横浜公演開幕! 劇団四季『ノートル
ダムの鐘』観劇レビュー「魂を揺さぶ
るミュージカル」

劇場内を荘厳なクワイヤ(聖歌隊)の讃美歌が包み、やがて観る者の心を突き動かす物語が始まる――。
2016年12月に四季劇場[秋]で日本初演の幕を開けたミュージカル『ノートルダムの鐘』が首都圏に帰ってきた。ここでは2018年4月8日(日)にKAAT 神奈川芸術劇場にて横浜公演の初日を迎えた本作について書いていきたい。
舞台は15世紀末のパリ。ノートルダム大聖堂の鐘突き塔に住むカジモドは、大助祭であるフロローを「ご主人さま」と呼び、外の世界を塔の上から眺めながら聖堂内の石像とのみ会話する日々を送っていた。
年に1度の”道化の祭り”の日、カジモドは石像たちにそそのかされ街に出て、美しいジプシーの踊り子・エスメラルダと出会う。エスメラルダに魅了されるカジモドと大聖堂警備隊長のフィーバス、そしてフロロー。さまざまな想いが交差し、事態は大きく動き始める――。
今からちょうど2年前、あざみ野の四季芸術センターで行われた本作の最終選考。カジモド、エスメラルダ、フィーバスのオーディションを取材し、製作発表では吉田智誉樹社長の「大人のシアターゴアーに向けた作品を創りたい」との熱のある言葉を聞いて、本作の上演が四季にとって新たな挑戦になるのだと改めて確信した。
そこから迎えた東京公演の開幕。劇場内を包んだ熱狂と観客の「……凄いものを見た」という興奮の表情を私は今でも忘れられない(もちろん、自分もその中のひとりであったワケだが)。誤解を恐れずに言えば、ミュージカルでここまで”演劇的”な表現ができるのかと、度肝を抜かれたのである。
劇団四季『ノートルダムの鐘』(c)Disney
その大きなファクターがアンサンブルの存在。12名の彼らはコロスとして状況説明のナレーションを群読し、人間役だけではなく壁や石像、扉なども演じる。アンサンブルの俳優たちが織りなす繊細なベースがあってこそ『ノートルダムの鐘』の演劇的表現が実現するのだ。
田中彰孝は、カジモドの純粋さやある種の幼さを前面に出しながら、エスメラルダに惹かれる気持ちやフロローに対して生まれた憎悪の念をストレートに見せる。
四季のレパートリー作品でもっとも難役のひとつであろうフロロー役の芝清道は、カジモドへの歪んだ愛情、神への信仰心、性愛のめざめと背徳感、大助祭としてのゆるぎないプライドといった複雑な感情を多面的に表現。単純な悪役ではなく、人間のもつ”業”を体現するキャラクターを見事に演じていた。
エスメラルダ役の岡本美南はカジモドを包む母性と、虐げられる存在として生きる女性の凄味を両立して魅せ、フィーバスを演じた清水大星も軽い二枚目の顔の裏に、戦場で仲間たちの死体を埋めた哀しみと絶望感とをしっかり醸し出す。
劇団四季『ノートルダムの鐘』(c)Disney
『ノートルダムの鐘』の魅力、それは先に書いた優れた演劇的表現だったり、メンケン&シュワルツの美しく壮大な音楽だったりもするのだが、私が1番惹かれるのは”人間”という存在をシビアに、そして愛情深く掘り下げて描いている点だ。カジモドもただ天使のような存在ではなく、他者を妬んだり憎んだりする気持ちも抱え生きており、映画版ではヒーローとして扱われていたフィーバスは、ミュージカル版では心に傷を負い、居場所を求めて生きる大人の男性として描かれている。
また「世界の頂上で」でこれ以上ないピュアな顔を見せるエスメラルダも、そのすぐあとの「酒場の歌」のシーンでは、生活のために男たちと踊る妖艶な姿をさらし、フロローに至っては”愛”と”憎”、”光”と”闇”とがあまりに複雑に混在し、その造詣が人間の奥深さをリアルに現していると感じる。そんな魂を抱えた4人が、年に1度の道化の祭りの日に出逢い、宿命を交差させていく様子に心を震わさずにはいられない。
観客はこの作品に劇場で触れるたび、100%の悪人も100%の善人もこの世にはいないのだと実感する……人間はいくつもの顔を持ち、さまざまな、時には矛盾する思いを抱えて生きる存在なのだと。
芸術やエンターテインメントは観る者が1000人いれば1000通りの受け取り方があって然るべきなので、本来この文言は使いたくないのだが、あえて最後にこう記したい。
『ノートルダムの鐘』は今を生きる私たちが体感すべき作品である――。
※文中のキャストは筆者観劇時のもの
取材・文=上村由紀子
(※2018年4月24日〈火〉深夜3時8分~TBSエンタメ紹介番組『アカデミーナイトG』に出演します!)

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