「愛してるってこういうことか!」 
My Hair is Badが武道館2Daysで表し
たこと、遺したもの

ギャラクシーホームランツアー 2018.3.31 日本武道館
対バン+ワンマンで計35公演の『ホームランツアー2016』、すべて対バン形式の『ハイパーホームランツアー』43公演+その延長戦(追加3公演)、ツーマン形式での『ミラクルホームランツアー』、東名阪三都市での『ウルトラホームランツアー』、全国ホールツアー『ギャラクシーホームランツアー』――と、もはや大喜利のようにタイトルを変え、2016年5月よりひたすらにツアーを重ねているMy Hair is Bad。今回レポートする3月31日の武道館ワンマンは、『ギャラクシーホームランツアー』のセミファイナルにして、初の武道館2デイズの2日目である。因みにこのあとは5月・野外会場での『オーガニックホームランツアー』、6月・4都市のZeppでの『セーフティーバントツアー』へと続いていく。まるで止まったら死んでしまうマグロみたいだ。
17時ちょうど、SEを背に椎木知仁(Gt.Vo)、山本大樹(Ba.Cho)、山田淳(Dr.)がステージに現れた。Tシャツ姿の3人はいつもと同じようにドラムセット周辺に集まり、互いの拳と声を合わせる。そしてジャーンと豪快に一発。「ギャラクシーホームランツアー、日本武道館2日目! トドメ刺しにきました!」と椎木が宣言した。1曲目は、ライブのスターターを務めることも多い「アフターアワー」。続く2曲目は、<疑え><逆らえ><破り去っていけ>と唄い叫ぶ「熱狂を終え」。前日のライブで手応えが得られたからだろうか。グイッと手招きするようなしぐさでフロアを煽った山本も、「ロックバンドが武道館にやってきたぞ!」と叫んでいた椎木も、とてもいい表情をしている。山田は表情こそ確認できなかったが、その躍動的なビートで十分な存在感を示していた。初の武道館ワンマンといえど大会場を活かした演出・特効は特になし。それも、バンドがあくまで普段のライブハウスと同じスタンスでステージに向かっているのだということを表しているかのようだった。
My Hair is Bad 撮影=藤川正典
また、オーディエンスに関しても同様。私は東側のスタンド席、つまりステージとオールスタンディングのアリーナエリアを横から見るような場所にいたため、最前列付近のオーディエンスの様子をよく確認することができたのだが、彼ら・彼女らがステージへ向けるキラキラとした視線が、小さなハコでのそれと何ら変わりなかったことにまず感動した。そういえば会場に到着した時、全国のライブハウスから贈られてきた祝花の多さが目についたことをここで思い出す。驚異的なペースでライブハウスを地道に廻り続けてきたマイヘアと、全国各地で出会ってきた人たちが、この日の丸の下に集まっている。だからこそ今ここで、ライブハウスがそのまま大きくなったみたいな光景が広がっている。そう思うだけでもう胸がいっぱいになってしまった。「グッバイ・マイマリー」を終えたあと、「整いましたね。晴れて、みんながここに来てくれて、俺らがここに立って! あとは俺らに任せてください!」と椎木。広い会場をスコーンと突き抜ける3ピースサウンドがどこまでも爽快だ。
しかし当たり前だが武道館はライブハウスではないし、先述の通り、この武道館公演はホールツアーの一環として開催されたライブでもある。では、彼らはどのようにして“ホールをしっかりと鳴らせるロックバンド”に成長したのだろうか? そのことを強く印象づけたのが中盤パートだった。
My Hair is Bad 撮影=藤川正典
「いろいろな物語とかもそうですけど、僕の歌詞の中にも主人公がいて彼とか彼女だったりするんですけど。この場で生き返らせたいっていうか殺したくないっていうか、時間巻き戻したいっていうか……かわいそうなことしたくないんで、これ以上」(椎木)
そう告げてから始めた「真赤」~「卒業」の5曲は、要所要所に弾き語りを挟みながら進んでいった。ところどころ語気を強め、時には原曲とは異なる譜割りで動く椎木の歌は “歌っている”というより “喋っている”に近い。歌詞をアドリブで追加していた箇所もあったし、そうでなくとも原曲と微妙に違っている箇所があったし(“僕”→“俺”、“まるで”→“全然” etc.)、本人の感覚としても、感情に任せその場で喋っているような感じなのかもしれない。そしてその抑揚に合わせてバンドサウンドも波打ち、会場まるごと呑み込んでいく。聴いている側は、まるで温かな海の中に深く沈んでいくような感覚に。先ほどまで拳を突き上げ大きく口を開けていたオーディエンスも、息を呑み、食い入るようにステージを見つめ、彼や彼女の行く末を見守っている。
会場が大きくなり、観客が増えたからといってそれ特有の昂揚感や一体感に依存せず、“一対一”をその数だけ増やしていくということ。それが彼らの見つけたホールでの戦い方であり、“勢い乗っているうちに武道館やっちゃおう!”みたいなテンションではなく、それに見合う表現ができるようになったから挑んだのだ、ということが演奏からしっかりと伝わってきた。だからここまでの段階で既に素晴らしかったし、「武道館やるようになったら高級車乗るもんだと思ってたけどね」(椎木)、「いや、似合わないよね」(山本)という何気ないやりとりから下ネタにまで至ったMCですら、もはや気持ちよく聞こえるほど。それは私たちがライブバンド・My Hair is Badに期待していたことと言ってもいいだろう。しかしあえて意地悪な言い方をするならば、“My Hair is Badが武道館をやる”という報せを聞いたときに最初にイメージしたような、予測の範囲内の出来事であったのかもしれない。
My Hair is Bad 撮影=藤川正典
そう、さらに凄かったのはここから先なのだ。「復讐」冒頭、ドラムの数発で場内の空気を再び引き締めてからは、世界一短いラブソング=「クリサンセマム」、間奏でバッチバチのベースソロが放たれた「ディアウェンディ」、<前の彼氏の僕はどうだ 煙草吸わないし背も高いし/武道館でワンマンライブやっちゃうしよ!>と歌詞を替えた「元彼氏として」と猛スピードで進んでいく。溢れんばかりの言葉を詰め込む「燃える偉人たち」を終えたあと、椎木は肩で息をしていた。
「ありがとうありがとう言いながらバンドやってきたわけじゃないから、こういうありがとうってときに分かんなくなっちゃうんだよ!」「昨日と同じことをやってもしょうがないから、分かんないと、分かんないまま唄ってもいいですか?」(椎木)
そうしてこのタイミングで演奏されたのが、ライブのたびに歌詞の替わる即興曲「フロムナウオン」で、この日は武道館を相手にして語りかけるような内容になっていた。昨日殴るって言ったのは俺なりの愛情表現だったと思うんだよ、という呟きに始まり、「何が愛なの?」という自分自身への問いかけを軸にしながら進んでいく。山田のビートを筆頭に終盤で加速、濁流のようなサウンドはどんどん勢いを増していく。そして最後のフレーズを唄い終えたあとに椎木が「違う、愛は欲しくない」とポロッとこぼしていたように、この曲が終わっても結論が出ることはなかった。しかし、それがかなり感動的だった。分からないけれど、分からないまま、唄い鳴らすということ。一寸先の分からない、一瞬の連続で描くリアル。そこには何となくの予定調和も、正解を狙いにいったような上辺の感動も一切ない。だからこそ私たちは、このバンドにならば自分の中だけにしまっていた大切な感情を託すことができるし、そうやって“本当”同士のぶつかり合いが起こっていくのだ。このあと星空のような照明の下で演奏された「戦争を知らない大人たち」「シャトルに乗って」での凛とした響きは明らかに新境地だったが、グチャグチャのままの感情を肯定し、それを曝すことがロックバンドのカッコよさだと信じる彼らだからこそ、この境地に辿り着けたようにも思える。雄叫びのようなコーラスとシンガロングを乗せて、バンドサウンドはどこまでも遠くへと走っていった。
My Hair is Bad 撮影=藤川正典
20曲目「幻」からいよいよクライマックスへ。ネックを上下に揺らしながら音の響きをギリギリまで保たせようとしていた椎木も、腕を高く上げ振りかぶるようにして叩く山田も、立て膝状態で演奏する山本も、まさに今この場所に自分自身の音を刻みつけているかのようだった。「告白」終盤、客席も含めた場内すべてが一気に明転すると、「スッゲー!」と表情を輝かせた椎木は、まるでその光景を初めて観たみたいに喜んでいて、つまりはそれだけバンドに没頭していたということなのだろう。本編ラストの「エゴイスト」まで一気に駆け抜け、3人はステージをあとにした。
「やったね、ここまで。どこまででもないけど、ワンマン2日間、やりました! 声出なかったらギター折ろうかと思ってたけど、折らずに済みました!」(椎木)と語るその声が裏返り、山本と山田から笑われていたのはまあご愛嬌ということで。オーディエンスの熱い声に応えたアンコールでは「優しさの行方」「月に群雲」を演奏。「優しさの行方」の曲中、その歌詞を口ずさむオーディエンスの姿を見て椎木は「愛してるってこういうことか!」と叫び、この日最後に鳴らした「夏が過ぎてく」のあと、3人は何も言わずにステージを去っていった。きっともう、言い残したことなど何もなかったのだろう。そんなラストシーンに至るまで、実に清々しく、熱いライブだった。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=藤川正典
My Hair is Bad 撮影=藤川正典

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