【明田川進の「音物語」】第4回 映
像に音をつけない効果と、印象的なミ
ュージカルアニメ

 アニメの映像に効果音をつけるとき、まず監督がどういう世界観の作品をつくりたいのかを聞きます。プランニングの段階で監督からでてきた希望に対して、「それだったら、こういうやり方があります」と相談していきます。昔は音響監督にほとんどお任せなスタイルが多かったですが、最近は音にくわしい監督さんがたくさんいて、具体的な希望がでてくることも多いです。音響監督は、監督の希望をかなえるためにどんな方法があるのかを提案し、監督がつくりたい世界をふくらませるのが大事です。そのなかで、今までにないトライができる楽しさがありますし、逆にこちらから「こういうこともできますよ」と提案することもあります。
 映像全体に音楽や効果音がついていないと、OKしない監督さんが今はわりと多いのですが、そういうとき、「音をつけない」という効果もあるんですよとお話しすることもあります。ノンモン(※ノン・モジュレーションの略。無音状態のこと)も、ひとつの効果音なんですよね。べったり音をつけてしまうとフラットになって、音がアクセントにならなくなるケースは意外に多いんです。あえて音をなくすことによって、見ている人に「えっ?」と思わせることもできます。とはいえ、ノンモンが長く続くとテレビでは放送事故扱いになりますから、これ以上はできないっていう限度はあるのですけれど。
 この世界に入る前、僕はFEN(米軍放送)をよく聴いていたのですが、「ここからセリフが入りますよ」というとき、音楽のボリュームがスーッと下がるんですよね。ある時期のアメリカのアニメでも、セリフや効果音が入るときに同じように音楽を極端にさげていて、たぶん見ている人も何も思わなかったのでしょう。日本のアニメーションでも同じようにやっていた時期があって、今でもそういうミキサーさんがいますが、最近はどちらかというと、音楽も効果音もセリフも全部鳴らして、ケンカさせるようなかたちのなかで、主張したい部分をどう立てるかという考え方でやっている方が多いと思います。
 効果音をつけるのに、スケジュールの問題は大きいです。絵を描く人たちが納得いくまで時間をとりたいという気持ちはよく分かりますが、音のスタッフからすると、お尻のオンエア日は決まっているわけです。本来ならば、ここまでに絵をもらえないと、きちんとした音はつけられませんよと言っているにも関わらず、大抵だいぶ遅れてフィルムはあがってくる(苦笑)。そうなると放送に間に合わせるために、ここで納得しないともう間に合わないという部分がでてくることもあります。劇場作品の場合は、自分が納得するまで試行錯誤できることが多いですが、テレビシリーズの効果音でそんなことをやっていたら、とても間に合いません。そうした状況のなかで音をつくりきるために、ストックのなかで、「このときの音はこう」というふうにやっていく場合もでてきます。
 「カムイの剣」(※1985年)をやったときは、風の音を既存ものではなく、北海道で録りたいと現地までいったこともありました。劇場アニメで、そこそこ潤沢な予算と時間があったからできたことですが、作り手側の意識といいますか、「どうしてもこれでやりたい」「じゃあやりましょう」というようなやりとりは、いい音をつくるために、ある程度あっていいんじゃないかと思います。日本アニメーションが制作していた「カルピスまんが劇場」シリーズなどは、制作に入るまえにみんなで海外ロケに行って、そのときに現地の音を録っていたそうです。作品の世界観をつくるのに効果音はとても重要なのですが、今はなかなかそこまでつくりこめないことが多いのが現状です。
 効果音の話ではありませんが、僕の会社で音響を担当した仕事でよくやったなと思うのが、「(おろしたてミュージカル)練馬大根ブラザーズ」(※2006年)という、松崎しげるさんが主演のテレビアニメでした。ギャグもので毎回新しいミュージカルの曲がでてくるものをテレビでやるのは本当に大変で、関わった人の中からからは「二度とやりたくない」との声もでたそうです(笑)。ミュージカルアニメといえば、音響監督をやった「ワンサくん」(※1973年放映)も面白い仕事でした。監督の山本暎一さんがというより、「宇宙戦艦ヤマト」を手がける直前だったプロデューサーの西崎義展さんがやりたいと強く希望して実現した作品です。日劇で演出家をしていた振付師の日高仁さんがミュージカルの振り付けをされて、宮川泰さんがそれにあわせて音楽を録り、その音楽にあわせてアニメーションをつけるという大変な手間がかかることをやっていました。今のスケジュールのなかでは、よっぽど好きなプロデューサーか監督がいないと、ああいうものはなかなかつくれないでしょう。
 効果音は、会社や個人によってつけ方がぜんぜん違うことが、よく聴いてもらうと分かると思います。効果の人のこだわりや監督の意向が反映されていて、「ああ、やっぱり違うな」と思いながら見ることも多いです。

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