「ORANGE」ですかね。この曲は2回、転調するんですけど、サビが盛り上がって、最後に半音上がって、何かズルない?みたいな(笑)。これを作るとき、それをズルない?って思うんやったら、そのズルいやつを2回やったら、もっとズルない?と思って、2回、転調してみたんです。1回しかやったらあかんってルールなんてないし、ええんやったら2回やってもええやんって。それで、2回やってみたらいい感じになったんですよ。そういうイケイケな思いで作れたのも良かったし、出来上がりもいいなと思って、気に入ってます。
――「WOLF MAN」は?(笑)
越智:「WOLF MAN」も気に入ってますよ。「WOLF MAN」は途中でギターの一番太い弦の上のほうをぐっとひっぱって、リバーヴでふわっとさせたら、狼の鳴き声みたいになるんですけど、そういうのを入れてみました。ワオーンって言うてるんですけど、音楽のセオリーって言うか、教科書で言えば、間違った音を入れてると思うんですけど、でも、おもしろいと思ってやってみました。聴きながら、“ああ来る来る”、ワオーン!って、個人的に気に入っているんですけど、あんまり気づいてもらえなくて(笑)。
産みの苦しさはあるけど、CDを出せることはすごくうれしいことで、それ自体がすごいことだと改めて気づけて。(越智)
――せっかくなので、リード曲になっている「10YEARS」についても聞かせてください。
越智:インディーズデビューしてから10年目にベスト盤を出したって、さっきも言いましたけど、バンドを組んだ時に自分が想い描いていた理想と現実は、やっぱ全然違ったんですよ。でも、それでも前に進めていないわけでもなくて、10年前の自分に今の自分を見せたら、びっくりするやろなって感じもして。でも、そこで止まらずに俺らはもっと進んでいきたいって意味で、ここからの10年が――今の自分が10年後の自分を見たとき、“うわ。すげえことになってんな”って思えたらいいなと言うか、10年後、笑っていられたらいいなと思いながら、ベスト盤を出したことも自分の中でもでかいと思うんですけど、そこからこういう歌詞になりました。
――今回、歌詞を書くにあたって何かテーマはあったんですか?
越智:新しいアルバムを作るってなって、産みの苦しみも含め、また始まるなって思ったとき、CDを出せなかった時期のことを思い出したんですよ。その時はほんと苦しくて、CDを出してツアーを回っているバンドがキラキラしているのがうらやましかったし。“俺ら、何も売るもんないけど、どうする?”って思いながらとりあえずライブをやっているんですけど、お客さんを呼べなくて、ライブハウスの人に怒られてっていう時期があって。その時に比べたら産みの苦しさはあるけど、CDを出せることはすごくうれしいことで、それ自体がすごいことだと改めて気づけて。自分らが今やっていることとか自分らがいる場所とか、そのまま普通にしていることってすごい素晴らしいんだなって感じることができたんですよね。レコーディングできるってすごいやん、ライブできるってすごいやんって。メンバーチェンジばんばんしているバンドもいる中で、当たり前のようにしていることがすごいと思えたんです。それで、タイトルも『THE GREAT ORDINARY TIMES』ってしたんですけど。ありのまま今の自分を歌おうかなと思って、そういう歌詞を書き始めたみたいなところはありますね。そういう自分に近い歌詞しか書けないんですけど、でも、それを後押しするような気持ちになりました。そのまま書いたらええやんって自分で思えたんですよ。
――以前は、そのまま書くだけじゃ足りないんじゃないかと思ったこともあったんですか?
越智:ありましたし、どうなんやろとも思ったし、CDを作るならちゃんとしたものを残さなきゃと思ったこともあったんですけど、そのままでええやんって今は思えるんですよね。
――たとえば、「最低で身勝手なメロディ」をはじめ、包み隠さずに自分のありのままを歌っているからこそ、聴き手を叱咤激励するような言葉が嘘臭くならずに、より説得力を増すんだと感じました。
越智:聴く人が自分のこととリンクさせて聴いてくれたらうれしいですね。
池田:今回は、普段、越智くんが使っている言葉も入っていて、今までだったらすごく丁寧に丁寧に表現していた歌詞が、いい感じでくだけているなって。それが普段の会話みたいに自然に入ってくるので、僕もすごく聴きやすいと思いました。
BUZZ THE BARES 撮影=中野修也
――最後の「Cocoa」という曲はココアがちっとも出てこないのに、なぜ「Cocoa」なんだろう?って。
越智:猫の名前なんです。飼ってた猫が死んじゃったんですよ。でも、そんなに広げてもらうような話じゃないんで。
池田:この歌詞の話、いやがるなぁ(笑)。
越智:10歳ぐらいで死んだんですけど、人間の握り拳ぐらいの腫瘍ができて。でも、がんばって生きている感じが……。医者から余命宣告も受けたんですけど、そこから3ヶ月ぐらい生きて、がんばるなぁって。アルバムを作っている真っ最中だったんで、書こうかなって思って。
――それを聞いちゃうと、冷静に聴けなくなりますね。
池田:僕もこの曲、冷静に聴かれへんところありますね。レコーディングしているとき、“ごはん全然食べへん”とか、“どんどんやせていく”とか聞いていたんで、なんかね、一緒に飼ってたみたいな気持ちなんです。
越智:ありがとう。
――作曲がバンド名義になっていますが、これは?
桑原:歌詞ができてから、それにメロディをつけていったんです。いつもはメロディができてから歌詞をつけることがほとんどなんですけど、“歌詞から作ってみようか。そういうのが1曲あってもいいんじゃないか”という試みなんです。けっこう試行錯誤して、キーとかメロディとか、いろいろ変わったんですよ。どこに向かっているか途中でわからなくなったところもあったんですけど、出来上がってレコーディングしてみたら、“いい曲になったね”ってところに落ち着いて、アルバムの最後にふさわしい曲にもなりましたね。
――なるほど。初心に返りつつ、そういう新しいこともやっているわけですね。
桑原:そうですね。これまでいっぱい曲を作ってきて、もしかしたら凝り固まっているところもあると思うから、違う方向からアプローチしたら新しいものも出るんちゃうかなってやってみたら、こんな感じになりました。
――今回、他にも違うアプローチをした曲ってあるんですか?
桑原:「最低で身勝手なメロディ」は、こういうミッドテンポのビートは初めてやりましたね。「ふぇすてぃばるまん」もサンバホイッスルを入れてみたり、大介がピンで歌ってみたり、いろいろチャレンジしてますね。
BUZZ THE BARES 撮影=中野修也
――“これまでで一番いい”とおっしゃったとおり、いろいろな聴きどころがあるアルバムになりましたが、そんなアルバムのリリースツアーが6月3日から始まります。最後にツアーの意気込みを聞かせてください。
越智:長いことバンドをやってきて、BUZZ THE BEARSのライブっていう形がなんとなく出来上がりつつあるんですけど、今回のツアーでは、それを壊してみようかなって思っているくらい自分らでも通常じゃないライブをやりたいと考えています。ライブハウスがそもそも平凡じゃない時間って言うか、その中でもっと、みんなの想像を超えるようなツアーにしたいと思って、アルバムとは逆に『NOT OTDINARY TIMES』というタイトルにしました。
――言えないこともあると思うのですが、たとえば、どんなことをやって壊していこうと考えているんですか?
越智:たとえば、すごい昔の曲をやってみたりとかですかね。アルバムのツアーなので、アルバムの曲はやるんですけど、そういうこともしてみるかもしれない。わからないですけど、一言も喋らずにライブやってみようかなとか。まぁ、それはないか。
池田:絶対ないことはないだろうけど、ないだろうな(笑)。
越智:いろいろなアイディアを出しながら、今までとは違う感じにしようかなと思っています。
池田:因みにファイナルのTSUTAYA O-WEST は2デイズなんですけど、11月16日は対バン形式で、17日はワンマンでやります。対バンライブは、対バンからのエールと言うか、対バンも誰のツアーかなんてことは関係なく、“自分らのツアーだ”ぐらいの勢いで来ると思うんですよ。それを見て、僕らも“もっとやらなあかん”って奮い立たされることも多いんですけど、ワンマンはワンマンで、お客さんの空気が独特なんですよ。当たり前なんですけど、僕らのことを見にきた人しかいてないんで、何しても盛り上がると言うか、どうかしていると言うか、お客さんも僕らもすごい幸せな空間が出来上がるんですよね。
――ファンはどっちに行ったらいいでしょう?(笑)
池田:もちろん、両日に決まってるじゃないですか!(笑)
取材・文=山口智男 撮影=中野修也

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