『ターナー 風景の詩(うた)』展レ
ポート 日本初出展作も多数、イギリ
スを代表する巨匠の新たな魅力を発見

印象派や日本の美術にも多くの影響を与えた、イギリスを代表する風景画の巨匠、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775~1851)。彼の画業を約120点の作品で一望する『ターナー 風景の詩(うた)』展が、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館(東京都新宿区)で開催されている。肖像画1点をのぞいたすべてがターナー作品という、大変贅沢で貴重な本展。日本初出展作品も多く、ターナーの奥深く多様な表現を発見できる内容となっている。開催前日に行われたプレス内覧会より、本展監修者の言葉を交えながらレポートしよう。
ターナーの新たな魅力発見! 明確な章立て
移りゆく空や海、山の空気までまとったようなターナーの風景画は、今なお世界中で多くの人を魅了する風景画のお手本としても人気だ。本展ではスコットランド国立美術館をはじめとし、英国に点在する20カ所以上の美術館から多くの日本初公開作品を迎え、さらに郡山市立美術館など日本国内からも出展される約120点の水彩画、油彩画、版画、スケッチ、出版物などが一堂に会している。
右:《ストーンヘンジ、ウィルトシャー》 1827-28年 水彩・紙 ソールズベリー博物館 On loan from The Salisbury Museum, England
本展は最新の研究に基づき「第1章 地誌的風景画」「第2章 海景ー海洋国家に生きて」「第3章 イタリアー古代への憧れ」「第4章 山岳ーあらたな景観美をさがして」の4つの章で構成されている。ターナーの画業の出発点から、作風に多大な影響を与えたイタリアへの旅、晩年にかけてより自由になっていく筆さばきなど、ターナーの人物像やその人生に想いを馳せながら、新たな発見が得られる明確な章立てとなっている。
右:《コールトン・ヒルから見たエディンバラ》1819年頃 水彩、鉛筆、グワッシュ、スクレイピングアウト・網目紙 エディンバラスコットランド国立美術館群  (c)Trustees of the National Galleries of Scotland
風景に向けられた畏敬の念、人間への眼差し
本展の日本側監修者である郡山市立美術館主任学芸員の富岡進一氏による解説の中で、特に印象に残ったのは《風下側の海辺にいる漁師たち、時化模様》という油彩画だ。
「この作品は特に大切な作品。ターナーの生涯抱えたテーマ『自然と人間』が描かれています。偉大な自然の前では、小さな人間の力。しかし、一方的に自然に押し流されるばかりでなく、必死に抗いやり過ごそうとする人間の姿を、ターナーは自然への畏敬の念とともに描いています」
今まで巧みに描かれた風景にばかり目を奪われていたが、本作からは、その地で生きる人間のくらしにも大いに関心を抱いていたというターナーの眼差しも感じられる。このような点に気が付くと、ほかの作品に描きこまれたターナーの思想も想像することができる。
右:《風下側の海辺にいる漁師たち、時化模様》 1802年展示 油彩・カンヴァス サウサンプトン・シティ・アート・ギャラリー On loan from Southampton City Art Gallery (c)Bridgeman Images / DNPartcom
ターナーの人生を辿り、画風の遍歴を楽しむ
この日はスコットランド国立美術館群・総館長のジョン・レイトン卿も来日。ギャラリートークの中で「ターナーは76歳まで生きたので、その長い画家人生における画風の遍歴が面白い。晩年は風景が溶け込むような作品になっていた。ターナー作品が描かれた年代を想像しながら見ても楽しいです」と、見どころを語った。
左:郡山市立美術館主任学芸員の富岡進一氏、右:スコットランド国立美術館群・総館長のジョン・レイトン卿
地誌的風景画という精緻なスタイルからスタートし、ドラマチックな風景画を描くようになり、詩の挿絵などの空想による作品も手がけ、晩年は水をたっぷり含んだみずみずしいタッチへ。とりわけ40代ではじめて訪れたイタリア旅行は、ターナーに大きな変化を与えたという。画家の人生に想いを馳せながら作品を楽しみたい。
右:《モンテ・マリオから見たローマ》 1820年 水彩、スクレイピングアウト・紙 エディンバラ、スコットランド国立美術館群 (c)Trustees of the National Galleries of Scotland
《古都ブレゲンツの眺め》 1840年頃 鉛筆、水彩、グワッシュ、赤チョーク・灰色の紙 バーンズリー、クーパー・ギャラリー Courtesy of the Trustees of the Cooper Gallery, Barnsley, England
一切の妥協ナシ! 版画作品にも注目
水彩画や油彩画だけでなく、本展ではぜひ版画にも注目してほしい。郡山市立美術館から多く出展されているターナーの版画作品は、エッチングやメゾティントなど実にさまざまな手法が使われている。その再現性の高さには目を見張るばかりだ。ターナーは生前から人気の画家であったが、その画業を広めるのに版画は大いに役立った。馬車や牛車しか移動手段がなく、旅行が困難だった時代、ターナーは自らさまざまな地に足を運んではスケッチし、美しい風景画を描いた。その貴重な作品をまとめた出版物が、人気を博したというのもうなずける。そのため、ターナーは版画のクオリティに対して一切の妥協を許さない姿勢で、彫版師にも納得いくまで何度も修正させたという。
『ピクチャレスクーイングランド南海岸の描写』第4集(全16集) 1814年 エッチング、ライン・エングレーヴィング/ポートフォリオ(全5図、うちターナー2図)郡山市立美術館
《エグリモント氏のための海景画(海風のなかの船)》 エッチング、メゾティント 郡山市立美術館
日本でも馴染み深いターナー作品。知っているつもりになっていたが、本展では画家のストイックなまでの研究心、幅広い表現力、衰えない風景画への情熱を再発見できたように思う。ぜひ、本展で今一度ターナーの魅力に触れ、新たなインスピレーションを得てみては。
展覧会場風景

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