【短期連載】<SXSW>漫遊記 第三回
、「“JAPAN NITE”に長い列」

世界63ヶ国のアーティストが出演している<SXSW>のミュージックフェスティバルでは、米英にとどまらない世界各国のアーティストを、国ごとに紹介するショウケースライヴが開催されている。
その中で最大のショウケースは、毎年ダウンタウンにあるLatitude 30というヴェニューで5日間ぶっとおしで開催される『British Music Embassy』だろう。2018年もジェイド・バード、IDLES、スーパーオーガニズムら、多くの新人が出演した。そこで多くの<SXSW>参加者がUKシーン期待の新人をチェックにしたに違いない。筆者もサウス・ロンドンの女性4人組、ゴート・ガールの不機嫌を装いながら、初々しさが滲み出るちょっと不思議な佇まいのライヴを見ることができたが、そんな国名を冠にしたショウケースライヴに先鞭をつけたのが、<SXSW ASIA>が主催している『JAPAN NITE』だった。
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1996年から毎年開催されている『JAPAN NITE』には第1回目に出演したロリータ18号の他、これまでCocco、ナンバーガール、Love Psychedelico、氣志團ら、多くのアーティストが出演。早いうちから<SXSW>を代表するイベントとして人気を集めてきた。因みに、20回も<SXSW>に足を運びながら、実は筆者は一度も『JAPAN NITE』に参加したことがない。理由はいろいろある。
ミュージックフェスティバルが一番盛り上がる金曜日の夜に開催されるため、その他の見たいライヴとバッティングすることが多く、どっちを見るか?!となったとき、日本で見られるアーティストよりも海外のアーティストのライヴを選んでしまうことがまずひとつ。もちろん、日本のアーティストがほぼ現地の観客ばかりという会場でどんなふうに受け入れられているのか、自分の目で確かめたいという好奇心もあるが、人気イベントだけに見たいアーティストの出演時間に行っても、会場がいっぱいで入れないんじゃないかと思うと、残念ながら足は遠のいてしまう。
初開催から22年。2018年も会場の外にできる入場待ちの長い列を目の当たりにして、筆者は『JAPAN NITE』の変わらぬ人気を改めて実感した。固定ファンもついているという『JAPAN NITE』、いつか参加してみたいと思いながら2018年もまた参加できずじまいだったが、『JAPAN NITE』の前日(15日)の昼間、ダウンタウンで『Japan Preview DAY show』というイベントが開催されると聞き、日本のアーティストの活躍も<SXSW>のトピックのひとつ。せっかくなら、それもレポートしたい。
その時間帯ならライヴのバッティングも少ないと思い、『FLOOD FEST』でルーシー・ダッカスを見たあと、9ブロックほどダッシュして会場となっているValhallaというヴェニューに駆けつけると、トップバッターの山崎千裕+ROUTE14bandが演奏を始めたところだった。2013年の初出演以来、毎年<SXSW>に出演。今回で6度目となる彼女らは、トランペット走者の山崎千裕を中心とするポップなジャズバンドだ。筆者は2013年に一度、『JAPAN NITE』ではないショウケースライヴで見たことがあった。
日本の音楽を世界に届けるデジタル・ディストリビューター“TuneCore Japan”がデジタル配信の枠を超えて、<SXSW>に出演する日本人アーティストをバックアップするこのイベントにはその他(※出演順に)、神野美伽、TENDOUJI、ドミコ、竹内アンナ、木歩、machina、Attractionsら計8組が出演した。時間の都合で筆者は木歩までしか見ることができなかったのだが、会場にいるのは出演アーティストの関係者以外、ほぼ外国人(って言うか、ここでは我々が外国人なんだけれど)という状況で、筆者が見ることができた6組の演奏は各30分という短い尺ながら、それぞれに見どころがあるものだった。
最後は客席で演奏する熱演で盛り上げた山崎千裕+ROUTE14band。着物で登場した神野美伽。ガレージ・ロックとオルタナとオールディーズが入り混じる曲の数々を、エネルギッシュに聴かせたTENDOUJI。ピリピリとした演奏に加え、日本語で押し通したMCでも硬派な印象を残したギターとドラムのデュオバンド、ドミコ。自作の“alright”に加え、アコ-スティックギターの弾き語りでレニー・クラヴィッツ、スティーヴィー・ワンダー、ガンズ・アンド・ローゼズのカヴァーを披露して、観客を沸かせた竹内アンナ。曲のバックグラウンドを英語で語りながら、オーセンティックなシンガーソングライターの魅力を印象づけた木歩。
しかし、一番印象に残っているのは、やはり神野美伽だ。ニューヨークのジャズクラブで歌ったり、古市コーターロー(ザ・コレクターズ)、クハラカズユキ(The Birthday)とユニットを組んで、ロックフェスに出演したりと、演歌に軸足を置きながら軽々とジャンルを越境してみせる彼女は今回、山崎千裕+ROUTE14bandによるジャジーな演奏をバックに「りんご追分」「座頭市子守唄」「酔歌~ソーラン節ヴァージョン」などを歌った。
圧巻は「酔歌~ソーラン節ヴァージョン」。それまで神野が存分に回すこぶしに聴きほれていた観客たちにコール&レスポンスを求めると、“どっこいしょ!”“どっこいしょ!”という声が客席から上がった。ジャジーな演奏も良かったが、もしこの次があるなら、ド演歌が<SXSW>でどんなふうに受け入れられるかが見てみたい。
その神野がトリを務めた『JAPAN NITE』には他に木歩、PRANKROOM、Rude-D、竹内アンナ、Attractions、ドミコが出演した。また、近年は『JAPAN NITE』以外でも日本人アーティストの出演が増えてきたが、15日(木)の夜、ダウンタウンではTAWINGS、TENDOUJI、DYGL、machina、2年連続で出演したCHAI、そしてYahyelが出演する『SOUNDS FROM JAPAN』というショウケースも開催された。
そこで新感覚のガレージロックを奏でるDYGLのライヴを見ようと思って、出演時間ちょうどに着いたら、会場はすでに満員。なんとか入れたものの、彼らが演奏している40分間、大半が外国人という客席で身動きが取れなかったという状況から、筆者は改めて、アメリカと日本を行ったり来たりしながら活動している彼らの人気を実感することとなったのだった。
撮影・文◎山口智男

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