岡田利規が熊本で〈映像演劇〉~「僕
にとって演劇は上演して見せるものか
ら、それをつくるための考え方に。だ
から映像の展示も演劇なんです」

熊本市現代美術館
ベッドのごとく寝られる本棚もあったりする「熊本市現代美術館」でチェルフィッチュ・岡田利規の演劇が始まった。でもそれはいわゆる舞台で繰り広げられる演劇ではない。岡田いわく「映像演劇」なのだ。美術館の空間には、境界のありようをテーマにした6本の〈映像演劇〉が上映され、投影された映像が人の感覚に引き起こす作用によって、展示空間が上演空間へと変容するのだという。国内外を飛び回る岡田と運良く長野市で遭遇、話を聞く機会をいただいた。
《A Man on the Door》2017-18 プロダクションショット
——今回の作品の会場は熊本市現代美術館ではありますが展示ではないんですよね?
岡田 展示という表現は使ってません。〈映像演劇〉の「上演」です。
——どういう経緯からこの企画がスタートしたんでしょうか。
岡田 山田晋平くんという舞台映像デザイナーがいます。舞台音響や舞台照明のスペシャリストがいるように、彼は舞台映像のスペシャリストで、これまでに何度か僕の演出した作品に参加してくれてるんですが、ある時、彼と話していて、アイデアが湧いたんです。劇場の舞台で上演されるものだけが演劇じゃない。演劇をつくる際に使っている考え方の枠組みを適用してつくったものであれば、どんな形態であっても、それは演劇だと言えるんじゃないか、と。美術館やギャラリーといった展示空間で、演劇としての映像作品というのをやってみたら面白いんじゃないか。例えばかつて、映画の技術が発明された時、はじめのうちはその技術を使って演劇の上演を撮影してただけだったのが、少しずつ映画独自の演技の質だったり演出効果だったりといったものが開発されていったじゃないですか。試行錯誤と発見を繰り返して、映画は演劇から独立していったわけですよね。僕たちもそんなふうに、この試みをやっていきたい。で、とりあえずその試みのことを「映像演劇」と名付けることにしたんです。
展示されているということそのものが上演
《The Fiction Over the Curtains》2017-18 プロダクションショット 撮影:加藤甫
《楽屋で台本を読む女》2017-18 プロダクションショット
——たとえば演劇を収録して映画館などで上映する方法も一般化してきましたけど、岡田さんの映像演劇は、ゼロからつくるものになるわけですか。
岡田 舞台で行われている演劇の上演を撮影したものを映画館の大画面で見たりしますけど、僕もその素晴らしさは知っています。でも映像演劇はそれとは違います。映像演劇作品のためだけに稽古をし、そのパフォーマンスを撮影したものを投影しています。媒体としては映像だけど、その映像をどのような素材に投影するか、どのように投影するかも含めて考えたんです。映画館はスクリーンに映像を映しますが、それだけじゃなく、作品ごとに違う手法で投影した映像を見せるんです。やっぱり展示というしかないんですけど、展示されているということそのものが上演になるんですよ。
——岡田さんはもともと演劇よりは映画をつくりたかったんですよね。そのことが今回の映像演劇には何かきっかけになっているのですか?
岡田 それはほとんど関係ないのではないかと思います。むしろ、演劇をやり続けてきたからこういうことに関心を持つようになったし、やれるための条件となる蓄積も備わったんだと思います。実は僕も演劇を始めて25年以上経つんですけど、とこう口にすると改めて驚いてしまうんですけど、やっぱりそれだけのあいだやっていれば、演劇の原理みたいなものが多少はわかってきたわけで、そうすると、舞台上でやるというのとは別の形のものを演劇と銘打ってつくることができると思うようになってくるわけです。あくまでも演劇なんですよ、映像演劇は。
《第四の壁》2017-18 プロダクションショット 撮影:加藤甫
——熊本市現代美術館とは、もともとご縁があったんですか?
岡田 僕は今熊本市に住んでますので、そういう縁はありますけれども(笑)。ひとりの学芸員の方が「なにかやってみませんか」と話を持ちかけてくれたんですよね。その段階で僕らは映像演劇をやりたいとすでに思っていたので、それをやらせてもらうことになりました。運が良かったです。
何に映すか、そして映す方法も重要
——岡田さんと山田さんの興味の接点みたいなものはどこにあったんですか。
岡田 あるとき彼がFBに、彼が見た写真家のヴォルフガング・ティルマンスの展示についての話をポストしていたんです。そこでは、まず、ある記事の載っている新聞紙の現物がそのまま展示されていた。そして、その新聞を写真に撮ったものを印画紙に出力して展示されているものもあった。また、写真なんだけれどもいわゆる印画紙とは違う紙に出力されたものも展示されていた。それらすべてが一望できるように展示されていたらしくて、それを見て山田くんは、映像もそれが何に投射されるかがすごく重要だという話に持っていってたんだけど、それを読んでとてもおもしろいなと思ったんです。そのことは、こうして今彼と一緒に映像演劇をやるようになったことの結構大きなきっかけになってると思います。今回つくった作品のうちのいくつかは、映像を何に映すとおもしろいかという山田くんからのアイデアの提案を受けて、そこから作品の内容を考えていくという順序を経てつくっています。
《働き者ではないっぽい3人のポートレート》2017-18 プロダクションショット
《Standing on the Stage》2017-18 プロダクションショット
——例えばどんな作品があるんですか?
岡田 映像を何に投影しているか、という点で説明すると、半透明のカーテンに投影している作品。ハーフミラーに投影している作品。美術館の展示室内の非常口の扉に投影している作品。スマートフォンの中の動画としての作品、などがあります。
演劇は見る人とそこで行われていることとの関係
会場風景 写真:宮井正樹
会場風景 写真:宮井正樹
——美術館の方にはすぐイメージとして伝わったんですか。
岡田 担当の学芸員はすぐつかんでくれましたよ。いわゆる演劇好きではない人のほうが、映像演劇が原理的に演劇だということをかえってすぐつかんでくれるのかもしれないです。あ、つまり今回担当してくれた学芸員の方は、いわゆる演劇、が苦手な人だったんですけれどもね(笑)。
——今回の作品をつくるにあたって重要だと考える要素はなんですか。
岡田 僕にとって演劇って、そこで行われていることとそれを見る人とのあいだで生じるものなんです。そこをなにより大事にしています。それはつまり、演劇をつくるのと基本的なところではなんら変わらない姿勢でつくったということです。
——岡田さんがせっかく演劇だって思っているならば、演劇の記者や評論家がそれを演劇として扱うべきなのかもと思ったんです。
岡田 扱えるかな。扱ってくれたら、いいですけどね。
会場風景 写真:宮井正樹
——そのことで演劇の可能性がまた広がったら面白いですもんね。
岡田 そう考えてくれる人がいたら嬉しいです。今回、すごく面白いものができたと思ってるんですよ。演劇をそれなりに長くやってきて、演劇のことがちょっとはわかるようになってきた気がするんです。で、今の僕にとっては、演劇というのは、舞台上で何かをやってるのをお客さんが見る、というものを意味するというよりは、なんというか、ある考え方の枠組み、みたいなものになってきてるんですよね。その枠組みを使ってつくりさえすれば、なんだって演劇だと言えるようになってきているというか。そういうのって、面白いですよね。
撮影:いまいこういち
《岡田利規》1973年横浜生まれ、熊本在住。演劇作家/小説家/チェルフィッチュ主宰。2005年『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞を受賞。同年7月『クーラー』で「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2005ー次代を担う振付家の発掘ー」最終選考会に出場。07年デビュー小説集『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(新潮社)で第2回大江健三郎賞受賞。12年より、岸田國士戯曲賞の審査員を務める。13年には初の演劇論集『遡行 変形していくための演劇論』、14年には戯曲集『現在地』(ともに河出書房新社)を刊行。14年、東京都現代美術館にて映像インスタレーション作品『4つの瑣末な 駅のあるある』を発表して以降、15年同館での企画展の一部展示会場のキュレーションや、16年さいたまトリエンナーレでの新作展示など、美術展覧会へも活動の幅を広げ、「映像演劇」という新たな手法による作品制作に取り組んでいる。15年初の子供向け作品KAATキッズプログラム『わかったさんのクッキー』の台本・演出を担当。同年、アジア最大規模の文化複合施設Asian Culture Center(光州/韓国)のオープニングプログラムとして初の日韓共同制作による『God Bless Baseball』を発表。16年、瀬戸内国際芸術祭にて長谷川祐子によるキュレーションのもと、ダンサー・振付家の森山未來との共作パフォーマンスプロジェクト『in a silent way』を滞在制作、発表。16年よりドイツ有数の公立劇場ミュンヘン・カンマーシュピーレのレパートリー作品の演出を3シーズンにわたって務めた。
取材・文:いまいこういち

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