amazarashiとAimerが凍える夜を越え
アジアを席巻

2018年3月3日から約1ヶ月間、amazarashiとAimer(エメ)がアジアツアーを敢行した。共に海外での公演経験はあるものの、本格的なツアーは初の試み。だが、国内のみならず国外からも熱い視線を注がれている両者が対バンするとあってチケットは上海、台北、シンガポールの全会場でソールドアウト。東京での凱旋公演も平日にもかかわらずソールドアウトとなった。本記事では4月5日に東京・豊洲PITにて行われた最終公演の模様をレポートする。

Text_Hiroyuki Ozawa

amazarashiのラブソング

鬼気迫るような緊迫感に圧倒される『ワードプロセッサー』でライブは始まった。 amazarashiの代名詞と言っていいポエトリーリーディングだ。舞台前面に張られた半透明のスクリーンには歌詞を用いたタイポグラフィーが躍る。そして「アジアツアー2018。東京・豊洲PIT。青森から来ました。amazarashiです!」という秋田ひろむ(Vo, G)の短くも力強い一声のあと、『フィロソフィー』と『季節は次々死んでいく』を披露。

この3曲を終えた時点で、秋田ひろむはMCというよりもポエトリーリーディングという表現が相応しい、感情の昂ぶりを宿らせた言葉を次々と撃ち放つ。

持ち時間は60分。距離にして580キロメートル、時間にしたら11年分、費やす言葉は7,300文字。このライブが終わる頃、願わくば皆さんの胸に、不安や、迷いや、失望を穿つこの言葉たちの破片が突き刺さっていますように。 死にたい夜を越えてきました。amazarashiです!

この直後に歌われた『僕が死のうと思ったのは』に一体何人のファンが胸を熱くしただろう?
『悲しみ一つも残さないで』『水槽』『空洞空洞』と、昨年12月発売の最新アルバム『地方都市のメメント・モリ』の収録曲が続いたあとに披露された『ラブソング』は狂おしいほどにエモーショナルで、圧巻のパフォーマンスだった。
ライブでは決して定番とはいえない『ラブソング』が新曲の特に多かった今回のセットリストのなかで披露されたのは、Aimerに対し、amazarashiなりに呼びかけを行なうためだった気がしている。「Aimer」は「愛する」(=love)を意味するフランス語の動詞「aimer」と同綴りであることから、「ラブソング」の「ラブlove」と響き合うのだ。
後で触れるように、今回のライブではamazarashiとAimerがそれぞれ双方に歌で呼びかけているようなシーンが何度か見られた。『ラブソング』はその最初の呼び交わしだったように思う。
そして秋田ひろむのとめどない情動がほとばしる『美しき思い出』の最後、彼はあたかもスクリーンに投影された古い写真の数々を撃ち抜くようにして、“忘れたいこと、忘れたいこと、忘れたいこと、忘れたいこと”と、幾度も幾度も、激怒したように、あるいはもはや祈るように、言葉の弾丸を発砲しつづけた。筆者はそれを聴きながら自分の身体が輪郭を失い、熱そのものみたいになるのを感じた。
秋田ひろむの言葉の弾丸にのぼせた状態のまま、彼が一語一語を探すように訥々(とつとつ)と語りかけてくるMCに耳をすませる。

いい…夜も、悪い夜も、色々な夜を越えて…今の…わいたちがあると、思います。(…) 今日までの…わいたちが…越えてきた…色んな…綺麗な夜や、苦しい夜…あと2曲、全部ぶつけて、僕らの出番は終わろうと思います。

「そこで死んでもいい」と秋田ひろむの歌う声がまるで泣き叫ぶみたいに聞こえた『命にふさわしい』。スクリーンの上を疾走する銀河鉄道に導かれるように歌い切った『スターライト』。この最後の一曲の文字通りの余韻がまだホールにこだましている中、やはりMCというよりはポエトリーリーディングに近い言葉の弾丸を秋田ひろむは撃ち鳴らす。

後ろ向き、逃げたがり、死にたがり、不満抱えて、不安抱えて、やむにやまれず逃げ込んだこの夜の向こうに答えはあるのか。 持ち時間は60分。距離にして580キロメートル、時間にしたら11年分、費した言葉は7,300文字。死にたい夜を越えて、今ここに立っています。

「持ち時間は60分。距離にして580キロメートル、時間にしたら11年分、費やす(費した)言葉は7,300文字」という印象的なフレーズを終わりと始まりに配して一つの円環を作るライブ構成は鮮やかという他ない。
もちろんamazarashiのライブだけで全ての円環が閉じられたわけではない。一個の円として完結していた彼らのライブはAimerというもう一つの円と呼応し、その両方が響き合うことで、今日のライブは本当の完成を迎えるのだ。

Aimerの雨

Aimerは圧倒的な歌唱力で『insane dream』『Brave Shine』『holLow wORlD』の3曲を立て続けに披露。続くMCで「深く沈みこんでいける大好きな1曲」として挙げた『花の唄』では、恐ろしいほどの迫力で深く冷たい哀しみを歌いつつ、かぼそい糸のようにふるえるその声を闇に溶けこませたりもした。

“響くため”に“サイレンス”(=沈黙)を選択すると誓う『ninelie』、“傷つくのが運命(さだめ)だとしても”、“願いの破片”を誰かに届けようとする『LAST STARDUST』。切実な感情の一つひとつが、抑揚とビブラートとで彩られたAimerのかけがえのない歌声に乗せられ、解放されてゆく。
この次に披露された曲が先月3月29日までフジテレビ「ノイタミナ」他各局で放送されていたTVアニメ『恋は雨上がりのように』のエンディング・テーマ『Ref:rain』だ。うち捨てられた希望のように哀しいこの曲をAimerは直前のMCでこう紹介した。

雨をテーマに作った曲で、くり返す季節の中で、戻らない瞬間をくり返す。そんな気持ちを書きました。

amazarashi=雨曝しとのライブでこの歌が披露されたことを「偶然」の一言で片づけたくはない。Aimerとamazarashiは両者とも「星」を大事なモチーフとして歌に織りこむなど、その歌詞には共通点がいくつかある。もともとあったこうした共通点が今回のライブで浮き彫りになったため、Aimerはそれをamazarashiとの呼び交わしに見事に利用してみせたのではないだろうか。
(Aimer『Ref:rain』MV)

この時点までは哀しく切ない楽曲が中心だったが、ファンの手拍子に合わせて歌った『カタオモイ』でホールの雰囲気は一変。さらに『ONE』ではファンが頭上で両手をクラップする(打ち鳴らす)のに合わせ、陽気に、そしてリズミカルに声を弾ませ、会場を盛りあげた。
ステージの上を小走りし、ジャンプし、「後ろのほうも見えてます!」とファンに手を振って呼びかけ、最後はくるくる回って真っ白なワンピースの裾をふわりと浮かせ、「ありがとうございます!」。「キュート」という言葉はひょっとしたら彼女のために作られたのかもしれない。キュートの化身。ホールはもちろん大喝采だ。

ありがとうございます。私は、音楽が好きです。音楽を作ることが好きで、そして歌うことが好きです。(…) この先も、この声が出る限り、歌いつづけていきたいです。そして、音楽を通して、皆さんと少しでも一緒に生きていけたらうれしいです。

この日最後の曲となったのが、“凍えそうな雨に また泣きそうな夢”を歌った『Stars in the rain』。『スターライト』で最後を締めくくったamazarashiに呼応するように、Aimerは“Stars in the rain雨のなかの星”でこの日のライブを終えたのである。
アジアツアー最終公演ということもあってか、豊洲PITには中国語で会話をする人たちの姿も見られた。いよいよグローバルに展開し、海外からも注目を集めるこの2組には、行けるところまで行ってほしいと、心から願う。
(上海での様子)
(シンガポールでの様子)
(台湾での様子)


セットリスト
amazarashi

1. ワードプロセッサー
2. フィロソフィー
3. 季節は次々死んでいく
4. 僕が死のうと思ったのは
5. 悲しみ一つも残さないで
6. 水槽
7. 空洞空洞
8. ラブソング
9. 空に歌えば
10. 美しき思い出
11. 命にふさわしい
12. スターライト

Aimer

1. insane dream
2. Brave Shine
3. holLow wORlD
4. 花の唄
5. ninelie
6. LAST STARDUST
7. Ref:rain
8. 蝶々結び
9. カタオモイ
10. ONE
11. Stars in the rain


Amazarashi
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Aimer
オフィシャルサイト
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amazarashiとAimerが凍える夜を越えアジアを席巻はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

アーティスト

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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