(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
1.『娼年』
東京芸術劇場に当日券を求めて数日通ったが観られなくて涙を飲んだ舞台『娼年』。2年を経て、同じ主演と監督のタッグで映画化と聞いて胸が弾んだ。 ちょっと観たことのない、規格外の映画だった。
まさか、爆笑させられるなんて思ってなかったし、うっかり気を抜いて涙を流した自分に驚いた。
気づいたら、心を剥き身にされていて、1人で観に行ってよかったと思った。 そして同時に、公開初日満席の映画館で人の温度を大いに感じながら観られたこともよかったと思った。
東京の名門大学に通う森中領は、日々の生活や女性との関係に退屈し、バーでのバイトに明け暮れる無気力な生活を送っていた。ある日、バーに現れた美しい女性、御堂静香。「女なんてつまんないよ」という領に静香は"情熱の試験"を受けさせる。それは、静香が手がける会員制ボーイズクラブ、「Le Club Passion」に入るための試験であった。翌日から娼夫・リョウとして仕事を始めた領は、娼夫として仕事をしていくなかで、女性ひとりひとりの中に隠されている欲望の不思議さや奥深さに気づき、心惹かれ、やりがいを見つけていく。
1人2人と女性と交わっていく中で、リョウの目の色に温度が宿っていくさまがとても綺麗だったし、女の人がすべからく美しくて可愛くて、息を飲んだ。
性表現ではない、人間同士に芽生える繊細な欲望を目の当たりにした。
ホテルを後にして歩く道すがら、他愛もない話を笑いながらしている女性の可愛らしさ、人には簡単に言えない自分の欲望の形を打ち明ける女性の大胆さ。
深く複雑で、時に一直線な女性たち。その魅力を礼賛するような映画だと思った。
濡れ場の連続だけど、どれもがぜんぜん違う何かを秘めている。
女性はみんな、ただ快楽に喘いでいるのではなく、何かを、あるいは誰かを思って泣いているように見えたし、実際に泣いている人もいた。 悲しくて、嬉しくて、切なくて。いろんな涙がそこにはあって、濡れ場と言う言葉の意味すら考えさせられたような気がした。
欲望はだいたい、その人の弱いところや傷ついたところに潜んでいる、といった内容のセリフが、とても響く。
傷つきながら、何かに手を伸ばし求めて生きていく。女も、そしてきっと男も。
 
 
▼Information
『娼年』
TOHOシネマズ新宿他全国公開中
原作:石田衣良
脚本・監督:三浦大輔
出演:松坂桃李、真飛聖、冨手麻妙、猪塚健太、桜井ユキ、小柳友、馬渕英里何、荻野友里、佐々木心音、大谷麻衣、階戸瑠李、西岡德馬、江波杏子
配給:ファントム・フィルム
 
PHOTO : Mary Cybulski  (c) 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
2.『ワンダーストラック』
 “永遠に残る愛の名作”と賞賛された『キャロル』から2年、トッド・ヘインズ監督が挑んだ新作は、ブライアン・セルズニック原作のニューヨークタイムズ・ベストセラー小説『ヒューゴと不思議な発明』の映画化だった。
居場所を失くした子どもたちが勇気を出して踏み出す、人生という名のワンダーランド。その道のりがデビッド・ボウイの名曲にのせて奏でられる。
1977年、ミネソタ。母親を交通事故で失った少年ベン。父親とは一度も会ったことがなく、なぜか母は父のことを語ろうとしなかった。ある嵐の夜、母の遺品の中から父の手掛かりを見つけたベンは、落雷にあって耳が聞こえなくなりながらも、父を探すためひとりニューヨークへと向かう。
1927年、ニュージャージー。生まれた時から耳が聞こえない少女ローズは、母親のいない家庭で厳格な父親に育てられる。憧れの女優リリアンの記事を集めることで寂しさを癒していたローズは、リリアンに会うためひとりニューヨークへと旅立つ。そして、ある大停電の夜、何かが起ころうとしていた──。
『ピートと秘密の友達』の主演で、天才子役の称号を手にしたオークス・フェグリーがベンを、自身も耳か聞こえず「聾であることは誇り」と自己紹介したオーディションテープが監督の心を撃ったミリセント・シモンズがローズを演じた。愛する人も居場所も失くした少年と少女が、初めてぶつかる人生の壁を自分のやり方で懸命に乗り越えていく姿には胸がいっぱいになった。
50年の時を隔ててマンハッタンを駆け回る子どもたち。
別の時代を生きながら、ともに新たな一歩を踏み出したふたりが、謎の絆に引き寄せられていく。過去から今へつながる時の流れ。
その小さく偉大な冒険者たちに誘われるように、私たちは20年代と70年代にタイムスリップする。
そして、その旅は、かつて子どもであった大人たちの、今もなお、迷い傷つきながら生きる私たち大人たちの心にも、生きることの素晴らしさときらめきを伝えていた。
 
▼Information
『ワンダーストラック』
角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷他全国公開中
脚本・原作:ブライアン・セルズニック
監督:トッド・ヘインズ
出演:オークス・フェグリー、ジュリアン・ムーア、ミシェル・ウィリアムズ、ミリセント・シモンズ
配給:KADOKAWA
 
2017 (c) INFORG - M&M FILM
3.『心と体と』
夢の中では寄り添っていられるのに、現実ではうまくいかない。
だからこそ、今夜も"夢で会いましょう"。
足りないものを、満ちない部分を抱えたもの同士の静かな恋愛は、夢から始まった。二人は “鹿”で、連れ立って森を歩き、大地の声を聞いている。小川の水を飲もうとして、互いの鼻と鼻が触れ合うとき、世界はがらりと変わる。
舞台は、ハンガリー、ブダペスト郊外の食肉処理場。代理職員として働くマーリアは、周りに馴染めずいつも緊張していた。片手が不自由な上司のエンドレがそんな彼女を気に掛けるが、うまく噛み合わない。そんな折、社内で起きたある事件をきっかけに2人は"同じ夢"を見ていたことを知る。不器用で孤独な2人は少しずつ近づき、すれ違い、向き合い、そして、重なり合っていく。
それこそ夢のように儚い透明感と独特の磁場を持つヒロイン、マーリアの繊細さもさることながら、彼女が恋する上司エンドレのリアリティもすごい。もどかしさを体現する2人が素晴らしかった。
人間はつまるところ、みんな孤独だ。
そして、そのことは哀れむことではなくて、むしろ、孤独の先にしか見えない景色がある。
他人の優しさに触れ、ぬくもりを感じること、そして、それらを愛おしむこと自体がそうなのかもしれない。
まるで笑わない静かな2人が最後にふと互いに見せた笑顔。
その瞬間に、孤独が完結した気がした。あたためられてきた孤独がはじけ、別の景色が開いた。そんな瞬間だった。
時としてバラバラに動いていても、心と体はひとつでいつも呼応している。
例えば、誰かを求め、触れたいと思う時と、まさに今から触れようとする時。
その間には、心のうねりという川が流れていて、体はその川の流れに身を任せているような。そんな具合に。
人と人とが深く心を通わすことはとても素晴らしいことで、同時に、すごく難しく時間がかかって然るべきことなのだろう。
そして、だから素晴らしいのだと、無口なラブストーリーは教えてくれた。
▼Information
『心と体と』
4月14日(土)より新宿シネマカリテ、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開
監督・脚本:イルディコー・エニェディ
出演:アレクサンドラ・ボルベーイ、ゲーザ・モルチャーニ、レーカ・テンキ、エルヴィン・ナジ
配給:サンリス
 
(c)2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathe Production,corazon international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH
4.『女は二度決断する』
一瞬にして、砕かれ奪われた愛、永遠に続く悲しみ。
妻でも母親でもある自分として、この映画を見届けるのはなかなかきつかった。
でも、同時に見届けなければならないと強く思った。
ずっと緊張しながら、時にやるせなさで震えながら、スクリーンを追っていた。
二度目の“決断”が下されるラストまでずっと。
ドイツ、ハンブルク。カティヤはトルコからの移民であるヌーリと結婚し、幸せな家庭を築いていた。ある日、白昼に爆弾が爆発し、ヌーリと愛息ロッコが 犠牲になる。トルコ人同士の抗争を警察は疑うが、人種差別主義者のドイツ人によるテロであることが判明する。しかし、裁判は思うように進まない。突然愛する家族を奪われたカティヤ。憎悪と絶望の中、カティヤの魂はどこへ向かうのか――。
監督は30代で世界三大映画祭の主要賞を受賞し、本作でゴールデングローブ賞外国語映画賞受賞と快進撃を続ける名匠ファティ・アキン。主演のカティヤを演じたのは、ハリウッド超大作やヨーロッパ作品にも多数出演する国際女優ダイアン・クルーガー。初めて母国ドイツでドイツ語の演技に挑戦した野心作でもあった。
妻として、母親として、そして女性として。その、強さと弱さを痛々しいまでに見せる目の色、震えがそのまま伝わってきそうな表情や仕草が圧巻だった。
「ドイツで実際に起こった連続テロ事件に着想を得て生まれた」 エンドロールとパンフレットにあったその事実にまた一度深く考えさせられる。
正義って何なんだろうか。痛切な叫びが身体中に広がる。
納得のいくように裁かれない社会を前に、自分だったら、絶望の中どんな“決断”を下しただろうか。観終わった後、しばらくずっとそのことを考えていた。
決して、後味のいい映画ではない。
そして、この作品はそうあるべきものなのだと感じた。
人の心を突き刺し、動かすものすごい力を持っている、確実に見るべき映画。
▼Information
『女は二度決断する』
4月14日、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
監督:ファティ・アキン
出演:ダイアン・クルーガー、デニス・モシット、ヨハネス・クリシュ、ヌーマン・アチャル、ウルリッヒ・トゥクール
配給:ビターズ・エンド
 
(c)2018「いぬやしき」製作委員会 ©奥浩哉/講談社 (c)奥浩哉/講談社
5.『いぬやしき』
国内外問わずカルト的人気を誇り、多くの作品に影響を与えたSFアクション漫画「GANTZ」。その原作者である奥浩哉がリアルな日常と現実には有り得ない非日常が交錯する新たな世界観で描いた漫画「いぬやしき」。
今年7月に惜しまれつつも堂々の完結をした大ヒットコミックが大作アクション映画として、新たに生まれた。
—最強のジジイ、現る。
定年を間近に迎える冴えないサラリーマン・犬屋敷壱郎は会社や家庭から疎外された日々を送っていたが、ある日突然、医者から末期ガンによる余命宣告を受け、深い虚無感に襲われる。
その晩、謎の事故に巻き込まれ機械の体に生まれ変わった彼は、人間を遥かに超越する力を手に入れることに。一方、同じ事故に遭遇した高校生・獅子神皓は、手に入れた力を己の思うがままに行使し始めていた。自分の意志に背く人々をただただ傷付けていく獅子神と、獅子神によって傷付けられた人々を救い続ける犬屋敷。人間の本質はいかに?
思いもよらぬ強力な力を手に入れ、人間を超越した人間になった2人。
持っている力を、善と悪、どちらに行使するのか。
“思いもよらぬ強力な力”。その力自体が、「人間」そのもののメタファーな気がした。特別に選ばれた2人がいま、それぞれの想いで動き出す——。
“最強のジジイ”犬屋敷を演じるのは、16年ぶりの映画主演となる木梨憲武。笑いを封印したシリアスな演技だけでなく見事なワイヤーアクションも披露。一方、獅子神に扮するのは、初の悪役となる佐藤健。絶対的な力を持つ冷酷なアンチヒーローを、その身体能力を以て涼しい顔で演じきった。
役者陣の強演もさることながら、まだまだ、衝撃は増すばかり。 生の映像とCGの融合、最新VFXによって表現される斬新な攻防シーンは、リアルで音速のバーチャル体験そのもの。
善と悪を五感で体感する、新たなアクション映画だった。
▼Information
『いぬやしき』
4月20日(金)全国東宝系にてロードショー
原作:奥 浩哉
監督:佐藤信介
脚本:橋本裕志
出演:木梨憲武、佐藤健、本郷奏多、二階堂ふみ、三吉彩花、 濱田マリ斉藤由貴、伊勢谷友介
音楽:やまだ豊
 
Text/Miiki Sugita
出典:She magazine

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