キュウソネコカミ “面白カッコいい
”というイバラの道を選んだバンドが
前歯を研ぎ直して越えたもの

最新アルバム『にゅ~うぇいぶ』に伴う全国ツアー『ヒッサツマエバ -とぎなおし- ‘17-18ツアー』を経て、前歯を研ぎ直したキュウソネコカミから届いた会心の一撃。“面白カッコいい”というイバラの道を選んでしまった彼らだからこその真理が説得力を倍増させるニューシングル「越えていけ/The band」で彼らは何を越えたのか? ヤマサキ セイヤ(Vo/Gt)とヨコタ シンノスケ(Key/Vo)に訊く。
――昨年12月にリリースしたアルバム『にゅ~うぇいぶ』を掲げての全国ツアーを終えた今、改めて聞きたいのですが。バンドにとって『にゅ~うぇいぶ』って、どんなアルバムでした?
ヤマサキ:リフレッシュな一枚かな? “にゅ~”ってくらい、僕らもまた新しい気持ちになれましたね。面白かったのが、キュウソネコカミの既成概念を壊すつもりで作ったんですけど、出来上がってみたらキュウソ色のアルバムになっていて。
ヨコタ:そうやな。作ってる時はあまり考えすぎないように意識してたんですけどね。ちょうど良いところで止めるというか、多少荒くても“インディーズの時はこれくらいの感じで出してたよな?”みたいにしていたところもあって。時間をかけて詰めすぎると、訳分かんなくなってしまうので、そうならないように作っていったんです。でもそうやって作った曲をツアーでやってみたら、昔の曲との相性もすごく良くて。ツアー中は必然的に昔の曲が増えていって、よいバランスで上手く混じり合ってましたね。
――客観的に見ていると『人生はまだまだ続く』でひと区切りついて、『にゅ~うぇいぶ』で次のステージに突入したというか。積み重ねてきたスキルがありながら、初期衝動的なものや新鮮さもあって、キュウソが2周目に突入した感じがありました。
ヤマサキ:確かに。日本じゅう全国行って、2周目って感覚はありますね。
ヨコタ:『人生はまだまだ続く』で一度、やりたいことをやりきれた感もありましたしね。
――俺はキュウソが好きだからあえて言うけど、『人生はまだまだ続く』以降、ちょっと迷走してる感があったんです。もともと“噛み付くバカ”だったキュウソが好きだったんだけど、最近の曲を聴いてると“ちょっと丸くなっちゃったな”と思ってしまうところもあったり、どこか物足りなさを感じていて。でも今回、『にゅ~うぇいぶ』を経て完成した「越えていけ/The band」を聴いた時、“これこれ!”ってすごく興奮したんです。色んな歯車がバチッと噛み合ったというか、新しいキュウソの魅力が詰まった決定盤だと思いました。
ヤマサキ:ずっと噛み付くバカでいられたらよかったんですけど、ライブで怪我しちゃう人が出たりする中で、勢いだけでやっていられなくなって。“思いやりとマナー”とかも考えなきゃいけなくなったとき、全体的に丸くなっちゃったのかな? というのはありますね。あと、“どうしても売れたい”と思ったときに“人を傷つけるのはイヤやな”と思ったこともあって。最近の僕たちを心から応援してくれる人も増えたんですけど、最初の頃にファンになってくれた人の中には、“最近のキュウソはちょっと違う”みたいに言ってる人もいて。今回のシングルに関しては、超いいのができたけど、決定盤っていうほどの意気込みはなくて。“こういうのも出せるようになったんだ”くらいの気持ちです。
ヨコタ:ただ、確かに迷走というか、モヤモヤしてる感じはありました。そこで『にゅ~うぇいぶ』のとき、“そういうの取っ払って、楽しく作ろう!”みたいに好きにやって、だんだん良くなってる感覚はあって。“こういうのやってもいいじゃん”って、周りも俺らも思えてきた中で、今回のシングルができた感じですね。
ヤマサキ:『にゅ~うぇいぶ』以前は、メンバーそれぞれのやりたいことを色々詰め込んだ結果、曲がぶっ壊れてしまうこともあったんですけど。「越えていけ」は引き算が凄くて。曲を良くすることを第一に考えて、引っ込むところは引っ込めるようになれていたり。
ヨコタ:そう。それって技術が無かった昔の作り方にも近いんですけど。個々のスキルが上がってるから、そういう風に聴こえなかったりするんです。
――「越えていけ」で、まさにひとつ壁を越えたんですね。
ヤマサキ:越えました。あのままメンバー仲が悪くなる方向に行かず、一丸になって取り組める方向に来れてよかったなというのは感じてます。あと最近、昔みたいに僕を泳がせてくれるようにもなったんです(笑)。1st、2ndの頃は、僕が曲を持って行って、“ちょっと違うな”と思ってもあまり意見が言えない感じがメンバー内にあったんですけど。その後、“ここはこう変えさせてくれ”って個々が意見を言うようになったら、今度はそれでギクシャクすることもあって。
ヨコタ:本当の大事なところって、理屈じゃなかったりするからね?
ヤマサキ:そうそう。最近は僕のやりたいことを聞いた上で、“だったら俺はこうする”っていう意見が出て、ちゃんと役割分担できてるから、お互いすごく良い状態でやれているんです。
ヨコタ:だからこそ今回も、「越えていけ」とかアニメに向けての書き下ろしの曲ではあるけど、“キュウソらしいな”っていう曲になったんやろうな。
キュウソネコカミ 撮影=北岡一浩
ホメられるよりも、仮想敵がおるくらいの方が調子いいんで。YouTubeのコメントを見て、いちいち腹立てたりしながら“あらゆるものを越えてやる!”と思ってます。(ヤマサキ)
――今回、歌詞もすごく正直に書けていて。さっきの“噛み付くバカ”の話の続きでいうと、誰かを傷つけたくないと思った時、「越えていけ」で噛み付いてるのは自分自身なんですよね。自分自身に噛み付いて、過去の自分や現在の自分を越えていく。そこに攻撃性と前向きさがあって、聴いててすごく興奮したし、すごく共感できました。
ヤマサキ:攻撃性っていうところでは、ロードオブメジャーの「心絵」っていう曲と「越えていけ」を比べてくるヤツがおって。そいつらに対して、“シバクぞ!”と思ってます(笑)。で、その怒りが次への創作意欲に繋がったりするんです。俺らはホメられるよりも、仮想敵がおるくらいの方が調子いいんで。YouTubeのコメントを見て、いちいち腹立てたりしながら、“あらゆるものを越えてやる!”と思ってます。
――わはは。シングルが出来上がってみての感想はいかがですか?
ヨコタ:「The band」はすでにライブでやってるんですけど、フェスで僕らを知らない人の前でやった時も手応えあったし。ワンマンでは“こういう曲を待ってました!”と言ってくれる人もいたり、インタビューでも歌詞のことを聞かれることが多くて。作ってるときはあまり意識してなかったけど、出来上がってから良かったなと思うことが多いですね。
――「The band」は続けてきたからこそ書ける想いや説得力があります。
ヨコタ:インディーズの頃にこれを歌ってたら、ひがみで終わる話ですからね。何年かメジャーでやらせてもらった実績があるのが、よかったんじゃないかと思います。“僕らも戦い続けてきたからこそ、こういう歌詞が生まれたんです”っていう自負はありますね。
――<おもしろいのは大変ね>と始まる歌詞ですが、“面白カッコいい”というイバラの道を選んでしまったからこその大変さって絶対ありますよね。
ヤマサキ:面白いのが一番大変ですからね! 同じことを繰り返しできないから、それで潰れてしまったバンドもたくさん見てるし。俺らは早々にそういうのをやめたから、今ここにいられるんやろうなと思いますしね。
――面白いのも凄く大事だけど、ロックバンドだもんね。
ヨコタ:そう、本質はそこやと思うんですよね。僕らはそこに気付けたところもよくて。「わかってんだよ」とかシリアスな曲もちゃんとできて、そこに付いてきてくれるファンもいる。だからこそ、今回みたいなシングルを出すのも怖くないし。
キュウソネコカミ 撮影=北岡一浩
――今作は「わかってんだよ」のように感情的に訴えかけるだけじゃなくて、真っ直ぐな気持ちをキャッチーに伝えられていて。ちゃんとエンターテインメントに昇華できてるし、ライブで拳を上げる曲にもなっていて、バンドの進化も見えますが。この境地にたどり着くまでは周りのバンドを見て焦ったり、自分たちと比較したこともあったでしょう?
ヤマサキ:そうッスね。でも、自分らは変わってないし、やりたいことをやっていたつもりだったので、変な方向に行ってるバンドを俯瞰してたところもあったから。「The band」には、“自分の好きなバンドがどんな方向に行っても、応援してあげて下さい”みたいな。“もし解散しちゃったら、好きなあの曲も聴けなくなりますよ”みたいな想いも入れていて。
―― 一方、「越えていけ」では、<こうあるべきだとか こうじゃなきゃいけないとか 誰の人生だ お前の人生だ>と、自分らしく生きる姿を肯定して。どちらもちゃんと自分の経験を踏まえて、伝えたいことが歌えてるから心に強く訴えかけてきます。
ヤマサキ:「越えていけ」を聴いてキツくなったら、“向いてないことはやらなくていいよ”って歌ってる「MUKI不MUKI」に逃げてもらってもいいですしね(笑)。
ヨコタ:やっぱり色んな人がいるんで、どストレートに応援するのって難しいんですよね。僕らもどちらかというと、「MUKI不MUKI」に勇気づけられる人間なので、ストレートじゃない応援の仕方もあるんじゃないかと思うんです。
――いや、本当そうなんだよね。野球をやってたって、レギュラーになれるのはひと握りで。頑張ってる人に“頑張れ頑張れ!”っていうのって、すごく酷なことだったり。
ヨコタ:それも同じ経験を経てきた人に言われるならまだ分かるけど、野球をやってる子がバンドマンに言われてもなぁ?(笑)
ヤマサキ:僕も、音楽ではめっちゃ色々言われてきましたけどね。練習しない僕が悪いんですけど、歌下手やし、勢いだけやし、ずっとステージに立てなくて。それでもウチなりの戦い方で、ウチより上手いバンドのステージを勝ち取ってきたから、今があると思っていて。正攻法じゃなくても、色んなやり方で勝っていける方法があると思うんですよね。野球でいったら、守備も何もできないけど、代打さえできればいけるとかあるじゃないですか? 自分のできることを見つけて、できることをめちゃ伸ばすことが大事やと思うんです。
ヨコタ:“まず誰かと比べることで、やる前に諦めちゃうっていうのをやめようよ”ってことですよね。頑張ってる人って、向き不向きはありながらも土俵に上がって、何かをやってる人ですから。そういう人には、この曲が響くんじゃないかと思いますね。
ヤマサキ:極端な話、野球ができなくても、ユニフォームが好きだとかでも良いんですよ。僕だって、あんまりギター弾けないけど歌いたいし、曲を作りたいからやり続けていられるし。バットが好きやったらバットを作ってもいいわけですよ。“何か好きなことに関わりたい!”っていう気持ちだけで十分なんです。音楽に関わりたいけど才能がなければ、裏方でもセキュリティでもいいから、好きな方面でできることを見つけてやればいい。自分のやれることを見つけられたら、人生がすごく楽しくなると思うんですよね。

“キュウソの曲作りってめちゃ楽しそう”とか言われるけど、楽しいだけのわけがない! 最終的にみんなに見せた時に面白ければ良いんで、そんな苦労は見せる必要ないですけど。(ヨコタ)
――言ったら、ライターやってる僕もそうですからね。「越えていけ」は『メジャーセカンド』のOPテーマですが。テーマありきで自分の歌えることを考えたんですか?
ヤマサキ:そうですね、マンガを読んで自分と重なるところを書こうと思って書きました。ただ、「越えていけ」では、“才能もセンスも運もちゃんと努力して越えていけ”ってことを伝えたかったんですけど、本当はそういう生き方って不得意で。バスケットボールとかも“入ったらラッキー”くらいの気持ちで思い切り投げて、一発で決めたいタイプなんです。だから、“俺みたいな考え方はやめて、ちゃんと努力しろ”って気持ちもあります(笑)。
ヨコタ:憧れだよね。こういう生き方ができる人が本当は凄いんだよっていう。
ヤマサキ:だって、『ワンピース』のルフィですら、何年も修行してあの強さやもんな。修行してる所とか、マンガでは端折られてるけど、あの間にめちゃめちゃ修行してるからな。
――そう、マンガにしても面白くないところだから端折られるけど、その端折られてるところが本当は一番重要だったりするわけだからね。
ヨコタ:最初から強い人なんていないですからね。俺らも言ってもつまんないこと、たくさんやってますもん。下手と言われながらもみんなでスタジオ入って、頑張ってやってますよ。曲作りも“キュウソの曲作りってめちゃ楽しそう”とか言われるけど、楽しいだけのわけがない! めちゃくちゃ大変ですよ。最終的にみんなに見せた時に面白ければ良いんで、そんな苦労は見せる必要ないですけど。実はそこに至るまでが重要なんですよっていう曲です。
キュウソネコカミ 撮影=北岡一浩
――話を聞いてるといま、バンドの状態もすごく良いんじゃないですか?
ヤマサキ:すごく良いですね。キュウソって、日本でも数えるほど仲の良いバンドなんですよ。対バンもワンマンもほぼ全部、メンバー揃って打ち上げしてて、対バン相手に驚かれますから(笑)。ツアー中ずっと一緒におっても、ケンカすることもないですしね。
ヨコタ:そこで、いまって周りのスタッフさんとかも増えて、すごくありがたい状況ではあるんですけど、“また5人の考えで動けるように戻りたい”っていう気持ちにもなっていて。誰かの力を借りてやってたことを自分たちでやったり、昔みたいなやり方でやって行けたら良いなと思っていて。いまバンドに戻ってきてる感があるんです。
――バンドに戻る、素晴らしいです!
ヨコタ:だから、「越えていけ」も現状の曲ではなくて、これからの曲だと思っていて。
――なるほど。しかし、すごく強力な武器ができたと思いますよ。「わかってんだよ」は格闘ゲームでいうと、ゲージが溜まらなきゃ出せない超必殺技だけど、「越えていけ」や「The band」はコマンドは難しいけど、すぐ出せる必殺技ですしね(笑)。
ヤマサキ:まさにそうですね。「わかってんだよ」はシチュエーションや自分たちの気持ちもすごく大事だけど、「越えていけ」と「The band」はいつでも出せます(笑)。
ヨコタ:「越えていけ」を作った時、“もっとエモくしたい”っていうメンバーもいたんですけど、“セットリストの2曲目に入れられる曲にしたい”っていうテーマもあったので、“長くなりすぎない”とか、“重くなりすぎない”というのを意識したのを思い出しました。
ヤマサキ:どっちも早くやりたいッスね、「The band」は特にフェスでやりたいです。
ヨコタ:フェスで「越えていけ」が2曲目、「The band」で終わるセットとかやりたいね。
――そしたら、現在のキュウソってのがしっかり見せられると思いますよ。
ヤマサキ:あと、ワンマンは最強ッスよ! ぜひ見て欲しいです。真面目な曲をできて、面白い曲をできて、演出もできて、他のバンドにできないことを全部やりますから。
ヨコタ:いま、東京、大阪のホールワンマンが決まっていて。僕らにとってもチャレンジやし、それ以降のことを考える良い機会にもなると思うので。かなり楽しみにしてます。
ヤマサキ:これが売りきれなかったら、“俺らは必要ないんや”と思おうや(笑)。でも、来てくれた人は絶対満足させるんで、ぜひ遊びに来て下さい。

取材・文=フジジュン 撮影=北岡一浩
キュウソネコカミ 撮影=北岡一浩

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