LOST IN TIME、“順風満帆とは決して
言えない”歩みの先で成し遂げた最良
のライブ

LOST IN TIME 『悔いのない歌』 2018.5.26 渋谷区文化総合センター大和田・さくらホール
LOST IN TIME、デビュー15周年イヤーの締めくくりである久々のホール・ライブ。2018年5月26日土曜日、渋谷文化総合センター大和田さくらホールワンマン。
1年前にリリースされた最新アルバム『すべてのおくりもの』の1曲目「ライラック」をアカペラで歌い始め、ライブをスタートさせた海北大輔は、3曲目「泣き虫」のイントロで「最後までいい時間を作ろう、どうぞよろしく」と挨拶し、10曲目「傘のない帰り道」のSEの雨音が響く前に「元気かい、会いたかったよ」と言った。それ以外は、19曲目「希望」まで、MCをはさまずに歌い続けた。歌以外で声を発するのは、曲が終わるたびにオフマイクだったりオンマイクだったりで、「ありがとう」と口にする時だけだった。なお海北は、ジャケットの下にbloodthirsty butchersのTシャツを着ていた。ファンには周知の事実だが、LOST IN TIMEというバンド名は、bloodthirsty butchersの曲名から取られている。
LOST IN TIME 撮影=高田真希子
「約束」や「列車」のようなデビュー当時の曲から、4月25日に配信スタートしたばかりの新曲2曲「傘のない帰り道」「Repentance」まで網羅した全24曲(二度のアンコールを含む)。事前に行ったファン投票で「ロストインタイム総選挙アコースティック部門第1位」だった「グレープフルーツ」と「ロストインタイム総選挙バンド部門第1位」の「22世紀」もプレイされた。
3曲目の「泣き虫」の後半で、海北、超絶シャウトをホールいっぱいに響かせた。「証し」では、曲の頭で3人が美しいハモリを聴かせる。三井律郎のライトハンドが美しく響いた6曲目「30」や、10曲目「傘のない帰り道」などの数曲で、バック・トラックでピアノを鳴らした。「列車」など数曲では、海北がキーボードを弾いた。7曲目「残像[Re-baked]」では、大岡源一郎の作る重いリズムに乗って海北が唸るように、祈るように声を振り絞る。時計の秒針の音から始まった12曲目「北風と太陽」では、海北と三井がアコースティック・ギターで大岡源一郎はカホン、というフォーメーションになる。次の13曲目「グレープフルーツ」では、海北がアコギをウッドベースに持ち替える。
LOST IN TIME 撮影=前田美里
基本、客席は、終始静かな感じだった。曲が終わるとドーッ!と拍手が湧き、ワーッと声が挙がるが、そのあとチューニングなどで曲間が空いても、歓声を飛ばしたり、メンバーに話しかけたりする人はいない。みんな、しーんと次の曲が始まるのを待っている。で、また曲が始まると、じいいっと聴き入り、曲が終わるとドーッと拍手をすることで、自分の気持ちを3人に伝える。思えばデビュー当初から、LOST IN TIMEのライブでは、客席はそういう言わば静かで真剣な空気だったが、今日はさらにそう感じる。
その静かで真剣な空気が大きく動いたのは、本編では二ヵ所。LOST IN TIMEの中ではファスト&エモ寄りの9曲目「ココロノウタ」のサビで、多くのオーディエンスが腕を振り上げた時と、ピアノと歌メロがリリカルに響く15曲目「366」が2コーラス目に入るところから、ハンドクラップが広がっていった時だった。その「366」から一気にせつなく反転した「列車」、そのせつなさをイントロとAメロで引き継ぎ、Bメロでじわじわと温度が上がりサビで爆発する「手紙」、イントロなしで海北が歌い出す、曲の頭からいきなりトップギアの「線路の上」、三井の鋭角なギター・リフと大岡源一郎のずっしりしたビートが海北の歌をひっぱっていく「希望」。このあたりの時間が、LOST IN TIMEが本日のステージで描いたストーリーのハイライトだったように感じた。
LOST IN TIME 撮影=前田美里
本編ラストの曲の前に、海北、ピアノを爪弾きながら、この日初めてちゃんとMCをする。ただし、「今日の僕の気持ちは、すべて歌に込めています。だから、しゃべればしゃべった分だけ、薄まっちゃうような気がして。でもこれだけは、僕の言葉で言わせてください。本当にありがとう。そして、これからもよろしくお願いします」と言っただけ。つまり、お礼の言葉を口にしただけ。客席を大きな拍手が包んだあとに歌われたのは、5年前にLOST IN TIMEがTHE YOUTH(三井はこのバンドのメンバーでもある)の中村マサトシと共作した「五月の桜」だった。
アンコールは「22世紀」「旅立ち前夜」「Repentance」。「22世紀」を歌う前に海北、「今は、今だけは、近くにいてください。どのみち、離れて行くんだから」とひとこと。そういう歌詞の曲だからそう言ったのだろうが、妙にリアルにその言葉がしみた。そんな寂しさを切り裂くように大岡源一郎が「1,2,3,4!」とカウントし、一瞬にして轟音がさくらホールを満たし、LOST IN TIMEに数少ない直球ポジティヴ曲「旅立ち前夜」が始まる。この曲では三井律郎がギターに加えてハープも吹く。
LOST IN TIME 撮影=高田真希子
曲終わりで海北のMC。この日唯一まともにしゃべったのがこれだったので、全部書いておきます。
「15年と11ヵ月、順風満帆とは決して言えない歩みを歩んで来たLOST IN TIMEではありますが、みんなにいつも感謝しきれないくらい感謝して、歌いつないで来ることができました。でもどうしてか、心が折れそうになったことが、今までも何度もあるんだけど、またあって。久しぶりにしんどい時間を過ごした。でも、そういう時間に見つめ直すことができた気持ちは、まぎれもなく本当の気持ちだとも思います」
「いつも逃げてばかりいた僕が、それでも歌を歌い続けたいな、ってこうして思い直すことができたのは、まぎれもなくあなたのおかげです。あなたが今日、この場所、この時間を選んでくれたからです」
「歌うことでしか、お返しはできないと思います。返しきれない大きな借りを、今日僕はあなたからもらったと思っています。これからも、歌でお返しし続けさせてください。今日はありがとう。心から、最後に、この歌を」
そして、最新曲であり、LOST IN TIMEに数多いヘヴィな曲の中でも究極にヘヴィである「Repentance」を、朗々と歌った。
LOST IN TIME 撮影=高田真希子
ダブル・アンコールは、夜の終わりと「君」との別れを重ねてストレートに綴った2007年の曲「4:53am」。メトロノームとシンセの音が混ざり、そこにドラム&ベースとギターのアルペジオが重なっていき、海北と大岡源一郎のユニゾンで「さよなら」がくり返される。歌を終えた海北は、三井律郎と大岡源一郎と自分を紹介した後、「そしてあなた。We are LOST IN TIME。これからもがんばっていきましょう。どうもありがとう」と言ってから、ステージを下りた。
下北沢CLUB Queなどの小さなライブハウス、リキッドルームやクラブクアトロといった大きめのライブハウス、日比谷野外音楽堂などの大会場、各地のフェスなどで、LOST IN TIMEのライブを観てきた。前任ギタリストの頃も、その前のギタリストの頃も、弥吉淳二、渡辺シュンスケ、有江嘉典をサポートに迎えて5人編成でライブをやっていた頃も(それが日比谷野音当時です)観てきた。その、ほぼ16年の歴史の中で、あきらかに、最良のライブだった。
LOST IN TIME 撮影=高田真希子
海北本人も言ったとおり、さんざん紆余曲折を経て来たバンドだし、順風満帆とは言いがたかったし、本人たちも周囲も含めて反省や後悔だらけだろうし、商業的に成功しているとはまったく言えない。が、こうして、ほぼ16年の歴史の中でもっともすばらしいライブをできるのが今である、そんなバンドになっている、ということはその「順風満帆じゃなさ」が、正解とは全然言えないけど、100%間違っていたわけでもなかった──ということを、この日のステージから感じた。
もう何年も何度もあちこちで書いて来たし、読まされる方もうんざりかもしれないが、しつこく念を押しておきたい。LOST IN TIMEというバンドの持っている才能は、その楽曲が人を撃ち抜く力は、渋谷さくらホール完売満員御礼、くらいの規模ではない。もっともっと広く深く大きく届くポテンシャルを持っている。ほぼ16年そう思い続けて現状がそうなっていない、ということは、自分の勘違いと判断した方が賢明なのかもしれないが、どうしてもそう思えない。むしろその確信は、ライブを追うごとに、新しい作品を聴くごとに、強くなっていくばかりだ。世の中がその才能を発見し、持てる才能に見合った正当な評価を得られるまで、しぶとく歌い続けてほしいと思う。

取材・文=兵庫慎司撮影=高田真希子、前田美里

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