渕上舞、これまでのキャリアを振り返
りつつ、新しい明日へ踏み出す 『渕
上舞 1st LIVE“Fly High Myway”舞
浜アンフィシアター』レポート

渕上舞 1st LIVE“Fly High Myway”舞浜アンフィシアター 2018.5.19(SAT) 舞浜アンフィシアター
『ガールズ&パンツァー』シリーズの西住みほをはじめ、『ドキドキ! プリキュア』の四葉ありす/キュアロゼッタ、『アイドルマスター シンデレラガールズ』の北条加蓮など、数々の人気キャラクターを演じる声優・渕上舞。そのソロアーティストデビュー作となる1月24日発売のファーストフルバム『Fly High Myway!』の名を冠したライブツアーが、4月21日・東京&4月28日・大阪で行われ、いずれも大盛況。それを受けて、去る5月19日(土)に千葉県・舞浜アンフィシアターでの追加公演が開催された。ツアーの締めくくりを飾ったその公演の様子をここにレポートしよう。
■声優・渕上舞の軌跡を、MCと歌で辿るカバーソングメドレー
朝の目覚めから夜の眠りへと繋がっていくアルバム『Fly High Myway!』の構成に沿って、オープニングを飾ったのは静かな目覚めのバラード「おはようの合図」。ライティングと客席のサイリウムで会場全体が彼女のイメージカラーでもあるブルーに染まる中、青いドレスに身を包んだ渕上舞がステージに登場。柔らかな歌声で静かに曲を歌い終えた瞬間、一転して激しいメロディが会場に響き渡り、2曲目の「Fly High Myway!」へと突入。未来へと羽ばたいていく希望を歌い上げる歌を力強く唄う渕上舞に応えるように、客席も一気にヒートアップしていく。それに繋げるように、3曲目は羽ばたいた後の不安とそれを乗り越える希望を渡り鳥に重ねて歌った「Migratory」を披露して、舞浜公演の幕は上がった。

「みんなのアイドル、渕上舞だよ?」というお約束の挨拶でファンが盛り上がる中、最初のMCがスタート。渕上舞は今回のライブに足を運んでくれたファンへの感謝を述べながら、「この公演が千秋楽、最後の公演となりますけど、皆さん最後の最後までいっぱい声出して、盛り上がって、へとへとになって帰ろうぜー! 私も今日は目一杯最後まで楽しんでいきたいと思います!」とハッパをかけて、会場にさらなる熱を与えていく。
話題は続いての曲へと移るが、ここからは渕上舞の思い出の曲を歌っていくとのことで、客席も期待の歓声に沸く。
「ちょっと恥ずかしいけど、自信を持って言わないといけないですね…今日はこのステージに“アーティスト・渕上舞”として立たせていただいています。声優というお仕事をやらせていただいて、歌も唄わせていただけて本当に有り難いことなんです。ここに辿り着くにはまず声優になるためのオーディションというきっかけがあって、その時に選んだ一曲……自信があったとか、歌やアーティストさんが好きだったとか、色々な思いがあって曲を選んだわけなんです。この曲と出会い、オーディションで歌ったから、今の私がいるといっても過言じゃありません。そんな曲を皆さんにも聴いていただきたい、そんな思いで選ばせていただきました!」
そうして披露された4曲目は、2005年放映のTVアニメ『うえきの法則』の主題歌として島谷ひとみが歌った「Falco-ファルコ-」。続く5曲目には2009年放映のTVアニメ『WHITEALBUM』の主題歌となった水城奈々の「深愛」を披露。アニメファンにもおなじみの名曲を渕上は情感たっぷりに歌い上げた。
声優になるきっかけ曲の次は、声優になってからのターニングポイントにまつわる曲へと続く。
「いま声優として活動できているのは、ここに来てくれているみんなのおかげ! 本当にありがとうございます。でも、そんな簡単に上手くいくお仕事ではないので、オーディションが決まらなくてお仕事がなくて、生きていくためにアルバイトしていた時期もすごく長くありました。そんな中、私の大きなターニングポイントとなった作品の曲があるんです。それに出会ったから、こうやって今いられるんだなあと思うと、これからも私の中でずっとずっと大事な思い出の曲になるんだろうなと思っています。ここはみんなで声を出して盛り上がっていけたら嬉しいです!」

そんなMCからの6曲目・8曲目は、自身の出世作であり、今も作品が続いているアニメ『ガールズ&パンツァー』の主題歌としてChouChoか歌った「DreamRiser」と、茅野愛衣井口裕香・尾崎真実・中上育実と共に歌ったエンディングテーマ「Enter Enter MISSION!」、そして7曲目には2013年放映のTVアニメ『アウトブレイクカンパニー』から、演じたペトラルカ・アン・エルダント三世が歌うエンディングテーマ「私の宝石箱」を披露。「私の宝石箱」ロリ系キャラのキャラソンということで他の曲とはテイストの違う歌いこなしとなったり、「Enter Enter MISSION!」ではサビの部分でファンとの大合唱となるなど大いに盛り上がった。
「一時期、私の目標は『思い出作り』って言ってましたが、こうやって色々な曲との出会いが思い出になって、目標にあげるまでもなく、毎日毎日沢山の思い出ができていく現状にすごく感謝だし、すごく幸せです。みんな、たくさんの思い出を本当にありがとう!」
そして思い出の曲のラストとなる9曲目は、『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』で渕上舞が演じたヒロイン・イオナのキャラクターソング「タカラモノ」。そしてこの曲で初めて作詞に挑んだ時のことが語られた。

「この曲は思い出の中でも大きなもののひとつで、思い出すと泣いちゃうね……この曲は私が初めて作詞をした曲なんです。でも本当はイヤだったんですよ。どの作品・キャラクターにも言えるんですけど、私はその子(イオナ)の気持ちを背負って、キャラクターに命を吹き込むという大事な作業をさせていただいているけど、私自身はその子ではないから、彼女の気持ちは書けないと思って。だから最初はキャラクターの気持ちではなく、私自身の気持ちを書いてみようかなと筆を執ったのが最初でした。でも詞を書いているうちに、だんだんと「あれ? これってこの子のこと?」「この子の背景に似てる」って思うようになって、そうやってできたのがこの曲です。今日はその子もいないし、私、渕上舞としてこの曲を歌わせてもらいます。なので、また新しい曲として皆さんの下に届けばいいなと思います」
海が舞台の『アルペジオ』を意識したような、ブルー・グリーン・パープルのライティング演出の中でしっとりと歌い上げられた「タカラモノ」に続いて、以前彼女が飼っていたセキセイインコのチェルシーが2015年に永眠した時の思いを詞に込めたオリジナルナンバー「ラララ~君へ贈る歌~」へ。
「この歌は私が過去に一緒に暮らしていたセキセイインコのチェルシーへ向けて贈った歌になります。ちょうど5月9日にこの世を旅立ったので、あれからもう3年経つんですよね。時の流れはすごい早いなって思って。この中で「いっぱい泣いた次の日は誰かと笑い合えるように」と歌ったけど、今はネズミガシラハネナガインコのひまわりと笑顔一杯に暮らしています。そうやって辛いことがあっても、私自身はこの曲を愛鳥に向けて書いていますけど、けっしてそれだけの曲ではないと思っていて、みんなそれぞれ辛いことや哀しいこともあるし、もしかしたら大切な誰かとお別れをした辛い想いを抱えながら毎日を過ごしている方もいらっしゃるかもしれない。でも、悲しさだけで毎日を過ごすよりは、明日は何か良いことや苦しいぐらいに笑えることがあるかもしれない。そんな前向きな気持ちになってもらえたらいいなと思いを込めて歌った曲なので、しっとりとした曲ですけど哀しいことがあった時聴いてもらって、明日楽しいことがあるようにがんばろうと思っていただけたら嬉しいです」
曲後のMCで語られた通り、悲しみの中にも希望がかいま見えるようにと、語りかけるような優しさに満ちた曲で、声優・渕上舞の思い出をテーマにした一連のプログラムは幕を閉じた。
■「青」の思い出から「ピンク」の未来へ! ライブ後半戦は明るく可愛くヒートアップ!
「つらいこと、悲しいことあるよね? 逃げ出したいとか、周りのみんなが敵なんじゃないかとか思う時もあるはず……私はあった。でも、そうじゃないんだよね。きっとどこかに仲間や、自分のことを思ってくれている人がいる。でも、それに気付かない時もある。そんな思いを込めて、私なりに過去への決別の思いを込めて歌った曲です」
そんな苦しかった時期を思い返すようなMCの後に、ライブ前半戦の区切りとなる11曲目「A Crow」がスタート。1stアルバムの中で唯一のハードなメロディの曲を、渕上舞は気持ちを叩きつけるような力強いボーカルで歌いきり、バンドも激しいギターソロなどの演奏でそれに応えて会場もヒートアップ。そんな興奮を引き継ぎながらライブは後半戦へと突入する。
「A Crow」を歌い終わった後、バンド演奏が続く中で一旦ステージから姿を消した渕上舞が、今度はピンクと黒のドレスにピンクの羽扇子を携えたディスコモードの衣装で登場。1stアルバムは空色のブルーをイメージした心に語りかけるような曲と、元気な可愛らしさのピンクをイメージしたアップテンポな曲で構成されているので、ライブ後半戦はピンクの可愛らしさを前面に押し出したプログラムとなる。
「みんなもディスコのつもりで盛り上がってー!」
という渕上舞のアピールに客席も応え、ピンクのサイリウムで会場が染まったところで12曲目の「フラミンゴディスコ」がスタート。タイトル通りのディスコチックなノリで歌い舞う渕上舞に合わせて、客席のファンもこの時のために用意していた扇子や、扇状に持ったサイリウムを振って応える。そこにミラーボールとピンクのライティングによる演出も加わって、渕上舞も「ステキー!」と歓声を上げるほどに会場がディスコと化した瞬間だった。続く13曲目は、好きな男子を視線で誘惑する女の子を歌ったちょっとセクシーなナンバー「アイTACTICS」。前曲の熱い盛り上がりを引き継ぐ、渕上舞の可愛くセクシーな歌いぶりが客席のテンションも上がっていった。
MCでは客席が見事なバランスでブルーとピンクのサイリウムで彩られた風景に「毎回こんな素敵な景色を見せていただいて、どうもありがとう!」と応え、舞浜公演限定のピンクTシャツなどのコンサートグッズをネタに笑いを誘い、そして
渕上「みんなのアイドル・渕上舞は?」
客席「カワイイよ!」
とコミュニケーションとアピールを重ねたところで、14曲目の「Cute▽Appeal」から後半戦を再開。自らの作詞で様々な可愛らしさを詰め込んだこの曲から、青空の日曜日をモチーフに希望を歌う「Beautiful Sunday」、そして雨の日だからこその安らぎの時間を歌った「君と雨に歌うソネット」と、タイプの異なる三曲を披露して、コンサートもいよいよラストに。
「一日ってあっという間。寝てたら終わったって日もあるかと思えば、朝早く起きて東京から新幹線に乗って九州まで行って日帰りできちゃう。そんな同じ一日とは思えないようなことがあったりなかったり、私だけじゃなくみんなも経験しているんだよね。今日のライブも朝からドキドキワクワクして、こんな素敵な場所(ステージ)に立って、今日は素敵な長い一日です。でも、どんな素敵な一日でも終わりはあって、朝が来たら夜が来て、また次の朝へと続いていくわけですね」
「さっき、今日は悲しいことがあって辛くても、次の日は苦しいぐらいに笑えることがあるかもって話したけど、そうやって一日一日違うことがあって、思い出ができて、これからも楽しいことも嫌なこともあるかもしれないけど、できるだけ楽しいことを見つけながら生きていきたいなと、アルバムを作らせていただいてからしみじみと感じることができるようになりました」
「このライブも「おはよう」からはじまり、最後は「おやすみ」で一旦終わりです。みなさんも次の日に楽しいことがたくさんあるように、そんなことを想像しながら聴いて下さい」
そんなMCと共に、アルバムのラストナンバーでもある「おやすみのワルツ」がスタート。ステージにも星空が瞬くなど夜の帳が下りる演出の中で曲が終わり、最後は渕上舞の「おやすみ世界、また明日」のメッセージと共に、コンサートは幕を閉じた。
■舞浜アンフィシアターにトラウマが? 意外な告白も飛び出したアンコールという「楽しい明日」
朝の目覚めから夜の眠りへと繋がる構成でコンサートは終わったが、客席からのファンの熱いアンコールが次の明日の始まりを呼び寄せた。
客席からのアンコールに応えて、ツアーTシャツ姿の渕上舞がステージに登場。アンコール1曲目となるサンバのリズムのノリの良いナンバー「トロピカルガール」で盛り上がるべく、まずは渕上舞の号令でサビの練習がスタート。全体でのサビを何度か繰り返すと、今度は「男子のみ」「女子のみ」「遠くから来た人」と客席をいじりながらのサビ練習に。そしてシメは大阪会場で聞いた時は微妙な反応だったという「彼氏/彼女がいる人」という条件からの再びの全員練習を終え、そのまま曲に突入。まさにサンバカーニバルのような歌に合わせて、ライティングとサイリウムも七色に染まり、最後にはステージスタッフがダンサーとして登場するなど、お祭りのような盛り上がりでアンコール一発目は終了。
曲の後には、今夏放送予定のTVアニメ『プラネット・ウィズ』のエンディング主題歌を渕上舞が担当し、その1stシングルを8月8日にを発売することが発表される。そこで「キャラソン以外でのソロはあまり気が進まなかったんです」と意外な告白が。
「理由は色々あるんですけど、CDを出すとイヤでも(売上などの)数字が見えてきたりするじゃない? ライブをするとなったら席が埋まるかどうかが気になったり、一時期そういうことに囚われていたので。数字はもちろん大事だけど、Twitterとかでファンのみんなが応援のメッセージをくれたり、遠くからライブに足を運んで来てくれるのを見ていると、数字とかに揺れる自分がすごくくだらなく感じてきちゃって。私を見るためにお金を掛けて足を運んできてくれる人達に、楽しいと思ってくれるステージをやるのが一番大事なんじゃないかって。基本的なことなのかも知れないけど、歌を初めてまだちょっととしか経っていませんけど、色々な事を感じるようになりました」
そして舞浜アンフィシアターが渕上舞にとってライブデビューの場所であると同時に、苦い思い出の場所だったことも明かされる。
「初めて本格的に人前で歌ったり踊ったりする活動だったTrident(『蒼き鋼のアルペジオ』イオナ役の渕上舞、タカオ役の沼倉愛美、ハルナ役の山村響による声優ユニット)の1stLIVEがここだったんだけど、怖かったとかいっぱい失敗したとか、私の中でいい思い出がほとんど残っていなくて。失敗するのが怖いから楽しむことは二の次で、私が後ろにいて二人が見える時はいいけど、自分がセンターになって前に出るのが凄い怖かったの」と語る。

「今はまたこのアンフィシアターに立ちたいという気持ちもあるし、色々な会場で渕上舞として歌いたいという気持ちも、ステージに立つごと、どんどん出てきました。プラス色々な作品に声優として関わらせていただく中で、ステージで歌う機会もあるといいなと思っているんですけど、そこに向き合う時には今日一人でやり遂げられたライブが成長の種になれば良いなと思っています。ぜひこれからもアーティスト・渕上舞、声優・渕上舞のことをよろしくお願いいたします!」
今日のライブの達成感と集まってくれたファンへの感謝を込めて、最後まで一緒に盛り上がるべく選んだ最後のナンバーは、再びの「Fly High Myway!」。ファンのみんなに何度もかけ声を即しながら一体となって、ライブ冒頭の時以上のパワフルさで歌いきってライブは終了。渕上舞はバンドメンバーと共に「ありがとうございました!」と挨拶した後、円形ステージ外周をぐるりと一周しながら最後までファンの声援に応え、最後に中央で静かに一礼をして公演の幕を閉じた。
今やれることを全て出し切ったような充足感と共に全三公演を終えた『Fly High Myway!』。自らが作詞した曲も多く、アーティストとしての独自の世界を早くも作りだしている渕上舞。二枚目のアルバムではどんな世界を見せ、そして自信を持って挑むであろう次の舞浜アンフィシアターでのライブがどのようなものになるか、今後に期待せずにはいられない公演となった。
取材・文:斉藤直樹

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