左から、反田恭平さん、諏訪部順一さん 撮影:市村岬

左から、反田恭平さん、諏訪部順一さん 撮影:市村岬

【ピアノの森】声優・諏訪部順一×ピ
アニスト・反田恭平が語り合う、“音
と声でキャラクターを生み出す極意”
【濃密対談】

異なる立場のプロとして、ひとりのキャラクターを表現するふたりの濃密対談!

雑誌『モーニング』(講談社)にて2015年まで連載された、一色まこと先生の傑作クラシック音楽漫画『ピアノの森』がTVアニメ化! NHK総合で毎週(日)深夜より全24話で放送中です。
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劇中のピアノ演奏は、その登場キャラクターの出身国のピアノ奏者たちがそれぞれ担当するという、こだわり抜かれた本作。主人公・一ノ瀬海(イチノセカイ)にピアノを教える元天才ピアニストの小学校教師・阿字野壮介(アジノソウスケ)は、声を声優・諏訪部順一さん、そしてピアノ演奏をピアニスト・反田恭平さんが担当します。
このお仕事が決まってから「ショパン全集」を購入し日々聴き込んでいるという諏訪部さんと、元々原作の大ファンで特に阿字野壮介が好きという反田さん。今回の“W阿字野”対談では、おふたりのキャラクター表現について、さらにはピアニストの“モテエピソード”まで飛び出しました!
ふたりで表現する阿字野壮介――阿字野壮介はどのような人物だと思いますか?
諏訪部:かつてはカリスマ的な天才ピアニストだった阿字野壮介。彼は、不幸な事故による怪我の影響で思うように演奏ができなくなってしまいました。いろいろと鬱屈したものを抱えていると思います。
主人公である一ノ瀬海(以下カイ)との出会いによって、閉ざしていた心の扉が開き、カイの成長と共に阿字野も再生していくというのが本作の物語の軸になっていると思います。その時々、変化していく心情をしっかりと表現していけるよう努めております。
――声色の面ではどんな役作りを?
諏訪部:キャラクターデザインや年齢、性格設定から声のイメージを膨らませて第一話に臨んだわけですが、収録がはじまると、「低くなり過ぎず、もっと若めで」というディレクションが入りました。オーディションの際はもっと渋い感じで演じたのですが、実際に映像と合わせてみると監督のイメージとちょっと違ったのかもしれませんね。まぁ微調整の範囲ではありますが(笑)。
声色よりも、一番大切なことは心情をどれだけ表現出来るかという部分ですので、そこは原作を読み込んだり、演出サイドと相談したりしながら、しっかりと掘り下げられるよう頑張っています。
――反田さんは、阿字野壮介をどう捉えて音で表現されているのでしょうか?
反田:僕は「あるキャラクターに音で命を吹き込む」ということを今回初めてやったのですが、「『ピアノの森』を読んだ僕が思う反田恭平の音色を演奏する」のか、それとも「阿字野壮介に自分がすんなり入って音を出す」のか、または「阿字野壮介を汲み取った上での僕の演奏をする」のかという、大まかな3パターンを監督さんと話させていただきました。最終的には、“僕の思っている阿字野壮介”の中になるべく入っていけるような音色、スタイルでいければいいかなと。
そういった意味で、速い曲でも事故の後遺症で弾けなくなっているであろうと考えて遅く弾いたり、また今回、カイのために弾いていたシーンが多かったので、より先生らしく、きちんとした演奏を心がけました。ピアノを始めるカイにどのような演奏を見せてあげなきゃいけないかというのは、僕は一度ロシアで小さい子供にピアノを教える経験をしていたので、「ああ、教える時はこうやって弾くんだったな」と思い返しながら弾いていました。
――その経験が今回役立ったんですね。
反田:そうですね。僕は阿字野壮介が一番好きなキャラなんです。
阿字野壮介の魅力とは――阿字野壮介の魅力は何でしょうか?
反田:僕は基本的に根暗なんですけど(笑)、傍から見ると阿字野も根暗っぽい性格で、親近感があります。静かな感じで、俗に言う陰キャラのような(笑)。でも、阿字野がたまに見せる笑顔だったり、そういう“陰と陽”の部分が音楽にとっては実はとても大事なんです。ベートーヴェンもそうでしたが、ショパンも国に攻め入られて書いた作品とかもあったりするんです。
僕自身が、阿字野の魅力を引き出すために、心情やバイオグラフィーを全部把握しながら弾かなきゃいけないわけですから、そういう作業はもちろん漫画を読み返してやりました。阿字野の中にある “陰と陽”というところに今回は注目していただけたらなと思います。
――諏訪部さんが感じる阿字野壮介の魅力は?
諏訪部:ちゃんと大人なところが魅力です。押しつけ過ぎず、考えさせ、見守り導くといったカイを指導するスタンスには、理想の教師像のようなものを見る気がしますね。
反田:ピアノでもプレイヤーとしてはすごく上手いんですが、教える方となると難しいという方もいらっしゃって、逆のパターンもありますよね。そういった意味では、阿字野にとっては事故にあったことも運命であり、それがあってからこそ素晴らしい指導者になれたのかもしれませんね。
ピアニストと声優、違いと共通点
反田「僕が想像していた通りの阿字野の声だった」――最近、音楽を題材にした漫画を映像化した作品も増えてはいるものの、聴こえないものを再現するのはとても難しいことだと感じるのですが、オファーを受けた時、プレッシャーはありませんでしたか?
反田:僕はプレッシャーという言葉を知らないんです。気付かないだけなのかもしれないんですけど(笑)、僕はただ純粋に嬉しかったです。『ピアノの森』が映像化されるなら絶対に携わりたい、という思いがずっと強くあったので、数年前にも勝手に「出れたらいいな」ってひとりでツイートしたりしていました(笑)。それで、今回出演することができたので、レコーディングの時は、本当に夢が叶ったなと思いました。
諏訪部:出会うべくして出会った、みたいな感じですね。
反田:だから僕の中では純粋に楽しいという気持ちしかなかったです。でも、ファンでありイチ読者として見ていても、演奏シーンって難しくて。「音がキラキラ流れている」と書かれていたら、漫画だとキラキラが描かれているんですけど、それを音楽だけで表現してほしいと言われたら難しいわけです。でも、今はアニメーションという技術があるので、そこに僕も頼ろうと思っています。
諏訪部:映像との相乗効果で、素敵なシーンになると思いますよ。視覚情報しかない漫画の表現を聴覚情報へと変換するのは決して容易な作業ではないですよね。漫画や小説が原作の作品で、「この世のものとは思えぬすごく良い声」などと表現されている役を演じる際は戦々恐々とします(笑)。
――ちなみに、漫画の中で、どんな演奏なのか少し言葉で表現されている場面は、反田さんの頭の中では音楽がイメージされて流れているんですか?
反田:曲のタイトルが出てくるとどんな曲なのかはなんとなくわかるので、漫画を読みながら頭の中で音楽は流れますけど、それは一体じゃあ誰の演奏の音なのか、とは思っちゃいます。声優さんだったら、漫画を読みながらこれはどういう声で誰の声なんだろうって思うのと一緒だと思います。それは、たぶん僕の“理想の音質”なんだと思うんですよね。
――反田さんは音楽に特化されているから音楽が流れてきますし、きっと声優さんに詳しい人だったらキャラクターの声が自然と声優さんの声で聞こえてきたり、そこは一緒なんですね。
諏訪部:『ピアノの森』も、読者のみなさんはそれぞれのボイスキャスティングで読まれていたと思います。今回のテレビアニメシリーズでは自分が阿字野を演じさせていただいていますが、私の阿字野はこんな声じゃない!」と思われる方も当然いらっしゃることでしょう。しかし、しっかりと彼の心情を表現していくことで、「ちゃんと阿字野壮介だった」と最後には言っていただけるよう頑張ります。
我々が作った音が合わさって、阿字野という男をより魅力的な存在にできたら反田:実は僕はもう、みなさんが声を入れた第1話をちょっとだけ見せてもらったんです。本当に阿字野でした……!
諏訪部:本当ですか?
反田:僕が言うのも失礼なんですけど、僕が想像していた通りの阿字野の声だったので、本当にびっくりしました。
諏訪部:そう言っていただけると本当に嬉しいですね。
反田:不思議ですもん。今、こうやって声を担当される方と僕が話していることが、夢のようです(笑)。
諏訪部:アニメーションではたまに、歌担当の方がいらっしゃるときがあるんです。セリフは声優が、本編中の歌唱部分のみプロのシンガーが担当、という感じで。本作では、楽器の演奏者でそういった感じのことをやるんですよね。
――キャラクターごとに演奏者が違うというのが珍しいですよね。
諏訪部:ピアノ演奏はこだわるべきポイントだと自分も思います。そこをしっかりやっている制作サイドの真摯な姿勢には非常に共感します。情熱のある現場には奮起せずとも自ずと高いモチベーションで臨めます。ありがたいです。
――確かに! 本気度が違いますね!
諏訪部:現時点(取材は3月上旬に実施)では、反田さんの阿字野としての演奏を聴かせていただけていないのですが、阿字野の音をどうやって作っているのかを伺えたのはとてもプラスになりました。自分も演奏に負けないよう、心の機微をより一層意識して演じていきたいと思います。我々が作った音が合わさって、阿字野壮介という男をより魅力的な存在にできたらいいですね。
ピアニストと声優、モテるのはどっち!?
モテたい男性はピアニストを目指すべき!?――異業種として、お互いに聞いてみたいことはありますか?
諏訪部:やはりピアニストはモテますか?
反田:高校生の頃は音楽学校に通っていて、しかも僕が行っていたのは、女子高等学校(男女共学)という女子比率が圧倒的に高い学校だったんです。校舎に普通科もあったんですけど、数千の女子対50人くらいの男子という比率で。それだけ比率が違うと、マジックが起きるんですよ(笑)。ある時コンクールで日本一になって、そこから半年間の期間で大体クラス1つ分くらいは連絡が来たりしました。
諏訪部:おぉ~! すごい!!
――もう誰と連絡を取っているかわからなくなりそうですね。
反田:当時僕はPHSを使っていたから、みんなが手紙をくれたので大丈夫でした(笑)。でも、その頃は恋愛にまったく興味がなかったんです。自分のやらなければいけないことに追われていて。
諏訪部:それどころではなかったんですね。
反田:でもやっぱり全体的にみてもピアニストはモテるとは思います。声優さんもそうですか? めちゃくちゃ良い声だから。
諏訪部:そんなことはないですよ。学生時代は特に技能を披露するような場もないですから(笑)。それと比べて、楽器の演奏というのはインパクト大。ちょっと立ち寄ったバーに置いてあってピアノを「ちょっといいですか?」なんて弾きだしたら……確実に好感度アップですよね。
反田:それカッコイイですよね(笑)。僕は普通のクラシックしか弾けなくてジャズは弾けないので……。
諏訪部:いやいや、クラシック最高じゃないですか。カッコイイですよ!
反田:じゃあ今度やってみます(笑)。
諏訪部:ぜひお試しください。いやぁ、いいですね~。声優の利点なんて、ちょっと声が通るので、騒がしい居酒屋なんかでも店員さんを呼びやすいくらいですから(笑)。
――反田さんから声優の諏訪部さんに聞きたいことはありますか?
反田:やっぱり声帯の管理はどうやってやられているのか気になります。
諏訪部:個人差あると思うのですが、自分はそれほど神経質になっていることはないですね。声を使い過ぎたら多少は喉休めを意識するくらいでしょうか。手洗いうがいの励行など、日常的な体調管理はしておりますが。
反田:それこそ花粉の季節なんて……。
諏訪部:自分も花粉症なので、シーズン中は必ずマスクをしています。風邪などのときもそうですが、薬を飲んだりして早め早めの対応ですね。お酒が好きでよく飲むのですが、飲酒中はあまり大声を出さないようにはしていますね。カラオケに行ったりすることもありません。
――酔っ払ってテンション上がっちゃって……などは?
諏訪部:盛り上がるのは好きなのですが、大きい声で自分が話すのも、他人が話しているのを聞くのも、実はあまり好みではなくて。オフタイムはわりとボソボソしゃべってる感じです(笑)
反田:僕は今日、声優の方に初めてお会いしたんですが、めちゃくちゃ良い声なので、すぐにバリトンとか、テノールとか配置振り分けをしてしまうんです。こういう合唱のソロは良い声なんだろうな~とか。合唱とかぜひ歌ってもらいたいです(笑)。
諏訪部:面白そうですね。ここ数年、生演奏とコラボレーションする音楽朗読劇に数多く出演しているのですが、そこでクラシックの演奏家の方と御一緒することが多く。みなさん本当に個性的で面白いんですよね。エレガントだけどちょっと変、という人が多いような(笑)
反田:本当に変な人しかいない、変な人しか残っていかない気がします(笑)。
阿字野は良い先生ですよ諏訪部:クラシック楽器のプロ演奏家の方たちは、幼少期からずっとその道を歩んできたという方がほとんどみたいですからね。常に生活の中心に練習があって。育ってきた環境が独特というせいもあるのか、一般的なものとはちょっと違った感覚をお持ちの方が多い気がするんですよね。
反田:そうだと思います。でも僕はかなり遊んでいた方だと思うんですよ。1日6~7時間練習しなさい、っていうような環境にはいなかったので。僕は2週間に1度、30分のレッスンに行くっていう幼少期だったんです。その間ずっとサッカーをやって遊んでいたので。
諏訪部:めちゃくちゃ異端児ですね。
反田:高校生のときは金髪でした(笑)。
諏訪部:え~! まぁ自分は四十半ばで金髪ですが(笑)。
反田:だけど、みんなそれこそ(カイのライバルの)雨宮くんみたいにネクタイしてサスペンダーして登校する子が多いんですよ。僕は、カイの幼少期みたいな格好でビーチサンダルでレッスンを受けに行ったりしてて、すごく冷たい目では見られていました。
僕はある種、動物的なところがあって。たとえば、「これをやりたい」とか「この人に会いたい」と思えば、僕は絶対に会えるんですよ。直感があって、「やれる」と思ったら絶対にやろうとは決めているので。だから、ピアノはなんだかんだ好きだったからというのはあるんですけど、ずーっと続けられました。「継続は力なり」と言いますけど、本当にそうなんだなって思います。
――幼少期は2週間に1回のピアノのレッスンで楽しかったと思うのですが、その後、ピアノが辛いなと思ったことはなかったんですか?
反田:小学6年生の頃まで適当に弾いていて。先生が本当に優しくて、「好きな曲を好きなように弾けばいいよ」という方だったんです。それが高校生から、阿字野とはまた違うんですけど、かなり厳しい先生になって。そこで、「なんでこんな風にピアノを弾いていなければならないんだろう」と思う時期はありました。でもやっぱり、ある程度の年齢を越えて、先生が言っていたことは絶対に大事だったんだなと感じます。
だから阿字野は、良い配分なんですよね。カイは一般の進学校に通っていたと思うんですけど、それを選択した阿字野の目も良かったと思います。普通に音楽だけやっている人だと、一般の常識と言われているものをわからないまま音楽家になってしまう方が多い。よく聞くのはまったく料理をしないとか。そういう常識を身に着けられないのは僕もどうかと思いますし。その点、阿字野は海がどういうことをやろうが温かく見守っていたので、良い先生ですよ。
「ショパンの魅力に触れてほしい」
ポーランド人にとっては「ショパンがすべて」――作品の中でメインとなるのはショパンの曲ですね。
反田:僕は今ポーランドの学校に在籍していて住んでいますけど、やっぱり彼らポーランド人にとっては、クラシック音楽といったらショパン。「ショパンがすべて」と言い切るんです。
そのくらいショパンが好きで、ショパンホテルだったり、ショパンカフェ、ショパン空港まで全部名前がそうなので、やっぱり彼らの民族性だったり、そういったものを表現しなければいけないし、僕もいずれはショパンコンクールを受けたいと考えています。
その中で、このお話をいただいて、自分の中でも受けるかどうか迷ったというのも実はあったんですよ。でも、このアニメをきっかけに、クラシックに馴染みのない方にもショパンの魅力を知っていただけたらなと思って引き受けました。クラシックって本当に素敵なものなので、騙されたと思って1回聴いてみてほしいですね。
――諏訪部さんは今ショパン全集をよく聴いていらっしゃるそうですが、この作品を通して、今後のご自身の音楽活動にも何か影響を受けそうですか?
諏訪部:多少なりあるかもしれませんね。ピアノの音色は子供の頃から大好きで、これまで自身のプロデュースで作った楽曲の中でも、印象的にピアノを使っていたりします。クラシックファンと名乗れるほどではないのですが、オーケストラの演奏などもよく聴きます。演奏会に足を運ぶ機会はそうそうありませんので、テレビで鑑賞したり、CDなどの音源を聴いたりという感じですが。
ちなみに、自分が初めて買ったレコードは、ベートーヴェンの『運命』とシューベルトの『未完成』という超ベタなカップリングのものでした(笑)。それと並行してテクノを聴いて育った人間ですので、デジタルとクラシックの融合みたいなサウンドが耳馴染み良く。
それにしても、本作に関わらせていただくことになり、改めてショパンに深く触れられたのは本当に僥倖でした。さらに深めるべく、ぜひポーランドにも行きたいですね!
反田:ぜひ行きましょう!
――ポーランドに行けるといいですね! では、アニメの放送を楽しみにしています!
NHK総合テレビにて毎週日曜24時10分より放送中
関西地方は同日24時50分からとなります。※放送日時は変更になる場合がございます
(c)一色まこと・講談社/ピアノの森アニメパートナーズ

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