HeavensDustインタビュー VocalのS
hinが長くもがき苦しみ続けた闇を抜
けた先にみえたものとは

近年和楽器とロックを融合した音楽、つまり日本と西洋の文化をクロスオーバーしたコンテンツというものも、多くみかけるようになった。様々な表現があるなかで、日本人ながら海外で生まれ育ち、特に90年代~00年代のロック、メタルのような洋楽文化と、日本人の誇りを併せ持つアーティストがいる。HeavensDustのShinだ。和楽器+ラウドという意味では黎明期から活動し、一時アメリカのレーベルとも契約したり、現在まで活動を続けている。そんな彼らが今回リリースする音源は、今までとはまた違った「人間が生きるヒント」が多く隠された作品だった。壮絶な人生を歩むShinに今作を絡めて話を聞いた。
――Shinさんはパナマで生まれて、ニューヨークで育ったんですか?
パナマに住んでから、4歳でロサンゼルスに行って、それから5年ぐらい住んでました。それからニューヨークに行ったんです。19、20歳までいました。思春期はずっとニューヨークでした。
――ニューヨークの生活は刺激的な日々でした?
それが普通でしたから。小学生の頃にたまに日本に帰ると、ウォークマンがすごく小さくてビックリした記憶があります。アメリカはプラスティックで大きいものだったので。だから日本でウォークマンを買って、アメリカで自慢していました。
――テクノロジーは日本の方が進んでいたと(笑)。両親の仕事の関係で海外で暮らすことに?
そうです。僕は両親よりも先に日本に帰国して、それからは祖母と一緒に暮らしてました。
――両親のどちらかがアメリカ人とか?
両方日本人です。親父はアメリカに行きたいという夢があったみたいで。最初は世界でもっとも危険なベネズエラで過ごして、それからパナマに移って・・・パナマも内戦があったので治安は決して良くなかったんですけどね。マンションの20、30階に住んでも、窓から強盗が入りますからね。
――マジですか!
あと、普通に誘拐も多いから、ベネズエラでも駐在員の奥さんとか外に出れないんですよ。日本人は特に誘拐されやすかったりします。お袋はかなりのストレスがあったみたいです。
日本人はみんな尺八を吹けるんじゃないの?
HeavensDust / Shin
――では、Shinさんが音楽を聴き始めたきっかけは?
親父は家でラテン系の音楽を流したり、ビーチボーイズのライヴに連れて行ってくれたり、音楽は身近にありました。それから学校に行き始めると、ヒップホップやロックを聴く友達がいたので、そこでどっぷりハマりました。バンドをやるきっかけはスマッシング・パンプキンズの解散ライヴが日本であったんですが、それを観たときにすごく衝撃を受けてからです。こんな風にものを伝えられたら、最高だなと思うようになりました。それが20歳位だったから、バンドへの目覚めは遅いんですよね。
――スマッシング・パンプキンズのどこに衝撃を受けました?
激しいリフもあるけど、壮大さと切なさが入ってるところです。絶望的な曲を歌っているけど、そこに少し光が見える感じなんです。その世界観が好きです。
――それは現在のHeavensDustの音楽性にも通じますね。スマッシング・パンプキンズ以外の音楽は?
コーンも好きだし、デフトーンズのチノ・モレノ(Vo)の歌にも影響を受けました。叫んだり、囁いたりとか・・・激しさと切なさの両面を持ってる人が好きです。
――ほかに90年代、00年前後のニューメタルの影響をHeavensDustの音楽から感じますけど、その辺はいかがですか?
イル・ニーニョなども好きです。
――トライバル要素のあるメタル・バンドですね。
そうです! ほかにソウルフライとか、自分たちの文化を音楽に取り入れているところが好きです。自分は海外で生まれ育ったけど、日本人であることに誇りを持っているんです。だから、音楽を作っても自分のルーツを入れたいと思っています。一時帰国したときに和太鼓や尺八を見たり聴いたりして、とても感動したんです。それで和太鼓の迫力をメタルに入れてもいいじゃん!と思ったんですよ。ただ、アメリカの友達に「尺八のメンバーを探すのが大変なんだよね」と言ったときに、「えっ、日本人はみんな尺八を吹けるんじゃないの?」って。それぐらいの認識ですから。
――日本の楽器なんだから、日本人は吹けて当然だろうと(笑)。
そうなんですよ。あと、アメリカにいたときに、日本人としての誇りを持たざるを得なかったところもありました。やはりいまでも、アメリカには人種差別はあります。例えば日本では、広島の原爆の日にみんな黙祷を捧げますよね、それがアメリカではパールハーバーなんです。そのときに自分は格好のイジメの対象にされるなんてこともあるんです。
――ええっ、そうなんですか。
そこで自分が日本人だと気づかされるんです。それもあり、音楽は人と違うことをやりたいという気持ちは人一倍強いです。
同じことを長くやり続けることは本当に大変
HeavensDust / Shin
――このバンド自体は完全に日本に戻ってから立ち上げて?
そうです。メンバーも日本人でやることに意義があると思って。
――00年結成ですけど、オリジナル・メンバーはShinさんだけです。これまで琴や女性ヴォーカルを入れてみたりと、メンバー・チェンジも何度かあったようですが。振り返っていかがですか?
大変でしたね(笑)。バンドだけに限らないかもしれないけど、同じことを長くやり続けることは本当に大変だなと。人間関係や音楽の方向性もそうですけど、自分も人として全くできてなかったので、みんなに迷惑をかけた部分もあります。
――音楽のイニシアチブはShinさんが握って?
そうですね。曲も歌詞も自分で書いてましたので。それでいろいろ経験を積むと、考え方も変わるので、そうなると歌詞の内容も変わります。
――結成時にやりたかった音楽は?
音楽というか、表現の仕方として、人に対する憎しみしかなかったので、それを吐き出していました。いつもイライラしていたし、今考えると人のせいばかりにしていましたね。誰かを見返そうという、憎しみや恨みを表現していました。
自分はロック・スターになるはずだったのに
HeavensDust / Shin
――それから表現はどんな風に変化したんですか?
時が経つにつれて、反省点も見えて、大人になるというか。自分だけで生きてるわけじゃないし・・・というようなことを考え出したんです。一番大きいのは30歳のときにアメリカのレーベルと契約して、バンドもアメリカで活動してたんです。そのときに結構お金も入ったから、だいぶ調子に乗ってたんですね。結局、うまくいかなくて日本に帰ってきたんですけど。そのときに俺が地球の主人公!くらいに思ってやっていたのに、何もかもうまくいかないから、鬱状態になったんですよ。30歳から35歳まで。
――5年間ですか! 
はい。自分の実力を認めるまでに5年かかりました。要するに自分はロック・スターになるはずだったのに、なれなかったから・・・その現実を受け止められなくて。「えっ、俺は思っていた人間と違う!」って。それから酒を飲みまくってました。Pay money To my PainのK(Vo),LOKAのKIHIRO(Vo)とかと一緒に下北沢の老舗の居酒屋でよく飲んでました。で、家に帰ると、毎日泣いてました。そこで作る曲も変わってきたんです。クソ!FUCK!と叫んでいたのが、ただただ悲しいという感情に進んだから、絶望しかなくて。
――完全にサッド・ミュージックにシフトして?
はははは、そうですね。でも自分の周りには支えてくれる人もいるし、やっぱり音楽はいいなあと思って。とにかく自分がいいと思う、好きな曲を書こうと。
自分が傷ついたからこそ、人の痛みもわかるようになった
HeavensDust / Shin
――なるほど。13年に現6人体制にメンバーは固まります。
ああ、そうですね。悲しむのも疲れてきたから、楽しくやれたらいいなと。前に出した「This Is Where It Ends」という曲があるんですけど、すべてはここで終わるという。その頃は絶望の中で曲を書いていたけど・・・ふと読んだ本の中に「成長に失敗はない」という言葉があって。それでこれまでを振り返ったときに、俺は成長できたんだなと思えるようになったんです。
――そこで表現の仕方が変わったんですね。
今作の「Scars That Were Meant To Be」という曲は直訳すると、「傷はできるべくして、できたんだよ」って意味なんですよ。鬱だった5年間を今思い返すと、すごく自分のためになったなと。自分が傷ついたからこそ、人の痛みもわかるようになったし、この傷には意味があったんだなと。人生に必要な傷だったんだなと思えたんです。
――ああ、なるほど。
昔からすると、考えられないですね。傷をつけてやるとか、そういうことしか考えてなかったから。表現の仕方が真逆になっちゃいました(笑)。あと、今回の「Histories Are Made Here」は直訳すると、歴史はここで作られると。自分が、鬱のまま死ぬまでいれたのかもしれないけど、そこで変わろうと思った瞬間があるんですよ。そう決意した瞬間に歴史が変わるという。それを表現しようと思いました。みんなあると思うんです。悲しみ続けるのか、どこかで見つめ直して変わろうと思うのか。悲しむのも自分の決断ですから。俺は人に恵まれてました。ただ、自分が底辺にいたときに一緒にいてくれた人は一生大事にしなきゃいけないなと。そこは本当に学びました。だから、失敗は必ず糧になるときがあるからって。それを伝えられたらいいなと。
――今作の冒頭曲「Pull Back」は"引き戻す"みたいな意味ですよね?
それはまたスタート地点に戻ればいいからって曲なんです。一度休憩して、またやり直せばいいじゃんって。だから、この4曲入りEPで初めて自分の傷を認めて、それでも大丈夫なんだ!と言えた作品なんです。音楽に本当の気持ちを吐き出した上で、それをポジティヴに書けたと思います。
命を賭けて表現しているところが凄い
HeavensDust / Shin
――今作で音楽的にチャレンジした部分というと?
「Scars That Were Meant To Be」では結構同期を入れて、みんなでシンガロングできるパートを入れたのは初めてですね。みんなで輪になって、歌っているようなイメージがありました。
――「Histories Are Made Here」では鍵盤を入れてますよね?
最近、ピアノ曲が好きで。あと、リンキン・パークも好きですからね。
――リンキン・パークも尺八サンプリングを入れた曲もありますからね。Shinさんはもともとピアノをやられてたんですよね?
そうですね。だけど、そこまで出さなかったんです。ピアノをやってることも言いたくなかったけど、今では親に感謝してますね。
――「Pull Back」はスリップノットぽい攻撃性が出てますね。
ライヴは相当迫力があるので、是非観てほしいです。太鼓がうるさすぎて、某スタジオを出禁になりましたから(笑)。低音が響きすぎちゃって、それぐらい迫力があります。スリップノットも大好きだし、コリィ・テイラー(Vo)もヴォーカリストとしてやばいじゃないですか。ほかにマリリン・マンソンの影響も強いです。こんなに怖い人が存在するんだ!って(笑)。十字架を燃やすって、アメリカは宗教を大事にしている国なので、あんなことをしたら、キリスト教徒に殺されても仕方ないレベルなんです。逆に言うと、殺されてもいいくらい強い覚悟でやっているという。命を賭けて表現しているところが凄いなと。
FUCKという言葉に自分の気持ちが付いていかなくて
HeavensDust / Shin
――Shinさんのヴォーカルはシャウトよりも、どちらかと言えばクリーン・パートの方が多いですよね?
歌の比率は増えたかもしれないです。今作の中だと、「Pull Back」しかシャウトしてないです。FUCK!と叫んでいたときに、あれ、俺はそんなにFUCKと思ってないかもって(笑)。FUCKという言葉に自分の気持ちが付いていかなくて、それから徐々にシャウトが減っていきました。
――英語で歌っているのはこだわりがあるんですか?
英語が一番ナチュラルに出てくるんです。それだけです。日本語が嫌だという気持ちもなくて、子供の頃に洋楽を聴いていたから、自然と英語で書いているだけです。ただ、漢字がなかなか読めないんです。こないだも居酒屋で炭火焼き(すみびやき)の読み方を知らなくて、「たん、たん、たんか・・・」と言ってたら、店員の人に「炭火焼きですね!」って。そこで帰国子女だからって、わざわざ言うわけにもいかないし。
――確かに(笑)。今後、バンドとしてやってみたいことはありますか?
海外にはすごく行きたいです。理由としては、いろんな文化に触れたいんですよ。キリスト教、イスラム教とか、自分たちの文化は100%合っているわけではないし、それは自分たちの中で正しいだけですから。これからもいろんな人に触れて、日本の文化や和太鼓は素敵なものなんだよって伝えられたらいいなと。みんな西洋に憧れが強いかもしれないけど、海外の人も日本に憧れている部分もあるし、それを自分たちで証明して、日本の方にも自分たちの文化を大切にしてほしいなと。
HeavensDust / Shin

取材・文=荒金良介  撮影=菊池貴裕

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