MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』
第四回ゲストは阿部真央 怒りや悲し
みの歌はどうやって人を救うのか

MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』のゲストは初の女性アーティスト、阿部真央が登場。——怒り、悲しみ、悔しさ、人間の底にある思い。誰かを代弁するわけでなく、常に自分の目線で、自分の言葉で歌ってきた両者。だからこそ、日常から生まれる感情をどのように曲へ昇華するのか、迷いや葛藤やその先に見つけた答えを語った。どうして僕らはMOROHAと阿部真央の音楽に胸を熱くして、痛みを感じるのか、その理由が今回の対談でわかるハズだ。ともに自分をさらけ出すパーソナルな音楽を作る両者だからこそ共感するポイントや、お互いの魅力について、1万字というボリューム感たっぷりの内容をお届けする。
●男性に好かれる女性、女性に好かれる男性とは●
MOROHAスタッフ:飲み物を失礼します。
阿部:ありがとうございます。あ、ストローまで挿していただいて。
アフロ:なんで、俺はストローないんだよ。
阿部:多分、私がリップを塗ってるから。
アフロ:あ、なるほどね。
MOROHAスタッフ:(アフロは)いらねーだろ。
アフロ:おい! 自社のアーティストを粗末にすんなよ(笑)!
阿部:女性の人には(ストローを)挿してくれがちですよね。「リップを塗ってるんでストロー挿しときました」みたいな。
アフロ:でも、そういうのでキュンとくる女も容易いけど。
阿部:アハハハ。でも、嬉しいですけど。
アフロ:女の人が思う優しい男性って、飲み物にストローを挿してくたり、歩道側を歩かせてあげるとか。それって、俺たちからしたら気遣いのできる奴なんだよね。それを優しいっていうじゃない? そこに憤りを覚えたことがある。「優しさっていうのはそういうもんじゃない!」って。
阿部:そうですね。でも、結局「やだぁ〜アフロさんったら!」とか「虫が怖ぁ〜い」って女の子を男子が嫌いじゃないのと一緒ですよ。
アフロ:うわぁ、完璧なアンサーだね。MCバトルだったら完敗だわ。なんだかんだ嫌じゃないっていうね。
阿部:そうです。
アフロ:それは、ずっと前から気づいてた?
阿部:うん。男の子はそういう子を可愛いと思っちゃうし、女の子だって優しくされたら嬉しいし。
アフロ:阿部ちゃんはトライしたことあるの?
阿部:ブリっこですか? いやぁ……ないですね。
アフロ:俺は優しい男になろうとしたことはあるよ。
阿部:男性は良いんですよ。優しい気遣いって、意識していると本当に気遣いできるようになるじゃないですか。
アフロ:わかるわかる!
阿部:ね! それが優しさとして染み付くからプラスだと思うけど、女の子の場合は……。
アフロ:それも自然になってくるんじゃないの?
阿部:えぇ、なってきちゃうのかな。……なんか嫌だね。
アフロ:アハハハハ! 同性として?
阿部:ううん、自分にそれが馴染んでいくことが。男性に女性が喜び得る気遣いが馴染んでいくことがプラスだとすると、同じくらいのプラスに感じられないっていうか。何かを自分の中でそぎ落としている気がしますね。でも、世間的にはそれを出来る女の子が可愛いんだと思う。私は「そんなのできない」って言ってるから、可愛げがない。
アフロ:30歳になってくると男も女性の見方が変わってくる気がするけどね。そういう弱々しさのある女の子って、今は周りにいないからさ。実際にされたらドキッとするのかなぁ。
阿部:嫌ではないと思う。
アフロ:そうだよね。おじさんはそういうの好きだし。
阿部:その仕方に下品さを感じて嫌に思うことはあるけど、タッチされることだったり「うわぁ、これ可愛い♪」って言う女の子は嫌いじゃないと思う。いや、それで良いんですよ。
アフロ:音楽関係はそういう女の子いなくない? むしろシャキっとしてる人が多い気がする。例えばカメラマンさんもさ、音楽媒体の人も。
阿部:自立している女性はしっかりしてますよ。同性からも好かれ得ると思いますけど、何かしなっとなってたり、「会社に守ってもらってます」ってことではないじゃないですか。写真を撮ることもクリエイティブだし。たしかに音楽業界でいうと、レコード会社の人もしっかりキャラが立ってないとアーティストを売り込めない女の人ばっかりだから、必然的にカッコイイ女性が多いけど。いわゆる普通のOLは全員がそうじゃないと思いますね。
アフロ:同業者でしなってる人はいる?
阿部:あんまりアーティスト同士って、一緒にならなくないですか?
アフロ:そんなに対バンしないのか。
阿部:しないし、対バンをしたギャルバンの女の子もそういう人は残ってないかも。みんなしっかりしてる。ステージで「よし、やるぞ!」って挑む行為が男性的なことだから、そういう顔になるのかもしれない。自分もそうだと思いますしね。
●MOROHAの音楽を阿部真央が語る●
アフロ:(Twitterにあげた )2人で「うし!」ってやった動画は良かったね。
阿部:ね! 良かったですよね。仲良しな感じで。それこそ、この間のラジオ(『MOROHAの!オニヤンマ獲りにいこうぜ!』)に出させていただいた時に好きな曲のことをいっぱい言おうと思ったんですよ。だけど……。
アフロ:ふざけて終わっちゃったよね。
阿部:あの場に入れたことが楽しすぎて、ちゃんと言えず。本当に良い曲を作りますよね。
アフロ:本当?
阿部:本当にそう思う! この間、母に「今度、MOROHAっていうアーティストさんと対バンするんだけど、マジで良いから聴いて」って「ハダ色の日々」を聴かせたら「良い歌だねぇ」って泣いてたんですよ。私は「ハダ色の日々」を車の中、青山通りを差し掛かるところで初めて聴いたんです。本当に良い歌だなと思って。しかも、あの曲を書いたのは今の私よりも年が下の時ですよね。アフロさんが25歳くらい?
アフロ:そうだね。よく存じてくれて。
阿部:同じアルバムでいうと「バトル鉛筆」もすごい好きなんですけど。あのアルバムを聴いて、どうして25歳でこんな曲が書けるんだろうって。アフロさんの歌詞と歌声、あとはUKさんのギターも相まって二人がステージに立って、あの強い言葉を言うとスッと入ってくるというか。何も自分の中で抵抗が生まれないんですよね。音楽なんだけど崇高なヒーリング・ミュージックを聴いてる感覚になるんです。鼓舞もされるんだけど、それ以上に浄化されることが多くて。だから、なんでこんなに強い言葉を人に抵抗を感じさせずに歌えるんだろう、と思って。
アフロ:人によると思うよ。反発する気持ちは物凄いわかる。それは図星を突こうとしてるから。
阿部:そこを突かれるのは嫌だ、ってこと?
アフロ:うん。本当のことを言われるのは嫌じゃない? だから俺は反発してくれる人が一番響いてる人じゃないかなと思う。例えばネットで「MOROHAが嫌いだ」って言ってる人こそ、響いてるんじゃないかな。
阿部:実は見つめるのが嫌なだけでね。
アフロ:だから、そういう声に向かってやろうとしたりする。「良いね」と言ってくれる人に関しては、既に自覚してることを再確認するからヒーリングなのかもしれないね。持っているからこそ。
阿部:光栄です。
アフロ:逆に、持ってるけど、自覚しようとしてないというかさ。そういう人に対して歌うことの方が俺自身ワクワクする。
阿部:その人たちが変化をもたらすキッカケってことですね。
アフロ:うん。逆に15歳の自分が今やっている音楽を聴いたら、きっと嫌だろうし。
阿部:なんでですか?
アフロ:ムカつくと思う。図星すぎちゃって、本当のことをガンガン言われるのが嫌だし。
阿部:痛いことを突かれて目を背けたくなるって感じですか。
アフロ:そうだね。多感な時期っていつだったの?
阿部:高校の時、曲を作ることで「私は多感なんだ」って分かった感じでしたね。元々、シンガーソングライターって道があるんだとか、ギターを弾いてみたいなと思うきっかけになったのは、中学2年生で聴いたアヴリル・ラヴィーン。あとはYUIちゃんもバーっていってたので、和製アヴリル・ラヴィーンみたいな扱いだったじゃないですか。そういうのにふれて、ギターを弾く女の人が全面に出つつ、バンドブームも一緒に来たんですよ。アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の名前が世に知られるようになったり、ラッド(RADWIMPS)がメジャーデビューし始めた頃で。そういう自分たちで曲をクリエイトしている人たちを中学2年生以降に聴き始めました。
アフロ:アヴリル・ラヴィーンは衝撃的だったよね。「Sk8er Boi」のMVは可愛いかった。
阿部:可愛かった! ぴょんぴょん跳ねて、走ってね。
アフロ:あれは凄かったな。俺も初めてちゃんとふれた洋楽はアヴリル・ラヴィーンでさ。中学で初めて付き合った彼女が、カラオケでアヴリル・ラヴィーンの「Complicated」を歌ってて。初めてだったのよ、日本人が英語の曲を歌ってる姿を見たのが。しかも自分の彼女でしょ? すごいカッコイイ、と思って興奮したのを覚えてる。その人は、今、漫画を描いてるんだって。
阿部:えっ、すごい!
アフロ:それこそ、アヴリル・ラヴィーンを聴いてた流れで洋楽が好きになって。「いつか海外へ行きたい」って言ってたら、本当に海外へ行って。今は日本に戻ってお子さんを育ててる。
阿部:すごい! クリエイティブカップルだったんだね。
アフロ:強い人だったなぁ。
阿部:強い人が好きですか?
アフロ:どうだろうなぁ……でも、そうかも。
阿部:強くてオーバーオールを着てる子が好きなんでしょ?
アフロ:なんで知ってんの?
阿部:だって聞きましたもん。
アフロ:それはシーズン前で、今はGAPのグレーのVネックのニットを着て、タイトなジーンズを穿いてる子が好き。
阿部:良いですね。
アフロ:どんな人が好きなんですか?
阿部:……尊敬できる人ですね。
アフロ:今、遠い目をしてたけど……。
阿部:アハハハハ! 「素敵だな」とか「こういう面を持ってるんだ」っていう人の方が良くないですか。
アフロ:どうなんだろうねぇ。聞きたかったんだけど、その貫禄はどこで拾ったの?
阿部:デビューした時に良く言われたのが「ふてぶてしい」って。でも、しょうがないみたいで……私の魂って“おばあさん”らしい。
アフロ:へぇぇぇぇーー! それは見てもらったの?
阿部:はい、占いやスピリチュアルが大好きで。だから私の友達は歳上ばっかり。親友は42歳。
アフロ:どこで知り合うの?
阿部:エステをやってる人で、その人はママ友なんです。他には4、50代の人もいて。なので昔から言われてるんですよ。可愛げがないっていうか、若さがないって。
アフロ:そう思うと、歌の阿部真央の方が若くない?
阿部:そうですね。若いときもあると思います。
アフロ:もしかしたら、話していくうちに若い部分が出てくるかもしれないよね。
阿部:(マネージャーに向かって)でも、普段からこんな感じだよね? あ、うなずいてます。
アフロ:歌ってる方が若いのは“音楽の魔法”なのかな。
阿部:良い言葉ですね。
●メジャーで仕事することについて●
アフロ:ところで女優をやろうと思ったことはある?
阿部:いや、そもそも私にはできないと思います。
アフロ:一回もよぎったことない?
阿部:ないですね。
アフロ:自分以外の誰かになって歌うことは?
阿部:ない! それなんですよ! 私、最初にデビューした時に阿部真央という仮面を被ろうと決めたことがあったんですけど、早々にやめた。辛いんですよ、自分じゃないことが。こういう業界なので良く見せることが当たり前じゃないですか。例えばインタビューの記事って、すごく良いように書いてくれることがあるでしょ? そういうのが嫌なんですよね。自分が言った言葉をちゃんと世間に伝えてほしい。だから「ここは私が言ってた言葉に直してください」って。
アフロ:そうなんだ。
阿部:今はそうじゃない人ばっかりにインタビューしてもらってますけどね。あと、スタッフが良かれと思って私が言った言葉をよく見せようとしたり、ここは辛辣だからカットしようとか、そういうのはやめてほしい。だから、原稿は全部自分でチェックするようになったし、自分が良いと思わないと嫌。世間に正しく理解されたいんです。自分というパーソナリティを正しく。だから、誰かになろうとは思えないし、あんまり思ったことがないです。
アフロ:それは強いよね。
阿部:この間、テレビでアフロさんのナレーションを聞いたんですけど。俳優もいけそうですよね。
アフロ:でも、俺は俺の役しかできないよ。
阿部:じゃあ、語り部?
アフロ:あ、それはやりたい。
阿部:ラジオでリスナーのハガキを読むときに入り込んで読むじゃないですか。だから、声の演技もできるんだと思って。だって、最近のアフロさんナレーションをたくさんやってて、すごくないですか。
アフロ:難しいよね。人によっては「楽曲の新鮮さが失われる」って人もいるから。必要とされる事がたまらなく嬉しくて引き受けちゃうけど。
阿部:でも、売れるには必要なことでしょ?
アフロ:うーん……どうでしょうか。
阿部:それが出来ないだろうな、と思って逃げてきた側の人間としては、自分が出来るか?って言われたら分からないけど。売れて高みを目指す人には必要なことだと思います。だって声が認知されるわけだから。MOROHAの中でアフロさんの声って、圧倒的な武器の1つでしょ? だって他にいないから、それを求められるのも分かる。声のインパクトもすごいし、アフロさんが言うだけでワードが強くなるから、そりゃあ企業としては欲しいし、こっちにもメリットがある。全国の認知をこのタイミングで広げるためには、めっちゃ良いことだと思うんですよ。
アフロ:やってこなかった、というのは何か葛藤があったの?
阿部:結構前から売れることが目的じゃない、と思ってたんですよ。デビューした時は面白がってタイアップがついたりして。そうすると心がその状況に負けたりとか、曲を書くことができなくなったり。
アフロ:どういう風に負けるの?
阿部:疲れちゃったとか、本来やりたいと思って飛び込んだことと違うことでのストレス。要は曲を書いて、それをいろんな人に売ってあげるよって言われたからデビューしたのに、全然売ってくれないし「私がやること多くないですか? っていうか、仕事できなさすぎですよね?」みたいな。お客さんに自分の作品が届く前の前の段階で衝突したり、解決しなきゃいけない問題が多すぎたんですよ。私にも悪いところがあったのかもしれないけど、事実としてあって。アフロさんがライヴで「メジャーが駄目かどうか確認してきます」って言った時にカッコイイと思ったし、そういうことだと思ったんですよ。メジャーに行って、誰と仕事をするかでだいぶ変わる。メジャーに行くこと自体は良いことだと思うんですよね。それが薄まりさえしなければ。あとは、自分を見失わなければ。
アフロ:うんうん。
阿部:自分を見失う原因って、近くにいる人たちだと思うんです。だからMOROHAがメジャー契約をした時に「その相手がたまたまメジャーレーベルの人間だっただけ」ってインタビューを読んだんだけど、それが一番良い形だと思うんですよ。結局、誰と仕事をしていくのか、っていう中心がしっかりしてないから揺らいだり潰れる子が多いわけで。だからこそ「MOROHAは羨ましい」と思ったんです。
●怒りを曲にすること●
アフロ:さっき話ししてた「コイツ使えねえな」っていう感情は曲に活きたりしないの?
阿部:数曲だけ。だけど、その曲が誰かを救ったのかと思えば、どうかな?って感じです。
アフロ:支障がなかったらその曲を教えて。
阿部:「19歳の歌」とか『素。』の最初の方はその感情が入ってて。他には『Babe.』ってアルバムがあるんですけど。それの「逝きそうなヒーローと糠に釘男」は離婚した後に出したから、前の旦那のことを歌ってると思われがちなんですけど、実はその前に起きた周りの人とのゴチャゴチャを書いた曲だったりします。
アフロ:それは人を救わないかな?
阿部:どうだろうね、一瞬だと思うよ。それこそ、MOROHAの「バトル鉛筆」が大好きで。ああいう風に網羅してないんだよね。愛とか深さとかあんなにないんですよ。
アフロ:そんなことないよ。
阿部:ううん、私はあの曲って超名曲だと思う。
アフロ:俺は怒りの曲って人を救うと思うんだよね。っていうかさ、怒りって一番素直な気がしない?
阿部:うんうん、怒りもね。
アフロ:怒りを曲にするのは容易い。その容易さゆえに自分が安易なことをしてるんじゃないかな、っと思って、後ろめたさを感じる時があるの。
阿部:でも、みんなはアフロさんのように怒りを出せないから共感するんですよ。「よくそんなに曲をかけますね」とか「よくそんなにさらけ出せますね」って言われません? 私も言われるんだけど。
アフロ:言われる。
阿部:それが苦じゃないじゃないですか。だから才能があるんですよ……私も!
アフロ:そうだね(笑)。
阿部:怒りと強い悲しみが表現しやすいのはわかる。
アフロ:そこに希望を少しまぶしてあげないと、俺の中では言い方が悪いけど「自殺サークル」になっちゃうのが嫌なの。自称・悲劇サークルみたいなさ、そういうところに行かないほうが良いと思う。暗いところにいるんだけど、最後に出口はあそこだよっていう感じにしないと、品がないような気がしちゃう。
阿部:そうじゃないと誰も救えないよね。っていうか、すごいですね! そういうクリエイターな目線もあるんだ。言葉が降りてきながらも、そういう視点も持ってるんでしょ?
アフロ:そうそう。
阿部:ほら、天才じゃん。
アフロ:それはピンポン営業で学んだんだよ。サラリーマンをやってたんだけどさ、お客さんに説明する時、メリット・デメリット・メリットの順で話すっていうやり方があって。最初に「こんな素敵ですよ」と言って、そのあとに「ただ、こういうところがあるんです」って言う。なんで、わざわざデメリットを話すかというと……悪いところも素直に話す正直な男アピールなんだよ。
阿部:おお! なるほど。
アフロ:デメリットを言ってるけど、最後にメリットの話で覆す。それって曲作りに似てるよな、と思って。
阿部:展開として。
アフロ:そうそう。精神的な部分でも、デメリットを話すことで次の言葉が真実として受け取ってもらえるというか。そういう意味で怒りの後に希望をまぶすとか、希望の中でも怒りをまぶすとか。その辺は調整する。
阿部:みんなが営業で、そのメソッドを理解しててもアフロさんみたいに書けないですよ。普通は隠したいことの方が多いでしょ? だって自分のマイナスポイントに見えるかもしれないけど、全体としてはメリットに見えるから書こう、ってならないと思うよ。
●日常の中から曲を作ること●
アフロ:そっかなぁ。一般の人の感覚って我々は失いやすい立場にいるじゃない。でも、阿部ちゃんは一般の方の感覚も持って話してるよね。
阿部:私は一般人ですからね。
アフロ:その感覚はあるんだね。
阿部:ありますよ。
アフロ:それは死守してる?
阿部:死守したいから、さっき話した周囲のゴタゴタが嫌になった。自分の人間らしさとか大事なものを持っていかれそうで。そういうのありません?
アフロ:俗っぽい話だと、メジャーって金をくれるからさ、ちょっと潤うじゃない? 前は自販機でジュースを買ってたまるか、みたいな精神性を持っていたわけよ。絶対にスーパーに行く、みたいな。だけど、お金を持つと気軽に自販機でジュースを買う喜びを覚えちゃう。そういうところから、ちょっとずつズレていっちゃうのかなって。だからこそ例えば、ここに並んでいるメシを食べた分、プレッシャーに感じなきゃなとか。そういう1個1個にメッセージを感じないと、って思う。ありがたく思う気持ちだったり、悔しい気持ちをキャッチするアンテナが鈍くなることが人間性の乖離になるかなって。
阿部:当たり前には思いたくないですよね。
アフロ:このタイミングで過敏にならないとな、って思ったりするの。怒りっぽくならなきゃとか、その分、優しくならなきゃとか。だんだん若い頃より、怒らなくなってこない?
阿部:沸点は違いますね。前は怒らなきゃって思う時期があったんですよ。曲に書きやすいから怒りを探そうとして。だけど、疲れちゃうんだよね。結局、怒ってステージに立っても何も伝わらないんですよ。
アフロ:制圧した気持ちにはなるよね。
阿部:そう! 支配した気持ちにはなる。
アフロ:ライヴ中に聴き入ってるんじゃなくて、みんなビックリして黙ってるだけなんじゃないかと思うことある。
阿部:MOROHAの場合は言葉が宿ってるから大丈夫! だけど、そういう風なステージをしてる人を見て反省はしました。「そう見せたいんだよね。気持ちは分かるけど、やらなくても良いよ」って。怒りを見せて、似合う人と似合わない人がいるので。
アフロ:自分は似合わないと思った?
阿部:私は似合う。
アフロ:似合うよね。
阿部:似合うけど、自分が苦しくなるんです。だけど、MOROHAの場合は似合いもするし、パワーになるからそれもあり。今まで違うところからガソリンを使ってたけど、これからは電気だと思ったらシフトしても良いと思う。
アフロ:うまいこと言うねぇ、今の言葉使おうかな。
阿部:そういう感じかな。MOROHAはちょっと特別だから、その悩みさえも全部が作品になっていくから良いと思う。ファンとしてはそう思ってます。
●二人の出会い〜MOROHAが阿部真央と対バンに誘った理由●
アフロ:初めて会ったのが2月14日にビーバー(SUPER BEAVER)とやった『怒濤』に来てくださって。
阿部: MOROHAさんのことはA&Rから聞いていて。でね「tomorrow」を聴いてカッコイイなと思って。そのあとに対バン(5月17日に開催される『怒濤』)の話をいただいて。「嬉しい! ぜひぜひ」みたいな感じで。
アフロ:じゃあ、知ってくださったのは割と最近なんだね。
阿部:最近でしたね。申し訳ないことに。
アフロ:いえいえ全然! やっぱり阿部真央はパンチ力が凄いと思って。ラップってさ、小さいペンで一生懸命に歌詞を書くから、ジャブで倒してる感じがするのよ。ジャブでポコポコ打つ感じなんだけど、(阿部真央は)マッキーなんだよ。そういうのがラップにはない強さだと思うから、歌の強さを存分に出している方だなと思ってました。
阿部:ありがとうございます。
アフロ:太いんだよね。
阿部:太いかなぁ。
アフロ:今日は人としても図太かったね。
阿部:アハハハハ、『怒濤』はなんで誘ってくださったんですか?
アフロ:自分の家に招く人は深く共感できる人が良いなと思って。仲が良いって理由で呼びたくないな、っていうのはある。第一回はZAZEN BOYSから始まり、eastern youth、ソウルフラワーユニオン等を招いてきたんだけど、「この人たちと向き合った以上、恥ずかしいことはやめよう」そう思った。阿部真央は俺たちがこれまでやってきたことと真逆のところにいたと思うの。デビューが早かったでしょ?
阿部:早かったです。
アフロ:それこそデビューが早かったから、年上だと思ってて。で、そういう世界に早く行きつつ、ちゃんと真に迫るものをやってる人をそんなに知らないから。それをメジャーシーンに居続けながらやるって、どういうことなんだろうなっていう風に思ったりしてたね。
阿部:ありがとうございます。
アフロ:あと、強そうじゃん。
阿部:アハハハハ、強そうでしょ?
アフロ:うん、今日はさらに強いと思った。俺はやっぱり、漫画に出てきそうな強い人が好きなの。ZAZEN BOYSは西遊記だと思ってた。そうやって思うと阿部真央も漫画だもんね。そういうのは惹かれる。
阿部:なるほど、嬉しいなぁ。『怒濤』はよろしくお願いします。
文=真貝聡 撮影=高田梓
取材撮影協力=propeller 東京都渋谷区恵比寿3-28-12OAKビル 1~2F

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