合奏の授業で取り合った懐かしの「マ
リンバ」、大人になってから弾いてみ

こんにちは。COSMUSICA編集長のノリコ・ニョキニョキです。

好きな楽器といえば、ハープ、ピアノ、コントラバスと、妙に大型楽器に惹かれがちな私なのですが、最近あることをきっかけに(後述)、楽器への関心が再燃しています。それは…マリンバ!
小・中学校の合奏の授業などで、やたら大勢で取り合いませんでしたか?(笑)今思うとみんな、あの木の優しい音色に惹かれていたのかもしれません。
今回は久しぶりにマリンバの魅力に触れたい! ということで、打楽器奏者の永野仁美さんをゲストにお呼びし、プチ体験レッスンをしていただくことに。さらに、記事の後半では、現代の音楽業界において、永野さんがひとりの演奏家としてどのような思いで音楽と向き合ってきたのか、胸の内をお話いただきます。
■ゲストプロフィール
永野 仁美(ながの ひとみ)
3歳よりピアノ、13歳より打楽器を始める。東京藝術大学卒業、同大学院を修了。修了時に大学院アカンサス音楽賞を受賞。2014年、万里の長城杯入賞。2016年、現代音楽コンクール「競楽」ファイナリスト。多数の新曲初演を始め、オーケストラや室内楽、レコーディングなどの幅広い分野で演奏活動をおこなう他、アウトリーチ活動や音楽教室、吹奏楽部の指導なども精力的におこなう。また、音楽療法を学び演奏活動に取り入れる試みをおこなうなど、教育や福祉の分野における音楽活動に力を入れている。
マリンバの魅力とは…
ニョキ「早速ですが、永野さんの考えるマリンバの魅力とはなんですか?」
永野「そうですね、優しい木の音色に癒やされるというのはもちろんですが、演奏するという意味でも魅力の大きい楽器だと思います。というのも、叩けば音が鳴りますし、鍵盤の並びもピアノと一緒なので、どなたでも始めやすいんですよね」
ニョキ「この、高さが変わっている部分が、ピアノでいう黒鍵ですね。視覚的にわかりやすいのがよいですね」
永野「そうなんです。また、マリンバを聴く機会なんてなかなかないと思われがちですが、たとえば坂本九さんの名曲『上を向いて歩こう』のイントロで使われていたり、冨田勲さんの書かれた『きょうの料理』のテーマ曲で使用されていたりと、身近な楽曲で使われていることも珍しくありません。ちなみに、きょうの料理のテーマ曲を弾かれているのは、世界的な演奏家の安倍圭子さんという方。阿部さんがさまざまな奏法を開拓し、表現の幅を広げてこられたおかげで、独奏楽器としても扱われるようになってきたという背景があり、まさにマリンバ界を牽引する第一人者の方なんです」
マリンバを弾いてみよう!
ニョキ「あの〜永野さん、せっかくなので弾いてみたいと思うのですが、まったくの初心者でも大丈夫でしょうか?」
永野「もちろんです! 最初に簡単に楽器の構造を説明しますね。マリンバは、木製の鍵盤をマレットと呼ばれるばちで叩いて演奏します。鍵盤の下には、音の高さによって長さが違う共鳴用の金属管が並んでいます。この真上にあたる位置を叩くことで音量を増幅させ、豊かな音色になります」
低音の響きに興奮する私(笑)
ニョキ「低音の響きが重厚ですね! 楽しい!」
永野「ちなみに、この鍵盤はぺろりと外すことができます」
ニョキ「え! すごい!!」
永野「ここが外せることは、意外と知られていないですよね。大きな楽器なので、運搬の際には分解して運ぶんです。パイプも、ふたつに折りたたむことができて、ワゴンタイプなど少し大きめの乗用車に載せられます」
ニョキ「知らなかった…トラックとか、せめてミニバンが必要かと思っていました…!」
音階を弾いてみる
永野「では早速、音を鳴らしてみましょう。マレットは軽く握って、余計な力を入れずにボールが跳ねるようなイメージで叩きます。力んで叩きつけてしまうと硬い音がしてしまうので、のびのびと弾いてあげましょう」
▼音階(お手本)
COSMUSICAさん(@cosmusica.official)がシェアした投稿 – 2018年 5月月4日午後10時35分PDT
ニョキ「左右交互に叩くんですね!」
永野「基本的にはそうですね。あとは豊かな音を出すために、下半身はぐっと床を押すイメージで、しっかりと立つというのもポイントです」
ニョキ「な、なるほど…。こういう感じでしょうか…?」
▼音階(ノリコ・ニョキニョキ)
COSMUSICAさん(@cosmusica.official)がシェアした投稿 – 2018年 5月月4日午後10時35分PDT
ニョキ「音が高くなっていくと弾きにくく感じます」
永野「しっかり立てているのはよいのですが、身体が前に向いたまま固くなってしまっているので、弾いている場所に合わせて身体の位置を少し変えてあげると弾きやすくなりますよ」
トレモロの練習
永野「次に、マリンバと言えばこれ! トレモロ奏法を練習してみましょう」
ニョキ「細かく連打してひとつの音のように表現するものですよね、マンドリンみたいに」
永野「そうですそうです! マリンバは音を伸ばすことができないので、長い音符はトレモロで表現するんです。トレモロのときは2つのマレットを前後に配置して、細かく叩きます」
▼トレモロ練習
COSMUSICAさん(@cosmusica.official)がシェアした投稿 – 2018年 5月月4日午後10時36分PDT
ニョキ「左右均等に叩くのが難しいですね。トコトコトコトコ…ではなく、トッコトッコトッコ…と跳ねたリズムになってしまいます」
永野「そこが難しいポイントですね。はじめのうちは、伸ばす音符の中に何回入れるかを決めてしまった方が弾きやすいです。今回は四分音符につき4回叩くことにしましょう」
チキチキバンバンを弾いてみよう
永野「さあ、これでもうマリンバの基本は終わったも同然です」
ニョキ「え!? 本当ですか!?(笑)」
永野「今日の課題曲として『チキチキバンバン』を持ってきたので、弾いてみましょう」
ニョキ「展開が早い…」
ということで、先生と一緒に譜読み。メロディを辿りながら、ここはトレモロで弾きましょう、ここは2回連続左手で叩きましょう、というふうに確認していきます。
▼練習のようす
COSMUSICAさん(@cosmusica.official)がシェアした投稿 – 2018年 5月月4日午後11時01分PDT
ニョキ「黒鍵の部分を弾くとき、つい手前の方を叩いてしまいます。真ん中を叩くためには結構マレットを奥に移動させる意識が必要ですね」
永野「そうなんです! なので次の音を常に意識しながら、次はあそこにいくぞ〜〜と心の中で準備しておかなくてはなりません」
いざ、先生と連弾!
永野「では、私が伴奏を弾きますので、弾いてみましょう!」
ニョキ「わ〜なぜか緊張する!」
▼頑張ったので見てほしい『チキチキバンバン』連弾
ニョキ「待って先生、練習とテンポ違いすぎて容赦なくて笑いました」
永野「あっ、すみません(笑)」
ニョキ「終盤、シにいかなくてはならない箇所でソを叩いてしまって、曲が終わってしまいました(笑)。でもすごく、楽しかったです! もっと練習したい…」
レアな楽器の苦労…?
ニョキ「すごく楽しくレッスンしていただいたところで、とある議題についてぜひお話したいと思っているのですが… 。私は大学を卒業してからグランドハープの勉強を始めたのですが、グランドハープやマリンバは、比較的奏者人口の少ない、ややレアな楽器と言えると思います。お互いの楽器で、ちょっとこういうところは苦労するな〜という “レア楽器あるある” があれば語り合いませんか?(笑)」
永野「うーん、まず小さい楽器に比べると、運搬が大変というのはありますよね。ただ、先ほども紹介した通り、分解できるので、そういう意味ではみなさんが想像するよりはラクに運べていると思います」
ニョキ「分解できるのは本当に便利ですよね。その点グランドハープは高さ180cm前後、重さ40kg前後の楽器をそのまま運ぶしかないので、むしろこちらの方が大変かも? 壊れやすいですし…。グランドハープで圧倒的にネックとなるのは楽器の金額なのですが、マリンバはどうなのでしょう」
永野「勉強用のものですと、50万円くらいからあります。プロの演奏家がリサイタルで使うようなものとなると、もっとずっと高額にはなってしまいますが」
ニョキ「だいたいピアノと似た価格帯というイメージでしょうか。もちろん安い買い物ではありませんが、想像よりはフレンドリーな金額かもしれないです。マリンバは、置く場所の方が難しそうですよね。グランドハープは、『置ける場所があるのがすごい!』とよく言われるのですが、高さこそあれど幅はほとんどとりません。キーボードを置く場所があればグランドハープは置けてしまうと思います」
永野「スペースは確かにネックですね! 習い始めたばかりの方は、金銭面だったりスペースの問題だったりで、しばらくは自分の楽器を持たずに、先生のお家やお教室で勉強していくケースも少なくありません」
ニョキ「とは言え、音大生は手狭な部屋に楽器と共存していますから(笑)、工夫次第という部分はありそうです。大型楽器でなくとも、たとえばオーボエはリードの管理が大変とか、金管楽器は練習場所に悩むとか、それぞれの楽器にそれぞれの悩みがありますもんね」
永野「そうですよね。なんなら、マリンバは始めやすい楽器と言えると思います!(笑) ぜひ童心に戻ってマリンバを演奏する楽しさを多くの方に知っていただきたいです」
現代社会で、音楽と生きる道
実は当記事が企画されたのは、昨年度舞いこんだあるニュースがきっかけでした。
それは、マリンバやヴィブラフォンなどのブランド「サイトウ」を展開していた鍵盤打楽器の専門メーカー、斉藤楽器製作所が倒産したこと。
斉藤楽器製作所は、日本国内では唯一の自社一貫製造を実施し、(機械を多用しない)職人によるハンドメイド製造で良質な楽器を生産。日本人の体格に合わせた楽器のつくり、すなおでクセのない音などが支持され、1947年の創業以来、プロの演奏家はもちろんのこと、教育現場でも多く採択されてきました。
出典:斉藤楽器製作所ホームページ
しかし残念ながら、2017年11月に自己破産。ワシントン条約で、マリンバの音板に使われるローズウッドの輸出入が規制されたこと、そもそも打楽器市場が縮小していたことから赤字が続き、事業の継続が困難となったそうです。
こうした残念なニュースも含め、日本の音楽環境は将来的に明るいとは言えない状況です。音楽を取り巻く環境も年々変わっていく中で、音楽家たちは時代に即した生き残り戦略を立てていく必要があります。
ここからは、永野仁美さんがどのようにマリンバと出会い、マリンバと生きていくことを決めたのかという経緯をインタビュー。演奏家がどのような思いで日々音楽と向き合っているのか、普段はなかなか知る機会のない横顔を覗きます。
マリンバとの出会い
ニョキ「永野さんはなぜ音楽の道に進まれたのですか?」
永野「物心ついた頃から音楽が好きで、中学校に入学するときには吹奏楽部に入りたいと心に決めていました。打楽器を選んだ理由は、母が昔からよく『打楽器がやりたかったけど機会がなかったから残念だ』と繰り返し言っていたことに影響を受けたからです。吹奏楽部に入ったとき、打楽器以外の楽器をほとんど知らなかったくらいなんですよ(笑)」
ニョキ「極端ですね(笑)。そもそもお母様はなぜ打楽器に惹かれていたのでしょう?」
永野「それがよくわからないのですけれど、どうやら祖母が打楽器大好きだったようで、その影響だそうです」
ニョキ「すごい、打楽器好きの血が流れているんですね! 打楽器の中でも、マリンバには特に惹かれたのですよね?」
永野「元々ピアノをやっていたこともあり、マリンバは音階がある打楽器なのでいいなあと。それに、元々じっとしていられないタイプなので、動きながら演奏できるという点も合っていたようです。高校にあがるときに、普通コースではなく芸術コースというのを選択し、その段階で、音大への進学を決意していました」
ニョキ「音大に入ってからはどうですか? 入学してから、身の振り方に悩む学生は多いように思えます」
永野「そうですね…、音楽をやっているときが一番楽しくて、音楽を通じて人のためになることをしたいと思う気持ちがずっと変わらなかったので、そういう意味での迷いはありませんでした。この厳しいご時世に、ここまで続けさせてくれて応援してくれた両親に恩返ししたいという気持ちも大きかったですし。音楽家としてやっていくことを決意したというよりは、音楽家としてやっていけるように自分を高め、信じてやってきた、という方が近いかもしれません」
音楽家の苦難と決意
ニョキ「音楽家として身を立てていくうえで、苦労されていることはありますか?」
永野「フリーランスで活動しているため、常に自分で仕事を作っていかなくてはなりません。そのためには日頃から探究心・向上心を持ち、多方面にアンテナを張り、人とのご縁を大切にしていく必要があるので、元来消極的な性格の自分にとっては日々 “自分との戦い” です」
ニョキ「さらに今の日本は、クラシック音楽は特にですが、活躍の場が多いとは言えない状況ですよね」
永野「そうですね。なので新たな道を模索するクリエイティブさ、貪欲さ、先見力が求められるのも、大変な世界に入ってしまったなと感じるポイントです。ふとしたときに人と比べてしまったり、うまくいかなかったりすると『向いてないのかも…』『もっと安定した仕事についた方がいいのかな…』などしょっちゅう気弱になっています(笑)」
ニョキ「音楽家のみなさんは、多かれ少なかれ、そういう思いを日々乗り越えているのですね…」
永野「私の場合、ずっと変わらないのは先ほども言ったように『人のためになることがしたい』という気持ちなんです。これまでに乳幼児や障害を持った方、高齢者など、普段コンサートに足を運ぶのが難しい方に音楽を届ける活動を何度かやっていて、これをライフワークにしたいと思っています。そういう方々に演奏をお届けしたときに、『癒やされた』『元気をもらった』『ありがとう』『こういう活動をぜひ続けてね』などと言葉をかけていただくと、本当に音楽をやっていてよかったなと感じます」
ニョキ「音楽療法などもありますが、音楽の力は本当にすごいですよね。音楽の歴史は途方もなく長いですし、誰もが生まれながらに音楽を楽しむ心を持っていると思います」
永野「音楽の必要性を言葉にするのはとても難しいことですが、人間の営みの中に絶対に必要なものだと思っています。これを少しでも感じられるときが、私にとってのやりがいを感じるときなのかもしれません」

音楽家にとって、音楽は仕事であり、生きがいであり、そして希望でもあると思います。
私自身、日頃の慌ただしさにかまけて、ときには音楽における目標を見失いそうになることもありますが、今回のマリンバ体験を通して、久しぶりに新鮮な気持ちで音楽と向き合うことができ、音楽の力を再確認することとなりました。
音楽がつないでくれた数多くの縁に感謝しながら、この記事を締めたいと思います。これからもみなさんの心の中に音楽がありますように。
会場紹介「ブリアサロン」

ブリアサロンは、世田谷区・用賀駅南口徒歩1分の音楽教室。選べる専攻は60種にも及び、生徒さんのご希望や習熟度に合わせ、経験豊富な講師陣がレッスンにあたる。教室のモットーは「大切な時間を『ぜい沢』に」。学ぶことのみを主眼に置いたレッスンではなく、笑顔あふれるコミュニケーションを通じ、生徒さんの思いや想像を尊重し、更なる「感性」を磨きます。
▷音楽スクール「ブリアサロン」公式サイトはこちら
 
提供:ZALA COMPANY

COSMUSICA

演奏家向けトピック、クラシックのいろは、芸大/音大受験まで、クラシックをより身近に感じてもらうためのコラムサイト

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着