【短期連載】<SXSW>漫遊記 最終回
、ディープ対談「行かなきゃ観られな
い」

▲左から、山口智男、ニッキー・レーン、早川哲也
短期連載の最終回は、ともに1999年から毎年<SXSW>に参加しているミュージシャンの早川哲也さん(The Oowees)と、私、山口智男が2018年の<SXSW>を振り返る。
2001年にDAS BOOTのメンバーとして<SXSW>に出演経験もある早川さんは、この数年、<SXSW>ではオースティンで大人気の現地在住の日本人バンド、Peelander-Zのサポートメンバー(Peelander Black)としてステージに立ったり、アンオフィシャルのパーティーで演奏したりしながら、オースティンのシーンにコネクションを持つ、彼ならではのディープな楽しみ方をしている。
   ◆   ◆   ◆
■2018年のキーワードは

■ソウルとカントリーとサイケデリック
山口:じゃあ、まず2018年の<SXSW>の感想から。今年はどうでしたか?
早川:2017年もそうだったかもしれないけど、山口さんもこの連載レポートに書いていたように女性アーティストをたくさん観たという印象がありますね。実際に多かったんじゃないですか、女性の出演者が。
山口:女性アーティストを観たいと考えているわけではないんだけど、注目されているアーティストを観ようと思うと、大体、女性アーティストになるという。確かに2017年もそうだったかな。
▲サラ・シュック
▲ルビー・ブーツ
早川:レーベルのショウケースでも女性アーティストが推されていたような気がします。ブラッドショットだったら、サラ・シュック(Sarah Shook)、ルビー・ブーツ(Ruby Boots)。たぶん、彼女たちが出演していたからだと思うんだけど、ブラッドショットのショウケースはここ何年か行った中では一番人が入ってましたね。ルビー・ブーツの時は、おっさんの客が喜んで前のほうでみたいな(笑)。大抵、スペースがあるから前に行けるんですけど、ルビー・ブーツの時は行けなかった。
山口:女性アーティストでは、その他、誰が印象に残っていますか?
早川:キャロライン・ローズ(Caroline Rose)と、あとはニッキー・レーン(Nikki Lane)。昼間、Pledge Music(音楽に特化したクラウドファウンディング)のショウケース『Pledgehouse』で観たニッキー・レーンが特に良かったですね。その後、コンベンションセンターで観たライヴも良かったけど、その時よりはリラックスしていて。
▲キャロライン・ローズ
▲ニッキー・レーン
山口:コンベンションセンターのライヴは、業界関係者が多いせいか、ちょっと畏まった感じになることが多いよね。
早川:ネット配信もしてましたしね。『Pledgehouse』で観た時は、ニッキーが(ギターの)カポを違うところにつけていて、しばらく気づかずに「うん?うん?うん?」って感じで(笑)。途中で気づいて、慌てて(カポの位置を)直してましたけど、メンバーと笑いながら、すごくリラックスしていて。その時のライヴを観て、バックを務めていたテキサス・ジェントルメン(The Texas Gentlemen)って、いいバンドだなって思いました。
山口:ニッキーと同じニュー・ウェスト・レコードのバンドだ。
早川:ニッキーのライヴを観てから、テキサス・ジェントルメンの『TX Jelly』ってアルバムも買ったんですけど、すごく良くて。カウボーイハットを被っているイメージとは違って、いろいろなことをやる人たちなんですよ。2018年の<SXSW>って全体的に、割とソウルな感じが強いかなって。今のトレンドって言ったら、言い過ぎかもしれないけど、ソウルとカントリー、それとサイケデリックっていうのがキーになっているなっていうのを、割と、どこのショウケースに行っても感じて。テキサス・ジェントルメンがそういう曲をやっているんですよ。自分たちのアルバムで。ニッキーが一緒にやりたがっているのは、このへんなんだって思いました。ダン・オーバックがプロデュースした『All or Nothin'』の「Right Time」って曲もソウルなアレンジに変えていたんですよ。2018年の<フジロック・フェスティバル>に出演が決まったナサニエル・レイトリフ・アンド・ザ・ナイト・スウェッツ(Nathaniel Rateliff & The Night Sweats)もレーベルがスタックスだからあたりまえですけど、共通する感じはありますよね。
▲タンク・アンド・ザ・バングス
山口:タンク・アンド・ザ・バングス(Tank And The Bangs)とか、ナタリー・プラス(Natalie Prass)とか。前に観た時はシンガー・ソングライター然としていたナタリーがぐっとソウルフルになっていたのはちょっとびっくりだった。
早川:俺はたまたま観たんですよ。本当はインディア・ラミー(India Ramey)を観に行ったら、最後の1曲のほんと、終わりのところしか観られなかったんですけど、外に出たらちょうどナタリー・プラスが始まって、最初は観るつもりなかったんですけど、意外に曲が良いなって、結局、最後まで、この人誰だろうと思いながら観ましたね(笑)。
山口:コートニー・マリー・アンドリュース(Courtney Marie Andrews)もカントリー・ソウルな感じでしたよ。
早川:観られなかったんですよ。彼女とか、マーロン・ウィリアムズ(Marlon Williams)とか。けっこう本数もやっていたから、どこかで観られると思ってたら、ちょうど他のアーティストと重なって。
▲マーロン・ウィリアムズ
山口:かなりこまめにあちこち観て回ってましたね?
早川:ええ。自分のライヴがいろいろ入っちゃうとなかなか観られないんで、今回はそんなに演奏するつもりはなかったんですけど、アンオフィシャルのパーティーでけっこうキャンセルが出て、ヴィザの関係とか、<SXSW>のオフィシャルに出演していると、アーティストによっては、オフィシャルのショウケース以外出られないみたいな縛りがあるとかで、それでキャンセルしたところを埋めてほしいって話がけっこう来て、思っていた以上に忙しくなっちゃって。それでもけっこう観ましたけどね。そう言えば、3年ぐらい前からアンオフィシャルのパーティーができる箱が限定になったんですよ。
山口:そうなんだ。
早川:前は許可を取らずにできたと思うんですけど、数が多すぎて、警察が把握しきれないってことで、許可を取らなきゃいけなくなったみたいで。そう言えば、警察が来て、中止になったパーティーがありましたね。うるさいって苦情が来るようなところでもないんですよ。だから許可を取ってなかったんじゃないかな。
山口:確かにアンオフィシャルのパーティーは一時期に比べたら減った印象はありましたね。
早川:特に、夜のアンオフィシャルのパーティーをやらせてもらえなくなったみたいで。夜はやっぱりオフィシャルのショウケースに来てもらおうってことだと思うんですけど。
▲左から、山口智男、ニッキー・レーン、早川哲也
■<SXSW>をとことん楽しむなら

■歩いてなんぼ
山口:ところで、2018年のベストアクトは? 僕は断然、トウェイン(Twain)なんですけど。
早川:絶賛してましたもんね(笑)。俺はニッキー・レーン、キャロライン・ローズ、あとはサクソン・パブで観たモーテル・ミラーズ(Motel Mirrors)。いいライヴでした。ジョン・ポール・キース(John Paul Keith)もエイミー・ラヴィール(Amy LaVere)もウィル・セクストン(Will Sexton)も3人とも歌えるじゃないですか。それぞれに持ち味があって、聴かせどころもそれぞれに持っているから、あっと言う間に終わっちゃった感じがしました。ちなみにサクソン・パブの隣がラーメン屋なんですよ、“Ramen Tatsu-ya”っていうオースティンで一番人気がある。モーテル・ミラーズを観に行ったとき、遠めに観たらサクソン・パブの前にすげえ行列ができていて、やばいな、入れないかもって思いながらサクソン・パブに着いたら、そのラーメン屋の行列で(笑)。100人ぐらい並んでたんじゃないかな。サクソン・パブには無事、すぐに入れたんですけど(笑)。
山口:良かった(笑)。
▲トウェイン
▲モーテル・ミラーズ
早川:他に印象に残っていると言うか、<SXSW>ならではと思ったのが、オースティンに来たら必ず寄るBykowski Tailor & Garbっていう1920年代~1930年代風のスーツとか帽子とかブーツとかを売っている服屋がコンベンションセンターの近くにあって、そこが毎年、独自のパーティーをやっているんですよ。以前、そこでスリム・セスナズ・オートクラブ(Slim Cessna's Auto Club)を観ましたけど、そういうゴシック・カントリーな人たちがやるんです。今年、そこで観たネーム・セイヤーズ(Name Sayers)っていうオースティンのバンドが良かったです。
山口:どういうバンドですか?
早川:ニック・ケイヴ・アンド・ザ・バッドシーズみたいなところもあるんですけど、オースティンのバンドなんで、ちょっといなたい感じもあって。今回はそこで3組、観たんですけど、ネーム・セイヤーズの前にやったキャッチ・プリチャード(Catch Prichard)っていうロサンゼルスのシンガー・ソングライターが、ちょっとジェフ・バックリーみたいで良かったです。その2つは<SXSW>のミュージックフェスティバルには出演していないと思うんですよ。なおかつ、その服屋のパーティーは、Showlist Austin(アンオフィシャルのパーティーを網羅したサイト)にも載っていない。
▲ネーム・セイヤーズ
山口:載ってない、載ってない。でも、どうやって知ったんですか?
早川:何年か前に、その服屋にたまたま行ったらパーティーのフライヤーが置いてあったんです。(パーティーの)雰囲気がかっこいいんですよ。店の奥で無理やりライヴやっているんですけど、照明の代わりにキャンドルを使っていて。自分も演奏したいって言うか、演奏したいって言ったらやらせてくれるんじゃないかって思っているんですけど(笑)。
山口:最近は、店の裏庭とか駐車場とかでやるようになったけど、以前は、そんなふうに店の中でやってましたよね。それがオースティンぽかったなって。
早川:ウォータールー・レコードも店内でやってたけど、メンツが良いから店に入りきらないくらい人が集まるようになっちゃいましたからね。(アンオフィシャルのパーティーは)ネットの情報で、ある程度はわかるっちゃわかるんですけど、路上で演奏している人たちの情報まではネットに載っていないじゃないですか。だから歩いてなんぼだと思いましたね。その服屋の角で、その服屋があるからかもしれないんですけど、ヘルビリー系のアーティストがよく路上ライヴをやっているんですよ。今年(2018年)、そこを通った時に非常にかっこいいバンドがやっていて、音が良いから、10ドルで売っていたCDを買ったんです。そしたら、(CDのジャケットに)アウトロー・リチュアル(Outlaw Ritual)って書いてあって。アウトロー・リチュアルってバンド名だけは知っていたんですけど、まさかオースティンに来ていたとは。そういうのが偶然、観られるっていうのは<SXSW>開催中のオースティンならではだなって。そういうのもあるから、昼間から出歩かないとわからないぞっていう(笑)。
山口:ネットに載ってないパーティーもあるし。
早川:服屋でやるそのパーティーは、店内でやるからそんなに人に来られてもっていうのがあるかもしれないけど。
山口:ニッキー・レーンがサムズ・タウン・ポイントってバーでやっている『Where is the Hideout?』ってイベントが良さそうですよね。
早川:2017年に行きました。今年(2018年)も行きたかったんですけどねぇ。<SXSW>に出ていないアーティストも出ているんですよ。その中で一番観たかったのがオーストラリアのC.W.ストーンキング(C.W. Stoneking)。
山口:あ、ジャック・ホワイトの『ボーディング・ハウス・リーチ』に参加していたオーストラリアのブルースマンと言うか、シンガー・ソングライターと言うか。
早川:ダウンタウンでやるアンオフィシャルのパーティーにも出ていなかったら、ほんと『Where is the Hideout?』オンリーだったんですけど、サムズ・タウン・ポイントが遠い。すごく辺鄙なところなんで、あそこは車がないときついですね。普通にタクシーが拾えるようなところじゃないんですよ。今はウーバーがあるから呼べばいいのかもしれないけど、森の中に唐突にポツーンとあるみたいな。雰囲気はいいんですけどね。
山口:せっかくテキサスに来たんだから、1つぐらいはカントリーのパーティーに行きたいよねって毎年、思うんだけど、そうかサムズ・タウン・ポイントはそんなに遠いのか。
早川:(カントリーのパーティーは)最近、減ってきたかなって思ってたんですけど、バーガー・レコードが主催するバーガーマニアってイベントをはじめ、インディー・シーンで注目されている若いバンドが集まるホテル・ヴェガスというヴェニューで、今回、カントリー枠があったんですよ。なんでだろうと思って友人に聞いたら、カントリーを聴く若者が増えたらしい(笑)。日本では考えられないですけどね。
山口:そうなんだ! そこには誰が出てたんですか?
▲マイク・アンド・ザ・ムーンパイズ
早川:マイク・アンド・ザ・ムーンパイズ(Mike and the Moonpies)とか、テディー・アンド・ザ・ラフ・ライダーズ(Teddy and the Rough Riders)とか。外のステージでは今っぽいサイケバンドが演奏していて、中ではカントリーバンドが演奏しているっていう。それがおもしろい。みんなサイケもカントリーも同じ感じで聴いているんだなって。でも、若いバンドが多かった。土曜日にLicha's Cantinaでやっている『The Brooklyn Country Cantina』とはまた違う層の感じで、インディーロックのパーティーの中で若い奴がやるカントリーっていうのがおもしろかったですよ。
■どれだけライヴを観ても

■毎年、必ず何か観逃している
山口:ところで、早川さんはなんで毎年、<SXSW>に行っているんですか?
早川:それは山口さんだって(笑)。
山口:だって、楽しいもんね。なんだかんだ。しかも、毎年、何かしら絶対観逃すじゃないですか。そうすると来年もまた行こうってなる。
早川:20年行き続けると、観たいと思っていたアーティストは大抵、観ることができているんですけど、ほとんどのアーティストが日本に来ることは、ほぼないから、行かなきゃ観られないですからね。そう考えると。それに<SXSW>で知るアーティストも多いし。もう恒例行事ですよね。
山口:今年は何を観逃しましたか?
早川:さっき言ったインディア・ラミー。ばーんと終わったところだったんで、ほとんど観ていないに等しい。彼女とマーロン・ウィリアムズ。
山口:マーロン・ウィリアムズは、2年連続で観ました(笑)。今回は、スクリーミン・ジェイ・ホーキンスのカヴァーもやってましたよ。
早川:今年こそはと思ってたんですけどね。あとはベッカ・マンカリ(Becca Mancari)。
山口:ああ、アラバマ・シェイクスのブリタニー・ハワードと、あとジェシー・ラフサー(Jesse Lafser)とバミューダ・トライアングル(Bermuda Triangle)ってユニットをやっているナッシュビルのシンガー・ソングライター。
早川:それぐらいかな。あとは、今は気づいていないけど、こんなのやってたんだって。
山口:それは毎年ありますね。ほんと、あるんだよねぇ(笑)。僕も観逃したのあるな。ジョシュア・ヘドリー(Joshua Hedley)とか、ジェイド・バード(Jade Bird)とか。
早川:ヌード・パーティー(The Nude Party)もそうなんじゃないですか?
山口:ヌード・パーティーもそうだね。日本に帰ってきてから、新曲のビデオを観て、観逃したことを後悔した。そんなことが毎年必ずあるから、どれだけ行ってもきりがない(笑)。
取材・文◎山口智男

撮影◎早川哲也/山口智男
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