TENDOUJIが“東京インディー・シーン
きっての愛されバンド”たる所以を『
BUBBLE POPS』リリースパーティにみ

TENDOUJI〔BUBBLE POPS〕RELEASE PARTY 2016.4.22 渋谷WWW
TENDOUJIが「東京インディー・シーンきっての愛されバンド」と呼ばれるのは、イキがらないキャラクター(それどころかMV撮影で骨折したのに笑顔の写真をSNSにアップしたり、ユーモアも突き抜けている)や、20代男子であれば友達の友達にいたら嬉しいような親しみやすさもあるだろう。ジャンル問わずライブに行けばノれるし、どんなノリ方をしていても気にならないし、結果ハッピーにしかならないバンドは、いそうでいなかった。「もういい加減、バンドシーンがどうなるとか、ライブのマナーがどうとか、どうでもいいしダサくね?」という声が聞こえてきそうな(想像だが)フリーダムな空間を、オーディエンスも共に作っている。それが妙に新鮮なのだ。そのことを物語るかのように、この日のWWWはかなりの盛況ぶりを見せていた。
TENDOUJI
今回は4月18日にリリースしたばかりのEP『BUBBLE POPS』のリリースパーティを称して、大阪にはプププランドベランダ、そして東京はトリプルファイヤーMONO NO AWAREをゲストに迎えて開催。ゲストの方がねじれた音楽性と言えるが、常識から逸脱していくスタンスは近い。
一番手にはMONO NO AWAREが登場し、玉置周啓(Vo/Gt)が両手を広げ、うやうやしくTENDOUJIのリリースパーティの開幕を告げる。楽器の抜き差しがスリリングで、しかもそこに一切の力みを感じさせないあたりにこのバンドのユニークさが光る。この日の1曲目にも演奏した「マンマミーア」では、玉置がTENDOUJIから受けた衝撃を自分なりに発した言葉が「マンマミーア」だったことを告白。意外だったが、TENDOUJIのピュアネスは界隈のバンドにストレートに響くのだろう。新曲として紹介され、多くのバンドが主題にしてきた「東京」をタイトルもそのまま冠した新曲を披露してくれたり、高度にひねくれつつキャッチーな「イワンコッチャナイ」など、フックとツボだらけの演奏でフロアを揺らした。
2番手のトリプルファイヤーは、パーカッションにシマダボーイを迎えた5人編成。削ぎ落とすだけ削ぎ落としたミニマル・ファンク的なアンサンブルに凄腕のパーカッションが入ることで、個人的にはトーキング・ヘッズの「リメイン・イン・ライト」期を思わせるスリリングなプレイに瞠目した。したのだが、さらにこれまでは解決しない独り言調の歌詞を語るように乗せていた吉田靖直(Vo)が、ラップとは呼ばないまでも独自のフロウで言葉を発し、ときにメロディも歌うという、現在のあり方にかなり驚いた。吉田が共演者に言及するのをあまり見たことがないのだが、「TENDOUJI、まだ若いし。かっこいいし。ありがとう……TENDOUJI」と途切れ途切れに言う様子に笑いが起こる。大半のオーディエンスはトリプルファイヤーのセンスやノリも知った上で見ているようで、これはTENDOUJIファンのセンスの柔軟さなのか、この日の取り合わせが最高なのか?と言えば、正直両方だろう。
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ゲストの2バンドでいわゆるロックバンドの常識から解放され、痛快な気分が沸々と湧いてきたところで、本日のメインイベント、TENDOUJIの登場。周到にステージ上部からスルスル降りてきたスクリーンに、無事成功したばかりのUSツアーの様子、公開されたばかりのMV「Kids in the dark」のメイキングが流され、特にバスタブに沈むアサノケンジ(Gt/ Vo)には大爆笑。グッド・ヴァイブスでフロアが満たされ演奏がスタート。
インディポップ感の中に日本的な郷愁すらあるギターフレーズがユニークな「Parasite」から始まり、わりとユルい良いムードでありつつ、“顔で弾く”タイプのアサノの強烈なキャラも相まって、ハッピーなムードが広がる。が、序盤で早くもアンセムと化した「Kids in the dark」のイントロのギターリフが鳴ると、階段状のWWWの前方の限られたスペースに野郎どもが押しかけ、拳をあげてジャンプしまくる。そこに決まったノリはなく、はるか昔からライブハウスで行われてきた、「酔っ払って、バンドの演奏がいいから暴れる」以上でも以下でもない。
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ロックンロール・リバイバルを通過してポップに昇華した感じの「Get Up!!」では合間にハンズクラップが自然に起こるし、ダイナソーJr.にも通じるダイナミックとも適当とも取れるスケール感の「D.T.A.」など、アプローチとしては特に目新しくないのだが、とにかく曲がいい。アサノもしくはモリタナオヒコ(Gt/Vo)の曲を作ったどちらかがメインでボーカルをとるのだが、自然な印象のコーラスが目も耳も楽しませてくれる。
MCではUSツアーの件に触れ、アメリカに行けたことは良かったけれど、別にいろんなバンドが行ってるし、というスタンスに彼らの客観性を見た。同時に、バンドきってのぼんやりキャラ・ヨシダタカマサ(Ba)の忘れ物番長ぶりなど、珍道中だったことも容易に想像できた。今、アメリカのキッズはそれほどバンドをやっていないようにも思うが、TENDOUJIを見ていると、90年代や00年代のアメリカの地方都市のバンドを彷彿とさせるところがある彼らが、10年代も後半の今、現地でどう受け入れれらたのか、ライブを観ながら興味が湧いてしまった。
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乾いたアメリカンロック味たっぷりなアサノのギターソロが白熱する「LIFE-SIZE」や、打って変わってポストパンクなビートをオオイナオユキ(Dr)が叩き出す「Skippy」と、飽きさせない彼らを見ていると、「バンドやったやつの勝ちだな」と、一見ダメそうな男子が一度は夢見るバンドだからなし得るストーリーのようなものを見てしまう。シンプルでドリーミーなAメロがポップな「THE DAY」のみずみずしさ。そしてファズを踏む感じ。2018年にこんなギターバンドを新鮮に感じられることのある種の奇跡。フロアのテンションはさらに上がり、ステージ上より汗びっしょりになって本編が終了した。
アンコールを求める声も野郎の太い声が多く、それも楽しいし大げさに言えばTENDOUJIへの愛に満ちている。間奏で思いっきりシューゲイザー寄りの轟音で場を圧倒した「June song」など、ギターバンドのいいところがギュッと詰まった曲しかないのが最高だ。
アンコールの途中で自主企画『HUNG! GET! TAG! NIGHT!!! Vol.3』の開催を発表。この日の最速先行では1,000円、その次は1,500円とゲスト・バンドの発表とともに500円ずつチケット代が上昇する仕組みを説明。この日持参したチケットは瞬時に売り切れていた。90年代の『AIR JAM』にも00年代のR&Rリバイバルにも生まれるには遅すぎ、しかしインディロックが好きでたまらない。そんなバンドと、小難しいことはいらないから、地元の仲間みたいな連中が最高のライブをするから観に行きたいんだといった感のオーディエンス。この関係性は新しくて、しかも普遍的だ。

取材・文=石角友香
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