ファンタジーだからこそ届く心からの
ポジティビティ、eddaの表現世界を探

昨年2017年10月リリースのデビューシングル「チクタク」のタイトル曲がアニメ『Infini-T Force』エンディングテーマになり、今年1月にオンエアされた高畑充希主演ドラマ『忘却のサチコ』に「リピート」が抜擢されるなど、表現世界がアニメやドラマのクリエイターから注目を集めるシンガーソングライター、edda(エッダ)。ダークファンタジーに通じる表現世界は音楽のみならず、イラストやジオラマ制作にも及び、物語を立体化させる才能が注目される存在だ。その彼女が作家陣にCoccoぼくのりりっくのぼうよみの作品でも知られるササノマリイらを迎えたEP『ねごとの森のキマイラ』をリリースした。自身の作家性を歌詞と歌に注力したと言える今回のEPの話題をメインに、なぜeddaにとって物語が必要不可欠なのか?について聞いてみた。ちなみに歌詞の物語について話す彼女は、自身についての語り口とは真逆なぐらい、瞳を輝かせて説明してくれる。つまり、それこそがアーティスト、eddaの本質なのだろう。
――まず、eddaさんの表現のバックボーンについてお聞きしたいのですが、音楽や表現に興味を持ったきっかけというと?
小さい頃から物語を読んだり見たりするのが好きで。あとEテレオタクで、子供の頃、粘土のコマ撮り映像とかがよく家で流れていたんですね。そういうのを見て、“面白そうだな、どうやって作るのんだろう?”とか思ってるような子で(笑)。音楽は小学校3年生の時にギターを始めて、そこから音楽に触れる機会が多くなって。で、ものづくりも好きで音楽も好きだったので、音楽を作る人になりたいなと思って、勉強を始めましたね。頭の中で空想物語を考えることがよくあって、そういうものを形にしたいと思ったんです。音楽であれば音を使って物語を表現するっていうところ、あとはジオラマとかを使って表現することもすごく好きで、そういう表現の一つとして音楽を使ってる感じがします。
――どんな番組が好きだったんですか?
子供向けながらもしっかり作り込みがされてる番組が好きで、『ピタゴラスイッチ』をずっと見入っちゃったり、そこで使われてる音楽もハイレベルで子供騙しじゃないところがすごいなと思ってました。
――福岡の音楽塾ヴォイス出身の方は、シンガーメインのアーティストのイメージが強いので、そこに入られたのは意外でした。
ああ、そうですね。ヴォイスに入った段階では自分がどういう音楽をやる人間だとか、自分の歌い方が人と違うんだ、みたいなことがふわふわしている状態で。入ってから曲作りの勉強をして、“音楽ってこうやって作るんだ”っていうことを学んでから、“じゃ自分はどういう音楽を作ると楽しいんだろう?”って模索している中で、ファンタジーとかおとぎ話とか、そういう物語の音楽を作るというところにたどり着いたので。だから入った当時は全然こういう感じの音楽を作る人になるとは思ってなかったですね。
――ヴォイスはシンガーソングライターを数多く輩出してるイメージですけど、裏方の勉強もできるんですか?
はい。今は編曲の勉強を教えてもらうコースがあるんですけど、私が入った時はなくて。私が入った頃はシンガーか、シンガーソングライター・コースしかなかったので、シンガーソングライター・コースに入ったんですけど、今の状況で当時の私だったら編曲コースに入ってたのかなって(笑)。
――じゃあ自分が表に立つのはそんなに重要ではなかったんですか?
全然意識してなかったですね。
――じゃあシンガーソングライター・コースに入ったものの?
そうですね。歌うことが苦手っていうか、人前に立ったりするのが嫌いだったので、なんかシンガーソングライターっていうのはしっくりこないなと思いながら勉強はしていて、その勉強をした中でこういう風に自分の頭の中を表現できるなっていうのはすごく楽しくて。やっぱり、その頭の中にあるものを表現できるのは自分でしかないので、結果的に自分が歌うこともすんなりできて、今があるっていう感じなんですけど。
edda
ギターは弾けるようになりたかったけど、歌いたくない気持ちがすごくあって。でも先生が「声がいい」って褒めてくださって。今となってはその先生に感謝してます(笑)。
――自分で“こういう風に歌えるんだ”って発見したきっかけってありました?
ギター教室に通っていた中学生の頃、「歌も歌った方がいいよ」って言われて、“歌わないといけないのか……”と思ってイヤイヤ歌っていたんです(笑)。ギターは弾けるようになりたかったけど、歌いたくない気持ちがすごくあって。でも先生が「声がいい」って褒めてくださっていて。今となってはその先生には感謝してます(笑)。曲を作り始めてからは、歌うことがむしろ楽しいというか。ほんとは、ここまで書かないといけない歌詞だったかもしれないけど、これぐらいの言葉でも表現が乗ればここに持ち上げられるとか、そういう風な遊びができるというか、奥行きを持たせることができるなって思い始めたからすごく楽しくなりましたね。
――なるほど。おっしゃるようにeddaさんの表現っておとぎ話的で。例えば「不老不死」という曲では、死なない、死ねない生き物とか、怪物的なものの悲哀みたいなものを感じたんですが、そういう世界観はどういうところから吸収したんですか?
私、人間よりもそういう生き物の方が好きで、興味があるというか。私の創作物でしかないんですけど、曲の中にある物語がどこかに本当にあるんじゃないか?って思って作っているので、そこへののめり込みというか(笑)、そういうものを形に残していきたいなっていう風に思いますね。
――そうした表現への影響はなんだと思いますか?
『不思議の国のアリス』とかファンタジーが好きですね。ホラーとガーリーが混ざった世界観の生き物というか、原作を読んですごく入り込んじゃって、そこからいろんなアリスを見たんですけど、どれも好きで。中でもヤン・シュヴァンクマイエルさんという方のアリスが特に好きで、そういう世界観に惹かれたんだと思います。
――イラストもずっと描いてらっしゃいますもんね。絵は小さい頃から好きなんですか?
小さい頃から好きでしたね。
――漫画家になろうとは思わなかった?
アニメーターになりたかった頃はあって(笑)。どうやってなるんだろう?ってすごく検索していた頃はありましたね。
――今、アニメとか映画の製作者からeddaさんの曲が求められているのは必然かもしれないですね。
ありがたいです、ほんとに。
――どういう系統のアニメは好きですか?
一番好きなのが『カイバ』っていうアニメで、キャラクターはポップで可愛い見た目なんですけど、内容が結構ダークで、でも最後は少し光が射す、みたいな内容で、そのアニメがほんとに好きで。自分の楽曲も、一見可愛い音を使っていても、ちゃんと話を聞いてみるとちょっとダークな世界にいて、でも最後にはちゃんと光が射すような、『カイバ』のような作りの曲をちょっと意識して作っているところはありますね。
――なるほど。物語の方が日常を歌うよりのめり込める?
あ、「日常っぽい歌詞で」みたいなことを言われても全く書けなくて。物語がないとダメですね。
――でも日常生活の中でも思うことはあるんですよね?
はい。例えば一人ぼっちが寂しかったら、そういう境遇を持ち合わせた他の生き物を作り出して、この子の物語を進めて行けば曲になるかな?とか。でも日常のまんまを使うっていうのはちょっと恥ずかしいところもあるんですかね(笑)。自分をさらけ出すのが苦手なので、肩代わりしてもらって、みたいなところはあると思います。
――今回のEPは他アーティストとのコラボレーションも魅力ですが、作詞はほぼeddaさんが手がけていて、1曲目の「グールックとキオクのノロイ」から、ファンタジー全開だなぁと。
「グールック〜」は月の話なんですけど、かぐや姫をちょっと題材にしたようなお話で。かぐや姫って地球から月へ戻ったら、地球での記憶をなくしちゃうじゃないですか? というところで、“グールックちゃん”も地球から月に行って記憶をなくしているんです。それと、月にはウサギがいると言われているということで、私の物語では、月に帰ったら地球での記憶を消すための装置を頭につけるんですね。で、その装置がウサギの耳みたいな形をしているから、ウサギがいると言われているっていう風に仮定して。
――ああ、そういう設定なんですね。
はい。それで記憶を操作しているので、月では記憶という概念がもうなくなっちゃってるんです。で、その装置もすごく昔からあるものだから、今、月にいる子たちはこれが何をするものだとかはわからずにつけているって感じで。でもたまに地球での記憶を取り戻しちゃう子がいて、それで頭がおかしくなっちゃったりするから、「記憶に呪われた」と言われていると。ただ記憶の概念がないので“キオク”ってっていうお化けみたいなものなんじゃないか?って。
――言葉の意味がわからないから?
はい。で、グールックも地球を見ると胸がザワザワしたり、喉がくすぐったくなったりとかするって言い始めて。「かわいそうに、グールックはキオクに呪われてるんだ」って周りの人に言われてるような……。
――すごい! 映画が作れそうなしっかりした設定ですね。
はい(笑)、そういう曲ですね。
――そして「夢のレイニー」はササノマリイさんの作曲ですが、ササノさんの楽曲が好きだったんですか?
そうですね、ササノさんがボカロで曲を発表していた頃から聴いていて。ササノさんの楽曲はちょっと空気感的にはeddaが作るものに似てるなと思っていたんです。ただ、ササノさんは日常を描いたり、心の中の闇みたいなものを描いていたので、どういう風に自分の物語が当てはまっていくのかな?と思っていたんですけど。「夢のレイニー」は普段から私の思っていることを書いたというか。
――というと?
夢の中で冒険したりとか楽しいんですけど、目が覚めると一緒に遊んでいた子のことを忘れちゃうじゃないですか? 夢の中なので。でも、経験イコール記憶、で、経験は事実とつながるし。っていうことは記憶である夢っていうのは覚えていれば事実とか経験につながるんじゃないかと思ったので、夢の中のその子のことを覚えている限りは事実っていうか“いた”っていう存在になるんじゃないか?って思っていて。主人公とレイニーは夢の中で忘れられないように、脳に焼きつくような場所を二人で探す冒険に出るんですけど、でも最終的に忘れちゃうというようなお話ですね。
――確かに経験していないことは記憶に残らないですもんね。そして「ダルトン」は作詞作曲共にCoccoさんですけども、この曲についてご本人とお話しはされたんですか?
Coccoさん本人とはお話しをしてないんですけど、今回のEPを作るときに「Coccoさんに詞曲をお願いするのはどう?」ってスタッフから聞かれて、「是非お願いします!」って。実際に提供いただいて「すごい!」と思いました。Coccoさんも割とダークな世界を生きている方で、そういう曲だなと思ったんです。でも、あまりに曲調も歌詞の内容も私が普段書くようなものじゃなかったので、これを私がどう表現したらいいのかわからない、自分なりに解釈しないと無理だなと思って、すっごい考えて。
――そこがeddaさんが単に素材としてのシンガーと違うところですね。
ダルトンって、ほんとは分子の一番ちっちゃい単位らしいんですけど、その意味合いを一回無視して(笑)、ダルトンっていう生き物がいて、その生き物が人を傷つけてしまう、シザーハンズのような感じで捉えて。1番のAメロの<いつか時が来てこの腕が癒えたなら>っていうフレーズは、最初は自分の腕を見ているようなイメージだったんですけど、それをやめて、ここにいるダルトンに向かって言っていて。彼が傷つけてしまった腕が癒える頃にはこの人から離れよう、でもその時がきてしまったら、今は一緒にいるから綺麗に見える空の青とか赤はどういう風に見えていくんだろう? と思っているような歌だと仮定したら、グンと一歩入り込めた気がしましたね。
――大げさに言うと、人生の終わりのような情景に思えたんですよ。でも重苦しくは聴こえなくて。
ああ、でも重くなりすぎないように歌入れの時にすごく意識しましたね。バラードがほんとに苦手で、歌うのも作るのも苦手で。聴くのは好きなんですけど(笑)。曲のどしっとした重たい空気に沿ってしまうのがイヤというか、反対側を見せていかないと際立たないと思っていて、そこの表現がすごく難しくて。なので結構あっけらかんとした、なんでもないような声で歌おうというのは意識していました。
――大げさになるのが嫌なんですね、eddaさんは。
そうですね(笑)。悲しい顔をして悲しいことを言う人ってダメだなと、ちょっとだけ思うところがあって。なんか、笑いながら言われた方が聴いてる方は苦しくなるというか、そういうところを表現できたらなと思いますね。
edda
なんか“ライブ大好きマン”になりすぎるのはeddaとしては違うのかなと思いつつ。できるだけ、声も物語も伝えられるようなライブにしたいなっていうのは考えています。
――たまの「さよなら人類」をカバーに選んだ理由は?
そもそもカバー曲を1曲入れようという話をしていたんですが、“いい曲なんだけどeddaが歌うところに何か意味を成すのか?”っていうところでガチッとハマるものが見つからなくて。ちょっと妥協みたいな候補が出た状態で打ち合わせが終わったのが、「グールック~」の打ち合わせの直前で。その後に「グールック~」を作曲してくださった郷(拓郎)さんとの打ち合わせがあって。その時に「そういえば郷さんてどんな曲を聴いてたんですか?」って聞いたらたまの名前が出て。「じゃあ帰ったら聴いてみます」って聴いたらすっごいハマっちゃって、今ごろになってたまブームが私の中で起こってます(笑)。自分が敬愛して、目標にしている郷さんのルーツのような感じでたまがいたんだなって思うと、今回「さよなら人類」をカバーするのはぴったりだったなと思いますね。
――ラストにはeddaさんの詞曲の「案内人」。三拍子のリズムや上物のアレンジがeddaさんらしいなと感じますね。
うんうん、そうですね。この曲はサーカスのイメージが欲しくて、上物の楽器としておもちゃのような楽器を買い漁って録音したんです。トイピアノとかカスタネット、ちっちゃいコンガやリコーダーとかを入れたんですけど、なんかそれもただ可愛いじゃなくて、ちょっと恐ろしさとか、そういう風に聴こえたらと思って入れましたね。
――歌詞は、選ぶことのできない世界に紛れ込んじゃった感じですね。
これは望んで踏み込んだんですけど、意外と辛かったり、うまくいかないことってたくさんあるなと思って、そこを表現できたらいいなと思って。主人公目線じゃなくて、案内人さん目線で主人公をずっと先導していくんですね。で、案内人さんは意地悪や脅しを言いながら連れていくんですけど、最終的に怖いながらも進んでいったから綺麗な景色が見えたというイメージで曲を作って。で、最後にまたAメロが来るんですけど、そこのAメロはさっきまで連れられていたこの子が、次は案内人になって新しい旅人を連れていく役になったという、無限ループみたいなイメージの曲です。
――案内人は『不思議の国のアリス』のウサギの役割ですね。1曲目とウサギつながり(笑)。
あ、ほんとですね(笑)。
――意外というと失礼なんですけど、前向きな内容だし。
eddaの曲は前向きな内容がむちゃくちゃ多いですね。一見ダークだけど、最後には光が射すようにといつも考えています。
――ちなみに人前に出るのが苦手だったということなんですけど、ライブは好きになりました?
今でも苦手ではあるんですけど(苦笑)、ただ、あまり緊張とかしないので。“いやだな、苦手だな”っていうよりは、いかにその物語を伝えようかとか、どうすれば次に活かせるのか、みたいなことを考えつつステージに立つようにはなりましたね。好きになることはいいことなんですけど、なんか“ライブ大好きマン”になりすぎるのはeddaとしては違うのかなと思いつつ。できるだけ、声も物語も伝えられるようなライブにしたいなっていうのは考えています。
取材・文=石角友香

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