藤井隆が語る『酒と涙とジキルとハイ
ド』再演への思い~「出し惜しみをせ
ずに毎回全部出す」

2014年に、三谷幸喜が『ジキル博士とハイド氏』を題材に描いたコメディ『酒と涙とジキルとハイド』が、4月27日(金)から東京芸術劇場プレイハウスで再演される。19世紀末のロンドンを舞台にした本作は、人間を善と悪の二つの人格に分ける新薬を開発したジキル博士が、学会発表を前に新薬の失敗に気づき役者のビクターに別人格のハイドを演じさせるという、1幕ものの作品だ。出演は、ジキル博士役に片岡愛之助、ジキル博士の婚約者・イヴ役に優香、ビクター役に藤井隆、博士の助手プール役に迫田孝也と、初演時と同じキャスト。これまで、三谷のほか、宮本亜門、野田秀樹、鴻上尚史ら錚々たる演出家の作品に出演し、本作の初演時の演技でも高く評価された藤井隆が、本作の初演時を振り返るとともに、再演への意気込みを語った。
『酒と涙とジキルとハイド』(撮影:渡部孝弘)
「何も残らないものにしたい」はすごいお題
——大きな評判を呼んだ本作ですが、今、改めて初演時を振り返ってみて、どんなことが印象に残っていますか?
とにかく暑かったのと、ヒザが痛かったのと……(苦笑)。それと、声が枯れないようにと……。そればかり考えていた気がします。
——体力勝負の舞台ということなんですね。
そうですね。
——確かに、階段の上り下りもありますしね(笑)。初演時の稽古はいかがでしたか?
稽古初日に、三谷さんが「何も残らないものにしたいんです」っておっしゃって、その場ではみんなで笑っていたんですが、笑いながら、僕は「すごいお題だな」って感じてました。でも、実際に稽古が始まってみると、すごく楽しかったです。稽古場にはいっぱい楽器があって、ミュージシャンの高良久美子さんと青木タイセイさんがその場で音を出してくださるんです。そういうことは、あまり経験したことなくて……SEもあったし、音楽もあったし、それは不思議な感覚でしたね。
——では、4年ぶりに再演されることを聞いた時の率直なご感想を教えてください。
とても嬉しかったです。(初演は)大変だったし、きつかったんですよね。特に、優香さんは、初舞台で……それなのに、幕開きでいきなり一人で独白が何分間も続いて。もう、考えるだけでゾッとするし、僕だったら絶対嫌だって思う(笑)。でも、それを軽やかに、大奮闘なさっていた優香さんと、もう一度また稽古場からご一緒できるのは嬉しいなと思います。そして、飄々として、ヒューマニストで、すごく真っ直ぐに透き通るように接してくれる愛之助さんとまたご一緒できるのも嬉しいです。迫田さんも前回よりパワーアップなさってます。
藤井隆
——初演に続き、今回も、ビクター役を演じられますね。
初演時もちゃんとできたのか、できてないのか全然わかってないんです。稽古初日に三谷さんが言っていた「何も残らないものにしたい」ということがちゃんとできたのかなって。舞台は、お客さんの目の前で演じるものなので、「間違えてる、セリフ噛んでる」ということがあると、何にも残らなかったことにならないと思うんです。吉本新喜劇はお客様の反応で膨らませたりカットしたり楽日までの1週間でどんどん変化する舞台で間違いが先輩のおかげで好転する時もあるのですが、この作品は出来るだけ間違いたくないんです!(笑)。三谷さんから言われたわけでもない、勝手な思いですが。だから、毎回ベストを尽くしたい。でも、毎回ベストを尽くせば何か残っちゃうと思うんです。よかったね、とか。でも、それは三谷さんは求めてないから(笑)、何も残さないって難しいことだなって思いました。
——完璧を求められていたんですね、藤井さんは。
そんな事は無いです!(笑)。だからこそ、毎回完璧に出来たなんて思えなかったし、評価が高いと言って頂いても、少なくとも自分の手柄とは思ってないです。でも、今回、再演が決まって、初演時のDVDを観たら、何にも残らなかった(笑)。なんだこれって(笑)。三谷さん、すごいなって思いましたね。
『酒と涙とジキルとハイド』(撮影:渡部孝弘)
愛之助さんに「よっ!」って言いたくなります
——愛之助さんはSPICEのインタビューで藤井さんのことを「舞台に立っているだけで面白い人」と絶賛されていました。藤井さんから見て、愛之助さんはどんな方ですか?
本当に、(気持ちが)お顔に出てらっしゃる感じがします。嘘をつかない方だと思いました。
——初演で、一緒に舞台に立たれて、どんなことを感じました?
初演時に愛之助さんは映画を撮影されながら本番やってらっしゃったんですよ。「今日は、朝4時に起きて、6時から撮影してね」って。その後に舞台の本番をやっているんです。体力がとにかくすごい。それから、台本に、僕と「背格好が同じなんだよ」って言葉があるんですけど、全然違うんです(笑)。愛之助さんは、美しい競走馬みたい。立派な体をされているなと思いました。優香さんが本当に細いから、際立ちますよね。それと、いつも景気がいいんです!(笑)。いつも美味しいものを差し入れして下さって。気持ちの表現がせこくない。思わず「よっ!」って言いたくなります。
三谷さんからの「コメディアン」の言葉に救われた
——藤井さんは色々な演出家さんの現場を経験されていらっしゃいますが、三谷さんはどんな方ですか?
僕は、先輩後輩関わらず憧れる芸人さんがいまして、その方々と比べると恐れ多くて残念ながら自分の事を芸人です、と言い切れないところがあります。色んな種類の仕事をやらせて頂くと自分は何なんだろうって自問自答する事もあるんですが、以前三谷さんがエッセイで私の事を「コメディアン」と書いて下さった事があったんです。「芸人」と「コメディアン」のその違いを私はまだ本当のところはわからないですが「そっか」って、なんだか救っていただけた気がしました。そして、すごく紳士な方だと思いますね。決して、みんなの前でギャンギャン、ダメ出しすることもない。ここっていうところは、他の方に聞かせないように、セットの裏とかに自分が入っている時に、あそこはこうしてとか、(こそっと)言ってくれるんです。人とか物とか、稽古とか、作品とか、チケットとかに対して、すごく真摯に向き合われる方だと思います。
——そうですね、三谷さんは、とてもまっすぐに舞台に取り組まれている印象があります。
もちろん、厳しいところもあると思います。でも、良い意味で、三谷さんの稽古って楽しかったことしか覚えてないんですよね。三谷さんの頭の中にある、ジキルとハイドにどこまで沿えているかわからないので、絶対にずれている瞬間があったはずですが、それを戻してくださるやり方がジェントルマンなので、結局、楽しかったなっていう成功体験しかない。三谷さんからは、出し惜しみしないで毎回全部出すっていうことを教えていただいたので、それさえ守れば、絶対に楽しかったなって思えるっていう確信があります。
——では、最後に公演への意気込みと、お客様へのメッセージを。
僕はこの作品は優香さんの魅力に溢れている舞台だと思います。もちろん、愛之助さんも迫田さんも素晴らしいんですが、優香さんが本当にチャーミングなんですよね。のびのびと楽しくて美しい優香さんを劇場でご覧いただきたいです。お待ちしてます。
取材・文・写真=嶋田真己

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