“未来の子どもたちへ”受け継がれる
音と意志――野外に場を移した第2回
『Rocks ForChile』に密着

Rocks ForChile 2018 2018.4.7 服部緑地野外音楽堂
4月7日、大阪・服部緑地野外音楽堂にて『Rocks ForChile 2018』が開催された。タイトルの“ForChile”とは「未来の子どもたちへ」の意。主催の面々も出演アーティストも、僕もあなたも、みんなかつてロックキッズであったわけだが(現在進行形の方も含む)、そんな子供たちにロックの、音楽の素晴らしさを体感してもらうと同時に、親や家族にも一緒に楽しんでもらおうという企画だ。さらに収益の一部が国際NGO・セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンを通して子供の権利を守る活動に充てられたり、児童養護施設の子どもたちに寄付されたりと、子どもたちと音楽の出会いやそれを可能とする環境づくりに対して、多角的にアプローチしているイベントでもある。
撮影=KAZUKI WATANABE
撮影=KAZUKI WATANABE
この『Rocks ForChile』が開催されるのは昨年に引き続き2度目、僕は2年連続で足を運ぶ機会に恵まれた。前日は結構な嵐となった関西圏だが、当日の朝は気温こそ低いものの薄曇りといった状況で、まずは一安心。会場となる服部緑地野外音楽堂は、周囲を緑に囲まれ、ステージを半円状に取り囲む客席が後方にいくにつれ高さを増していく造りとなっており、関東圏の読者の方には日比谷野音を一回り小さくした感じ、と言えばわかりやすいだろうか。最後方付近は芝生エリアとなっていて、そこにフードエリアやグッズ売り場、ワークショップ、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのブースなどが立ち並ぶ。
DJダイノジ 撮影=KAZUKI WATANABE
開場時間になると、まずはDJダイノジによる参加型のDJセットがスタート。新旧J-POP、J-ROCK、洋楽などを次々に繰り出せば、観客たちのテンションは早くも急角度の上昇カーブを描く。半ば強制的と言っていいくらいの吸引力で、心身ともにハイにさせてしまう彼らの流儀はやはり流石だ。終盤、「シュガーソングとビターステップ」(UNISON SQUARE GARDEN)のプレイ中には大地洋輔が客席に乱入。最後方でエアギターを炸裂させ、付近にいた子どもを抱きかかえるファンサービスに沸いた(泣かれたが)。「オー・シャンゼリゼ」のシンガロングで彼らがその出番を終える頃には来場者の数も目に見えて増え、開演の刻を迎える。
DJダイノジ 撮影=KAZUKI WATANABE
Bottom Line 撮影=KAZUKI WATANABE
まず最初にオープニング・アクトとしてステージに登場したのは、地元・大阪府立桜塚高等学校の男女混成高校生バンド・Bottom Line。Zepp Nambaで開催された『高校生バンドフェス 2018』でグランプリを獲得したという彼らは、制服姿の初々しさからはちょっと意外にも思えるほど重心低めでしっかりとしたアンサンブルと、透明感のある歌声、スティーヴィー・レイ・ヴォーンが好きだというなんとも渋めの嗜好が活きたギタープレイで、一曲のみとはいえ、堂々としたステージングを展開していた。
撮影=KAZUKI WATANABE
撮影=KAZUKI WATANABE
開場後方ではキッズによるライブ・ペインティングがスタート。その傍らで缶ビール片手にのんびりスタンバイしていると、ふわふわとシャボン玉が飛んできた。ふとあたりを見渡すと、駄菓子屋があったり、Epiphoneのギターをはじめとした楽器の体験ブース(大人の熱い視線も集めていた)があったりして、いつの間にか芝生エリアは家族連れの参加者で大賑わい。地域のバザーや縁日、ピクニックみたいな長閑な雰囲気が漂っている。これ、ライブハウスでの開催だった昨年にはなかった光景で、子連れで参加しやすく低年齢の子どもでも楽しめるという点で、野外に会場を移したことは大いに功を奏しているようだ。また、ライブ間の転換時に組み込まれている、子どもたちによるダンスパフォーマンスやエクストリームスポーツのパフォーマンスなども、コンパクトな野外会場になったことで、ご飯を食べたり買い物をしながら観られるのでとてもいい。
撮影=KAZUKI WATANABE
Omoinotake 撮影=KAZUKI WATANABE
いよいよ本編がスタート。ファミリー層が多く集うアウトドア、そういう環境下で聴くOmoinotakeの奏でる音――つまりソウル、ジャズ、R&B、ディスコなど肌触りの柔らかなタイプの音楽を下敷きにした80’ sポップス風サウンドが、また格別であった。「Ride on」から始まったライブは、全編にわたってフィーチャーされたサックスの音色が、藤井怜央(Vo/Key)の高音まで伸びやかなボーカルとグルーヴィな演奏と絡み合い、来場者の耳目をしっかりと惹きつけている様子だ。僕も何度か観ているバンドだが、そのたびに目に見えて進化をしており、この日出会って要注目の存在になったという人も多かったのではなかろうか。「今日は子どもから大人まで、音楽の楽しさをみんなで体感しましょう!」と、朗らかな調子の“開会宣言”も清々しかった。
Omoinotake 撮影=KAZUKI WATANABE
LEGO BIG MORL 撮影=KAZUKI WATANABE
ギター、ベース、ドラムという基本編成で、ロックバンドの醍醐味を伝えてくれたのは、LEGO BIG MORLだ。「end-end」の爽やかなサウンドと歌声から始まり、ファンキーな味付けの「テキーラ・グッバイ」、生命をテーマに重厚なアプローチをみせる「Spark in the end」、名バラード「あなたがいればいいのに」など、多彩な楽曲群を当たり前のようにサラッと演奏できるテクニシャンぶりはもちろんのこと、特に目を引いたのは実に楽しそうに音を鳴らしていたこと。
LEGO BIG MORL 撮影=KAZUKI WATANABE
「学校では学べない場所なんですよねえ」(カナタ)
「どうした、急に?」(タナカ)
「ロックというものの英才教育、今日はそんな場になります!」(カナタ)
というレゴらしいやりとりのMCもあったが、彼らは「ロックを鳴らすのは楽しいぞ」というメッセージを自身の姿を以って体現していたように思う。タナカがステージの縁に腰掛けたり寝っ転がったり、来場者を広範囲に巻き込むコール&レスポンスが起きた「RAINBOW」はその最たるもの。普段のライブに比べて明らかに子どもたちの多い環境下において、ひょっとしたら音そのもの以上の説得力を持つであろう「ロックバンドが楽しんでいる姿」、こちらも存分に楽しませてもらった。
LEGO BIG MORL 撮影=KAZUKI WATANABE
D.W.ニコルズ 撮影=KAZUKI WATANABE
「楽しさ」という点で言えば、続くD.W.ニコルズもその究極系のようなバンドである。アコギやバンジョーを駆使したカントリーテイストの楽曲に男女混声のハーモニー、千葉真奈美(Ba)に代表される表情豊かで笑顔いっぱいのプレイング。さらに、対象年齢のレンジが異様に広いトークスキルで片っ端から笑いを誘う、わたなべだいすけ(Vo/Gt)の濃いめのキャラ。おまけに「アドベンチャー」「フランスパンのうた」など、楽曲そのものにもファン参加型の仕掛けが随所に用意されており、あっという間に場内を掌握してみせた。
D.W.ニコルズ 撮影=KAZUKI WATANABE
「スマイル」の演奏前には、音楽が人を笑顔にする力、それが好きで音楽をやっている。その上で、どんな曲をみんなと歌いたいかな?と思って曲を書いている――とわたなべは語っていたが、ライブ全体が、いや、彼らの存在自体がまさにその言葉通り。笑顔を原動力にまた笑顔を生む、そんな素敵なサイクルが会場全体を包んでいくライブだった。
D.W.ニコルズ 撮影=KAZUKI WATANABE
林青空 撮影=KAZUKI WATANABE
昼下がりの時間帯には弾き語りのライブが2つ続いた。まずは地元・大阪出身/在住の林青空。話し声や振る舞いはとても可愛らしい彼女だが、ひとたび歌い出せばその情感豊かなボーカルに舌をまく。女性ならではの恋心を一人称で語りかけるかのように歌に乗せた「白いワンピースを着て」、自分の嫌なところや「あーっ」てモヤモヤする部分から目をそらさずにいよう、という思いを込めたという「だけど私 そんな私」、普遍的なメッセージを込めた「光」など、アコギと歌のみでしっかりと自身の音世界や感情、等身大の姿を表現するライブで全4曲。真摯な姿勢とシンガーとしての実力を観る者の脳裏にしっかりと焼き付けていった。
林青空 撮影=KAZUKI WATANABE
ホリエアツシ 撮影=KAZUKI WATANABE
2組目の弾き語り、ホリエアツシは、近年ソロ弾き語りでのライブやフェスへの出演も増えているだけあって、歌もトークも、さらにはライブの進め方も納得の完成度だった。例えば、entの「Forever and Ever」、ストレイテナー「彩雲」と自らの曲を続けた後、この時期にちなんで自身のレパートリーから桜ソングを探したけど無かったから森山直太朗の曲をカバーする、と宣言、誰もがあの曲を連想したところで、まさかの「どこもかしこも駐車場」を歌ったり。……いや、この曲も隠れた名曲なんですけども。
ホリエアツシ 撮影=KAZUKI WATANABE
そうして基本的にゆるやかな空気とテンションで進行していく中で、子供たちへ届けたいメッセージとして歌われた「NO ~命の跡に咲いた花~」も素晴らしかった。決して明確なプロテストソングというわけではないが、平和を守ろうとする決意とこの先の平和を願う想いが確かに込められた曲、きっと未来への種として根付いたのではないだろうか。最後はエアロスミス「I Don’ t Want To Miss A Thing」という意表をつく選曲でスティーヴン・タイラーばりの熱唱。「なぜ最後にこの曲なんだ」とセルフツッコミを残し、ステージを後にした。
ホリエアツシ 撮影=KAZUKI WATANABE
藤巻亮太 撮影=KAZUKI WATANABE
夕刻に近づくにつれ、会場には時折雨がちらつくようになり、気温もグッと下がった。野外のイベントゆえに仕方がないことではあるのだが、そんなベストとは言えない環境下でステージに上がった藤巻亮太は、奇跡的な瞬間を導いた。手始めに「(時期的に)ちょっとだけ遅かったなぁ」と「Sakura」を披露した後は、「粉雪」などレミオロメンの楽曲と、「日日是好日」「花になれたら」などソロ曲を織り交ぜた構成に。途中雨足が強まったことから運営側の判断で急遽、ステージの斜め後方の座席(見切れ位置)が解放されたのだが、そこから観覧する子連れのファンに向けて時折後ろを振り返りながらパフォーマンスする姿からは、彼の人柄と哲学がうかがえる。
THE COLLECTORS 撮影=KAZUKI WATANABE
そして、6曲目に演奏された「雨上がり」。なんとちょうどこの曲中、<雨のち晴れ模様/僕らは見えるかな 虹の架かる空を>の歌詞そのままに、雨が上がり虹がかかったではないか! これにはファンはもちろん、本人もテンションが上がらないわけがなく、歌声や仕草に滲む興奮にこちらも余計にグッときてしまう。見切れ席から駆けだすように戻るオーディエンスたちに向け、「雨上がったぞー!! ……ちょっと泣きそうになった」と誇らしげに笑った藤巻は、最後に名曲中の名曲「3月9日」をじっくりと届けてくれた。
藤巻亮太 撮影=KAZUKI WATANABE
THE COLLECTORS 撮影=KAZUKI WATANABE
トリ前を飾るTHE COLLECTORS。ロックの素晴らしさ、特にシンプルかつ問答無用のカッコよさを次世代に伝えるという点で、彼らが登場したことはとても意義深かったように思う。コレクターズ自体が30年を越すキャリアの持ち主であるだけでなく、その音楽性やファッションは60’ sのモッズ・ムーヴメントを今に伝えるもの。ちょっとした生き字引的な側面もあるのだが、何よりそれ以上に音もステージングも何もかもが現在進行形でかっこいい。登場するや暫しジャムセッションを行い、加藤ひさし(Vo)が「レッツゴー!!」と吠えたところで、「TOUGH」からスタート。
THE COLLECTORS 撮影=KAZUKI WATANABE
会場が某M友学園の所在地から近いことに触れ、「こんなHOTなところでライブできるなんて最高じゃない」(加藤)などとブラックな発言でも沸かせつつ、「MILLION CROSSROADS ROCK」「NICK! NICK! NICK!」など、3分ほどの潔いビートパンク/ロックンロールを次々に畳み掛けていく。大股を広げながら鋭いカッティングを繰り出す古市コータローのギターヒーローぶりには、観客だけでなくステージ袖の後輩たちからも熱い視線が注がれていたのは言うまでもない。「20年前、大阪でだけヒットしたナンバー、やります」なんて言いながら代表曲「世界を止めて」で締めるあたりも、なんともニクいじゃないか。
THE COLLECTORS 撮影=KAZUKI WATANABE
GLIM SPANKY 撮影=KAZUKI WATANABE
暮れ行く服部緑地、コレクターズから世代を超えたロック魂の継承、そして武道館アーティストのリレーとも言える流れで、この日最後にステージに上がったのはGLIM SPANKYだ。リハから「寒いっすよね」と亀本寛貴(Gt)が観客を気遣っていたように、陽が落ち気温は下がり再び雨も落ちてきていたが、何のその。その演奏はクールな熱を帯びた堂々たるものだ。怪しく光る照明の中で「愚か者たち」からスタートさせ、グリム流のダーティな4つ打ちロック「いざメキシコへ」や松尾レミ(Vo/Gt)の独唱からどっしりとしたグルーヴでディープな音世界へ誘う「闇に目を凝らせば」など、彼らのアイデンティティを明示するような楽曲を並べる一方で、会場に集まった子供たちにとっておそらく一番聞き覚えのあるであろう「怒りをくれよ」(映画『ONE PIECE FILM GOLD主題歌』)もちゃんと用意されており、狂喜するキッズも見られた。
GLIM SPANKY 撮影=KAZUKI WATANABE
また、子供たちの未来にできることとして、優れたミュージシャンやその楽曲を次代に伝えていく責務があるのだ、と語って「I Feel The Earth Move」(キャロル・キングのカバー)を披露する一幕もあったように、常日頃から彼らが意識しているロックの名曲やその魂を継承することは、『Rocks ForChile』の精神とも共鳴している。もっと言えば、出演陣の中では決してキャリアの長くないグリムがトリの大役を任されたことの意義といってもいえるのではないだろうか。
GLIM SPANKY 撮影=KAZUKI WATANABE
夕闇の中で聴く「美しい棘」の格別な調べ、そして“流されるな”、“尖ることを恐れるな”、“孤高であれ”という檄を、子供たちだけでなく日々を生きる全ての聴衆へ送る「アイスタンドアローン」でフィニッシュ。その音と存在感、楽曲に込めたメッセージで、『Rocks ForChile』の歴史にしっかりと足跡を遺すステージだった。
GLIM SPANKY 撮影=KAZUKI WATANABE
ロックに魅了されたまま大人になった人々と、その子どもたちの世代。そのどちらもが楽しめる出演陣が集い、休日を楽しく過ごすことができるイベントとしての『Rocks ForChile』は、今年である程度、理想形/完成形のビジョンが見えたと思う。MCの野村雅夫の言葉にもあったが、この日のライブを観て記憶の奥底に刻んだ子どもや、収益から寄贈される楽器によって音楽と出会う子どもが10年後20年後にロックの未来を担うようになり、今度はステージ上に戻ってくる。ロックに魅了されたまま大人になった僕としては、そんな未来を夢想したくなるし、そのためにも本イベントがこの先も良質な音楽とともに回を重ね、多くの人と出会っていくことを願わずにはいられない。

取材・文=風間大洋 撮影=KAZUKI WATANABE

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