Nothing's Carved In Stone、ツアー
ファイナルにして新たなスタートとな
った“最高”のライブ

Mirror Ocean Tour 2018.5.22 新木場STUDIO COAST
“最高だ。新木場!”
この“最高だ”という言葉を、村松拓(Vo, Gt)はこの日、何度、口にしただろう? もちろん、ミュージシャンによっては、ライブを盛り上げるため、あるいは自分の気持ちを高揚させるため、その言葉を意識的に口にすることもあるかもしれない。しかし、この日、村松が何度も言った“最高だ”は決して選んだものではなく、ステージに立ち、ギターを弾きながら歌っている彼の心の底から自然と湧いてきたもののように聞こえた。
後半戦に入る直前、やはり“最高だね”と言った村松は、本来はここで喋ろうと考えてきたMCを喋ることをやめて、「グダグダ言わなくても(曲を)やればいいか。それが一番いい」と、そのまま後半戦に突入したが、それは演奏を通して、会場を埋め尽くした観客と一つになれているという確信があったからこそだ。実際、この日、観客の盛り上がりは、誰だって“最高だ”と繰り返し言いたくなるほど、激熱だったと思うし、その盛り上がりを作ったバンドの演奏もツアー・ファイナルにふさわしい見ごたえあるものだった。
Nothing's Carved In Stone 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
結成10周年のアニーバーサリー・イヤーに突入したNothing's Carved In Stone(以下ナッシングス)が9作目のアルバム『Mirror Ocean』をひっさげ、今年3月から3ヶ月かけて、全国を回ってきた『Mirror Ocean Tour』。その17公演目にしてツアー・ファナルとなるこの日、彼らは1曲目から10周年にふさわしいバンドの姿を見せてくれた。激しい閃光が連続する中、ステージに出てきたバンドが、その1曲目に選んだのは、最新アルバムのタイトル・ナンバー。開演10分前には、ぐぐっとステージに押し寄せ始めた観客の逸る気持ちを、敢えて外すようにミッドテンポの曲を持ってきたところにバンドの矜持を、そして敢えて音数を詰めずにペダルを駆使しながら印象的なロングトーンのフレーズを奏でた生形真一(Gt)のプレイをはじめ、ゆったりとしたグルーヴが心地いい演奏にバンドの成熟を、感じずにいられなかった。これが10年目を迎えたナッシングス。
Nothing's Carved In Stone 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
しかし、成熟だけがこのバンドの本質でも、メンバーたちが求めているものでもない。日向秀和(Ba)がベースをバキバキと鳴らしたソロ・フレーズに歓声が上がったところから、バンドの演奏はどんどん熱を放ちはじめ、「行くぞ!もっと!」と村松がギターを置いて、マイク片手に歌った2曲目の「In Future」で一気に過熱。そこからダンサブルなビートを持った曲の数々を畳み掛けるように演奏しながら、「踊れ!」「揺らすぞ!」と村松が煽ると、スタンディングのフロアにすし詰めになった観客が跳ねる、跳ねる、跳ねる、跳ねる。
Nothing's Carved In Stone 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
う、うん?! ナッシングスってこういうバンドだったっけと若干、意表を突かれながら、『Mirror Ocean』の全10曲を中心に組んだ、この日のセットリストを改めて振り返ってみると、生形、日向、大喜多崇規(Dr)3人の超絶プレイと村松の歌が取っ組み合う「Milestone」「Damage」「The Poison Bloom」のような曲を随所に挟みながら、キックの4つ打ちを含むダンサブルな演奏で観客を踊らせようと考えていたことが窺える。それはフュージョンっぽいリフを奏でる「Brotherhood」で言った「踊りませんか?」や、ワウを踏みながら生形がファンキーなカッティングをキメた「Flowers」で言った「ダンスタイム行けるかい?」という村松の言葉からも明らかだった。
Nothing's Carved In Stone 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
そんな試みは拳を振り上げさせたり、ダイヴさせたりするだけに止まらず、見事、観客を踊らせ、うねるような大きな一体感を作り出した。村松がこの日、何度も言った“最高だ”は、そんな景色に対する心からの感動の表れだったはず。その村松のパフォーマンスもギターを持たない曲が増えたことで、より自由にステージを動きながら客席にアピールできるものに。もちろん、中にはそれだけじゃ物足りないというファンもいたかもしれないが、それを見抜いているかのように「ここから後半戦!」と言った「Rendaman」以降はヘヴィなオルタナ・ロック・ナンバーをたたみかけると、「YOUTH City」では、「最後にみんなの声を聞かせてくれないか」という村松の呼びかけに応え、観客のシンガロングが会場中に響き渡った。
Nothing's Carved In Stone 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
Nothing's Carved In Stone 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
そして、本編最後にはステージ前に降ろした紗幕に映像を写しながらアコースティック・ナンバーの「シナプスの砂浜」を披露。まるで1曲目の「Mirror Ocean」と対を成すように成熟を印象づけた。それを考えると、「(震災後の)東北のことを歌ったことで、みんなとつながりが感じられる曲になった」(村松)というアコースティック・ナンバーの「青の雫」からのアンコールは、アンコールというよりも新たなスタートという意味合いが強かったんじゃないか。
Nothing's Carved In Stone 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
「10年、好き勝手にやってきて、見てもらえて、自己満足にならずに続けてこられたのは、みんなのおかげです」と感謝を述べた村松は、続けて「根っからのライブハウス育ちが、10周年だから、10月7日、武道館やります」と日本武道館公演を行うことを、改めてファンに報告。「いつもと変わらずナッシングスらしい、みんなに届くようなライブをするから、いつもどおりに来てくれれば、必ず楽しませる」と約束を交わした。そして、「言い残したことはないですか?」と村松がメンバーに尋ねると、日向と大喜多がそれぞれベース・ソロ、ドラム・ソロで応えたので、当然、生形もと思いきや、「武道館やって、そこから、まだ言えないけど、いろいろ考えてるから。夏フェスで揉まれて武道館で待ってます!」と簡潔なスピーチで締めくくった。
Nothing's Carved In Stone 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
すでにメンバーたちの気持ちは、ツアー・ファイナルの余韻を味わう時間も惜しむように未来に向かっていたようだ。最後の「Isolation」を演奏する前に村松が言った「始まりの曲やります」という言葉もそれを物語っていた。ナッシングスの新たなスタートを祝福するように大歓声で応えた観客が拳を振り上げ、ステージに殺到。そして、大きな声でシンガロング。この日一番の盛り上がりが生まれたのだった。

取材・文=山口智男 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
Nothing's Carved In Stone 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI

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