NHK-BS「プレミアムシアター」至福の
夜~ベルリン・フィルの「ヨーロッパ
・コンサート」、アンタイ&センペの
2台チェンバロ、メータの80歳記念コ
ンサートを一挙放送

5月27日(日)深夜24時(28日午前0時)放送のNHK・BS『プレミアムシアター』は、豪華3本立て。まず、ドイツのバイロイトで開かれたベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の「ヨーロッパ・コンサート」を、開催地バイロイトのドキュメンタリーつきで。次いで、世界的チェンバロ奏者のピエール・アンタイとスキップ・センペによる2台チェンバロの演奏会。締めは一昨年に傘寿を迎えた指揮者、ズービン・メータの80歳記念コンサートである。
ベルリン・フィルの「ヨーロッパ・コンサート」は、楽団創立記念日の5月1日に欧州の歴史的建築で開催している演奏会。1991年に始まり、ホールや歌劇場のみならず、英国オックスフォード大学のシェルドニアン講堂、沈没軍艦ヴァーサ号が展示されているスウェーデンのヴァーサ博物館、昨年は地中海に浮かぶキプロス島の城塞・パフォス城特設会場で野外演奏……といった具合で、場所はさまざまだ。
今年の会場はドイツの世界遺産、バイロイト辺境伯歌劇場。18世紀中頃の絢爛豪華なバロック建築で、栄華を極めたフリードリヒ・フォン・ブランデンブルク=クルムバッハ辺境伯が、妻のヴィルヘルミーネの希望で建て、オペラが盛んに上演されていたと聞く。約5年の改修工事が終了し、お披露目公演のひとつとしてベルリン・フィルが登場。ワーグナー(1813~83)とベートーヴェン(1770~1827)の曲を、NHK交響楽団首席指揮者としてもおなじみのパーヴォ・ヤルヴィが指揮する。
指揮するパーヴォ・ヤルヴィ
バイロイトは、ワーグナーの劇音楽を毎夏上演する「バイロイト音楽祭」で知られる小都。彼は、自作オペラを上演するにふさわしい劇場を求めて辺境伯歌劇場を訪れたのをきっかけに、さまざまな条件を満たすこの地にバイロイト祝祭劇場を建設。1876年にこの音楽祭を創始した。音楽の授業で「楽劇王」と習っただろうワーグナーの実生活は波瀾万丈で、恋愛遍歴も多く、創作の肥やしもなっている。今回の『ウェーゼンドンクの五つの詩』はパトロン夫人のマティルデ・ウェーゼンドンクの詩に曲付けした連作歌曲だが、二人は道ならぬ仲だった。同時期に作られた楽劇『トリスタンとイゾルデ』は、因果な不倫愛を全うして死んでいく男女の話である。ソロ歌唱のエヴァ・マリア・ウェストブレーク(s)は、すでにベルリン・フィルとイゾルデなどを歌っていて、日本でも人気。
一方、ベートーヴェンの『レオノーレ序曲第3番』は、歌劇『フィデリオ』用に作られた作品。『フィデリオ』は、主人公のレオノーレが男装してフィデリオと名乗り、不当に幽閉された夫を救出する愛と正義の物語。彼の唯一の歌劇だが、2幕17曲の完成版に落ち着くまでに約10年の年月を要し、それまでに2版、序曲は3曲作られている。序曲の第3番はコンパクトなドラマを思わせる曲で、昨今は演奏会の貴重なレパートリーとなっている。歌劇の第2幕の頭で演奏されたりもする。
また『フィデリオ』と同時期に書かれた『交響曲第4番』は、壮大な第3番<英雄>や冒頭の「ダダダダーン」でおなじみ第5番<運命>などとは対照的な作風で、やや過小評価されたりしてきた。しかし最近は、明るい未来を感じさせるユーモラスな旋律やリズミカルな展開などから、彼が新境地を切り拓こうとした意欲作とみなされている。これら3曲を『ヨーロッパ・コンサート』初登板のヤルヴィがどのように指揮するかが聴きどころ。
ピエール・アンタイとスキップ・センペの2台チェンバロ演奏会。目黒雅叙園(ホテル雅叙園東京)竹林の間にて
次に、アンタイ&センペの演奏会は、昨年12月の来日時に、昭和の竜宮城と呼ばれる目黒雅叙園(ホテル雅叙園東京)の「竹林の間」で4Kカメラで収録。螺鈿細工や見事な天井画など、贅を尽くした日本間に西洋の古楽器・チェンバロが見事に溶け込んで、まさに絵になる光景。耳だけでなく目でも楽しめる。もともと『クラシック倶楽部』用に収録されたが、番組の55分に収まりきらなかったため『クラシック倶楽部』では数曲カットしてオンエアされ、全曲版は今回が初放送となる。
17~18世紀のバロック音楽を演奏してきた二人が、フランスの作曲家、ラモー(1683~1764)の管弦楽曲をデュオ用に編曲して組曲のように並べた『2台のチェンバロのためのシンフォニー』を披露する。CDアルバム名であり公演名でもあるが、演奏会に合わせて自由に曲を増やしたり曲順を並べ替えたりしているので、CDに収録されていない曲も演奏される。
メータ(中央)とイスラエル・フィルとの演奏は半世紀に及ぶ。ムンバイのNCPA国立舞台芸術劇場にて (c) Accentus Music
そして、夜明け前に「ズービン・メータ80歳記念コンサート」の再放送。国際的指揮者として活躍してきたメータが、長年音楽監督を務めるイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団や旧知のソロ奏者らと、故郷インドのムンバイで行ったハートウォーミングなメモリアル公演だ。
ブラームスのダブルコンチェルトでは、ピンカス・ズーカーマン(vn)&アマンダ・フォーサイス(vc)夫妻のソロやアンサンブルと管弦楽のコントラストをくっきりと、チャイコフスキーのピアノコンチェルトでは、豪快な演奏で知られるデニス・マツーエフと存分にオケを鳴らし、年齢を超越した指揮で聴衆を魅了。マツーエフが、アンコールで十八番のジャズ風即興曲を披露し、ハッピー・バースデーで締めくくる。
今春のイスラエル・フィルとの来日公演は、メータの健康上の理由で中止されただけに、ファンにとっては回復復帰を祈りながらの再視聴となりそう。
文=原納暢子

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