三者面談!?で明かされる『グラゼニ』
オーディションの決め手とは 落合福
嗣☓M・A・O☓辻谷耕史『グラゼニ』
懸談

「グラウンドには銭が埋まっている」! プロ入り8年目で年俸1800万円の凡田夏之介は、厳しい現実の中でその銭をモノにする戦いの中でマウンドに立つ。華やかな話題が多いプロ野球をシビアな視点から捉えた『グラゼニ』がBSスカパー!でこの春からアニメ化された。主人公の凡田夏之介を演じるのは、落合福嗣! これが容姿もそっくりの当たり役だ。そんな凡田を見守るユキを演じるM・A・O。その二人と、今回は音響監督を務める辻谷耕史の三人で『グラゼニ』について語ってもらった。
――『グラゼニ』、大変楽しく拝見しております! 落合さんにお聞きしたいのですが、放送が始まってからの周囲の反響はいかがでしょうか?
落合:僕はあまりネットを見ないので、知り合いからの反響しか知らないのですが、観てくれた人からは「エグいね」と言われました。
――「エグい」ですか?
落合:はい。「シリアスだね」「シビアなんだね」って言われました。
――ああ、たしかに、『グラゼニ』はコメディーっぽいのですが、描かれているのはお金をめぐるプロ野球選手の悲哀ですからね。
落合:あと、野球好きの人たちからは、「球場感が半端ない!」とすごく言われましたね。応援している人たちの鳴り物とか、かかる音楽とか、球場での音の響き方が本っ当にリアルなんです! あと、球場のフェンスに描いてある「アジテレビ」とか(笑)。そういうのも探すのも楽しいという意見を聞きましたね。
――僕もよく球場で野球を見るのですが、あの音響は本当にリアルですよね。これは辻谷さんのほうから細かく注文を出されているのですか?
辻谷:いや、普通にやってます(笑)。
――落合さんの演技に対する周囲の反響はありませんか?
落合:僕はあまり聞いてませんね。ただ、「すっごく面白い!」と言ってくれているということは、僕の演技も、い、いいのかなぁ……? って(笑)。僕の演技が気にならないということは、それだけ物語にハマってくれてるのかな? と思います。
リアルすぎて辛い部分もだからこそ面白い(落合)
――それではあらためて、みなさんが『グラゼニ』の原作を最初に読まれたときの感想をお聞かせください。
落合:僕はプロ野球がこういう世界だということを知っているので、「この原作者(森高夕次さん)は野球関係者なのかな?」と思いましたね。すごくリサーチして書かれている方なんだな、というのが、僕が最初に読んだときの印象です。それぐらいリアルだと思いました。リアルすぎて辛い部分もあるかもしれませんが、その辛さが面白かったりするんですよ。エンターテイメント的な展開もあるのですが、他の野球マンガよりそういう要素が少ない中で、けっこう淡々と年俸や税金などのプロ野球選手の生活が描かれていきますからね。本当にリアルな話だし、だからこそ働いている世代の人たちに刺さるのかな、と思います。
M・A・O:「自分の知らない世界が広がっている……!」というのが最初の印象でした。とにかくお金の話が具体的で、びっくりしながら読み進めて行くと途中でユキちゃんに癒やされて、ホッとするという感じでした(笑)。
辻谷:ごく一般的なサラリーマンの方が読むと、「(プロ野球は)こんな世界なんだな」と感じると思うんじゃないでしょうか。でも、僕らの世界って、実はすごく近いんですよ。だから、『グラゼニ』を読んだときは「ああ、これって普通だよね」「プロ野球の世界も、僕らの世界も一緒だな」というのが第一印象でした。
辻谷耕史 撮影:大塚正明(LookUP)
――具体的にはどのような点が共通していると思いましたか?
辻谷:たとえば、生涯年収の話が出てきますよね。普通のサラリーマンなら退職するまで40年から45年ぐらい働けますが、声優の世界は旬の時期があって、それが10年かもしれないし、15年かもしれない。20年続けば、けっこういい方だと思います。声優は他の人の人生の半分ぐらいの期間で、同じぐらいのお金を稼がなければいけないと考えたら……(落合さんとM・A・Oさんに向かって)けっこう大変だよね?
落合:た、大変だと思います!(笑)
辻谷:プロ野球選手はもっと短いと思いますが……今は声優も一緒か(笑)。「このキャラクターは声優でいうと誰々だな……」なんて思いながら読んでいました。去っていったキャラクターがいれば、あの引退した人に似てるな、とか。
落合&M・A・O:ええっ~!(その場にいた全員がどよめく)
――ち、ちなみに誰が誰なんでしょう……?
辻谷:具体的には言えないけどね(笑)。
落合:それはキャスティングに反映されたりしましたか……?(おそるおそる)
辻谷:そんなことでキャスティングはできないよ!(笑)
――今、キャスティングのお話が出ましたが、『グラゼニ』のキャスティングはすべてオーディションだったとお聞きしています。辻谷さんにお伺いしたいのですが、落合さん、M・A・Oさんの決め手は何だったのでしょうか?
落合:三者面談だ……(小声で)。
M・A・O:三者面談ですね……(小声で)。
辻谷:実は僕、落合くんのことをぜんぜん知らなかったんですよ。彼が子どもの頃、テレビに出ていた時期、僕はテレビをまったく見ていなかったので。ただ、野球の落合(博満)選手の息子さんが声優をやっていると聞いていたので、オーディションのときに「どんな子なんだろう?」と写真を見たとき、「あ、凡田にそっくりだ」って(笑)。その後にサンプルの声を聞いたら「声も合っているな」と思ったので、出会うべくして出会った役だと思います。そういうのって、役者さんにはあるんですよ。いい時期にいい役にうまくめぐり合ったと思います。凡田役にはなるべくしてなったというのが、落合くんの印象ですね。
――なるほど。
辻谷:M・A・Oさんの場合は、関西弁が決め手でした。きちっと関西弁を話すことができる人は、声優さんの中でも限られているんですよ。ユキのようなキャラの雰囲気と合った人はたくさんいるのですが、ネイティブな関西弁は他の人はかないませんよね。すごく素朴な感じも出ているので、ぴったりだと思いました。
――落合さん、オーディションはかなり気合が入っていたとお聞きしていますが、実際には大変だったのでしょうか?
落合:やっぱり大きなタイトルでしたから、気合が入りました。それ以前にいろいろな作品のオーディションを受けるときも「(役を)獲りたい、獲りたい」という気持ちが先行していましたが、凡田夏之介も同じ気持ちで必死になってボイスレコーダー片手に練習していたら、ウチの妻が「ちょっ、ストップ! 作業中止!」と(笑)。そこで野球のキャップを被らされたら、面白いほど凡田に似ているんです(笑)。凡田は野球選手だから体格もいいし、ちょっとぽっちゃりもしているし。顔が似ているということは、骨格も似ているんでしょうね。「似ているんだから、肩肘張らずにやったら?」と妻に言われて、「獲ろう、獲ろう」と思うのをやめたんですよ。
――肩の力が抜けたんですね。
落合:はい。何かの縁で夏之介と一緒に仕事ができたらいいな、とマインドが変わってから、楽にオーディションを受けることができました。ただ、オーディションのとき、野球絡みのセリフで「キャッチ!」というのがあったんですよ。
――ピッチャーがキャッチャーに打球を捕るよう指示する言葉ですね。
落合:このセリフだけは、自分が今まで野球をやってきたものがポンと出た感じがあります。ずっと声に出して言っていた言葉ですからね。経験から出るものはやっぱりあるんだな、と自己認識できました。僕の中ではいろいろな勉強になったオーディションでしたね。
――落合さんにとっては、そのセリフがネイティブだったんですね(笑)。
落合:ダハハハ! そういうことですね。ネイティブ同士(笑)。
――M・A・Oさんはオーディションに際して、どんなお気持ちだったでしょうか?
M・A・O:関西弁は地元の言葉なので、いつもより素になれたような感じでオーディションを受けさせていただきましたね。あと、ユキちゃんは癒やしのキャラクターだと思うので、優しくのほほんとしたところを意識しました。
素朴な雰囲気を心掛けて演じさせていただいています(M・A・O)
――もう『グラゼニ』の世界にハマっている人たちは承知していると思いますが、神宮スパイダースの中継ぎ投手・凡田夏之介はどのようなキャラクターなのか、あらためて落合さんから教えていただけますか?
落合:すごくプレッシャーに強い男だとリスペクトしています。夏之介を演じる上で、絶対に忘れないようにしようと思っていることがあって、それは日常のセリフでも、僕らが普段感じている日常とプロ野球選手が感じている日常とでは違うということです。たとえば、「お水、美味しいね」というような日常会話でもベクトルが違うんです。
落合福嗣 撮影:大塚正明(LookUP)
――僕たちにとっては喉が乾いたときに普通に飲む水でも、プロ野球選手は体調管理を考え抜いて飲む大切な水だったりするわけですからね。
落合:そのことだけは演じるとき、お腹に入れてあります。落合福嗣として満員の神宮球場のマウンドに立って相手の打者を抑えてこいと言われたら、絶対に身体が動かないでしょう。でも、凡田夏之介はその中で仕事をする。だからこそ打たれるときもあり、抑えるときもある。ファンから見れば「なんであそこで打たれるんだよ」と思うかもしれませんが、彼らは僕たちの想像を絶するプレッシャーと緊張感の中、頭をフル回転させてプレーしているんだな、ということを日常会話の中で常に入れて喋ろうと思っています。一見、凡田夏之介からはプロ野球選手のすごさをぜんぜん感じないかもしれませんが、実はすごいんだということを僕は意識しています。年俸1800万円とはいえ、ワンポイントで使ってもらって、満塁のピンチでもマウンドに向かうわけじゃないですか? セットアッパー、中継ぎ、抑えは、先発とは違う大きなプレッシャーがかかるんですよね。そんな中でプレーしている凡田夏之介はすごいと素直に思います。
――確かにそうですね。
落合:ただ、彼らは「俺はプロ野球選手だぞ」と思いながら生活しているわけではないんですよね。そんなことは会話には絶対に出さない。だけど、僕らとはオーラがちょっと違う。そんなことを意識しながら演じています。
――では、M・A・Oさんから定食屋で働くユキというキャラクターについて、あらためて教えてください。
M・A・O:普段はのほほんとしていますが、野球が大好きで、好きなチームを応援する時は関西の血が騒いで「オラァ~!」となってしまうところがあります(笑)。基本的な部分では素朴な雰囲気を心掛けて演じさせていただいています。いつも笑顔を忘れずに、お客さんから「癒やされるからまた来よう」と思ってもらえるような女の子だと思いますね。
M・A・O 撮影:大塚正明(LookUP)
――ユキが凡田夏之介に「オラァ~!」と凄むシーンはもう録り終わったんですか?
M・A・O:はい。「オラァ~! 凡田ァ!」という感じでした(ニコニコ)。
落合:その節はすみませんでした……(笑)。
――アフレコの模様を先ほど拝見させていただきました。非常にスムーズに進行されていたのが印象的でしたが、落合さんは初めての主役としてのアフレコの雰囲気はいかがですか?
落合:僕はすごくいろいろな人に支えられてるな、と思いながらやっています。たまに「今ので良かったのかな……?」と思うとき、こっそり辻谷さんのほうを見ると「あ、いい感じなんだ」とオーラで見せてくれます(笑)。ダメだったときはちゃんと言っていただけるので、何も言われないときは「今のでいいんだ」と自信を持てる感じにやっとなってきました!
M・A・O:とても和やかな現場ですね。野球のいろいろなお話を伺えたりもするので、「なるほど!」と思うことも多いです。
――落合さんの演技っぷり、凡田夏之介っぷりはいかがですか?
M・A・O:「あ、凡田さんだ」という感じです(笑)。優しさと包容力がにじみ出ていますね。あと、すごくナレーションやモノローグが多いので、よく噛まずに全部言えるな、すごいなぁ……と尊敬しています。
落合:たまに迷子になってますね(笑)。「これ、ナレーション? モノローグ?」ってなります。
辻谷:なんとなくわかる。ナレーションなのかモノローグなのか現実なのか、とっちらかるよね。
――原作の1エピソードが15分にギュッと凝縮されているので、情報量が多いですよね。
落合:防御率の説明が一番難しかったです。そもそも自分があまりよくわかってないので、すごく勉強しました。
辻谷:あれは一度聞いただけでは理解できないかもしれないね。
――『グラゼニ』は落合さんの代表作の一つになると思います。今後の意気込みをお聞かせください。
落合:原作を読んでいる方はご存知でしょうが、これから凡田夏之介がどういう風にプロ野球の荒波を泳いでいくのかを見ていただきながら、一緒に驚いて、一緒に感動して、一緒に泣いていただきたいと思います。夏之介の年俸がどうなっていくのか、みなさんもぜひ楽しみにしてください。
M・A・O:ここから凡田さんとユキちゃんのウフフなところもあったりしますので、ぜひ注目して下さい。あと、エンディングのユキちゃんで癒やしを感じていただけたら嬉しいです。
落合:あれ、本当に可愛いんですよね!
辻谷:『グラゼニ』は今期でだいたい第6巻ぐらいまで消化する予定なのですが、僕が読んだ感じだと第6巻以降がより一層面白くなるんですよ!(笑) 凡田がユキちゃんにプロポーズする話とか、すごくいいよね。
落合:やりたいなぁ……。
辻谷:そこから先をぜひやりたいので、視聴者のみなさんもぜひスカパー!さんと契約して『グラゼニ』を支えていただけたらと思います。よろしくお願いします!
撮影:大塚正明(LookUP)
取材・文:大山くまお 撮影:大塚正明(LookUP)

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