スターダンサーズ・バレエ団『ドラゴ
ンクエスト』 2組の全く違った個性が
光る、4人の勇者が誘う冒険の旅へ

2018年5月12日(土)・13日(日)、スターダンサーズ・バレエ団(SDB)の「ドラゴンクエスト」が上演される。1995年の初演以来、看板作品の一つとして上演を続け、昨年春の公演では衣装や舞台装置などを一新した。
今年の公演は昨年白の勇者を好演した加藤大和のほか、新たに林田翔平が、そして黒の勇者には池田武志、高谷遼が挑む。実に3人が初役というフレッシュな顔ぶれによる新たな冒険だ。今回はそのリハーサル現場を見学し、4人の勇者たちに話を聞いた。
■新たな勇者たちに戦士や武器商人も健在。ドラマがより濃厚に
ドラゴンクエスト(2017年公演) ⒸKiyonori Hasegawa
今回行われていたリハーサルは2幕の冒頭からエンディングまで。1幕で王女がさらわれ冒険に旅立った白の勇者、王女救出に向かい魔王と戦う伝説の勇者、王女と黒の勇者のふれあいと隠された真実が次々と明らかになり、物語はクライマックスへ……という見応え満点のシーンが続く。
詳しくレポートをしてしまうとネタバレになってしまうのが悩ましいところではあるが、ともかく魔王の宮殿で部下を率いて伝説の勇者を迎え撃つ黒の勇者・池田の動きが大きく、実にキレがある。彼ならではの、長く大きく弓なりにしなるような脚の動きや高い跳躍が見事。ノリにノっているのがわかる。
対する白の勇者・林田はこちらもまた長身の堂々たる体躯ながら、爽やかさとともにどこか初々しさも漂う。今まさに仲間とともに冒険を重ねながら、自分の運命に立ち向かっていこうとするまっすぐさが感じられる青年といった雰囲気だ。
撮影:西原朋未
王女役の渡辺恭子とも息はぴったり。彼女もまた前回公演に続いての王女役だが、表情や踊り、表現に輝きを増しているようで、こちらも楽しみになる。
戦士役の西原友衣菜も昨年に続き今回が2度目とあって、鞭捌きも鮮やか。お馴染みの武器商人・鴻巣明史もコミカルな動きでドラマを盛り上げている。

林田・池田組のリハーサルに合わせ、もう一組の白の勇者・加藤と高谷が音楽に合わせて自身の動きを確認している。青年系の林田・池田組に対し、少年から青年への境目といった雰囲気の加藤・高谷組。全く個性の違うペアであるのも興味深く、違った世界が展開されそうだ。
■王子とは違うヒーロー「白の勇者」とダークヒーロー「黒の勇者」
リハーサル後に4人の勇者に話を聞いた。
――加藤さんは昨年に続き今回が2度目の白の勇者役となりますが、レベルは上がりましたか?
加藤 前回はいっぱいいっぱいでリハーサルも本番も余裕がなく、本番が終わってから「もっとこうしたかった」というところがたくさんありました。それから1年経たないうちに今回また白の勇者をやらせていただけるのはありがたいです。前回のやりたかったところ、こうしたいと思ったところを含めて、本番まで煮詰めて行きたいです。
――高谷、林田、池田さんらは初役ですね。まずはキャスティングされてからの思いを。
高谷 ドラクエはSDBのスクールに入った時から見ていて、黒の勇者はいつか踊れたらいいなと思う憧れの役でした。今回夢がかないました。
――黒の勇者が夢だったんですね。それはなぜでしょう。
高谷 自分的にこの作品で一番かっこいいなと思ったのが黒の勇者だったんです。中学生の時にドラクエに出演したことがあるのですが、その時に黒の勇者を間近で見て、やってみたいと思いました。
池田 僕は以前ドラクエのDVDを見たことがあるんです。西島千博さんが白の勇者、長瀬伸也さんが黒の勇者で、とくに長瀬さんのダークヒーロー的なキレの良さ、かっこよさが心に残っていた。その時はSDBに入団するとは思ってはいなかったのですが、もし僕がやらせてもらえるなら黒の勇者がやりたいな、と。黒の勇者には男子が憧れる要素がいっぱいある。それを今回踊らせてもらえてうれしく思います。ドラクエはゲームもプレイしていたので、楽曲的にも心躍るし、楽しみです。
――ダークヒーローのかっこよさ……具体的にどういうところでしょう。
池田 2幕冒頭の黒の勇者たちの踊りで使われている音楽ってゲームだとボス戦の曲ですよね。低音が響いてかっこいい。男心をくすぐられるし、役柄も悲劇的で宿命みたいなものを背負っている。そこに憧れるし、そこが魅力かな。
高谷 最初は敵で完全悪役だけれど、実は本当に真に染まった悪役じゃなくて、正義の部分もある。その間で揺れる、葛藤するという役割を担っているのがこの黒の勇者なんです。人間の心が持つ黒と白の間で揺れ動き、葛藤するのは黒の勇者ならでは。
ドラゴンクエスト(2017年公演) ⒸKiyonori Hasegawa
――林田さんは白の勇者ですが、いかがでしょう。
林田 勇者という、なかなか経験できない役をやらせてもらっているなぁと。勇者って王子でもないし、村の若者でもない。バレエ作品のニュアンス的には王子かもしれないけれど、やはり全然違うんですよね。そういう意味では難しく、でも新鮮味があるので楽しく、研究のし甲斐があります。日々発見することもあり、身になるものがある。
――「勇者」であって王子ではない、と。
林田 持っている意志が違うのかな。使命を帯びて何かに向かってひたむきに何かを成し遂げようという気持ちが、いわゆる王子とは違うのかな。
加藤 勇者だけど弱い部分は存分に弱い。ダメなところもあって完ぺきではないけれど、成長していく。そういう観点からも観てほしいなと思います。
――池田さん、林田さんは昨年SDBに入団された時、インタビューで踊ってみたい作品にドラクエを挙げられていました。リハーサルをしてみて、手応えの方はいかがでしょう。
池田 「くるみ割り人形」「白鳥の湖」といったバレエと比べて、リハーサルの乗り方や雰囲気が全然違い、本番を踊っているようなワクワク感があります。すごく気持ちが入りやすい作品です。
林田 ドラクエを踊ってみたい、とは言いましたが、実は僕はゲームをまったくやっていないんです(笑) 音楽は耳にしますが、実際どこから手を付けていいのかなという感じで。リハーサルでは振付家から細かい部分の表現をたくさん要求されるのでそれに応えるのは大変ですが、個人に任される部分もあったりするので加藤君と意見を出し合ったり、池田君ともどう表現したいかなどを話し合い、切磋琢磨しながらやっています。
加藤大和、林田翔平、渡辺恭子 撮影:西原朋未
■「2日間見てほしい」個性の違う2組の舞台
――リハーサルもだいぶ進んでいると思いますが、本番までどうしていきたいか、形は見えましたか。
加藤 今回は僕と高谷君だけにしかできない白と黒の勇者をやろうという目標があります。頻繁に話し合いもしていますし。プライベートでご飯を食べに行ったときもほとんどバレエの話しかしていないです。互いにどうしたいかという意見を出して、実際に踊ってみて、さらにこうしようと。
――ドラクエどっぷりの日々なんですね。林田・池田さん組もそうですか?
池田 僕ら(林田・池田組)はドラクエという作品に関して元々の先入観がない。今までの方々がどう演じてきたか、話を聞いてはいても踊る部分ではまっさらなところがある。
林田 僕らと加藤君たちは色が違うので、ストーリーは同じですが、2日間見たら全く違う作品に見えるかもしれないです。そこをはっきり色分けして、僕たちのドラクエが見せられればいいなと。
林田翔平(白の勇者)と西原友衣菜(戦士) 撮影:西原朋未
■見どころ・推しのシーンも満載
――それぞれの推しのシーンを教えていただけますか
加藤 伝説の勇者と白の勇者の絡みです。育ての父と息子に関係する一連のシーン。1幕で伝説の勇者が白の勇者を残して、死ぬ覚悟で魔王討伐に行く。白の勇者はもう会えないと思っていなかったし、ただ置いて行かれ、そして天空のシーンで過去を全て知る。天空の夢の中でも白の勇者は伝説の勇者を追いかけるんですが手が届かない……。このシーンは本当にうるうるする。堪らないし、去年もここは一生懸命作りました。
ドラゴンクエスト(2017年公演) ⒸKiyonori Hasegawa
――伝説の勇者、カッコいいですよね。リハーサルを見ていてもうるっと来ました。
加藤 10年後くらいにやりたいです(笑)
林田 僕は1幕の酒場のシーンが好きです。
ドラゴンクエスト(2017年公演) ⒸKiyonori Hasegawa
池田 僕は黒の勇者と王女とのパドドゥです。黒の勇者の運命が変わった瞬間だと思いますし。初めて人間の温かさに触れ、やっと人間らしさを取り戻したところで立て続けに悲劇がふりかかってきて……。黒の勇者は精神的な強さがあると思います。
高谷 1幕、黒の勇者が王女をさらっていく場面です。そこで物語が動き、冒険が始まるし、音楽も雰囲気がガラッと変わる。ドラマが動く瞬間です。
――では最後にお客様にメッセージを。
加藤 去年装置や衣装を一新しました。鈴木先生の演出、すぎやまこういち先生の音楽、照明も加わって素敵な作品になっています。ぜひ両日見てください。
林田 どのシーンもワクワクドキドキで、見ていて飽きることはまずないと思います。ぜひ両日来ていただきたいです。
池田 SDBで長く上演されている作品です。初めて観る方はもちろん、何度も観た方も今までとは違う白と黒の勇者がいます。僕らも実際に舞台上でどういう化学反応が起きるのか楽しみにしているので、一緒に楽しみながら、ぜひ両日見に来てください。
高谷 ゲームを題材にしたバレエは、日本はもちろん世界を見渡してもSDBしかありません。バレエ団の色が如実に表れた作品なので、ゲームを知らない人もバレエを知らない人も楽しめます。ぜひ両日とも見てください。
――両日、ですね(笑) 。ありがとうございました。楽しみにしています。
ⒸKiyonori Hasegawa
取材・文=西原朋未

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着