愛を音色に乗せて聞く人の心に届けた
い フルートとピアノのデュオユニッ
ト「あいのね」

“サンデー・ブランチ・クラシック”2018.3.11 ライブレポート
クラシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう!小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK!そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。3月11日に登場したのは、フルートとピアノのデュオユニット「あいのね」だ。
兵頭愛美(ピアノ)、林愛実(フルート)
国立音楽大学でフルートを学んでいた林愛実と、ピアノを学んでいた兵頭愛美。愛が実ると書いて「あいみ」の林と、愛が美しいと書いて「あいみ」の兵頭。奇しくも同じ名前を持つ二人は、同じ大学の同期生として運命的な出会いを果たし、愛の音という意味を持つユニット「あいのね」を結成。昭和歌謡をフルートとピアノで美しく奏でる演奏活動を中心に、BSフジ「アートな夜」に出演するなど、活躍の場を広げ続けている。
林愛実
兵頭愛美
そんな「あいのね」が初の「サンデー・ブランチ・クラシック」に登場とあって、リビングルームカフェは、詰めかけたナイスミドルの紳士たちをはじめ、ファミリー層も多く、いつにも増してアットホームな雰囲気になった。その中へ、純白の美しい、まるでディズニー映画のプリンセスのような、お揃いのドレス姿の「あいのね」の二人が登場。大きな拍手の中、演奏が始まった。

林愛実
兵頭愛美
著名な楽曲が、フルートとピアノで奏でられる新鮮な美しさ
まず開幕を飾ったのはモンティの「チャルダーシュ」。ヴァイオリンとピアノで演奏されることが多い楽曲だけに、フルートとピアノという組み合わせがとりわけ新鮮だ。
簡素なピアノの序奏から、もの悲しいメロディーがフルートでたっぷりと奏でられ、やがてテンポをあげ、演奏は軽快に進む。途中ピアノでも美しいメロディーが響き、曲が明るい長調へと転調すると、フルートとピアノが共に掛け合うように演奏され、一気にフィナーレへと駆け上った。
林愛実

兵頭愛美
大きな拍手の中、「皆様と午後のひと時を過ごせるのを楽しみにしていました」に続いて、互いが互いを紹介する「あいのね」らしい挨拶のあと「チャルダーシュ」は「酒場」という意味で、お酒を楽しみながら演奏を聞いてもらえるこの「サンデー・ブランチ・クラシック」のオープニングに相応しいと思い選んだことを伝えた。けれども、元々がヴァイオリンを想定している楽曲な為、フルートで演奏するには超絶技巧満載の曲になった、という演奏秘話も語られた。
林愛実
次に演奏されたのは、リストの「愛の夢第3番」。現在はピアノソロ曲として演奏されることが一般的になっている名曲だが、元々はリストが歌とピアノの為に書いた楽曲。フルートとピアノの「あいのね」の演奏では、その原型に近い雰囲気が立ち上り、フルートが奏でるメロディーが、ピアノのダイナミズムと呼応し合い、互いが互いを引き立てあう「あいのね」の演奏スタイルの良さが、くっきりと浮かび上がった。
愛の音という「あいのね」のユニット名からもわかるように、愛をテーマにした曲を多く演奏している二人が、次に奏でたのは、ガルデルの「ポルウナカベ―サ」。スペイン語で「首1つの差で」という意味で、美しい女性を競い合う男性たちが、首1つの差で勝ち負けを争う、激しい愛の形が描かれるドラマチックなタンゴだ。こちらもヴァイオリンでの演奏が有名だが、ドラマティックなピアノと伸びやかなフルートが絡み合う演奏が、男女が互いを求め、時に情熱的に、時に支配権を争うように踊られるタンゴダンサーの踊りをストレートに想起させる。二人の演奏はステージでの見せ方も堂に入っており、視覚的にも楽しめる表現が印象的だ。
林愛実

兵頭愛美

音楽から立ち上る、壮大な楽曲の世界観
そして、いよいよフルートとピアノの為に書かれた楽曲、「あいのね」の二人にとって国立音楽大学の先輩にあたる作曲家・村松嵩継の「Earth」が演奏される。宇宙を旅するフルーティストが、フルートの楽の音で地球の危機を救う、という壮大な世界観を持つ曲目だ。互いに他の相手とコンビを組み演奏活動をした遠征先で出会い、ユニットを結成したという経緯がある「あいのね」にとって、「旅」「出会い」が描かれるこの曲は、いつかは演奏したいと温め続けていたものだそうで、旅立ちの時でもある3月の「サンデー・ブランチ・クラシック」での初披露となった。二人のそんな想いの深さが込められた演奏は伸びやかに響き渡り、曲の持つドラマチックな世界観が目の前に立ち現れるのが感じられ、宇宙を旅するフルーティストの見ている光景までが思い浮かぶほどだ。起伏のある大曲をドラマ性豊かに演奏しきった「あいのね」に、盛大な拍手と「ブラボー」の声が飛んだ。
林愛実
兵頭愛美
プログラムの最後に用意されたのは、レナード・バーンスタインのミュージカル『キャンディード』から「煌びやかに着飾って」。日本でも、石井一孝中川晃教、井上芳雄という、ミュージカル界を代表する俳優たちが主演している作品の1曲だ。郷里が異国に攻め滅ぼされた貴族令嬢が、パリで高級娼婦をさせられている我が身を嘆きながらも、泣き明かすのはやめ、煌びやかに着飾って明るく陽気に振る舞い、生まれの良さを見せつけてやる!と、歌い踊る楽曲の骨子が、ミステリアスなメロディーから、次第に軽快に弾け、一気にクライマックスへと盛り上がる様子が「あいのね」の演奏で見事に表現され、会場は更に大きな拍手に包まれ、たくさんの花束がステージに届けられた。
その歓声に応えて、アンコールに用意されたのは「見上げてごらん夜の星を」。奇しくも東日本大震災発生の日である、3月11日の演奏会となったが、悲しみの日だからこそ、前を向いて生きて行こう!という「あいのね」の、想いがこもった応援歌のように、静かなメロディーからはじまった楽曲は、リズミカルに変化した。フルートとピアノが決してメロディーと伴奏ではなく、対等に音楽を紡ぐ「あいのね」ならではの美しく、堂々とした演奏がこの曲で終わりを告げた。新たな発見の多い、贅沢な40分間だった。
左から兵頭愛美、林愛実
お互いの音楽性に惚れ合ったベストパートナー
演奏を終えた「あいのね」のお二人にお話しを伺った。
左から兵頭愛美、林愛実
ーー素晴らしい演奏の数々でしたが、会場の雰囲気はいかがでしたか?
林:演奏中にお食事も召し上がって良い、というコンセプトだと伺っていたので、もう少しお食事の音や、会話がある環境なのかな?と思っていたのですが、お客様が皆さん集中して聞いてくださっていてね。
兵頭:本当に熱心に聞いてくださったので、嬉しかったです。
ーー今日の選曲については、どういう方向性を意識されたのですか?
林:1番はお客様にクラシック音楽を楽しんでいただけるように、を考えました。私たち「あいのね」は昭和歌謡曲を中心にした演奏活動が多いのですが、そういう私たちの演奏を楽しみにしてくださっているお客様にも、聞きやすいクラシックの名曲を、ということを意識しました。あとは、やはり今日が3月11日でしたから、東日本大震災を意識しつつも、あまり暗く沈むことなく想いを表現できたら良いなと思いました。
兵頭:さらにもう1つ言うとすると、せっかく「あいのね」の演奏を聞いて頂くので「あいのね」の良さや、個性も知っていただける曲を選びたいね、いう願いも込めて選曲しました。
林:どうしたら「あいのね」の良さをお伝えできるかは、かなり話し合ってレッスンしました。
林愛実
ーーどの曲も、フルートソロとピアノ伴奏というのではなく、フルートとピアノが対等に音楽を奏で、高め合っていらっしゃるのが、とても印象的でした。
兵頭:あくまでも伴奏者ではなく、共演者として共に演奏をするというのが「あいのね」のスタイルなので、ピアノがあまり伴奏だけに回ってしまうと、林もやりたいことができませんし、私もやりたいことがなかなかできなくなってしまうので、お互いのやりたいことが100%できる形になるように、どの曲も自分達でアレンジをしています。
ーーアレンジもお二人でなさるのですね。
林:元々フルートとピアノの為の曲は、今回の中では「Earth」しかなかったので、それ以外は全部二人で考えて作っています。
ーーそれだけ信頼の厚いお二人ですが、お互いの存在をどう感じていますか?
兵頭:元々名前が一緒で、大学が一緒ということはあったのですが、初めて一緒に演奏をした日に「一目惚れ」をしたんです。音もだし、音楽もだし、表現もだし、すべてにおいて「これを一目惚れって言うんだ!」と思ったほどの、ある意味衝撃的な出会いでした。
林:お互いにそうだったんです。
兵頭:それがきっかけで組むことになったのですが、今でもその気持ちには全く変わりがないと言うか、更にその想いが増していて、音楽性に惚れています。

兵頭愛美
ーーそれは素晴らしい出会いでしたね!
林:本当にこれほど良いことはないと言うか。音楽家としてベストなパートナーに早い段階で会えたので。
ーーそういうお二人がさらに名前も一緒というのも、実に運命的ですね。
林:そうなんです!
兵頭:本当にそう思います!
ーーそんなお二人が「あいのね」愛の音をテーマに演奏を続けているというお話でしたが、更に今後の夢などを教えてください。
林:私たちが1番に目指しているのは、私たちの音色でお客様に楽しんでいただくということです。その想いに愛を込めて音色に乗せて、皆様に「愛」を感じ取っていただきたい、それをモットーに、様々な挑戦をしていきたいです。今回のオールクラシックという演奏会も、私たちにとっては大きな挑戦だったので。
兵頭:「あいのね」史上初のことでしたから。
林:それが皆様に喜んでいただけたなら、またクラシックにも是非挑戦したいです。
ーー昭和歌謡で「あいのね」のファンになった方たちが、お二人がクラシックを演奏されることによって、クラシック音楽の魅力にも開眼してくださる機会にもなったと思います。
林:今日の演奏会でも、普段私たちの昭和歌謡を聞きに来てくださるお客様が、「ブラボー!」という掛け声をかけてくださって!
兵頭:何度も聞こえましたね。
林:ファンの方たちがちゃんとクラシックを学んできてくださっていることに感動したので、素晴らしい形になったなと。
ーー是非、クラシックも含めた様々な演奏で活躍してください。また『サンデー・ブランチ・クラシック』でも演奏してくださる日を楽しみにしています。
兵頭:私たちも楽しみにしています。ありがとうございました。
左から林愛実、兵頭愛美

取材・文=橘 涼香 撮影=岩間辰徳

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