MAGIC OF LiFE、自身主催フェス『DO
N’T STOP MUSIC FES.TOCHIGI 2018』
で示した決意と覚悟

DON’ T STOP MUSIC FES.TOCHIGI 2018 2018.5.20 栃木文化会館
「誰よりも優しく突き刺すシャウト」
MAGIC OF LiFEのボーカル高津戸信幸のシャウトは独特だ。彼特有の声質だけによるものではない。心に到達するまでが優しく、スピードが早い。それはまるでよく切れる包丁で食材を切るかのように、一つの傷もつけず心の深いところに突き刺さる。だからこそ響く。
『DON’ T STOP MUSIC FES.TOCHIGI 2018』二日目の大トリ、MAGIC OF LiFEのステージはそんな高津戸のシャウトで幕を開けた。1曲目に演奏されたのは「弱虫な炎」。二日間に渡るイベントの最後の演奏である。運営側の仕事もしつつ、初日の最後にも演奏をしている彼ら。疲れていないはずはない。しかし、それを微塵も感じさせない魂のこもった演奏。高津戸の声の調子も良さそうだ。何よりも、メンバー4人がイベントに関わる全てを背負って音を奏でることへの覚悟が、一音一音から伝わってくるようだ。彼らのライブは何度も観てきたが、やはりこのイベントは特別だということがわかる。
MAGIC OF LiFE 撮影=橋爪和哉
2曲目は「Answer」だ。曲のイントロ部分から、高津戸はオーディエンスとのコミニュケーションを重ねていく。楽曲の間奏部分や歌がないパートでは必ず語りかける。彼らのライブを見ていると、間奏はボーカルが気持ちを作るためにあるわけでもないし、バンドが空気感を作るためにあるわけでもない。客席とステージのコミュニケーションのためにあるのだと思わされる。「何も考えないで俺についてこい」。その一言を100%信じていいのだと思わせてくれるバンドが果たしてこの世にいくつ存在しているだろうか。MAGIC OF LiFEは間違いなくその一つだ。
3曲目「呼吸」。相変わらず高津戸は客席に語りかけ続ける。オーディエンスから返ってきた反応には必ず応え、さらに次の段階へと導こうとする。ギター・山下拓実、ベース・渡辺雄司、ドラムス・岡田翔太朗も客席に返事をするかのように演奏する。オーディエンスが安心してシンガロングできるかどうかはバンドへの信頼度とイコールだ。客席の歌声がどんどん大きくなっていく。ステージと客席の境界線が徐々になくなっていくような錯覚を覚えた。「僕らは間違いなく同じ時間を生きている」。高津戸のその言葉でステージと客席という括りは完全に取っ払われたと感じた。
MAGIC OF LiFE 撮影=橋爪和哉
ここで初めてのMC。あんなに力強いボーカルを聞かせていた高津戸だが、無音の中で話す声はとても優しい。彼の人柄が一言一言に滲み出る。おそらく、2017年の『DON’ T STOP MUSIC FES.』が終わった瞬間から、今年のイベントへの準備は始まっていたはずだ。一年間、ずっと主催者としての責任を負いながらバンド活動をしてきた彼らのプレッシャーは計り知れない。それがもうすぐ終わる。ここまで主催者と演者の両方のバランスを取ってきたであろう彼らが、MC中に徐々に100%演者に切り替わっていくように見えた。「残り2曲です」という言葉が、バンドとして残りの演奏に全てを出し切るという宣言に聞こえた。
4曲目の「青くて白い」は、じっと聞き入りたくなる曲。ライブ開始からの3曲では拳を突き上げたくなるような、自分の中に眠っている生きる力を呼び起こさせるような楽曲を届けてきた彼らが、敢えてMC後にこの曲を選んだ理由がわかるような気がした。みんな誰しも今を生きる力を持っている。それに気付かせ、自信を持たせてくれた後に、MAGIC OF LiFEは「自分で決めるしかないのだ。みんなはそれができる」ということを静かに提示する。それはバンドの生き様そのもののように感じた。MAGIC OF LiFEは自分たちで決めて音を鳴らし続けて、今この場に立っている。だからこそここで優しく促す曲が歌える。
MAGIC OF LiFE 撮影=小杉歩
一人一人の中にある生きる力に気付かせ、自分で決めて進んでいくのだということを示したMAGIC OF LiFEは、オーディエンスを全肯定して演奏で背中を押す。「線香花火」のイントロの美しい調べは、また明日から走るための助走に聞こえた。イベントが終わればそれぞれの日常が始まる。それでもライブ会場に来れば必ず応援する準備をして待っているよ、と言われているかのようなあたたかい演奏だった。
客席からの歓声がこのイベントの成功を物語っていた。主催者と演者。両方の立場でイベントを取り仕切ってきたメンバー全員の顔に達成感が見えた。今年もやり遂げたのだ。割れんばかりの拍手の中、ステージから退場する4人はとても誇らしげだった。
MAGIC OF LiFE 撮影=小杉歩
長くバンドをやっていればいろいろなことがある。メンバーの脱退や解散の危機もあったはずだ。それでも彼らは音を鳴らし続けることを選び、活動してきた結果がこの2日間のイベントだ。ある曲の途中、ボーカル高津戸は言葉を詰まらせたように見えた。こみ上げる感情が溢れ出たのだろう。そんな一瞬さえも愛おしいと感じさせるような、心のこもったイベントだった。
「来年もやりたい」高津戸はそう言った。覚悟を決めたのだ。このイベントが終わったらすぐに来年の開催に向けて彼らは動き出すことになる。険しい道になることは重々わかっているはずだが、それでも彼らは決めた。その決断を一番近くで見たオーディエンスもまた決めたはずだ。また来年、MAGIC OF LiFEに負けないくらい自分も戦って、胸を張ってこの場所に戻って来ると。音楽を通じて目に見えない約束が交わされたように感じた。
きっと来年も音は鳴り続ける。

取材・文=三浦隆一(空想委員会) 撮影=小杉歩、橋爪和哉
MAGIC OF LiFE 撮影=小杉歩

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